潜在力SSS級の『訳あり美少女たち』を拾ったら懐かれたので、神スキル【運命鑑定】で大陸最強に育成し、俺を追放した連中に『ざまぁ!』します   作:月城 友麻

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83. 七年越しの真実

 そして――。

 

 世界が砕ける音。

 

 小さな体が、宙を舞う。

 

 馬車が妹を轢いた。まるでスローモーションのように、ゆっくりと。そして地面に落ちる。ドサッという鈍い音――――。

 

 人々の喧騒の中、レオンはただ動けなかった。自分の足元に赤い液体が流れてくる。温かく、粘ついている。

 

 そこに横たわる小さくて動かなくなった体。白いワンピースが真っ赤に染まり、茶色い髪が血に塗れ、赤いリボンが地面に落ちている。そして目。開いたまま、動かない。光を失った目。

 

「リナ……?」

 

 レオンの口から震える声が漏れた。近づき、膝をつき、妹の体を抱き上げようとする。けれどその瞬間、手が血に塗れた。真っ赤な温かい血がその手のひらを覆い、指の間を伝っていく。その感触がレオンの脳に焼き付いた。

 

「あ……あ……」

 

 声にならない声。吐き気。めまい。世界が回る。

 

 血液恐怖症。その日、レオンの魂に刻まれたトラウマ。

 

 だが今、蘇ったのはそれだけではなかった。

 

 絶望の淵で、レオンは見ていた。群衆の中に一人の男がいた。黒いローブを纏った不審な男。周囲の人々がパニックに陥り、悲鳴を上げ、逃げ惑っている中で、その男だけが冷静だった。いや、冷静というより満足げだった。その顔には薄い笑みが浮かんでいた。まるでこの惨劇を楽しんでいるかのような――――。

 

 そして男は立ち去った。群衆の中に溶けるように。

 

 けれどその瞬間、夕日が男のローブの袖口を照らした。そこに銀糸の刺繍がある。それが太陽の光を反射して、キラリと光った。

 

 三日月を喰らう、一匹の鷲。

 

 その紋章を、レオンは見た。それは一瞬のことだった。けれど確かに見た。脳裏に焼き付いた。あの時は意味が分からなかった。ただの紋章――――。

 

 けれど今、その意味が分かった。

 

「あ……、あぁ……」

 

 レオンの口から乾いた声が漏れ、手からスケッチが滑り落ちた。紙がひらひらと舞い、床に音もなく落ちる。呼吸が浅くなり、心臓が氷の手に鷲掴みにされたかのように痛む。

 

「レオン!?」

 

 エリナの声が遠くから聞こえる。彼女がレオンの体を支える。その腕の温もりが伝わってくる。けれどその温もりすら届かない。レオンの心は七年前のあの日に戻っている。

 

「レオン殿、どうした!? しっかりしろ!」

 

 ギルバートも駆け寄ってくる。けれどレオンの耳には届いていなかった。ただ一つの事実だけが、頭の中で響いている。

 

「……嘘だ……事故じゃ……なかった……?」

 

 レオンの唇から、絶望が形となってこぼれ落ちる。その声はか細く震え、視線は虚ろで焦点が合っていない。ただ七年前のあの日を、血に染まった妹の姿を、見つめている。

 

「無差別……テロ……? リナは……テロリストに……殺された……のか……?」

 

 涙が次から次へと溢れてくる。止めようとしても止まらない。それは単なる仮説ではなかった。七年という長い間、彼の心を苛んできた全てのピースが、最悪の形で組み上がってしまった。

 

 妹の死は事故ではなかった。あの鷲の紋章を持つ組織による、計画された殺人。無差別テロ。

 

「あぁぁぁぁ!」

 

 レオンの口から、魂の絶叫が漏れた。それは悲痛な叫び、絶望の叫び、怒りの叫び。全てが混ざり合った人間の魂の咆哮。

 

 膝が崩れ、エリナに支えられながらもその場に座り込む。両手で顔を覆うが、涙は指の間から溢れ出し、床に落ちていく。

 

「レオン……」

 

 ミーシャがそっと近づき、その手をレオンの肩に置いた。けれど何も言えない。ただ、そこにいることしかできない。

 

「一体、何が……レオンに何があったの……」

 

 シエルが混乱した声で呟く。

 

 エルウィン博士もギルドマスターも沈黙し、静かに見守ることしかできない。レオンの嗚咽だけが地下室に響き渡り、その音が石壁に反射して、さらに悲痛さを増していく。

 

 過去と現在が繋がった今、レオンの心に新たな感情が芽生えていく。それは復讐心であり、憎悪であり、そして何よりも戦う理由だった。もう逃げることはできない。奴らを倒さなければならない。あの紋章を持つ組織を。妹を殺した奴らを。そしてこれ以上誰も失わないために。

 

 レオンの拳が床を激しく叩いた。ドンッという音が静寂を破り、その衝撃で指の皮が破れ、血が滲む。けれどレオンは痛みを感じない。ただ怒りだけが、全てを支配している。

 

「ぜってー許さん! ぶっ殺してやるぅぅぅぅ!!」

 

 その魂の絶叫に、一同は顔を見合わせた。誰も言葉を発することができず、ただ口を結び、レオンの怒りと悲しみを受け止めることしかできなかった。

 

 

       ◇

 

 

「落ち着こう……、レオン君……」

 

 ギルドマスターの力強い、けれど優しい声が、レオンの意識を辛うじて現実に引き戻した。その声には、深い同情と、そして何か言いづらいことを伝えなければならない者の躊躇いが混じっている。

 

 レオンは顔を上げた。涙と汗で顔がぐしゃぐしゃになっているが、その目には激しい炎が宿っている。

 

「マスター……」

 

 レオンの声は震えているが、そこには確かな意志がある。復讐への意志。正義を求める意志。

 

「すぐにこの紋章を警備隊に報告してください! 犯人は七年も前から王都で暗躍している! 妹を殺したのも、スタンピードを起こしたのも、公爵を操ったのも、全部奴らなんです! すぐに捜査を開始すれば……」

 

 だが、ギルドマスターは静かに首を横に振った。

 

 

 

 

 

 

 

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