ヒルドルの唄に踊る   作:らんかん

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ガンショップの戦い-3

 転がるは瓦礫の山。

 

 しかし、幸いなことにちゃんとした装備をしていた警官の装備に引っかかり、おかげで二人くっついて転がることで瓦礫の大半が吹っ飛んでもその下を転がって奇跡的な軽傷で済んだ。

 

「うわああああっ!?」

「きゃっ!?」

 

 大きめの瓦礫にぶつかって止まる。

 

「イタタ……てめえ!なんで私のジャケットに引っ掛けた!ジャラジャラしやがって!」

「あんたが変にカッコつけた服装してるからでしょ!アタシの格好見なさいよ!ちゃんとしたヴァルキューレの」

 

 言い合いをしている二人だったが、その言い合いもすぐに止むことになる。

 

 ヘリの音が響き、その近くから機銃の音、そして遠くの瓦礫が砕け散る振動。

 

「おいおい嘘だろ!」

「どうして!?なんでヘリが!?」

「お前も知らないのかよ!仲間なんじゃないのか!」

「全く知らない!」

 

 ヘリは昼間なのにサーチライトを照らして探している。

 

 瓦礫は大きく、もう少し近づいて影に隠れることによってそのまましゃがんで上から見えない角度に待機。

 

「困ったな、相手は上から撃ってるだけで良いのがずるい」

「ずるいとかっていうレベルじゃない!このままだと最悪死ぬ!」

「お前の仲間が招いたことだろうが!」

「だから知らないって言ってるでしょ!」

「そんなんでテロしようとしてたのか!?」

「……」

 

 ユリは目をそらす。

 

「無理だぞ!いくらヴァルキューレが突けば崩れる腐肉の塊だとしても、それに押しつぶされるだけに決まってる!」

「でも!でも……!」

「組織ってのはそれだけで強力なものだ。たとえSRTのメンバーで組んだとしてもその資金力や、権利や、その他諸々が伴ってなければ終わるだけだぞ」

 

 ヘリの音を瓦礫で遮りながら、二人は話す。

 

 その影を良いことに、彼女は涙を落とす。

 

「アタシには、アタシにはこれしかなかったの!最初から無理だって心のどこかでは分かってた!でもヴァルキューレはアタシ達を救えないし、他の学園はそもそも敵視してくる!どうすればよかったの!?」

 

 悲痛な叫びだった。

 

「あんたは知ってるんじゃないの!?」

「なんでそうなるんだよ」

「態々止めるってことは、何か救う手段があって、こんなことよりも良いからって……そうじゃなきゃ止めないでしょ!?」

「残念、何にもない」

 

 弾けた音がする。

 

 頬に平手打ちが飛んで、それがナバナの顔を揺らす。

 

「じゃあなんのために!何をしたくて!」

「私は捜査局の人間だ、探すこと以外はしない。今回だって公安の依頼がなければ絶対に手を出さなかったことだ。知らされた以上、食い扶持を守るためには仕方ないことだったのだから。しかもちゃんとした情報提供者付きでな」

「……」

 

 ユリは、何も言えない。

 

 今目の前にいるナバナという少女は、なんの綺麗事も言わず、ただ自分の食い扶持の損失を防ぐためだけに今回の件に首を突っ込んだ。それを隠さず、ちゃんと伝えた。誠意だけはあった、このような出会いでなければ、聞いた本人が汚れを知らぬままであったなら、同志になれたであろう性格の人間だったやもしれぬと。

 

 現実は違ったが。

 

「だから私はここにきた。最も、ここで死ぬ可能性が無きにしもあらずだがな」

「……もし、抜け出したらどうするの」

「お前は力づくでも連れて行くが、その後は知らない。もっと関われと言われたら、やるしかない。それだけだ」

「ナバナ」

 

 ヘリの音は彷徨う。

 

 その中で二人は、互いの目を見た。

 

「だがどのみちアレはあのままにはして置けない。逃げるにしろ、アレがいたらもっと周りが傷つくだけだ」

「でもどうするの」

「黙って見てろ」

 

 ナバナは背中を見せて瓦礫の外に出る。

 

「どうするつもりなの!?」

「お前の仲間を苦しめたものは、そもそもハンドガンにしてはかなりの威力を持つものだ。アレを撃ち落とすには事足りる」

「そんなわけないでしょ!?」

「祈るさ」

 

 彼女は怯まない。

 

 光の当たるところに立ち、音のする方向を眺めればそこには武装ヘリがいる。

 

 ミサイルも機関銃もある、まずこのままでは勝ち目はない。

 

(もう少し近づいてくれないと困るな。あとはそうだな、当たりやすいように移動しながらこっちへ来てくれると助かるが)

 

 ヘリはナバナを捉えた。

 

 光の反射で見えにくいが、今回は普通に人が乗っているらしい。機械よりも歯止めが効きにくいことさえ除けば、撃墜するのは簡単な仕事だ。

 

「ナバナ!」

「ユリ」

 

 ユリもまさか瓦礫から出て、彼女の後ろに立った。

 

「後ろから刺そうって訳じゃないよな」

「警官の武装にはない」

「そりゃそーだ。で、なんで後ろに来た」

「瓦礫が崩れて潰されるのが嫌だから」

「嘘だな」

「……そうね」

 

 ヘリは姿勢を安定させながら、機関銃の狙いを定める。

 

「……もし、ね。ナバナの方が本当に、正しいって言うなら。それを見届けなきゃいけないなって」

「全ては時の運だ。勝ったことと正しいことに因果関係はない」

「でも、どんな最悪な政治でも大多数の民衆が納得した部分があったから進んだんでしょ?」

「本気で大多数が納得してないなら、現れることは無い、か」

「だから、その……」

「いや、言わなくて良い」

 

 銃口をヘリに向け、ナバナは口にする。

 

「私はその考えに全く同意できない。だが、そう思うお前の状況はよく理解できる。縋らないと無理なのは可哀想だがな」

「あんたはずっと、社会に自由意志が無いって思う?」

「社会の意思があって、その上に立って初めて意思というものが生まれると思う。そこに自由があるかは分からない」

「……」

「占ってみるか?」

「何を?」

「ここで勝って、その上で……そうだな。お前に面白いイベントが起こる願いを持っておこう。もし自由意志があって、それが願望で、叶うだけの隙間が社会にあったなら……少しは前を向ける」

 

 黒光りするハンドキャノン。

 

「占おう、私の……未来」

 

 ナバナは相手を見た。

 

 ヘリとしてはビル街の中で安易にミサイルを撃てば逆に大規模崩落に巻き込まれてしまう可能性があり、それを考慮すれば機関銃で始末するのが妥当。

 

 逆を言えば、二人はあまり死ぬような目に遭わないとも言える。

 

「_____来る!」

 

 機関銃の弾をばら撒きながら、ヘリが突撃してきた。

 

 無情な殺戮を見せつけるように銃弾はコンクリートを砕きまくり、それが舞い上がって二人に当たるが粉々なせいで大して意味もない。

 

 突進するように前に動けば狙いそのものは安定するが、軸が合ってないせいかナバナの左をなぞるかのように弾が飛ぶ。

 

「ナバナ!」

「心配することはない」

 

 彼女は引き金をゆっくり引く。

 

 かちち、となる音が消えるくらいにヘリの音が大きくなっていた。

 

 低空かつ全力疾走のヘリは、彼女達に迫る。

 

(……貰った!)

 

 ナバナは、視界の大半がヘリで埋まった状態で引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが、答えを映しだす。

 

 かき消された咆哮と共に撃ち出された銃弾は、そのままヘリを貫通した。

 

 普通であれば途中で止まるものだが、この銃弾は貫いた。

 

 窓から飛び込み、内部へと入り、中を歪めて破壊しながらヘリの後ろから飛び出したのだ。

 

「……」

 

 彼女は、何も言わない。

 

 通り過ぎたあと、ヘリは制御を失いビルとビルの間をふらつく。

 

「残り一発……貰ってけ!」

 

 もう一回、引き金を引いた。

 

 既にヘリに対抗手段なし。その上で、今度は気流のせいも相まって後ろのほうのプロペラが破壊される。

 

 こうなってしまってはもうどうしようもないだろう。ヘリはそのままビルへと追突して_____

 

 爆ぜた。

 

 轟音を鳴らしながら、綺麗な火花を散らしながら、反逆の証だったその切り札は焼け落ちたのである。

 

「……嘘」

 

 元SRTだったのが余計今の状況を飲み込めなくさせたのか、ユリはこの光景に驚いた。

 

 いくら大きいとはいえ拳銃で、リボルバーで破壊したこれを納得しろ理解しろと言う方が難しい。

 

 だがやってのけた、それがナバナという女だ。

 

「本当に成功するとは思わなかった」

「……え?」

「いくら普段働かない奴だとはいえ分かる、拳銃で相手するのは無理だ」

「じゃあなんで自信満々に飛び出したの!?」

「そりゃそうでもしないとダメだから?」

 

 彼女は首を傾げた。

 

「ああもう!なんでそんな危険なこと……って、私のせいか」

「いや、それは分からない」

「分からないって」

「お前はあのヘリのことを知らなかった。隠しているだけかもしれないが、今の反応を見る限りその線は薄い」

「……信じるの?アタシのこと」

「捜査局は情報を集めること、その真偽を確かめることは他のやつがする。武力が求められてないってことはそういうことだ」

「おかしなやつ。まるで我儘のような……」

 

 言葉を遮るように電話が鳴る。

 

「すまない出る」

 

 スマホを押して、電話に出たナバナ。

 

「もしもし」

《大丈夫か》

「公安局長か」

 

 出てきたのは、公安局長のカンナだ。

 

「こっちは大丈夫、一人関係者もとっ捕まえたんで」

《そうか……》

「鹿嶋ユリって女。証拠人として一緒に連れて帰る予定」

《ああ、わかった。急いで車を用意しよう。護送車じゃない方がいいか?》

「私も乗り込むので護送車で」

《分かった》

「んじゃ」

 

 電話を切る。

 

「よし、これでOK。あとは待つだけだな」

「今カンナ局長と話してたの?」

「言ったろ公安局からの依頼だって。それに公安局にはチクった……何だっけ名前?ショウコ?ってのがいる」

「はあ……ほんとに……ちょっとまって今なんて?」

「ショウコってやつがチクったんだよ」

「ショウコ……?甘凪ショウコのこと!?」

「知ってるのか」

 

 お互いに瓦礫に寄りかかりながら、会話する。

 

「私が一番知ってる子、友達よ!なんでショウコがそんなこと……!」

「知るか、私はそいつと出会ったことないから知らねえよ」

「彼女だって不満を抱えているはずなのに!ヴァルキューレは碌なもんじゃないって言ってたのも聞いた!なぜ!?」

「……それを聞きたければ一緒に来い。公安局に協力すれば、少なくとも悪いようにはしないはずだ。多分な」

「_____分かった」

 

 そうして話を終えると、また新たな駆動音が響く。

 

 車の音が近づいてくる。

 

 硬めの装甲を纏った大型車が、瓦礫をどかしながらやってきた。

 

「行くぞ」

「うん」

 

 ナバナとショウコは歩き出す。

 

 この戦いは幕を閉じ、この話の幕は上がる。

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