雄英体育祭――
日本最難関のヒーロー科を擁する国立雄英高校が主催する、個性ありの体育祭。TV中継もされ、高視聴率を維持する日本屈指のビッグイベント。 かつて「スポーツの祭典」と呼ばれたオリンピックに代わり、全国を熱狂させる新時代の祭典となっていた。
プロヒーローたちの青田買いの場であり、政府機関のスカウトの場でもある。USJ襲撃事件があったにもかかわらず、イベントは中止されなかった。 「ヴィランに屈した」と思われる姿勢こそ最悪――そう判断されたからだ。ヒーローという存在を誇示するため、通常の5倍の警備体制が敷かれての開催となった。
プロヒーローの許可のもと、個性は使いたい放題。ド派手な戦闘系個性は大いに活躍できる。そして、それは将来の就職先であるプロヒーロー事務所への最高の宣伝にもなる。
だが、ヒーロー科所属であっても、一部の者たちはどうしても周囲と比べて“劣る”ことが示されてしまう。そこで、神代真一は質問を投げかけた。
「イレイザーヘッド。サポート科は、自作のアイテムの持ち込みが許可されていると聞きました。では、ヒーロー科はアイテムの持ち込みは可能ですか?」
「ダメだ。この体育祭におけるヒーロー科は、持ち込み不可だ。個性をアピールする場でもあるんだ。諦めろ、神代。言っておくが、アダム・スマッシャーや海自303式強化外骨格は個性に含まれないからな。拡大解釈は許されんぞ。それと、ドミネーターもだ。なんでそんなの持ってんだよ……隠す気ねぇだろう」
事件後の事情聴取にて、神代真一もがっつりヒアリングされている。その際に、ドミネーターの存在も当然発覚した。正式名称「携帯型心理診断鎮圧執行システム」は知名度が低かったが、“ドミネーター”という通称はプロヒーロー界隈でも有名だ。
イレイザーヘッドやオールマイトが頭を抱えた事案の一つである。
だが、それでも神代真一へのお咎めは一切なかった。ドミネーターの出所は警察でも調べきれず、無罪放免。クラスメイトの女子をヴィラン連合の襲撃から守ったのだから、責められるどころか称賛される立場だった。
その後、体育祭の説明がなされ、A組の生徒たちは学生らしいイベントの到来に歓喜した。入学早々、命の危険に晒された日々を忘れ、ようやく“青春”を感じる瞬間が訪れた。
誰もが気合を入れる。
葉隠透も、雄英高校の生徒として恥じないように頑張ると意気込んでいた。
「神代君、私頑張る! 絶対に目立ってみせるからね!」
「葉隠さんの場合は……そうだね。が、頑張ってね。私は、ボチボチやるよ」
………
……
…
クラスメイトたちがそれぞれ思いを滾らせて体育祭に向けて準備する中、神代真一が廊下を歩いていると、麗日お茶子緑谷出久と飯田天哉の三名が会話している場面に遭遇した。その会話の中で、麗日お茶子がヒーローを目指す理由が「お金のため」であることが判明する。
それを聞き、神代真一は思わず会話に割り込んだ。
「素晴らしい理由です。で、具体的にはどの程度の金額が必要ですか?無重力にする個性でしたよね? 金と名声、どちらを取りますか?」
「か、神代君!? お金かな。その……実家が建設会社で……両親に楽をさせてあげたいなって」
親思い。実に素晴らしい精神だ。
実家の稼業を大事にしている点では、神代真一と共通点もある。その場にいた緑谷出久と飯田天哉も、意外な理由だとは思いつつ賛同した。ヒーローを目指す動機は人それぞれ。金のためと言いつつ、親のためともなれば、それは一気に“綺麗事”に昇華される。
「意外な理由ですね、麗日さん」
「なんも恥じることはない! 生活のためにヒーローを目指して何が恥ずかしい?ご両親のためともなれば、最高の理由じゃないか」
本当にその通りだと、神代真一も思った。憧れを抱いてヒーローになるより、100倍堅実だ。
「建築会社、三重県、麗日……ですね。ありがとうございます。では、やることができましたので、失礼します。体育祭、お互いに頑張りましょう」
麗日お茶子は、気づいていない。
己の“価値”を。
重力系個性――それは、軍事領域等において極めて高い価値を持つ。同種の個性持ちは、NASAやJAXAなどの宇宙開発機構に好待遇で迎え入れられる。それこそ、ヒーローより何倍も稼げる。
さらに軍事部門。重力の影響をシャットダウンできる彼女の力があれば、過重制限を無視した兵器運用や、高速三次元軌道の実現が可能になる。
その日の夜。
麗日お茶子の実家である建設会社に、政府系機関から大型発注が入る。依頼主は、内閣府直属機関の某機関。 内容は、新装備のテストを行う室内訓練場の建築だった。だから、彼女の両親は、お金や実家の事は気にせずプロヒーローを目指せと娘を応援する。
ファミレスでその電話を受けている最中、対面の席には神代真一が座っていた。通話が終わると同時に神代真一は優しく声を掛ける。
「ようこそ、優しい世界の裏側へ」