ヒルドルの唄に踊る   作:らんかん

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ブラックマーケットからの離脱

 彼女たちは、ブラックマーケットから少し離れたビル街で再び合流した。

 

 幸いにも追っ手や変な事故はなく、無事に出会えたのである。

 

「局長!」

「ご苦労、よく耐えてくれた。少女はどうなっている」

「今矯正局の方に移送中です、到着にはおおよそ40分かかります」

「了解した、ありがとう。用意が出来次第撤収の合図を出してくれ」

「わかりました!今捜査本部の撤収中ですので、残り10分で完了します!」

「わかった」

 

 中々厳しい状況から抜けたが、それでも自陣に帰るまでは気を緩まない公安の空気に中々緊張感が抜けない。

 

 でも、朗らかになりつつあるのは確かだ。それを咎めるカンナでもなかった。

 

「おい!捜査局の!」

「なんだ」

 

 笑顔で寄ってきた公安局員が、ナバナの肩を無理やり組む。

 

「お前すごいじゃねえか!カンナ局長があの局面で背中預けれるような腕持ってるとはなぁ!」

「あの場ではそうするしかなかっただけで、お互いに噛み合っただけだ。それよりも常日頃から成果を出して信頼してもらっているお前らの方が扱いは上だと思う」

「そりゃ同じ部署にいたら当たり前のことだぞ!」

 

 ニッコニコの公安局員。

 

「なあ、お前もう少しやる気あるんだったら公安局として来てくれてもいいんだぞ!」

「手柄は一回だけだ」

「なぁにうちに来ればいつでもいつまでも立てられるぞ!お前みたいなやつならな!」

「……」

 

 どうも、言いようがない感情を持て余してナバナは目を逸らした。

 

「嫌なのか?少なくともこの前の一件で公安局の方は結構見直されてるんだ、生活安全局もだけど素直に局長がおまわりさんとしての憧れ吐露したって話は聞いてるだろ?だからよ、来いよ。捜査局なんて、めちゃくちゃ暇で仕方ないだろ?」

「熱心な勧誘はそこまでだ」

「局長!」

「私も正直同じ気持ちだが、すぐに決めれることじゃない」

 

 二人の間に入ってくるカンナ。彼女も笑顔のままだ。

 

「こいつにはたくさん未来がある。戦車をその場で改造したりなど、軍事的なスキルも高い。SRT出身ではないが、それだけの才能があればヴァルキューレじゃなくてもやっていけるだろう」

「えー!?まるでヴァルキューレがよくないところみたいな」

「よくないところだろうさ」

 

 冷たい、ナバナの声。

 

「おいおい」

「すでにこの社会において、公的機関の警察ってなんの意味を持っているのか分からない。その状態で働くのは、正直嫌になってる」

 

 彼女の素直な気持ちだった。

 

 連邦生徒会長がまだ居た頃、強権的行動を可能にしたSRTですらスクワッド程度の軍隊を動かすにとどめており、しかもカイザーへの警告や小規模制圧にとどまっていた。つまり、キヴォトスという大枠の軍隊で起こり得る公的な軍隊でその程度の動きしかできなかった。それ以下の組織がたとえ権力をキヴォトスから与えられたとて、自治区まみれの都市では機能しないだろう。

 

「じゃあなんで働いてるんだ」

「なんでだろうな。気がついたらここにいた、からな」

 

 その絶望感を感じていた彼女にとっては、ヴァルキューレに居続けることはあまりいい選択ではないことを知っていた。

 

 だが、SRT創立以前は今以上にヴァルキューレが無力であった。それなのにも関わらず、自分はヴァルキューレ入る選択と努力をした。加えて、過去が明瞭なものでもない。

 

 残った謎を解かずして、彼女は学園を去る選択を取れない。それだけのことだった。

 

「私はどこかで、やるべきことがある気がする。で、そのためには多分ここに居ないといけない。それがなんなのかは、分からない。

 おかしい話だろ」

「いや、そうは思わん」

「あ?」

 

 公安局員の少女は笑った。

 

「人間ってさ、とっても賢い。でもさ、ずっといい状態で動けるわけでもない。引っかかることっていうのはあって、それをその瞬間で解けるやつなんてほとんどいない。だから、引っかかることがどこで、っていうのを明瞭にするまでにここにいるのは間違ってないと思うぜ」

「お前……」

「捜査局で何をするかなんて分からないけど、きっと捜査局くらい暇じゃないと何か見つからないって思うんだろ?それでいいじゃないか。ただサボってるとかじゃなくて、人生にあった大きな霧を晴らすためになんてロマンチックだ。ま、こっちはあんな腕があるなら来て欲しいって思うんだけどな」

「何が引っ掛かってるか分からないのに、何をしたいのかもないのに、それって人類的な損失だし、ましてや公的機関が推すべき話でもないだろ」

 

 相槌こそ打つが、言いたいことは相手の口を動かし続ける。

 

「確かに、何も持ってないのにだらだらしてるだけっていうのはあまり良くない。外的要因が強いとは思うが、事実としてヴァルキューレの殆どの警官はそれで牙を抜かれた。でもお前はそうじゃなかった、牙があったどころか鋭いままだ。つまり、自ずとそれを保つだけの努力はしているってことじゃないか」

「まあ、そうなるな」

「人間って、普通は自分を評価する人間に付くんだよ。自分の才能を認めてくれて、うまいこと動かしてくれる奴らのところに固まるんだ。俗らしさが人間で、自分を心身ともに補ってくれるところにずっと居る。だけどお前はそうじゃない」

「捜査局は無双できる職場だから悪くないんだけどな」

「そう思ってるんだったら、引っかかることなんて何もないはずだ。その自分が永遠に輝き続けられるという状況に依存するだけだからな。そうじゃないってことは、当然なんかある。その願いの貴賤はともかく、何かあるのには違いない。だろ?」

「……」

 

 言われ続けた方は、口を閉ざしたまま相手を見た。

 

「だからよ、ナバナ刑事。そう思うんだったら止めはしねえよ、捜査局にいることに何か意味があるはずだ、なんかあるんだって強く思う、もしくはその思考が全くの根拠なく止められないんだったら、きっとそのスキルを取った理由もあるはずだ。刑事の色々の秘密を持っている、な」

「そういうものか」

「ああ!」

 

 彼女は笑った。

 

「だから、あんまり断ったことに関しては気に病まなくてもいいし、なんだったら公安局に遊びに来てくれよ。と言ってもしばらくは現場検証の話でずっと来るだろうけど、それでも友達として歓迎するぜ。お前は強い、だからその謎を解明して、スッキリした状態で公安局に来てくれるように頼んでみる」

「お前がそうしたいなら、そうしろ。私は止めねえ」

「じゃ決定だ!公安局で局長を助けた刑事ってことで言いふらすからよ」

「逆に居心地悪くなるわ!」

 

 二人揃って、爆笑する。

 

 笑い声がこだまするビル街は、その笑い声さえ掻き消してしまいそうな音で出迎えた。

 

「ま、そういうことだからよ。遊びに来いよ。捜査局で何にもやることなくなっても、なんか仕事で困ったことがあったとしても。ちょっとは力貸せるから」

「じゃあ、遠慮なく頼るとするか。一人じゃ寂しいからな」

「おう!」

 

 笑いながら、少女は手を振ってナバナの元から去った。

 

 見送った後に、ゆっくりカンナもやってきた。

 

「すまないな、あいつはいつもあんな感じなんだ。暑苦しかったか」

「ヴァルキューレで働く意味が出来たから逆に感謝してますよ」

「そうか。まあ実際、私もこの事件でお前のことを改めて評価しているからな、ヴァルキューレ全体ではこれでも非力だが、今回の礼は必ずさせてほしい。何しろ私たちの学園では大体が敵だからな、頼れる人間にはできる限り報いたい」

「そんな、こっちこそそっちがいないと死んでたんで。だから、気にしないでくださいよ。

 ……と言っても気にするだけですね。今度、そっちの奢りでなんか食べに行きましょう」

「いいだろう」

「決まりだ」

 

 とんとん拍子に話が進む。

 

「また近頃お邪魔するんでそん時決めましょか」

「ああ」

「局長!撤収準備完了しました!」

 

 周りを見ていたら、いつの間にか車以外の設置物や運んできたものが全部収納されていて、発車出来る状態になっていた。

 

「ご苦労、私が乗るやつ以外はすぐに出てくれ」

「分かりました!」

「ん?何か近辺で?」

「いや、すぐに戻るが……その、折角なら乗って行くか?」

「自分車で来てるんで」

「そうだったな。じゃあ、お先に失礼するぞ」

「お気をつけて」

 

 カンナは小走りで、自分が乗ってきた車へと向かっていく。挨拶はあまり深くはせず、互いに手を振ってからすぐに別れた。

 

 見えなくなれば、あとは自由時間だ。ナバナも車に乗り込む。

 

「ふぅ」

 

 カーステレオに自分のスマホを接続して、適当な音楽を流すことにした。

 

『Cola, Cola bottle shape, baby You′re freaking me out, girl』

 

 この時は、春のことだ。

 

 コーラの曲を飲みたくなるなんてもっと先のことだが、あんまりに暑苦しい場所にいたせいで汗ばんで、天使の一匹はそれを望んでいた。

 

「コーラ飲みたくなってきたな……いやいや、まだ春なのにキンッキンの飲みたいなんてどうかしてるな……いいか別に」

 

 まあ、急に職場でコーラパーティしてもみんなが困るだけだ。

 

 ともかく今日の晩飯をどうするかも考えながら、車を走らせる。

 

「今日は何を食おうかな、ピザかな。いやでもピザってそんな食えないしな。急にピザ食えって後輩に言ってもダメな気がするし」

 

 ビル街の光は、車で走っていると特別な雰囲気を醸し出す。

 

 歩き回る住人たちは何かしら特別な存在のように感じて、車というフィルターの中の自分がたまにちっぽけに見えるが、そのガラスのフィルターを逆に内側からデコレーションするように、リズム感のある曲が染め上げていく。

 

 スマホにはなんの連絡もなかった、ということを考えれば外食してきてもいいかもしれない。その場合はなんですぐに戻らなかったと怒りを喰らうことになりそうだが。

 

 でも、今のナバナにはどうでも良かった。

 

「うーん、やっぱステーキとコーラ?いやでもやっぱピザかな、でもなあ、もっと他にあるよな。コーラと合いそうなもの。パスタ……いやなんか違うな」

 

 この時の春を彼女は走り抜ける。

 

 そして、これが大騒ぎの、ほんの小さな始まりとなった。




《後書》
どうもこんばんは、らんかんです。

色々やってて挨拶もおざなりだったので、改めて挨拶させてください。

プロローグ終わったことで、ようやく『シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官』の過去編が始まりました!過去編を胸張ってやれるのも、色々な方が拙作を楽しんでいただけたからだと思っております。その過去編ってことで、新キャラナバナ刑事の冒険譚としてこの作品をスタートしたんですね。皆様の応援、誠にありがとうございます。

この作品ではシャーレ前交番の過去に何があったかをやって行く話です。こっちは最初から裏の話に突っ込みますし、なので結構ダーク寄りの雰囲気が続くと思います。ただ、出来る限りちゃんと描く予定なので、もしよければこの作品でも応援をよろしくお願いしますね!

あとはまあいつも通りですが、あっここが良かったなー!とか気になることがあれば感想をどうぞ!

それでは、この作品をお楽しみください。

らんかんより
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