ヒルドルの唄に踊る   作:らんかん

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人の気も知らないで「お前は変わった」なんて

 ヴァルキューレ警察学校、公安局第二取調室。

 

「お疲れ様」

「あ、ども」

 

 カンナとナバナは敬礼してからそのまま取調室の隣に移動した。

 

 ユリは取調室へ行ったが、特に拘束はされていない。

 

「今回の件はご苦労だった」

「苦労じゃ済まない……はあ」

「ずいぶんお疲れだな。どうする?休むか?」

「んじゃ休みますわ。ユリにも追加で仕事が無い限りは関わらないとも言ったし」

「なぜだ?」

 

 カンナの純粋な疑問。

 

「私はただの刑事です。仕事以上のことはできない」

「捜査局だからか?」

「ええ。私は見つけることが仕事です、その障害は排除しますがそれ以降は知ったことでは無いので」

「それが警察の在り方、か」

 

 それは咎めるような口調ではなく、悲しむような声だった。

 

 カンナにとっての現実が、大多数の現実と違うことを思い知らされてるように。彼女はシャーレとの出会いもあって、秩序に命を捧げられるだけの実力や発揮する場所がある。立場だってそうだが、ナバナは……いや、大多数の警官にとっては違うのだ。政治に絡まれてどうしようもないまま、腐る蔦に身を喰われて人生を費やすことしかできず、そして発酵した自分に酔う生き方しかできない。

 

 正義で人が狂うなら、酷い言葉を臆せず言うならカンナだけそのあだ名の如く狂ってるだけ。彼女以外は正気の生き方をしてるのかもしれない、なんて考え至ることも容易いことだった。

 

 それに言われた本人はそれでも自分の意思で人生の意味を求めて彷徨うくらいは自立精神があって、言われたところに思うところがあったが、煽ることもせず出口を見据える。

 

 不必要に傷つけることへの忌避感もあったのかもしれないが。

 

「なあ、ナバナ」

「なんです」

「お前は、SRTの連中についてどう思う」

「特に何も?」

「……そうか」

「おかしいですよ局長、なんで引き止めるようなことを?」

 

 これは純粋な心配だった。

 

 だが、その問いにすら答えられないのがカンナだ。

 

 "自分と同じ志を持ってくれる警官が消えて行くのはなんで"なんて今となっては我儘じみた思いを口に出来ないとつぐんでしまう。

 

 それが少女という思春期の純粋な願いだとも、気付けないまま。

 

「_____気にしないでくれ」

「そうですか」

「どうしてそんなこと言えるの!?」

「なんだ」

 

 取調室から大声がして、机の叩く音もする。

 

 急いで二人が行くと取調担当の警官が腰を抜かしているし、ユリはショウコに迫ってる。暴力を振ってるわけじゃないので、構えながらも今は手を出さずに見守る。

 

「あんた今なんて言ったの!?」

「簡単だよ。『君は変わったね』って」

 

 ユリの眼からは涙が溢れる。

 

「君は変わったよ。SRTの理念そのものじゃなくて、自分が主体に考えるようになったから。いいじゃないか、人間性があって」

「変わってない!アタシは、アタシ達は!」

「おいおいなんで煽り合いしてるんだ」

 

 ナバナは見てられなくて、首を突っ込んだ。

 

 二人はそっちを見る。

 

「ああ、君がナバナ?ありがとう、子供のお守りは大変だったでしょ」

「後ろの公安局長はお前も抱えてるからな一人くらい抱えてやらねえと」

「手厳しい」

「邪魔しないでよ!」

「すまない、ユリ」

「局長……!?」

 

 邪魔を排除しようとするユリの後ろから羽交締めして壁に抑えてから座らせるカンナ。流石に“実戦経験”が響いたか、彼女によってユリは落ち着かざるを得なかった。

 

 ナバナはそれを見て、もう一人に話しかける。

 

「で、なんで喧嘩してるんだ?」

 

 ショウコは今、その公安局長に宥められてるかつての友を見やり話す。

 

「知らない。あっちから売ってきた喧嘩だから」

「あのな?これ一応取調だぞ。そこで縮こまってる警官……あ」

 

 指差した警官は逃げている。

 

「まあ多分マジで怖かったんだろうな。それはいいとして、ちゃんと情報提供しろ。しばらく公安局に拘束されるんだから身の危険は考えなくていいだろ?」

「聞こえていたよ、君は関わらないと」

「私は関わんなくても公安局は関わるんだぞ」

「手厳しい」

「大体何で言い合うようなネタがあった?なんだ?失敗したのを煽ったのか?」

「失敗したことについては何も思わないよ、成功したら自分の立場が良くなるだけだし、失敗してもこうして蛆虫していればいい汁を自分だけ吸えるからね」

 

 ショウコはそうやって微笑む。

 

 悪魔の微笑みで、ユリと同じSRT出身とは思えないくらい酷い言い草ではあったのだが、それを咎める気は起きない。

 

「だけどその正直さは相手には受け入れられなかった、それだけの事だよ」

 

 彼女は今までのことを説明した。

 

 最初は真面目にやっていて、ユリ以外が知っていたあの武装ヘリの出所や何処で管理しているかを又聞きした情報を話し、どういう奴らが集まっているかも話していた。最初は隣にいたユリは静かにしていたが、ショウコがなぜ協力的なのかを話した時から彼女の逆鱗に触れて今のような状態になったらしい。

 

「煽るつもりはなかったんだよ。SRTというものから『みんなの幸せを守る』という確固たる目的を持っていた頃のユリは眩しすぎるくらいだった。でも、今は『全てを捨ててヴァルキューレと連邦に復讐する』のが目的になってる」

「その取り違いを指摘するだけで良かったはずだろ」

「もう彼女は私の知っているユリじゃないよ」

 

 悲しい言葉のはずなのに、腐り切ったかどうかで何も変わらない。

 

「私はもう既に諦めてるよ。警察を解体することは連邦生徒会の地位を貶める以外の効果はないから多分分解されないだろうし、ならもう手に職つけた状態で金を啜りながら生きるだけだ。SRTで学んだことも、自分の得に繋げる分の技術としても悪くなかったから」

「それを元々の同志の前で言ってやるなよ……」

「ナバナ刑事が言えたことですか?」

「あ?」

「言ってましたよ、貴方の友人を名乗る人が」

 

 ブラックマーケットの事件の時にナバナをスカウトしようとしてた上、今回電話をかけてきたやつがいる。そいつはどうも、ショウコの聞き込みの前半を担当してたようだ。

 

「貴女は『ヴァルキューレに憧れるだけの価値はないが自分がスキルを持っていつの間にかここにいた』って公言してると。それは憧れて警官に入ってきた人間に言うのとどう違う?」

「ヴァルキューレはSRTの人間と違ってカスの集団に過ぎない。政治的要因もあるが、逆にいえばその建前で仕事を減らせる。生き方は上手いがそれ以外に褒めるところのない奴らの集まりだ」

 

 ナバナは表情を変えることなく話し続ける。

 

「軍を持たない政府なんて愚の骨頂だ、その必要性を感じたトップがお前達を軍隊として育てた。その意義を信じていたからユリもお前もやってきた。政治的な問題を知っていても、存在自体に意義がある、だからSRTに入ったんじゃないのか」

「ヴァルキューレもキヴォトス全土の治安維持組織としての観点で言えば変わらないんじゃ?」

「あくまで警察は手遅れをどうにかする仕事でしかない。人を殺した、不幸にした、その後でどう動くかか警察だ。捜査とは、最初の段階に過ぎない」

 

 彼女は自分の役割を熟知していた。

 

 淡々と説明しながらも、それが事実であり揺るがない意味であると言い切ったナバナのことを、ショウコに感心を起こす。

 

「生活安全局は、謂わばその脅威を誇示するだけの組織だ。警察は“犯罪を止める”なんて考えてる時点で愚か極まりない」

「それ今目の前にお巡りさんの本懐を遂げたかった局長の前に言うこと?」

「え?」

 

 彼女の言葉に慌てて振り向く。

 

 意気消沈しているユリを抱えながら、俯き横を向くカンナ。

 

「例のカヤの一件以降、先生のおかげで公安局長は公安局内から関わりやすい人物として変わりつつあるけど、有名なエピソードには確かそう言うのがあった。あれほんとみたいだよ」

「へえ」

「自分の食い扶持くれる人にやる態度?」

「考えを曲げる気はない。生活安全局はそう言う役割を果たすためのものだ、落ちこぼれでも威嚇はできんだろ。そう言うもんだ」

 

 ナバナは変わらない。

 

「仕事に着いた時その役割を考えて果たすのが社会ってものだし、考えることこそ社会とちゃんと向き合うことの第一歩だ。考えても答えが出ないことを引きずっている奴がグチャグチャ言ってても意味ねえけど」

 

 そう終えると、彼女はあくびをする。

 

「私は与えられた役割を理解したが、その役割をもらうまでの原動力がなんだったのか全く心当たりがない。その両方を合わせた後に納得できる解釈が"人生の意味"だ」

「君ヴァルキューレに来なければもしかして幸せに生きれたんじゃない?」

「私もそう思う。だが、来ちまった分は呆れながら仕事を繰り返すしかないさ」

 

 これが銀鐘ナバナという女だったことは確か。

 

 彼女達は、思春期の終わりに差し掛かりながら同年代で自分よりも成功したやつに振り回されるだけの社会で生きているだけに過ぎない。感性に子供が残っていれば、感情の政治に殺されるだけ。

 

 SRTはその代表格であったが、そこにいた奴の話や悲鳴を聞けば自分達もその坩堝にいるだけの可愛い肉塊にすぎないと思い知らされる。

 

「……夢ほど正当化された狂気もない、か」

「ああ」

 

 ショウコの言葉に頷きながら、惨状を見たナバナは提案した。

 

「んで、ユリがこれだから一回解散しないか」

 

 その一言に、全員で静かに頷く。誰もこれ以上普通の取り調べをできるとも思わなかった。

 

 なら、もうすることもないだろう。

 

 全員が全員、必要な人を集めてからゆっくり取調室から退散。

 

 ショウコはユリを抱えるのを手伝いながらカンナと一緒に出ていく。

 

「はあ」

 

 気苦労が絶えないな、そう思ってナバナも後にした。

 

 廊下には仕事に奔走する警官があっちこっちへ歩いて行く。それとすれ違うことはあっても、彼女達が見ている世界を結局見れるわけないのだから、それが一つの壁としても彼女の目には映った。

 

「世界って案外人がいないな」

 

 なんて滅茶苦茶なこと言って、彼女はある場所に向かう。

 

 この学園の屋上。

 

 ただ、音を響かせてもさして影響しない世界へと足を向けた。




《登場人物》
〈甘凪 ショウコ〉
ヴァルキューレ生活安全局所属、元SRT。
狙撃手かつスパイの訓練を受けていた。
この話では元SRTの関係者としてのみ関わってくる、彼女が本領を発揮するのはもう少し後、扇皇ゼンヒと言う少女が出てからのこと。

〈鹿嶋 ユリ〉
ヴァルキューレ生活安全局所属、元SRT。
FOX、RABBITとは違い大隊運用前提の軍事訓練を受けていた。
ショウコと同じように関わる。彼女が幸せになるのも、ゼンヒと言う少女が出てからのことだ。
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