執筆速度が上がる気がする!!
一話あたりのボリュームは、5000文字目標なのだが、なかなか難しい。
雄英高校・ヒーロー科一年A組。
神代真一は、静かに教室の席に腰を下ろしていた。彼の手元には、入学初日に配布された二枚の書類――死亡同意書とヒーロー保険加入申込書。どちらも、ヒーローとして生きるためには避けて通れない現実だった。
ヒーロー稼業とは、常に死と隣り合わせだ。凶悪な野良ヴィランを制圧する任務は、時に命を賭ける戦いとなる。ヴィランは殺意を持って襲いかかってくるのに対し、ヒーローは「逮捕」が原則。緊急事態を除けば、殺傷は許されない。
この不合理な構造は、ヒーローとヴィランの「需要と供給」の歪みによって生まれた制度的副作用だった。
ヒーローが多すぎる。
その過剰供給を自然淘汰するために、制度はあえて危険を許容する。「人を簡単に殺せる個性を持つ犯罪者を、なぜ生かして捕らえなければならないのか」――世間でも議論は絶えない。 だが、政府としては「人命を守ることこそがヒーローの本質」と定義している。 必要悪としてのヴィランを殺してしまえば、制度が崩壊する。 もちろん、完全に政府管理外の“本物の野良ヴィラン”も存在するため、ヒーローの現場は常に緊張を強いられていた。
教室の前方で、担任のイレイザーヘッド――相澤消太が声を張り上げる。
「よし、お前ら! ヒーロー保険はどこに入るか、しっかり決めろ!保険料が高い企業ほど、基本的な保証は手厚い。 特に、増強系の個性や爆豪勝己、轟焦凍のような強個性は保険料もバカにならないからな。財布とよく相談しろよ!」
その言葉に、教室の一角から怒声が飛ぶ。
「はぁ!? なんだよ、俺の個性で試算したら月々の保険料が20万からだぞ!!しかも、物損と人身が各3000万までとかふざけんな! 無制限じゃねーのかよ!」
叫んだのは、爆豪勝己。
彼の個性「爆破」は、攻撃力が極めて高く、個性発動による物損リスクも甚大だ。
保険会社としても、社員の生活を守るためにはリスクに応じた保険料を設定せざるを得ない。 正直、能力を鑑みれば月額20万でも“良心的”な方だ。
神代真一は、静かに口を開いた。
「それが嫌なら、無保険ヒーローを貫けばいいのでは? 保険加入は義務ではありません。」
その冷静な一言に、爆豪勝己が即座に反応する。
「うるせーぞ、ブービー野郎が!いいよな~、お前の個性は“健康診断”でよ~。自分の健康を常に把握できる個性とか、現場じゃクソの役にも立たねーぞ!」
怒りに任せて机を叩く爆豪勝己。
だが、彼は知らない。神代真一が申告した個性は、あくまで“表向き”の一部に過ぎない。神代真一は、本当の個性を馬鹿正直に申告などしていない。嘘で塗り固めるより、真実を混ぜ合わせた方がバレにくい。
その結果、雄英高校の入学生の中でも“下から数えた方が早い”レベルの弱個性という評価に落ち着いている。神代真一の目には、彼のステータスが赤裸々に映し出されていることを。
爆豪勝己――外見や言動からすれば、野良ヴィランと誤認されても不思議ではない。だが、彼の内面は違った。
正義感が強く、勉学も優秀。火事場でも冷静に対応できる万能型。さらに見た目に反して家庭的であり、料理もできる。両親との仲も良好と記録されている。口が悪く、自己中心的ではあるが、根本的に「悪に染まらない」稀有な人物だった。
神代真一は、爆豪勝己のステータスに刻まれた“信念の履歴”を見ていた。どんな状況でも、正義を貫く。その姿勢は、昨今のヒーロー候補生の中では異例と言えるほど純粋だった。子供のころにここまで強力な個性を持っていれば、多少は歪むものだ。だが、ここまで筋の通った信念を持つとは――逸材と言うほかない。
「……惜しいな」
神代真一は、心の中でそう呟いた。
能力的にも、風貌的にも、爆豪勝己はH・EROアカデミアの潜入任務に最適な人材だった。ヴィラン組織に送り込み、演出された悪の中で活躍させる――そんな構想も浮かんだ。
だが、爆豪勝己の“絶対に悪に染まらない”という信念が、それを許さなかった。
制度設計者として、神代真一は冷静に判断する。爆豪勝己は、制度の裏側には向かない。
彼は、表の正義にこそ相応しい。
そのとき、隣の席から小さな声が聞こえた。
「うーーーん、私の保険料、高すぎぃぃ……! 重力をゼロにするだけじゃん……。いいな~、神代くんは“健康診断”なんて個性じゃ、物損も人身もないからさ」
麗日お茶子だ。 神代真一は、微笑を浮かべながら答えた。
「ええ、戦闘面ではからっきしです。ですが、保険はしっかりした物に加入します。 個性で戦えない代わりに、サポートアイテムで圧倒するのが私のヒーロースタイルなので」
その言葉に、麗日お茶子は目を丸くした。
「えっ、神代君のサポートアイテムってそんなに強いの!?」
「えぇ。政府認定のものを使えば、個性以上の性能を発揮することもあります。ただし、維持費と登録審査が厳しいですが」
麗日お茶子は、保険料の現実とサポートアイテム維持経費に悩まされる。その間も神代真一の目には、彼女のステータスがすでに映し出されていた。
家族構成、経済状況、個性の応用性、倫理観、信念履歴――すべてが数値化され、神代真一の脳内に整理されていた。彼女の父親が経営する建築会社は、政府との契約実績があり、資材供給ルートにも関与している。そのルートを活用すれば、麗日お茶子を制度の中に取り込むことは容易だった。 彼女自身も、経済的な不安定さと理想の狭間で揺れている。
「初日から、良い人材が見つかったな……」
神代真一は、心の中で静かにほくそ笑んだ。彼にとって、雄英高校は“学びの場”ではない。制度の表層に潜入し、構成員の資質を見極め、必要に応じて裏のネットワークに引き込む――それが彼の任務だった。
麗日お茶子。彼女の倫理観は柔軟で、家族への責任感も強い。制度に対する疑問を抱きつつも、現実に適応しようとする姿勢は、裏の任務において極めて有用だった。
神代真一は、彼女の声に耳を傾けながら、同時に彼女の“履歴”を読み取っていた。幼少期の家庭環境、進学動機、金銭的な焦り、そしてヒーローへの憧れ――それらが複雑に絡み合い、彼女の現在を形作っている。
その揺らぎこそが、制度設計者にとって最も扱いやすい“接点”だった。
「……まずは、麗日お茶子からだな」
神代真一は、書類を提出しながら静かに思考を巡らせていた。
ヒーロー制度は、正義の名の下に構築された巨大な装置。 だが、その内部には、保険・補助金・死亡同意・供給調整といった、冷徹な制度設計が張り巡らされている。神代真一は、その装置の中に身を置きながら、静かに歯車を観察していた。そして、必要とあらば、その歯車の一つを“再設計”する覚悟も持っていた。
彼の視線の先では、麗日お茶子がまだ保険料の欄に悩みながらペンを動かしていた。その姿は、理想と現実の狭間で揺れる若きヒーロー候補生の象徴だった。
制度の裏側でも生きていけそうな生徒・・・後、口田甲司君とか作者的にはぜひ欲しい個性ですわ。裏社会では間違いなく強個性。
ヒーロー制度を守り平和を守る裏の世界。こういう話もたまにはいいですよね^-^
作者基準で優しい話にする予定です。