【悲報】俺は契約モンスターの非常食だそうです。だからその鋏下ろして、マジで!! 作:Boston Ham
――深夜、都内某所。
玄関のドアを閉めた瞬間、ようやく肺の奥まで空気を吸い込んだ。
湿った夜風の匂いも、コンクリートの埃っぽさも、今はただ現実の証明に思える。
さっきまで自分が居たのは、人間が踏み入れてはいけない異界――ナイトメア。
そこから帰還できたという事実が、まだ頭の中で整理できない。
「……帰って、これた、よな」
額を伝う汗を手の甲で拭う。 その手がかすかに震えていることに、自分で気づいて苦笑した。 ――怖かった。
ただそれだけだ。 死を覚悟した恐怖。 そして、“生きて帰れた”という感覚が、未だ現実の輪郭を掴ませてくれない。
背後から、キチキチと甲殻を擦る乾いた音。 暗がりの駐車場に、長い影が揺れた。
それは自分の“相棒”――
契約モンスターはプレイヤーがナイトメア外に居る間、半ば強制的に付き従うらしい。
呼び寄せもしないのに現実世界へ“漏れ出して”くるその存在が、俺にもう一度悪夢を思い出させた。
「……とりあえず、家に入ってくるな。管理人に見られたら即アウトだからな」
普通の人もコイツ見れるのか?
「キチキチキチ……」
アビスクラブは、低く喉を鳴らした。了承か、拒否かも分からない。
だが鋏を振り下ろす様子はない。ひとまず攻撃意思は無いらしい。
部屋に戻ると、ドアに施錠をかけ、息を殺して自室へ滑り込んだ。
六畳一間のワンルーム。
机の上には、契約時に支給された黒いカードケースが置かれている。 ――ナイトメアから持ち帰った唯一の“証拠”。
手を震わせながらカードケースを開く。
中に並ぶ漆黒のカード群は、まるで脈動する生き物のように淡く光を放っていた。 部屋の薄暗い蛍光灯に、カードの縁が冷たく反射する。
カードの一枚を引き抜くと、脳内に機械音声のような無機質な声が響く。
《ギフト:契約者》???ランク
あなたはモンスターとの契約を媒介に、召喚・防御・封印を行うカードを扱うことができます。 攻撃力補正:0。 成長補正:対象モンスター依存。 契約モンスターが倒された場合、あなたの生命は即時消失します。
「……はぁぁ、クソゲーかよ」
攻撃力補正ゼロ。
つまり自分には直接的な“火力”と言える能力が存在しない。
他のプレイヤーが時間停止や重力操作を振るう中、自分だけはモンスターの力に依存するしかない――。
頭の奥で、初回召喚時に嘲笑してきた他プレイヤーたちの声が蘇る。 「最弱」 「真っ先に狩るべきカモ」 「カード遊びかよ」
壮志は歯を食いしばり、カードを一枚ずつ取り出し、机の上に並べた。 カード表面には、淡い青光の文字が浮かび上がる。
・
契約モンスターを召喚するカード。契約の証。
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契約モンスターの甲殻を媒介に防壁を生成。大きさ・形状は任意で変化。
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契約モンスターの必殺技を解放。威力はモンスターの実力に比例。
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敵の攻撃や発動中の能力を無効化。対象の格や能力ランクが高いほど成功率は低下。
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一度だけ使用可能。契約者本人に適応した“武器”を創造し、その効果は永続。
・
WEAPON VENTで得た武器を即座に顕現させ、攻撃に転用する。
「……これ、俺が持ってるの、全部防御と補助ばっかじゃねえか」
手札を眺めながら、頭を抱えた。
唯一攻撃に使えそうなのはWEAPON だが、一回きりで失敗すれば二度と手に入らない。
しかも発動条件は“契約者の魂に適した武器”を自動生成。 何が出てくるかは完全に未知数だ。
自分の命はモンスターの生死と直結している。 もしアビスクラブが倒されれば、自分も死ぬ。
だが逆に言えば、モンスターが生きている限り、自分の命も守られる。 その一縷の希望を、今は握りしめるしかなかった。
彼は深呼吸し、試しにカードをかざした。 するとカードが淡い光を放ち、空気が粘り始める。
《Weapon 》
低い音声が部屋に響くと同時に、机の上に黒い霧が渦を巻いた。 やがてその霧が一閃の刃となって形を結ぶ。
漆黒の刀身に、淡紅の紋様が脈打つ――妖刀
「……刀、か」
握った瞬間、脳裏に電撃のような情報が流れ込む。
神威は契約者の精神力を媒介に属性を増幅、刃そのものがオリハルコンで作られている。 耐久力・切れ味は理論上“破壊不能”。
また、14回抜刀すると"反響"使用可能
刀身からは微かな脈動が伝わり、持つ者の意思に呼応するかのように紅が濃くなる。
続けて技体系のイメージが脳裏に浮かんだ。
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赤の飛沫が爆ぜ、炎属性を纏って燃え上がる初動技。
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深藍の飛沫が刃となり、水流で切り裂く。
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翠色の飛沫が風を巻き、嵐のような衝撃波を放つ。
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漆黒の飛沫が重力を帯び、対象を押し潰す。
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身体の抑制繊維を解き放つリミッター解除。速度・魔力・再生能力を数倍化。
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敵の技を解析し、模倣+倍加して放つ禁断の一撃。
⚠︎神威を使っている際は精神力を消費する。
また、技を使うと消費量が増える。
「……マジかよ。これ、全属性使えるのか.....完全に俺向きのチート武器じゃねえか」
思わず笑みがこぼれた。 しかし次の瞬間、窓の外から甲殻が擦れる音が聞こえ、表情を引き締める。
「キチキチキチキチ……」
アビスクラブが、闇の中から赤い複眼を光らせてこちらを見ていた。 その視線はどこか、獲物を値踏みする捕食者のものに似ている。
その瞳孔は、ほんの一瞬だが自分の喉元を測るように細められた気がした。
「……おい。俺を食うなよ」
低く呟いても、あの蟹は黙ったまま。
その鋏がわずかに開閉し、金属音を響かせる。
まるで「まだ食べない」とでも言うように。
契約者のルールには、ひとつだけ絶対的な戒律がある。
――契約モンスターが死ねば、契約者も死ぬ。 そして、契約者が死ねば、モンスターは契約解除と同時に“自由”を得る。
自由を得たモンスターが何を望むかなど、考えるまでもない。 彼は刀を握り直し、黒い刃を見つめた。 攻撃力ゼロと笑われたギフト。 だが、今の自分の手には、確かに世界を切り裂ける刃がある。
「……守るだけじゃ、終わらせない」
窓の外、赤い複眼がまだ自分を見ている。
――非常食として、どちらが先に“喰う”か。
主人公は、防御だけと言ったな?あれは嘘だ。