H・EROアカデミア   作:新グロモント

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18:職場体験(表)

 18禁ヒーロー――それは俗称に過ぎない。一般的には性的コンテンツによる年齢制限を想像するだろう。だが、実際には“青少年の精神に多大な負荷がかかるため、成人でなければ立ち入れない領域”を指す。

 

 その代表格が、神代(・・)コナン。

 「個性:名探偵」として数々の事件を解決してきたが、神代真一の従兄でもある。彼の個性は、周囲の環境を“ヨハネスブルク並の治安”に変化させる。人間の殺意を無作為に増幅させ、殺人へと発展させる。

 

 そして、その事件を“解決するまでが個性”という、究極のマッチポンプ。

 

 本人の意思で解除できないこの個性は、過去にAFOに「貰ってくれないか」と相談したところ、本気で拒絶されたほどだ。「そんな個性を持っていたら、どこにいても殺人事件が起きて居場所がバレる」とのことだった。

 

 そんな場所に、職場体験で向かうことになった葉隠透と麗日お茶子。日本で最も殺人発生率が高いとされる地域。年間1,000件近い殺人事件が発生する。 事務所を構えるというより、“事務所を抱えた場所が全て同じ治安になる”個性。職場体験には、うってつけだ。

 

「ねぇ、お茶子ちゃん。本当にここで合ってるの?」

 

「住所はここだよね。まさか、あの神代君の従兄だとは……嫌な予感しかしないよ」

 

 建物は鉄板で補強され、真新しい弾痕が壁に残る。薬莢すら床に転がっている。実際、今朝も薬物中毒の犯罪者が銃を乱射しながら事務所に突入してきたばかりだった。

 

 恐る恐る執務室の扉を開けると、ティータイムを楽しむ神代真一と神代コナンがいた。その傍らで、半殺しにされた犯罪者が転がっていなければ、彼女たちの心も少しは休まっただろう。

 

「へぇ~、君たちが真一のガールフレンドか。ようこそ、名探偵の事務所へ。僕が、18禁ヒーローの神代コナン。探偵さ」

 

「ガールフレンドと言う意味でいえば、葉隠さんだよ。彼女は、私と一緒に堕ちるところまで堕ちてくれる。じゃあ、早速仕事に入ろうか。今の時期は、どこも職場体験で人手が足りなくて困ってたんだ」

 

 今まで生きていた世界を“過去”にする世界へ踏み込む女子高生。真実とは、いつも残酷だ。

 

「えへへ、神代君。私頑張るから」

 

「帰りたいよ……帰っていいですか? 神代論理次官」

 

「そんなことしたら、学校のみんなの職場体験が台無しになるよ。だって、彼らが職場体験で出会うヴィランを“用意する”のが、私たちの仕事なんだから。ヒーローの巡回で毎度ヴィランに遭遇するわけないでしょう?」

 

 職場体験を“準備する”職場体験。ヒーローが歩けばヴィランに遭遇する――そんな偶然は、制度によって作られている。

 

 当然、その中には本物の犯罪者も混ぜ込まれている。今この事務所で半殺しにされている薬物中毒者が、それだ。

 

 名探偵の個性で集めた犯罪者たち。それらを各地の職場体験に“配る”という任務。『H・EROアカデミア』のメンバーたちが休日返上で働く、最悪なイベントの一つだ。

 

………

……

 

 昼間は、どこから湧いたかわからないような犯罪者たちの制圧と確保。夕方には、食事をしながら犯罪者たちを護送し、ヒーローたちの巡回路で“解放”する。当然、存在しないヴィラン組織に出向しているヒーロー(笑)連中と一緒にだ。こうすることで、民間人への被害を最小限に抑える。

 

『葉隠さん、悪いんだけど埼玉でヴィランが不足してるから出前お願い。神奈川のヴィラン刑務所から出向組を回収して、川口の現地メンバーに引き渡して。その足で東京に帰ってきていいから』

 

『わ、分かったよ神代君。先輩、おいて行かないで~! ごめん、神代君、電話切るね』

 

 二人一組で行動させているが、なかなかうまくいっているようだった。このまま、一人でも仕事ができるようになれば、皆の負担が少し減る。

 

『あ、麗日さん。元気にやってる?』

 

『元気なわけあるかぁぁぁ! どこの世の中に職場体験で輸送機に乗せる!? 今日だけで日本一周したよ! 私の無重力は、輸送機の付属品じゃなーーい!』

 

 だが、便利な個性だ。日本全国で必要とされるヴィラン輸送のコストと時間を大幅に短縮できる。 彼女としても個性の訓練になるので、一石二鳥だ。

 

………

……

 

 日付が変わる頃、職場体験初日を終えた二人が事務所に帰ってきた。初日から各地を飛び回る激務だっただろう。どこぞの職場体験のように、決められたルートで偶然ヴィランを見つける見学とは違う。

 

「おかえり、二人とも。これから一週間がんばろうね。とりあえず、寿司取っておいたけど食べる?」

 

「「食べるぅぅ」」

 

 よく働かせ、成長を実感させ、餌付けする。

 そして、今日一日の職場体験の話を聞く。主に愚痴ばかりだったが、それでも今まで知らなかった世界を体験した。食べ終えた二人は疲れ切って半分眠っていた。眠る女性二人を車で家まで送り届け、神代真一も家に帰った。

 

 

 

職場体験、二日目。

 

 机の上に並べられた銃の数々。すべて、犯罪者たちから押収した現物だった。それを見て、葉隠透と麗日お茶子は喜んだ。昨日は運搬や手配など事務作業ばかりだったからだ。

 

 本日は、長距離移動がない――それだけで、現実が少し優しく見える。

 

「個性持ちとはいえ、基本的に銃で殺せる。だからこそ、銃に対して君たちにも正しい知識を付けてもらう必要がある。まずは地下の射撃場で射撃練習。そのあとに、対銃撃戦の講習と実技。分解整備。最後にテストがあるから」

 

「そっか、プロヒーローでも銃を使ってるもんね。神代君のお勧めは、どんな銃?」

 

「あ、それ私も知りたい。知りたい」

 

 神代真一は懐のホルダーから、ドミネーターを取り出して見せた。黒く滑らかな筐体に、変形機構のラインが走る。

 

「こちらです。銃と違って非殺傷モードもある優れモノです。学校を卒業して、正式な職員になれば用意してあげます」

 

 葉隠透は、目を輝かせた。

 

 麗日お茶子は、少し引いた。

 

 この温度差が、神代真一への気持ちの表れだ。

 

 拳銃、ショットガン、アサルトライフル、スナイパーライフル――実弾演習が次々と行われる。

 銃とは何か。どの程度が安全距離なのか。個性社会になった今でも、銃が世界で使われ続ける理由は明確だ。誰が使っても、同じ威力で人を殺せる。

 

 

 

職場体験、三日目。

 

 少しやつれている神代真一。代わりに艶々している葉隠透。

 

「あれ? なんか、神代論理次官……やつれてない? ちゃんと食べた方がいいよ」

 

「うん!! そうだよね、後で栄養が付く物を作ってあげるから」

 

 男には限界がある。ナニとは言わないが、若くても限界がある。そこが女性とは違う――と、神代は内心でぼやいた。

 

「お気になさらず。では、職場研修四日目……今後のため、動く標的を狙おうか。こういうのは、早めに慣れておく方がいいからね。なーに、標的はコナン兄さんの傍にいれば、すぐに釣れるから。現場に送るヴィランの数とか気にしないでいいよ。そこらへんは、こちらで何とか調達するから」

 

「それって、つまり……」

 

「私たちに人殺しをしろってこと?」

 

 神代は頷いた。

 

 この職場で“殺しの経験がない”のは、危険だ。自分だけでなく、仲間も危険になる。

 

「えぇ。自分と仲間を守るために殺すんです。昨日の射撃訓練で撃ち方を覚えましたよね。別に銃でなくても、個性で殺しても構いません。我々には、殺しのライセンスが与えられております。全ては合法です。葉隠さん……いいえ、透。殺れるね」

 

「うん!! 神代君、私頑張るね。だから……ねぇ」

 

「うわ~、葉隠さんをここまで堕とすとか外道だわ。神代論理次官って、やっぱり刺されるよ。私もみんなの賭けに参加しようかな」

 

 恋は盲目というレベルの葉隠透。

 

 図太い神経で、既に周囲になじみ始めた麗日お茶子。

 彼女たちは、この職場体験で“色々な初体験”を済ませて、学び舎に帰る。他の生徒たちよりも遥か先を歩む彼女たち。その成長ぶりを目にした学友たちは、驚くだろう。

 

 だが、決して彼らの学友も怠けているわけではない。一部の異常者は、今ヒーロー殺しという“野生のヴィラン”と対峙して、大騒ぎになっている。そんな最中、彼女たちは“殺しの訓練”を積んでいた。

 

………

……

 

 人生で関わることのないはずだった“裏側”に携わり、濃厚な一週間を終えようとしていた。だが、最終日に思わぬトラブルが発生する。

 

 神代真一の携帯に、とある番号からの着信。意図的に登録していない番号――だが、間違いなくヴィラン連合の死柄木弔だった。

 

『久しぶりだな、政府の犬。これから、例の治癒持ちを連れて来い。あと、お前の学友について知りたいことがある』

 

『彼女の治癒能力は、夜にしか発動できません。今晩、準備でき次第、伺います。知りたいのは、先日の保須市にいたクラスメイトのことですか?』

 

 新しい脳無を欲しがる連中が多く、その問い合わせ対応も神代真一が行っていた。だから、それを引き渡してきた者たちの情報も、既に手元にある。

 

『話がはぇーーな。そうだ』

 

『お任せください。学校の成績、健康診断の情報、家族構成、個性まで洗いざらいでいいですかね。で、少しばかりこちらからもお願いがあるんですが、いいですか?』

 

 ギブアンドテイクの関係。それがお互いの組織が長く付き合うために必要なことだ。

 

『ちっ。何だ、言ってみろ』

 

『指定ヴィラン団体の一つが北九州にあります。ちょっと、潰してきてもらえませんか?立地的に人目が多く、我々の兵力では少し目立ちましてね。ヴィラン連合としても、力をアピールするにはちょうど良いかと』

 

 勢力拡大をする以上、ヴィラン連合は力を誇示する必要がある。

 

 先日死んだヒーロー殺しのおかげで知名度は上がってきているが、どうにも“ヴィラン連合はおまけ扱い”だ。ここらで実力を示して、野生のヴィランたちを集める必要があった。

 

 こうして、お互い有意義な取引が成立する。

 

 その夜、死柄木弔に会った神代真一は「痩せこけたな」と何故か心配されており、それを聞いていた癒月静治癒官が、笑うのを必死に我慢していた。

 

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