戦車は気づいていない、後ろから警官が二人後を追っていることを。
近未来的な戦車は攻撃に耐えれるようにかなり密閉されており、センサーとかが代わりの状況を掴む。ただ雑兵一匹気にかけるような戦法に使われないから、二人の会議を知る由はない。
一応物陰に隠れながら跡をつける。
「どうするかっつっても、窓こじ開けてボコボコにして乗っ取るしかないけど」
「私は正面突破でもいいぞ」
「それして平気で帰ってこれるの局長だけでしょ」
「そうだな」
「戦車2台奪って暴れたら面白そうじゃね?」
「よし決まりだ」
カンナは近くにあったリヤカーを持ち上げて戦車にぶつける。センサーに引っ掛かるような行動だから、当然当たった戦車は二つこっちを向く。
「やっぱり後ろの方はこっちを向かないか」
「自動操縦の振り分けか、もしくは……」
「お前が気にするのか?」
「公安局長の前でしないでいつ理論的な作戦するん?」
「隣はただの狂犬だぞ、わんわん」
「よっしゃそのまま突っ込んでめちゃくちゃにするか!」
カンナの珍しいジョークに気を良くし、ナバナは立ち上がる。
相手の戦車は少し武装が足りないのか、主砲以外はない。ならば。
「行くぞ!」
「ああ!」
二人は走り出した。
戦車の主砲は当然二人を捉えようとしたのだが、彼女達は早い。
そもそも一人は公安局という警察最高峰の戦力のトップ。弱いわけもないが、運動神経が非常に高い。普通に避ける動作も極まっており、砲塔の動く速度よりも無茶苦茶な動作をして混乱させてから、建物の壁を走って急接近。
あんまりにもヒーローチックな動きを現実にされると機械も困る。ブラックマーケットの人間があまり大した財を持っていないゆえに機銃で落とされない所を襲えることを利用した戦法だ。
もう一人、ナバナの方。
こっちも壁走りで奇襲した方が安全だと思ったが、最近はあまり運動していないせいで相手のロックを完全に外すのは無理だと判断。
しかしブラックマーケットには色々なものが転がっているし、剥き出しになっている。仕方ないので彼女は小さい上にもうぶっ壊れた屋台をそのまま持ち上げて投げた。
流石に急に人が視界から消えた挙句、埃まみれのやつがぶっ壊れたせいで見えなくなってしまっている。ぶつける衝撃が強すぎたせいかセンサーが少しイカれたようだ。
「よし、いけるぞ!」
当然こうなったらナバナもやることは一つ。
真正面から突入すれば当然イチバチで撃たれた時に酷い目に遭うから、そのまま自分の近くの壁を走って相手の入り口の方へ近づいた。その時には同時にカンナも走っていたので、当然ナバナはそっちを見て少しビビる。
「うっわ公安のドンがそんな動きするのないわ」
が、そうは言いながらもナバナも壁走りしながら相手へ迫る。
どうやら戦車はセンサーが不調のままで復旧する手段もなければ、手動でやるだけの度胸もない。上から確認すれば入り口が確認できた。
「よっと」
かたん、と音がして着地した。
「公安局長!」
「いい着地だ!」
二人揃って蓋を開けて、そのまま押し入る。
カンナの方は確認できないが、少なくともナバナの方には一人いた。
「どうも!」
「ぎゃっ!?なんだおまえ!」
「くたばれ!」
服を無理やり掴んでから引き摺り下ろし、足で顔を全力で蹴って鼻血を出させてから髪を掴んで振り回し、相手がダウンしたら念の為入り口の蓋で何度も頭を挟み込んでから投げ飛ばす。
これで原型をとどめているのもすごいものだ、と思いながら席を強奪して捜査のための機器を弄る。
「あーお前は邪魔だ!センサー死んでて周りの状況把握できないだ!?お前いつの型だよ!ザルヴァートル・モデル……?そんなもんねえよ!旧式カメラは……あった!こいつを起動!あとはオールマニュアル……くそっ多すぎんだろうが!」
近くにあったキーボードに接続して、プログラムをいじる。
「くそっ、設定したらなんで極端なやつしかないんだ」
《こちらカンナ聞こえるか》
「ああ!?」
壁に無線機を押し当てて、ボタンを足で押しながら話をする。
「聞こえてますよ!」
《これの操縦ができない、センサーがイカれてしまったのか接続エラーが止まらない》
「今レジストリいじってるので待って!」
《わかった》
相手の様子を見てみると、どうやら人が集まったことで公安局の組織的な連携が功を奏しているのだろう、効果的な面射撃によって相手の進軍が止まっているらしい。
「お前の通知は切って、あーレバーのうるせえ!今やってる最中だろうが!てめえも切るぞ!よし、このレバーはこっちで撃つ。ならレバーで……砲塔の移動?は左レバーを有効化して振り当てる!よし!機体識別番号を教えて!」
《NvGH-055:5578》
自分の識別番号と合わせて、その戦車にコード共有許可を送る。
「それ使えば軽いチュートリアルと一緒に出されるはず!」
《おお?おお……いいじゃないか!一人で戦車を動かせる!楽しいぞ!》
「ドンが御礼しなきゃ締まらないっしょ!」
《おこぼれをお前にくれてやる!》
「よし来た!」
二人揃って、操縦桿を握る。
ブラックマーケットは広いわけではないので、精密な狙いは必要ない。一応反対側の状況を聞く必要があるが、それ以外は有利になった。
《こちら捜査本部!装甲車のタイヤがイカれたんで足止め出来てますが、そろそろ痺れ切らして突っ込んできそうです!》
「ああいいね!」
《いい訳ねえだろ捜査局の青二才が!》
「爆弾投げちまえよ!もうこっちは戦車二台パクったところだ!」
《ああん!?二台!?嘘言ってんじゃうっわあああああっ!?》
爆発が前方の戦車の向こう側から見えている。
「なんか言ってくれよ!」
《こちらカンナ、一台は捜査局の、もう一台は私が乗っている。捜査局のナバナ刑事の言うとおり、所持もしくは近辺で売ってある手榴弾を投げてくれ。挟み撃ちで決める》
《りょ、了解!後ろに待機させたのから持ってきます!》
なんで自分の提案は素直に聞かないんだ、と文句を言いつつ砲撃を開始。
少し旧式だったおかげでその場で弄れる柔軟性が確保されており、かつ威力はバカが作ったのであろう砲身のおかげで安定した火力を叩き込めた。
だが、流石に同型ですぐにやられるものを製造会社が作るわけもない。直撃しないとあまりダメージが出ないが、砲身とカメラの位置がずれており、かつ戦車の扱いが慣れていない二人では爆風を浴びせることが精一杯だ。一か二発は当たっても、それが装甲によって抑えられてしまう現実がある。
《戦車とは思ったより火力が出るものではないな》
「んなわけあるかい」
《違法戦車を乗り回せるいい機会だと思ったんだが》
「うっわないわ」
カンナが狂犬であることの片鱗を感じつつ、二人は襲う。
相手の戦車残り一台は後ろの攻撃を受けれることを確信し、そのまま前方の公安チームに損害を出し続けることにし、装甲車も向きの問題があるとは言えど、このまま損害が出る方を選んだ。
爆発などが死に直結することがない天使たちの選択としては自然なことだ。
「このままじゃ埒あかないな」
《下部を破壊しようにも下が分厚いタイプだ。どうする?》
「あー」
一つ、いいことを思いついた。
それを効果的手段と確信したナバナは、そのまま全速力でアクセルを踏む。
《いきなり何を!》
「見といてくれ!」
ナバナの駆る戦車は、そのまま相手の方へと近づいていく。
相手もそれに気付くが、やることに気づいたナバナの動きの方が早い。
キャタピラの少し盛り上がってるところにこちらのキャラピラをぶつける形で突っ込む。振動が酷いが、そのまま押し込んだ。
すると、前方はパンクして動けない装甲車が屯しており、力の作用が働いて相手の戦車の広報がどんどん上に傾く。
「うおりゃあ!」
そのままナバナは操縦で乗り上げしまわないように自分が乗っている戦車の砲塔を支柱がわりにして完全に持ち上げて、固定した。
「よし」
急いで下手に動かないように制御システムやモニターに銃弾を撃ち込んで停止させてから、彼女は脱出。
降りたあとは、カンナの戦車に近寄って扉を開けて声をかけた。
「見てみて!面が広くなったから撃ちやすくなった!」
「これなら初心者でも遠慮なく当ててぶちのめせるぞ!」
「自爆しないうちにほら!」
「では遠慮なく」
カンナは無表情のまま、引き金を引いた。
露わになってしまった戦車のエンジンは、そのまま狂犬の餌食となる。一発当たるごとに火花を散らし、場を盛り上げていく。
《手榴弾投げました!》
「私は一度下がるぞ」
《はい!》
戦車は全速力で後ろに下がる。
すでにエンジンを失い炎上している相手にはなすすべなく、打開策だった戦車を盗まれた挙句再起不能にさせられた相手は逃げることを選択。
そして。
盗まれた戦車と現状ヴァルキューレ最強の奴らによって挟み撃ちにされたブラックマーケットの余裕がない奴らの小さな野望は_____
大きな爆発音と共に、消し炭となった。
「キレー」
「あまり感動していない様子だな」
「抱腹絶倒、というやつです」
「ならもう少し笑顔を見せたらどうだ」
「にっ」
「いや、悪かった。気持ち悪いな」
「気持ち悪いってなんだ気持ち悪いって!」
「それよりも」
カンナも操縦席から立ち上がり、拳銃を取り出してシステムに打ち込んで機能停止させる。
「早く合流しよう、隙間を通っていけばさっさと会えるはずだ。丁度見晴らしが良くて近道なルートがある」
「おお」
「まあ、仕事してくれる警官の実力は疑っているわけではないが。流石に疲れたし、な」
「疲れるって感性があるんだな…」
「何か言ったか」
「いえなんでも!」
「いくぞ」
二人は戦車から出る。
自分たちが散々破壊しまくった場所は、すでに炎上以外に種を隠し持っている気はしなかった。
カンナがそれを確認し、こっちだと手招きしながら歩き始める。その道の向こうには、手を振っている人間が。
「ほら、行こう」
「では」
ここから遠ざかるべきなのは事実、おそらくもう現場にも戻れないだろう。
彼女たちは、仲間である公安局員の案内を頼りに走った。