潜在力SSS級の『訳あり美少女たち』を拾ったら懐かれたので、神スキル【運命鑑定】で大陸最強に育成し、俺を追放した連中に『ざまぁ!』します   作:月城 友麻

66 / 185
66. 鉄の臭い

 レオンはふぅと大きく息をつくとお湯を沸かし、ミーシャの好きなハーブティを入れた。

 

 心が落ち着くというミーシャお勧めの香りをゆっくりとすする――――。

 

 確かに不安は少し薄らいだ。

 

 しかし、飲み終わり、闇が深くなっても彼女たちは帰ってこない。

 

 時計の音が、まるで拷問のように、レオンの心を蝕んでいく。

 

(……おかしい。もう、とっくに帰ってくる時間だ)

 

 不安が胸の中で膨らんでいく。心臓が不規則に波打ち始める。

 

(まさか、討伐相手に苦戦しているのか……?)

 

 最悪の想像が、頭をよぎる。

 

(いや、あいつらなら大丈夫なはずだ。強くなった。スタンピードも、カインも、乗り越えた。だから、大丈夫なはずだ)

 

 自分に言い聞かせる。けれど、不安は消えない。

 

(でも、魔物が予想以上に強かったら? 罠にかけられていたら?)

 

 想像が、どんどん悪い方向へと向かっていく。

 

(俺がついていれば……避けられたことがあったかも?)

 

 後悔が、胸を締め付ける。

 

 居ても立っても居られなくなって窓辺に駆け寄った。

 

 その時、レオンの鼻に、何かの臭いが届く。

 

 血の臭い?!

 

 それは窓枠の鉄の臭いだった。けれど、その臭いは、あの日の記憶を呼び覚ました。

 

 妹を失った、あの日。

 

 目の前で、妹が倒れた。

 

 血を流して。助けを求めて。けれど、レオンは動けなかった。恐怖で、何もできなかった。

 

 そして、妹を失った。

 

 自分の目の前で。自分の腕の中で。自分が、何もできないまま。

 

 その記憶が、フラッシュバックする。

 

 妹の顔。血に染まった服。冷たくなっていく体。消えていく体温。

 

 そして、その顔が、エリナの顔に変わる。ミーシャの顔に変わる。ルナの顔に変わる。シエルの顔に変わる。

 

「――っ!」

 

 レオンの呼吸が、乱れた。

 

「う、ぁ……」

 

 胸が苦しい。息ができない。心臓が、激しく波打つ。めまいがする。視界が、歪む。

 

 立っていられなくなり、その場に崩れ落ちそうになる。けれど、必死に壁に手をついて堪える。冷たい壁の感触が、かろうじて現実を繋ぎ止める。

 

 呼吸が、浅くなる。ハァ、ハァ、ハァ。心臓が、嫌な音を立てて軋む。ドクン、ドクン、ドクン。

 

(違う……違う……あれは、過去のことだ……)

 

 自分に言い聞かせる。けれど、恐怖は消えない。

 

(みんなは、無事だ……無事なはずだ……)

 

 祈るように、呟く。

 

 レオンは、よろよろと椅子まで歩いた。膝が震える。足が、言うことを聞かない。ようやく椅子にたどり着き、座り込む。

 

 そして、窓の外を見つめた。屋敷へと続く暗い道を。

 

 街灯だけが道を照らしている。木々の影が不気味に揺れている。風の音がまるで何かの叫び声のように聞こえる。

 

 レオンは、ただひたすら、その道を凝視し続けた。まるで祈るかのように。

 

 

       ◇

 

 

 どれほどの時間が経ったか。

 

 レオンは、もう時間の感覚を失っていた。ただ、窓の外を見つめ続けている。暗闇を。何も見えない道を。

 

 絶望が、完全に心を飲み込もうとしていた、その時。

 

 遠い、遠い闇の向こうから、不意に、何かが聞こえた気がした。

 

 ガタッと立ち上がり、耳をそばだてる――――。

 

 幻聴?

 

 けれど、その声は、次第に大きくなってくる。

 

「……っ!」

 

 それは、幻聴ではなかった。

 

 確かに、聞こえる。

 

 みんなの、声が。

 

「――!!」

 

 レオンは、椅子を蹴るように立ち上がった。

 

 ただ、夢中で玄関へと走った。

 

 エプロン姿のまま。頬を伝う涙も拭わずに。

 

 玄関にたどり着き、扉に手をかけ、勢いよく開け放った。

 

 ガンッ!

 

 扉が、壁にぶつかる音。

 

 街灯の柔らかな光が、四つの影を優しく照らしている。

 

 エリナ、ミーシャ、ルナ、シエル。

 

 街灯の光に浮かび上がる四人の姿。みんな、少し疲れた顔をしている。服は土や草で汚れ、髪は乱れている。

 

 けれど、その顔には、誇らしげな笑みが浮かんでいた。達成感からくる、満足げな表情。疲れているはずなのに、その瞳は輝いている。

 

 屋敷から漏れる温かい光の中に浮かぶ姿は、まるで戦場から凱旋した英雄たちのように見えた。

 

 レオンの視界が、滲んだ。

 胸が、熱くなる。

 喉が、詰まる。

 

「……おそかったじゃ、な……」

 

 そう言いかけた、その瞬間。

 

「レオーン!」

 

 ルナの叫び声が、夜の静寂を破った。

 

 彼女が一気に駆け出した。赤い髪が風になびき、小さな体が猛スピードで距離を詰めてくる。その顔には、笑顔と涙が混ざっている。

 

「あっ! ずるい!」

 

「ちょっとぉ! 待ちなさいよぉ!」

 

「ルナ!」

 

 残り三人も、負けじと駆け出した。

 

 シエルが、ミーシャが、エリナが。

 

 四人の足音が、石畳に響く。バタバタという音。息を切らす音。笑い声。

 

 そして、ルナがレオンに飛びついてくる。

 

「レオーン!」

 

「うおっ!」

 

 レオンがよろめく。けれど、倒れない。しっかりと、ルナを受け止める。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。