【悲報】俺は契約モンスターの非常食だそうです。だからその鋏下ろして、マジで!! 作:Boston Ham
『FINAL ATTACK』
「グガァァァァァァ!!!」
爆音が夜を裂いた。
巨大な怪物が、弾け飛ぶ。
肉片が降り、ビル街のアスファルトに焦げ跡が散った。
それでも、この街には誰もいない。
ただ一人、茶色のロングコートを着た青年が、崩れ落ちるように座り込んでいた
「…きつ、かったぁ。」
いや、一人だけ居る。野次馬は居ないが、モンスターを倒した張本人がそこに座り込んでいた。
血のついた茶色のロングコート、その格好のまま、彼は大の字になって地べたに横たわる。
視界の端で、何かが蠢いた。
「キチキチキチキチ」
そして、今しがた倒されたモンスターのコアを食らうのは人の形をした蟹のモンスター。
しっかりと味わうというよりは、飲み込むのに近い食事をするとチラリと横たわる彼を見る。
「…俺を食うなよ。」
警告する声が、震えていた。
なぜなら、その蟹もまた“敵”だからだ。
――深淵甲殻獣《アビスクラブ》。
壮志の異能《契約者》によって無理やり契約させられた、モンスターの一体。
泡を吐きながら、鋏を研ぐ。
金属音が夜気に響き、壮志の背筋を冷たく撫でた。
モンスターは人を食らい、この世界…ナイトメアに引きずり込む。引きずり込まれたが最後、プレイヤーじゃなければ、2度と元の世界に帰る事はできない。
「キチキチキチキチ」
鋏を研ぎ、ナイフを舐めるように鋏を泡で洗い出した俺の契約モンスター…
「落ちつけ…そして、その鋏を下ろせ。」
「キチキチキチキチ」
全力でナイトメアから離れる。
深淵甲殻獣も後ろから走ってくる。
「クソが、追いかけてくるな!」
そのままなんとかナイトメアから脱出する。
目の前ではキチキチキ言いながら鋏を振り回すアビス。
「どうして、こうなったんだろうなぁ…本当に。」
彼はプレイヤー名クラブ、本名は
「誰か…助けてくれ。」
彼の切実な心の叫びは、誰も居ないこの世界では静かに響いた。
ーあの日はいつも通り平和なはずだった。
突如スマホの画面が、ありえないノイズで埋め尽くされた。
深夜二時。
バイト帰り、都内の寂れたアパート。
俺、須藤壮志は、コンビニ袋を片手にいつものように安物の椅子へと腰を下ろした。
電気ポットがチリチリと音を立てる。
カップラーメンを作ろうとした、その瞬間だった。
――SYSTEM ERROR――
液晶に現れたのは、見慣れた通知ではない。
真っ黒な画面に、血のような赤い文字が浮かび上がっていた。
《選定開始――プレイヤーNo.07 須藤壮志》
《ギフト適合率:97.4%》
《世界移行プロセスを開始します》
「は……?」
次の瞬間、視界が反転した。
足元が溶ける。
畳の感触が消え、かわりに石畳の冷たさが足裏を這い上がる。
耳鳴りと共に、空気そのものがねじれる。
そこは夜の廃ビル群――ナイトメアと呼ばれる異空間だった。
気づけば周囲には十三人の男女が立っていた。
年齢も国籍もバラバラ。
全員が状況を理解できず、戸惑いの声を上げている。
天井のスピーカーから、機械音声が降ってきた。
《プレイヤー諸君、ようこそナイトメアへ》
《本ゲームの目的は、モンスター殲滅、あるいは他プレイヤー全滅、もしくはゲームマスター撃破》
《勝者は、願いが叶う権利と世界改変権を与えられる》
《各自には一つの
続いて、参加者一人一人の頭上にスマホが浮かび上がった。
金属質の光沢を放ちながら、ゆっくりと降下してくる。
俺の前にも、スマホと漆黒のカードケースがふわりと舞い降りた。
――ギフト名:契約者。
「……は?」
周囲から続々とざわめきが起こる。
「俺のは【重力支配】だ」 「私は【精神断絶】……!」 「【時間停止】って書いてある! やばっ!」
誰もが目を輝かせる中、壮志の能力だけが浮いていた。
〈契約者〉――説明文は「モンスターと契約を結び、己の命を共有する」のみ。
「え、攻撃系じゃないの? 契約って……ペット飼うゲーム?」
「ハズレ枠きたな」 「最初に狩るならアイツだな」
冷笑と嘲り。
十三人の視線が、一斉に須藤壮志へと突き刺さった。
その目は、もう同じ人間を見るものではない。獲物を見る目だ。
ゲーム開始から一時間後。
俺は都市外れの廃ビルへと逃げ込んでいた。
ビル群の隙間を吹き抜ける風が、鉄と血の匂いを運んでくる。
背後では、早くもプレイヤー同士の衝突音が鳴り響いていた。
「冗談だろ……。 最弱デバフ持ちが、時間停止とか重力操作とか、チートに勝てるわけ――」
呻いたところで、突然、足元のコンクリートが震えた。
ズゥン――。
水路の奥から、巨大な影がせり上がる。
赤黒い水しぶきを上げ、甲殻が月光を弾いた。
深淵甲殻獣(アビスクラブ)。
体長五メートルを超える、鋼鉄のような漆黒のカニ。
目だけがぎらりと光り、ハサミがゆっくりと開閉する。
その双眸が、食料を見る目でこちらを射抜いてきた。
「――ッ!」
背後からは、うごめく無数の野良モンスターが近づく音。
前方には深淵の主。
逃げ場などない。
心臓が潰れるような圧迫感に、壮志の意識が白く染まる。
その瞬間、胸ポケットのカードが勝手に光を放った。
《契約開始――条件:生死共有》 《同意は不要》
「はぁッ!?」
脳裏に冷たい声が響くと同時に、何かが体内へ流れ込む。
骨が軋み、皮膚の裏を冷たい鎖が走る。
【強制契約、成立。】
深淵甲殻獣の瞳が、わずかに細まった。
だがそれは友好の証ではない。
餌として刻印された人間を、これからどう料理するか品定めする光だ。
「……嘘、だろ」
次の瞬間、野良モンスターが牙を剥いて突進してきた。
反射的に壮志はカードを掲げる。
「――■■■■!!」
青い炎が弾け、カードが燃え尽きていく。
炎が消えた直後、都市全体を揺るがす轟音。
半透明の巨大防壁が、街一帯を包み込んだ。
衝突したモンスターたちは、骨が砕ける音と共に弾き飛ばされる。 壮志の身体は一切揺れない。
ただ、立っているだけで世界が守られていた。
「な、何だこれ……!」
だが安堵する暇はない。
深淵甲殻獣が、じり、じり、と距離を詰めてくる。
その双眸は相変わらず、獲物を測る光を帯びて。
「……お、俺を食うなよ」
震える声が、水路に虚しく反響した。
そうして、須藤壮志――プレイヤー名「クラブ」。
こうして、13人が命を賭けるナイトメアのバトル・ロワイアルに、 “契約者”というゴミ能力を抱えたまま、否応なく参戦することになったのであった。
面白かったらまた、読みにきてください。
17〜20時の間で、毎日投稿しようと思ってるので。