ダーウィンズゲームとは
・具体的な年月は不明だが、近年に千葉で広がりつつある謎のゲーム。
このゲームをダウンロードしたものは、少なくとも学校に来なくなったり突然行方不明になるという噂がある。
また、唐突に謎の能力に目覚めたりする者もいると言われているが真偽は不明。
アイコンの柄は木が描かれたイラストがあるが、何がモチーフから不明。
深夜の美浜大橋が目前の画面に展開される。
目の前に見える光景を元に、“観測者”がその戦いを見つめている。
なんと少し足を間違えれば落ちて海行き、という場所で男が全速力で走っていたのだから。
「ひ、っ、ひぃっ!なんでだよ!なんで俺なんだ……!」
映像には音声が映らないが、“観測者”からはそれの声がハッキリと聞こえた。男の声で、こうして美浜大橋を駆け抜けていく事をとても後悔している様に見えた。
何よりも、その写っている男は片手に包丁を持っていた。
そんな所を警察に見つかったら銃刀法違反で捕まると言うのに。万が一人を深く傷付けたら殺傷罪だ。
それが分かって尚ああやって持っているのだからそういう事だろう。
しかし男は凶器の包丁を周りに振り回すだけで、何かから遠ざけようとしているだけ。
「くっ、そ……おかしいだろ……!姿が見えねぇとかクソだぞ!このゲームルール違反だろ!」
ルール違反とはなんなんだ、か……と観測者は思うがこれは仕方ないと割り切る。
そうして、ゆっくりと写った男が周りを足音も無くなったことで安心したその時。
ざざっ、とノイズの様な現象が起こる。それは普通有り得ないし本来起こっていいことでは無い。
だが―――
「は、ぁ、ぁぁぁ……!!!!!?????」
赤色の犬の着ぐるみが、包丁を持っていた。
あまりにも見た目はふざけているように見えるが、残念ながら持っているものが包丁なので殺しにくるのは本気らしい。
“観測者”は驚いた。そうか、そういう事かと。
こいつはそうやって現れるから“近付かなかった”のかと。
そして数秒の後、なんと赤色の着ぐるみは目の前にいる男の手首の筋を切った。
赤い鮮血が舞い散ると共に、男の悲鳴も聞こえてくる。
これじゃあ分からないじゃないか、と思いつつも観測を続ける。
「く、くそ……そうだ!」
男は何かを思い出したかの様に、白い煙を手から出して包丁を脇で挟んで怪我をしてない方の手でスマホを拾って走り出す。さっきので体力は回復したらしい。
そしてスマホの“ダーウィンズゲーム”と書かれたアプリを開いて、“5ポイントを使って仲間を呼ぶ”と書かれたものを使用した。
しかし―――
「は、はぁ!?なんだよこれ、即呼びじゃねぇのかよ!?……ああクソ!」
走りながら、男は有名なチャットアプリから学校グループの一人を選ぼうとしている。
時間を稼げてかつ壁になってもいいやつ、と言ったところか。
そして、“材木座義輝”と名前がついたアイコン見つけてそれを押す。
「……お前も、道連れだ……!クラスの陰キャ……が」
しかし、メールアドレスを使って招待ボタンを押した男の言葉は長くは続かなかった。
赤い犬の着ぐるみによって男の首に包丁が深く突き刺さって、思い切り抉られたのだから。
かなりのパワーで裂かれたのか、血液が大量にこぼれ出している。
そして男は倒れた。
スマホには敗北、と書かれたRPG風のコミカルな表現がされた倒れている姿が写っている。
「…………」
赤い犬の着ぐるみは血に濡れていても気にしなかった。
何せ元から赤いから。これくらいの赤みなど気にしなかったのだろう。
スマホには“ポイント獲得”と書かれており、何やら獲得した様だ。
こうしてゲームは終わってしまった。
“観測者”も見納めか、と思い目前に映し出された映像を閉じた。
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季節は5月。変な部活に入ったり大変だった4月とは大違いの今週。
総武高校のベストプレイスにて、送られてきたメールを見ながらむむむむとうなる俺。比企谷八幡。
めちゃくちゃに悩んでいる。新しく発売されるラノベの続きが出た。だが今回は厚みが大きく、千円以上する事は確実だった。
購買で資金をどう足掻いても使ってしまうので、俺の読みたいラノベを見るが為に何処まで昼食を削るかの思考を張り巡らせていた。
「八幡」
「やべぇどうするか。小町に弁当作ってもらいたいけど色々大変だしな、俺の午後の授業……数学は問題ないから午後に数学ある授業だけ眠ればいけるか……?」
「八幡!」
「でも千円以上だから二食三食抜いた程度で買えるとは思わねぇし……」
「はぁちまぁん!」
「でも読みたいしな、丁度いい展開だったし、真面目に前借りしようかなぁ―――」
「はっっっちまぁぁぁん!我を無視するでない!」
「うるせぇわ!」
辛辣!というノリツッコミをインプットしてからアウトプットして、俺は隣にいるずんぐりむっくりした男……材木座義輝に意識を向けた。
なるべく思考に入れないように努力したのに、と悪態をついた。
厨二病のラノベ作家(自称)のこいつは俺と体育でペアを組んでいる仲でそこまで友達と言える仲ではない、ホントだよ。ハチマン、ウソツカナイ。
だがあまりにもしつこいので、どうせラノベの話だろうと俺は耳を傾けることにした。
「んでどうした?またパクリか?」
「いやちがぁう!聞いて驚け八幡、我はクラスの陽キャにRUINでゲームに招待されたのだ!」
「ゲーム?」
「うむ、それがこれなのだがな」
俺の目の前に出されたスマホには、
“プレイヤー ○○さんがあなたに助けを求めています!
あなたもダーウィンズゲームに参加してお友達を助けてあげよう!”
という旨のメールだった。
何このクソ怪しいスパムメールみたいなヤツ。でもそんなのRUINが通すか?
普通に変だと思ったが、その送り主のトークの方からこのメールを送られているので疑いようがなかった。
「ダーウィンズゲームぅ?」
「知っておるか?」
「いや知らねぇよ。てか何その進化理論唱えてそうなゲームは」
「我も分からんが、陽キャからのゲームの招待!だが残念である。我は執筆活動に忙しくてな!ゲームのプレイでミスをやらかして暴言を吐かれたら我泣くぞ」
「ダッセェ……」
俺は呆れながら、先程のメールを見る。
お友達を助けてあげようねぇ。本当に助させる気あるのかよこれ。煽り文句じゃねぇのか?
「おい、ちょっといいか」
「!?」
「は!?」
俺は背後からの声にめちゃくちゃ動揺してしまい心のバクバクが頭の中を埋め尽くす。
馬鹿な、俺のベストプレイスを知っている奴がいるだと……!?
と思ったら、振り返るとそこには総武高校の体育教師の厚木先生だった。
まさかの人物だったが納得、先生なら学校区域把握してても不思議じゃない。
驚かせられた雰囲気を安心のため息で流しつつ、先生の話を聞く。
「先生の用って?」
「ああ、材木座に用があってな。お前同じクラスの○○知らなかったか?最近無断で学校を休んでて連絡も届かんのだ」
「え、あーいや、知らないですね、はい」
「そうか…」
いつもの人と対面すると敬語になる材木座にこいつ……と思いつつも顎に手を置いて考える。
もし無断に学校を休む理由が、材木座に何かしらを伝えようという旨の形ならこのメールの方がいいのか。
……この件、少し気になってきたな。
「もし連絡があったら教えてくれ」
そう言って厚木先生は俺達のベストプレイスから消えていった。いや俺のだけどね?
「なぁ八幡、このメールの事は伝えなくてよいのか?」
「大した情報じゃねぇからな。確証ねぇだろ?」
「それはそうだが…」
「どうせお前をからかう為に送ってきたメールだろうよ……んでもそうか、ちょっとそのメールアドレス俺に送ってくれないか?」
「ああ」
材木座のスマホからダーウィンズゲームのメールアドレスを送ってもらい、それを押す。
そして簡単にアプリが開いた。ダウンロードしてないという事はブラウザ系か。
ダーウィンズゲームとファンタジー風にコテコテなフォントと真ん中の可愛い蛇。
そしてスタートと描かれたポップなボタン。
ほー、完全に課金で金を取ろうと言う意志を感じる。ここまでテンプレ的なファンタジーゲームは初めてだな……
ただ。その時は意識をゲームの方に寄せていたのか。
スマホの画面から蛇の頭が出てきていた事に数秒反応が送れた。
―――そして、その蛇が俺を噛むように首筋に移動していく事を見てやっと反応する。
「うわっ!?」
携帯を落としてしまい、カチャッという音が響く。
「は、八幡?どうしたのだ?」
「あいや、蛇が……」
「蛇?何処にもおらぬが…」
材木座が俺の周りを見るが、近くにあるのは画面に
“now loading…”と書かれたダーウィンズゲームのローディング中のスマホとゴツゴツとしたコンクリートの床と階段だけだった。
「……いや、悪ぃ。なんか体調悪いみたいだわ、幻覚見るとかマジでついてねー」
「であるな。保健室に行ったらどうであるか?」
「そうする……」
ココ最近、俺が入った変な部活のせいで体が疲れているのかもしれないと決めた。
少しフラッとするし本当に保健室で休もう。
そう決めた俺は、材木座と別れてそそくさと保健室に向かう事にした。
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保健室の先生から早退届を貰った。正直頭のフラフラは数分休んだ程度では収まらなかった。だが軽くはなった。
こんな状態で自転車なんか乗れないので、泣く泣く電車で帰ることに。流石に2回も車に轢かれる羽目になりたくないからな。
「(……)」
分かっている。あのゲームをプレイしてから自分の様子がおかしい事を。
さもなくはこんな事になってないし、そもそも例年ぼっちで怪我や風邪も滅多に引かない俺が変な部活……奉仕部の依頼を受けて動いた程度で体を壊す訳がない。
ならば原因は……これくらいだろう。
電車内を見渡すが、人は特にいない。そりゃそうだよな……今昼だもの。こんな時に電車に乗る人間は早々いないし多くない。
俺はそーっと、そーっと指をダーウィンズゲームのアイコンに添えるようにゆっくり押す。
「……お?」
スマホを見ると、別にまた蛇が出てくる事はなかった。
代わりに出てきたのは、まるでファンタジーシリーズにある様なメニューと変わったステータス。
「えーっと、右からトップにステータスにガチャにポイントにバトルにランキング……マジで安っぽい放置系にあるやつじゃねぇかこれ?」
俺は軽く笑いながら自分のステータスを見る。
「ンにしても何?所属ぎるどなしは妥当だけど……名前が俺の名前使われてる!?なんだよヒキガヤハチマンって……俺は日本人だが……で?ポイント30ね。ポイントってポイントのとこでなんかするのかね?」
俺が珍しく、体調が悪いのに興味津々で呟く。
そして自分のステータスの下に何やら変な文字があった。
“チー〇くん”との対戦開始まで残り数分……?
てかおい!一番危ないヤツが来てどうするんだよ!
……そしてピッという音と共に出てくる通知。
“現在対戦待機中です。情報を確認しますか?”
あれ何、もしかしてもう戦い始まってんの?
俺がOKを押すと、電車のゴトンゴトンという音と共に電車が地上から地下に変わる。
そして切り替わるはポップなアバター(目は腐っている)の俺ことヒキガヤハチマン君とチー〇君。
マジで危ないって!版権的に消されちゃうよ!
“ガハハ!僕はチー〇君!ルーキー狩りだけど、化けて来ないでね?”
うわ最低かよチー〇君。
てか俺千葉好きなのにチー〇くんと戦わないといけないの?泣くよ?
「―――」
その時。
ざわり、ざわりと背筋が震えた。
恐怖が体に走り、右左を勢いよく確認すると……いた。右の方にチー〇君がいた。
しかも手には包丁。
え何これ、夢?
それともドラマの撮影?
もしかして巻き込まれたやつ?
「……」
「あ、あのー、すいません。俺勝手に入っちゃって、ドラマの撮影とかですよ、ね、ぇ!!??」
そして勢いよく、目の前に突き出される包丁。
危なかった、鞄を持ってきていて。鞄がギリギリ盾になってくれた。深くは突き刺さらなかった。
俺はすぐさまこのぶてぶてしいチー〇君の着ぐるみを蹴り上げると、プシューという音と共に電車が停止する。駅に着いたらしい。
マジで助かった!夢とかでもいいけど!
俺はすぐさま駆け出し、この殺人鬼チー〇君との逃走劇を始めた。
pixiv、ハーメルン共に投稿中!