潜在力SSS級の『訳あり美少女たち』を拾ったら懐かれたので、神スキル【運命鑑定】で大陸最強に育成し、俺を追放した連中に『ざまぁ!』します   作:月城 友麻

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78. 奪い合うポジション

「待って! 行かないでぇぇぇぇ!」

 

 絶望的な叫びが、暗闇に呑み込まれた。四人とも、消えてしまったのだ。

 

 レオンはただ一人、血の海の中に取り残される。

 

「やめろ……やめてくれ……」

 

 膝をつく。冷たい血の海に両手をつく。拳が何度も何度も血の海を叩く。

 

 その時、血の海の中から、小さな手が伸びてきた。幼い、女の子の手。レオンが、決して忘れることのできない手。

 

「……お兄ちゃん……」

 

 その声を聞いた瞬間、レオンの体が硬直した。全身の血が凍りつき、心臓が止まりそうになる。

 

 血の海から姿を現したのは、幼い少女だった。レオンの、最愛の妹。

 

「どうして……助けてくれなかったの……?」

 

 その声が、責めるように響く。

 

「ごめん……」

 

 レオンの目から、涙が溢れた。

 

「ごめん……ごめん……」

 

 何度も、何度も謝る。

 

 妹の姿が、エリナに変わった。ミーシャに、ルナに、シエルに変わった。そして、また妹に戻った。彼女たちの顔が、次々と入れ替わる。レオンが守れなかった者たちの顔が。

 

「お兄ちゃんは……いつも……見殺しにするんだね……」

 

「やめろぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

       ◇

 

 

 そのただならぬ叫び声に、隣の部屋で眠っていたエリナが目を覚ました。

 

 最初は夢かと思った。けれど、壁越しに聞こえてくるのは、確かにレオンの声だった。苦しみに満ちた、絞り出すような声。エリナの胸に、鋭い痛みが走る。

 

 彼が、苦しんでいる――――。

 

 それだけでエリナの体は動いていた。ベッドから飛び起き、パジャマのまま部屋を飛び出す。月明かりに照らされた廊下に出ると、既にミーシャも部屋から出てきていた。その顔には深い憂いが浮かんでいる。

 

「お聞きになりました……?」

 

「うん……」

 

 短く頷き合った時、ルナとシエルも部屋から駆け出してくる。赤いパジャマ姿のルナは息を切らせ、白いパジャマ姿のシエルは碧眼を不安で曇らせていた。

 

「な、何なの、今の声……レオンの声よね?」

 

「レオンが……苦しんでる……」

 

 四人の視線が、一斉にレオンの部屋の扉に向けられた。その向こうから、まだ苦しそうな呻き声が漏れ聞こえてくる。

 

 みんないたたまれなくなってお互いの顔を見合わせた。

 

 昼間は、あんなに元気そうにしていたのに――きっと、無理をしていたのだ。私たちを心配させまいと、ずっと一人で抱え込んでいたのだ。

 

「あいつは、いつも一人で抱え込みすぎるのよ……」

 

 エリナの言葉に、三人が力強く頷いた。ミーシャの瞳には決意の光が宿り、ルナは拳を握りしめ、シエルは唇を引き結んでいる。

 

「言葉だけの慰めでは……ダメね」

 

 ミーシャが、普段の演技を脱ぎ捨てた素の声で呟く。

 

「ならば、私たちの温もりで、悪夢を追い払わない? 彼が一人じゃないって、体で感じてもらうの!」

 

 エリナはぐっと両こぶしを握った。

 

「そうよ……あたしたちで、あいつを守るんだ」

 

 ルナが頷き、シエルも決意を込めて言葉を継ぐ。

 

「ボクたちは、いつもレオンに守られてばかり。今度は……ボクたちが、彼を守る番ね」

 

 四人は顔を見合わせ、深く頷き合った。

 

 エリナが、そっとレオンの部屋の扉に手をかける。月明かりの中四人の少女たちは、大切な仲間を救うため、静かに扉を開いた。

 

 

       ◇

 

 

 ギィ……

 

 扉が小さな軋み音を立てて開いた。

 

 四人は息を潜め、お互いに顔を見合わせ、静かに、できるだけ音を立てないようにそーっと部屋の中に足を踏み入れた。

 

 カーテンの隙間から月明かりが差し込んでいる。その淡い銀色の光が、ベッドの上の影を浮かび上がらせていた。

 

 横たわるレオンの姿は、見ているだけで胸が痛くなるほど苦しそうだった。脂汗が額を伝い、枕を湿らせている。シーツを握りしめた拳は白く、呼吸は浅く不規則だ。その体は悪夢の中で何かと戦っているかのように小刻みに震え、時折ピクリと痙攣する。

 

「……やめ……ろ……」

 

 うわ言のように、レオンが何かを呟いた。その声は絞り出すような、痛々しい声――。

 

「……逃げ……て……」

 

 その必死な響きに四人の胸が締め付けられる。

 

 ミーシャが最初に動いた。

 

 タタッと小走りで駆け寄り、誰よりも先にレオンの右側に滑り込む。そしてそっと、その肩に頬を寄せた。

 

(あっ!)(ずるーい!)(んんっ!)

 

 三人が、声にならない声で抗議する。

 

 けれど、シエルも負けていない。すかさず反対側、レオンの左側に潜り込み、その左腕を両手で優しく包み込んだ。まるで壊れ物を扱うかのに、慈しむように。

 

 タッチの差で負けたルナとエリナも必死だった。このまま引き下がるわけにはいかない。ルナは素早くミーシャとレオンの間に体を滑り込ませようと試み、エリナはシエルとレオンの間、レオンの胸のあたりに体を寄せた。

 

(んーーっ!)(んっ!)(んんっ!)

 

 四人はもぞもぞと動きながら、お互いを押しのけ、いい位置を奪い合う。けれどその動きは慎重で、レオンを起こさないように、傷つけないように。やがて絶妙な位置取りで落ち着いていった。

 

 

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