ヒルドルの唄に踊る   作:らんかん

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ガンショップの戦い-2

 それは室内で弾けさせるにはあまりにも大きすぎた。

 

 反動も凄く、銃弾が銃身を抜けてからは腕が90度を超えてもはや後退りするほど。

 

 それゆえに見返りも大きかった。

 

 そもそも人に当てても一人か二人持って行けるだけで、概算八人くらいの集団を相手するには此の銃には荷が重すぎる。ゆえに、ケースのフレームを周辺のガラスごと破壊して吹き飛ばすことにした。

 

 あまりの一撃で、軽めの店主はそのまま吹き飛んで逆にケガをせずに済んだ。

 

 しかし、耐えれる警官たちは逆に悲惨な結果を迎えることになる。

 

 ユリと名乗った少女は受け身をとれたが、銃弾の威力があまりにも高すぎてケースをえぐって破砕するどころかドアの枠も壊して飛散させるせいで警官達への鋭く重いものが飛んでいく。

 

「わっ!?」

「きゃっ」

 

 軽い傷を負った少女達はそれで済んだが______

 

「ギャアアアアアア____!?」

「グ、グア」

 

 酷い呻き声を鳴らす奴らは悲惨なものだ。

 

 この一発でガラスが飛び散り、首筋を切り捨てて苦しんでいる少女、脇腹に幾つもの破片を刺して叫ぶ力もなく悶えるやつ。

 

 何よりも悲惨なのが

 

「ガアアアアっ、ぐ、ア」

 

 両目から血を流し、膝から崩れ落ちた警官。

 

 無事なのは概算三人といったところか、店主は混乱の隙に裏の方に回って逃げだす。それを確認してから彼女はカウンターへの方へ走ってから銃を漁る。

 

 といってもすぐに戦闘になるから銃弾をマガジンに入れている暇もない。セミオートショットガンをすぐに手に取ってから銃弾があるケースを膝蹴りで壊してから奪い取り、リロード。

 

 破片が飛び散り過ぎて埃が舞い、衝撃でライトも割れて暗くなり、ゆえに警戒をするしかない相手の状況を上手いこと利用する。

 

 マッチセイバーにも強欲に一発入れて、コートのポケットに子供の雨のようにカートリッジを詰め込み、何ならそこから一発撃った分をパイファーツェリスカから落として入れ込むことで装填完了。

 

 カウンターの従業員用高級チェアに座り、ゆっくりと相手を待った。

 

「どこだ!?アタシ達を撃ったのは!出てこい……出てこいッ!」

 

 軍隊という幻想の中で通じる構え方をしながら、彼女は周りを見回す。

 

 ナバナは笑顔のままでリクライニングチェアを回りながら、そんな彼女がちゃんと見えるように、自分の存在で外からの光に影を落としながら相手の方を向いた。

 

貴様かッ!

「御名答」

 

 誰一人として無事で済ます気はないナバナは大きな笑顔で彼女を迎える。

 

「いやあ、面白い。まさかこんなおもちゃ一発で仲間が五人もやられるとは」

「どうしてアタシ達を撃った!」

「どうして?その質問に意味はない。私は撃ちたいから撃った!」

「それが警官の言い草か!」

「そうだな、警官の言い草だ。お前らが犯罪者だからなにも悪いことはしていない」

「見えないのか!アタシたちは警官だぞ!ヴァルキューレ生活安全局の!」

「そうか?」

 

 とぼける彼女は、優雅に特大リボルバーを持ちながら相手を見る。

 

「いや、私には民間人によって集ってる黒いチンピラにしか見えなかったから。警官だったのか、すまないことをしたな。ま、いいか」

「なにが目的だ!」

「この店の調査だ。最近はテロの影響もあって元SRTのやつらの動向を探ることが多くてね、ここがその温床になってると言うものだから調べようと思った。丁度よく尻尾を出してくれて助かったよ、あんな露骨な行動をするとは思いもしなかった」

「話の内容さえも定かで無かった!推定無罪さえ知らないのか!?」

「推定無罪?腐った警官には不要なものだ、結果さえ全て、そして()()()()()()()()()()()()()()()()のが答えだ。それ以外にいるか?」

 

 ナバナはゆっくりと立ち上がる。椅子は、ギィ、と鳴いて他の者に恐怖の訪れを知らせた。

 

「まあ、私に取ってはお前達がSRTだった、そうで無かった、どっちでも関係ないがな。心向くままに暴力を振るうのが警官のやり方、その流儀に則っただけだ」

「司法のやり方かッ!」

「不知火カヤみたいな知恵遅れよか全然潔くて賢いと思うんだがな」

 

 彼女の笑いは止まることなく、そしてその名前で相手の顔は引き攣る。彼女は和解など一度も望まないため、もはや煽って戦闘開始のタイミングを調整することくらいしかやることはなく、それに注力した。

 

 ゆっくり距離を詰めて、相手の出方を伺っている。

 

「私は私で気に入らないものをぶっ潰す。司法が正常に機能しないことより、そもそも存在しない方が恐ろしい。建前の力は素晴らしいものだ、どんな弱者も立ち上がれる支えになる。その建前を理解して、人はもっと上に行ける。それが社会のやり方だ」

「偉そうに!」

 

 ユリの指が引き金にかかり、静かな店内に金属の擦れる微細な音が響く。

 

「アタシたちは生活安全局だ、捜査部のお前がもしここで私達を痛めつけたところでヴァルキューレの内政を悪化させてその建前ごと崩れ去る!捜査部と生活安全局の闘争が始まるだけだ!それに、責任は必ずお前に降りかかる!」

 

 彼女の怒号も部屋を這うが、ナバナは余裕を崩さない。

 

「社会を、政治を理解していないのはお前だ!」

「ほう!」

 

 もういいだろう。

 

 パイファーツェリスカに手をかけ、準備が整ったナバナはユリに啖呵を切ることにした。

 

「政治に踊らされてただけの犬がよく吠える!」

「今ここでぶち殺すッ!」

 

 銃声が、交互に鳴る。

 

 ユリが構えたアサルトライフルはそのままナバナを撃ち倒さんと飛ぶ。

 

 そしてナバナのリボルバーは、ユリの牙を破壊するべくアサルトライフルへと撃ち込まれた。

 

 二つの銃弾は掠ることもなく、それぞれの目標に飛ぶ。

 

「うっ」

 

 なんてもっともらしい衝撃に少し声を漏らすが、厚めのジャケットはさすがキヴォトス仕様。耐寒もそうだが防弾性能も高い。

 

 そして、もう片方。一発で五人屠った銃弾。

 

 これも真っ直ぐ飛び、そのままユリの銃に当たる。

 

「きゃあッ!」

 

 当たったアサルトライフルはそのまま砕け散り、急いで顔を隠しつつ防御するものの脚と腕に軽く破片が刺さった。

 

 勢いよく飛ばせばナイフのような力でブッ刺さる。元々上から物落ちてきても伸びるで済むようなここの住人も、料理の刃物で怪我するし、窒息にも弱い。

 

 圧力の掛け方もあるが、やはり衝撃より熱の方の側面が強いと怪我をする。防弾と防刃は違う、というのが良くわかるだろう。

 

 そしてそんなことを知っていて、利用できる刑事が銀鐘 ナバナという少女だった。

 

「いった……そんな!」

「えーっとなんだっけ?そう、その銃は確か第14号ヴァルキューレ制式ライフルだったような気がするんだ。確かにクラシックだが、あの学園で碌な整備も出来ないし、何より人主的には耐える方が多い。訓練だけは一人前にやってたおかげで、固定されてたもんだからこうやって効率良く破壊が出来たと言うわけだ」

 

 相手を煽るように説明しながら近寄る。

 

「で、これでお前の武器は無くなったようだが。どうだ?大人しくする気になったか?」

 

 当然、それで黙るような相手では無い。何より自分達は訓練してきた人間だと自負しているのだから、こんなやつに負けたとあっては耐えられない。ならいっそ死ぬまで暴れるしか、彼女達には道がなかった。

 

 おまけに_____

 

「ユリ、ユリ……痛いよ……」

 

 両目を失った少女が、彼女に縋る。泣けば泣くだけ痛みが増し、それで絶叫するが、その仲間を守らなければならないとユリは奮起。

 

 だが、ナバナにとっては如何あろうが蛆虫に過ぎない。

 

 彼女にとっては相手は自分の食い扶持を保証してくれるだけの理由にすぎない。そしていつの間にかここにいた彼女にとって、信念はなく、あるとすれば生きるための糧稼ぎだけ。

 

「ああそう、いやあ君たちが先に汚いことさえしなければよかったんだが。あとこの世界では余程のことが無ければ再生治療があったと聞く。ま無くてもいいか」

「貴様……!」

「で、どうする?これ以上戦う必要はないだろう。私の方が銃の扱いが上手かった、と言うことだ」

 

 政治的に個人戦力の底上げこそが戦いのセオリーになりつつあると言う異常な都市で、そのセオリーを取って有利を取り続けたナバナ。

 

 無事だった残り二人も、怖気付いてナバナを見る。

 

「どうすんだよユリ……!」

「怯まないで。人数で掛かればここで勝てる」

「だけど武器が」

「大丈夫、私達のフォーメーションを流石に一人では超えられない」

「んんんなんだってぇ!?」

 

 もう一発、パイファーツェリスカの銃弾が適当に部屋を抉る。

 

 それは誰にも被害を与える物ではなかったが、確実に相手の士気を削ぐ。

 

「ひいっ!?」

「怯まないでって言ったでしょ!」

 

 ユリはいいが、他のメンバーはほぼ立ち上がれない。

 

 仲間の重傷、それを引き起こした一発を3回も使って確実に相手を削ることによる焦燥感がユリ達元SRTの生徒達の精神を的確に抉った。

 

「も、もう無理……やだぁ……」

「ちょっと……!」

「わ、私……!」

 

 錯乱して、手榴弾を取り出す少女。

 

 無事なはずなのに、それで何をしようとしているのか。手榴弾程度じゃ人にはあまり傷が付かないが、それでもわざわざ取り出してきたということはそれなりの代物であるに違いない。

 

「何それ……?」

「へへ、ユリ……私たちってもう救われないんだね……?」

「そんな訳ない!ヴァルキューレへの革命が行われれば、私達の地位向上だってできる!本来の理念を達成できるはずだもの!」

「それを放せ!」

 

 追い込み過ぎたか、と一瞬反省したがその手榴弾は縦長で何か中にエネルギーがある。急いで撃とうとするが、引き金を引けない。

 

「そうじゃなきゃこんな事もしないし、信じて戦えない!貴女だってそうじゃ」

「ヴァルキューレもSRTも、もうこの世に必要ない……だって、シャーレが示した正義に全員酔えば関係ないもの……」

「んな訳あるか!政治家と警察はやる事が違う!関わっていても、変えるのと守るのは同じじゃない!」

 

 流石にやばいと思ったのか、二人で落ち着くように声をかける。

 

 しかし意味はない。

 

「同じだよ。全員社会というサンドボックスに放り出された塊にすぎない、その内容物で全てが決まる。それがこの都市の_____」

 

 その先は、誰も聞こえない。

 

 弾けた瓦礫達が一瞬で視界を包み込み、その中に奔るオレンジ色の光がもっと視界を混乱させる。

 

 手榴弾の爆発にしては妙に直線的な光しかなく、また破片レベルのものが一切飛んでこない。

 

 ユリもナバナも吹き飛ばされ、事態は急変する。

 

 だが、二人には聞こえてくるだろう。

 

 空を切り裂く駆動音が。

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