ヒルドルの唄に踊る   作:らんかん

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ガンショップの戦い-1

 明るい店内は、ロックが掛かってアメリカンな雰囲気を醸し出すものの流れているのは邦楽のロックだ。

 

「いらっしゃい」

「ども」

 

 周りには特に怪しい人はいない、全員商品に夢中だ。

 

(とりあえず周りを見てみるか)

 

 全体的にクラシック感がある。

 

 木目調の壁、大理石の床、店員の椅子やケースも高級かつ分厚くて光沢感のあるもの。

 

 全体的に長いケースで通路が増えているが、それが圧迫感を生むほどのものはない。ケースが透明かつ低いのが理由だろう。

 

「お客さんはなんかお探しを?」

「いや、どうもね。武器が欲しいとは思ったんだが何にも分かんないままだ」

「一体どっから?」

「ヴァルキューレの捜査局だ。仕事がない上に資金もないから、体裁を整えるために武器を買おうとしててな。公務員というのはいいものだ」

「いいご身分ですなあ」

「そう思うよ」

 

 人目を憚らず公務員のダメなところを曝け出していきながら、周辺を見渡す。

 

 自身のことを不良警官だと思うと、安心して萎縮した雰囲気をもとに戻して客全員が再び楽しみだした。

 

「すまない商売の邪魔したか」

「生活安全局とか公安が来たら苦い顔されたかも」

「……まあ、そうか」

 

 しかし、店としてはそんなことよりも売り上げに貢献してくれないと困るようだ。

 

「まあそんなことよりお客さん、うちに来たんだったら少し安くするから買ってって頂戴よ」

「欲しいのも分かんないのに押し付けられても困るんだけどな」

「警察で使ってんのは?」

「38口径のつまらんリボルバーだ」

「今持ってるか」

「持ってるわけないだろ、補給された分破壊して今じゃ武器なしだ」

「じゃあ頑丈で強いものとか」

「たとえば」

「これ」

 

 持ってきたのは、あまりに大きいハンドガン。

 

 持ち手以外が常識的な大きさをしていないリボルバーは黒光りしている。

 

「なにこれ」

「パイファーツェリスカって呼ばれてるやつ」

「いらない」

「いらないっておま!世界最強のハンドガンだぞ!」

「警察がこんなん使えるか!常用だと取り回しも悪い、捜査部なんて時たま入る仕事があってもやり合うことなんて滅多にしないんだぞ!」

「でも犯人とやり合うときに火力足りなくないか?」

 

 店主は案外真面目な話をする。

 

「犯人とやり合うなんて一言も言ってないぞ」

「それでも、知っているぞ。捜査部は犯人を逃してばっかりでどうしようもないって」

 

 相手は理解しているようだ。ナバナが仕事をしている間の無力感を。

 

「それは警官のやる事にいちいち首を突っ込もうとは思わないし、任せてるし実際それに一番近い人間の練度をバカにすることは出来ない。でもこっちだって市民なんですよ。だからお客さんが雁字搦めになっててもなんとか戦えるような応援くらいはしたいんだ」

「政治が許さないだろう。例えば自治区に逃げ切れる前に追い詰めたとして、その犯人がほぼ死んでるような状態だったら?」

 

 権力、というものに彼女は懐疑的だった。

 

 確かに、自分たちは相手を傷つける権利を手に入れている。犯罪者が暴れれば暴れるだけ、それを傷つけて無力化するのが仕事なのだから。

 

 でも、それが行き過ぎれば権力の濫用として非難されることは目に見えている。そうでなくても、相手の行動に口出しするだけの仕事がそもそも好意的に受け入れられるかなんて言われれば答えは否定一択だ。

 

 加えてキヴォトスでは自治区という、警察がもはや機能できない場所が多すぎる。

 

 だが、その学園の自治区内でなければヴァルキューレの警官が治安の命綱であることに変わりない。

 

「_____苦労、しているんだ」

「お前の気持ちはとても嬉しいし、そういう人間が一人でもいなくなった時以外はこの仕事が無くなることもないんだろう。でもそれがいいことか悪いことかも分からなくなってしまった」

「……」

 

 こんな話をしている中だが、ナバナは違和感を覚えた。

 

 何故、この店主はわざわざ捜査局と明かした自分のことを見透かすようなことを言ったのか。励まして協力な武器を押し付けようとしたのか。

 

(おかしいな)

 

 彼女は不審に思った。

 

 もしそれで気を良くさせたりして何かを狙っているのであればあまりに商売下手としか言いようがないし、そんな奴が商売に関われるはずもない。感情への訴えが下手くそにも程がある。狙っていることが仲間へのコールであれば、もう逃げきれないことになる。

 

 ただ、その割には武器はかなり良いものを渡そうとしているようだ。後ろに控えているのは軒並みマグナムであり、普通だったら使わないものだが単独行動では強い味方になりそうなものばかり。

 

 追い詰めようとしているとしたらやはり、何かがおかしい。

 

 周りを見回してみても、なにも変わらない。さっきから話をしている奴らはなにもなく話を続けてる。

 

 ともすれば、本気の善意かもっと別の狙いが?そう思った彼女は少し話を伸ばしてみようとした。

 

 その時だ。

 

「こんにちは〜!」

 

 挨拶するのが一人。

 

 びく、とした店長。周りは彼女の背のせいで見えなかったが、ナバナにはくっきり分かった。

 

「今対応中?」

「え、ええ」

「その人は?」

「ヴァルキューレからの方です」

 

 集団で入ってきた集団の一番前、紅紫の髪をした少女が笑顔で話している。

 

「そうなのね。どうも」

「ああどうも。生活安全局の方?」

「そうだけど」

「私は捜査部のナバナという、君は?」

「鹿嶋 ユリっていうの」

「そうか」

 

 店主の視線はユリを見ているが、やはり動揺が隠せていない。

 

「少し備品を買いに来たの。あっちで待ってるわ」

「え、ええ」

 

 集団で、店の奥の方へと向かう。

 

 明らかに警官と呼べるムーブじゃないし、何より早くしないと最悪店主が変な目に遭いそうだ。

 

「店主、ツケって可能か?」

「え、何かお決まりに……?」

「パイファーツェリスカと対応する銃弾を箱ごとくれ、領収書はとりあえず適当に書いて渡してくれればいい。このまま押しつけてあっち行くんだ、ケースごと買い取る」

「請求先、は……?」

「ヴァルキューレ警察学校公安局長尾刃カンナ」

「わ、分かりました」

 

 箱をもらって急いで準備する店主。

 

 さっきの少女達がかなりストレス源のようだが、そのおかげではっきりしたことがある。

 

 多分脅されてるか何かで、元SRT生に主導権を握られている。他校の人間に助けを求めたところで助けてくれる人間は限られるし、そうできるやつは基本こんなところに寄りつかない。

 

 だが、ヴァルキューレに告発しようとしても生活安全局の威信に関わるようなものは握りつぶされるのが関の山だろう。それだけヴァルキューレは腐っていた。

 

 店主から請求書をもらって、彼女は言う。

 

「いつも通りやってくれたらいい。こっちも好きなタイミングで仕掛けさせてもらう。いいな?」

「は、はい」

「いけ」

 

 物を手繰り寄せてから、ローディングゲートを開く。

 

 銃弾は入っていないので、とりあえず銃弾を詰め込んだ。スマホを起動して、さっきかかってきた電話番号を領収書の裏にメモ。

 

「よし、おーい」

 

 声を落としながら一番近くにいた客を呼び寄せる。

 

「どうしたんですかー?」

「すまない。警察からのお願いを頼めるか、この電話番号に電話して次のことを伝えて欲しい」

「なんです」

「今から事件が起きるから急いで救援をよこせ、ナバナよりって」

「え、えっと?」

「とりあえず私の名前を出して大変なことが起きるから来てくれと言えばいい。私は動けなくなるからな、頼む」

「は、はい!」

 

 生徒を急いで見送ってから、彼女は弾をこめる。

 

 警察に動けないよう囲まれている店主は、助けを求める目をしている。どう言う状況かは詳しくは分からないが、少なくとも容疑の無い人間をそうやって囲むことは治安組織の人間としての規律を失っているに等しいし、また実際の容疑が本物だったとしてもすぐに逮捕して司法の中枢へと送るべきであり、それをしない、またはよろしく無いことに利用するのもまた法のあり方を軽視することだ。

 

(どっちの警官も腐ってる、志が高ければ現実にやられ、低ければそもそも言い訳を探すだけか。世の中うまくいかないな)

 

 パイファーツェリスカを買う警官なんていないだろう、ましてやそれを手にしたところですぐに撃ちたくなる奴もいないはずだ。何より自分たちに勝てる奴がそういない。

 

 流れる時の中で、自分達の苦労が何よりも重く価値があると人間は思うものだ。それが軍人であれニートであれ同じ。

 

「哀れな奴らだ。お前とはそう言う奴と戦うための……運命なのかもしれないな」

 

 一発一発がデカすぎて重い。

 

 それに苦心しながら、彼女は銃弾を込め続ける。

 

 SAAのクラシックを感じるローディングゲート方式のリロードは手間が掛かってめんどくさい、これが実用的である時代はとうの昔に過ぎ去ってしまっているが、実用的であろうという機構はこの威力には耐えられない。

 

 外を見ると、さっき頼んだ少女が電話をしている。反対側を見れば、小さい声で聞こえないが何か色々言われている様子。早くしないと彼女達が引っ込んでしまう可能性だってある。

 

「よし、これでいいな」

 

 ようやくリロードを完了して、構えてみる。

 

 普通の銃と比べてかなり重いため少し慣らす必要があるが、ナバナはやはりキヴォトス人。全体的な身体能力が高いおかげで狙いを定めるまでに至るのがそこまで時間を要さなかった。

 

「行ける」

 

 そのままゆっくり、警官達の方へ向ける。

 

 彼女達がなにを狙っているのか知らなければならないし、そもそもがなんの不満を持っているのかも吐き出してもらわないといけない。

 

 それにこんな道具を使うまでに至らせるのは恥も良いところであったが、彼女達が善良でいられる時間はもう過ぎて、全てが敵になっているだろう。ヴァルキューレの腐敗ぶりもそうさせた。

 

 だが、これを理由にして人々に危害を与える、ましてや第三者を不幸にさせることを警察として認めるわけにはいかないのだ。

 

「ちょっとは悔い改めろ!」

 

 そう叫ぶ。

 

 叫べば当然、相手は見る。

 

 だが遅い。

 

 彼女は重い引き金を引き、銃火を散らす。

 

 暴力は、放たれたのだ。

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