体育祭が終わり、各々がいつも通りの学生生活に戻る。だが、ここで終わらないのが雄英高校ヒーロー科。彼らは未来のプロヒーローとなるべく、次のステップに進む。それが――職場体験。
プロヒーローの元でヒーロー活動に触れるという重大なイベント。
もちろん、プロヒーローとて慈善活動ではない。職場体験に来て欲しいと指名される生徒の多くは、体育祭という全国放送の場で活躍した者たちばかり。轟焦凍、爆豪勝己への指名は群を抜いており、全体指名数の七割をこの二人で稼いでいる。偏りが出るのも当然だ。
沸き立つA組の生徒たち。これから本格的なヒーローを目指して、それに触れることができる素晴らしい体験。学生のうちから大人と一緒に社会活動へ貢献する――非常に大事なことだ。
「お前ら、静かにしろ。職場体験も大事だが、その前に決めないといけないことがある。ヒーロー名だ」
「「「「よっしゃーーー!!」」」」
喜ぶ者たちと比較して、神代真一だけは顔色が芳しくなかった。ヒーロー名――全く考えていなかった。それどころか、将来の就職先は決まっているので、ヒーロー名すら不要だと割り切っているほどだ。
そんな様子に、彼の隣の席を確保している葉隠透が、神代真一を覗き込んだ。
「神代君、顔色が悪いよ。もしかして、
「気にしてくれてありがとう、葉隠さん。ちょっと、自分のヒーロー像が浮かばなくてね。今まで、ヒーロー名なんて考えたこともなかったよ」
ふーーん、と意味深に頷く葉隠透。
その声に、神代は言いようのない圧を感じ取った。普段の葉隠からは感じられない何かが、そこには確かにあった。
この重たい空気に、天の助けが現れる。ヒーロー名を決定するに際し、雄英高校で一番後悔し苦渋を飲んだであろう教師――ミッドナイトだ。
若いころはよかった。だが、歳を重ねるにつれて女性としての美貌は曲がり角を迎える。一度広まったヒーロー名を変更することは、人気商売であるヒーロー業界では致命的。各種スポンサー契約もあり、簡単にはできないのが現実だ。
学生時代に決めたヒーロー名がそのまま生涯使われることは珍しくない。その重要な決断を、このわずかな時間で決めろというのは、教育に問題がある。だが、やれと言われた以上、みんな真摯に頑張った。
問題がありそうなヒーロー名は、教師によって指摘・改善されていく。公開処刑のような空気が、教室にじわじわと広がる。
芦戸三奈の番がやってきた。彼女が考えたヒーロー名は――
「『エイリアンクイーン』!!」
「芦戸にピッタリの個性名ですね。ですが、ウェイランド・ユタニに目を付けられないようにしてくださいね。あの会社、色々手広いですからね」
神代真一は、褒めたつもりだった。
エイリアンクイーンは実在している。過去に特ダネを求めるパパラッチによって情報が抜かれたことがあった。企業は宇宙生命体の存在を隠蔽するため、アメリカのハリウッド映画を即座に作成し、映画撮影の一環としてこの問題を記者もろとも闇に葬った。
その影響で、酸の個性持ちは一度はこの名前を付けたいと思うほどに世間に浸透している。だが、今までその名前を正式なヒーロー名にした者は誰もいない。そういうことだ。
他にも、アンブレラ・コーポレーションとかサイバーダイン社など、闇深い会社が存在している。前者はゾンビ個性研究に特化しており、その手の個性持ちの就職先として有名。後者はIT産業において革命的な発明をいくつも世間に出しており、IQを上げる個性など個性持ちを大量に雇っているとか噂が絶えない。
「神代生徒が言うように、そのヒーロー名はお勧めできないわね。将来を見越して考え直し! よし、次!」
「俺の番だ。『爆殺卿』!!」
爆豪勝己が自信満々に披露したヒーロー名。〇〇卿は、不味い。既にその手のヒーロー名で活動しているアンタッチャブルなヒーローがEUで活動している。慈愛のヒーローでありながら、ヴィランっぽいヒーローの世界ランカーだ。
「はい、却下。ヒーローなのに“殺”と”卿"はダメね」
「クソがぁぁぁぁぁ」
それからも各々が考えたヒーロー名が披露される。恥ずかしさもある。公開処刑とはこのようなことを言うのだろう。誰もが、自分よりダメなヒーロー名を先に公開してくれと祈る。良さげなヒーロー名を上げられると、次のハードルが上がるから後続が困る。
そして、流れに乗って麗日お茶子の番がやってきた。
「『ウラビティ』」
「『
世界の裏側に踏み入った彼女にふさわしい。ヒーロー名にそれを暗示させるとは、神代真一もべた褒めする。
「違ーーーう!! 絶対に神代君が思っているようなヒーロー名じゃないからね。それに、私を褒めるなぁぁぁ、葉隠さんだけを褒めていてよ。巻き込まないでよ!」
「麗日さんって、最近神代君とも仲いいよね」
純粋な緑谷出久は、クラスメイト達が仲良くなるのは良い事だとしか思っていない。彼はもう少し女心に気遣うべきだ。
「デク君違うからね。絶対に違うからね」
「うん、分かっている。同じクラスメイトだし、仲が良い方がいいよね」
完全に分かってない奴だと、緑谷出久以外のクラスメイトは全員理解していた。そして、彼女の次が葉隠透だった。
「『インビジブルガール』」
「葉隠さんの個性と合わさってとてもいいと思うよ」
と普通の感想を伝える神代真一。だが、葉隠透としてはそれだけで心が満たされた。当然、文句のつけようがないヒーロー名によりミッドナイトからも指摘がなく採用される。
そして、順番は巡り神代真一の出番になる。目立たないクラスメイトの一人としてヒッソリと過ごす彼のヒーロー名は・・・
「『ホワイトコート』…個性が健康診断だから、医者が纏う白衣をイメージしました」
「いんじゃない。問題なし」
ミッドナイトは、問題なしと判断する。だが、ココで文句を言いたいが口を閉じる女性が一人いた。裏ビティさんだ。だが、口は禍の元であるためグッと堪えていた。
裏ビティさんは、胃薬を経費で買ってやろうと『H・EROアカデミア』の先輩社員に申請方法を確認する。
すこし、この世界のヤバさを盛り込んでみました。
色々ヤバい企業やヤバい奴もいる世界です。
そして、頑張れ裏ビティさん