H・EROアカデミア   作:新グロモント

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22:優しい世界の裏側3

 本業と学業の二足の草鞋。

 

 二重生活というのは、体力的にも精神的にも厳しい。だが、今の世界を守るため。ヒーロー社会を存続させるため。立ち止まることは許されない。

 

 ヒーローという“虚像”が、巨悪へと変わるきっかけを生んではならない。だからこそ――悪の象徴たるAFOには、健在でいてもらわなければ困る。ヒーロー側に天秤が傾きすぎている今、ヴィラン側にも“テコ入れ”が必要だ。

 

 今日は、大事な仕事のため、神代真一はスーツ姿である場所を歩いていた。そこには、そうそうたるメンバーが揃っていた。

 

 政府側からは、警察庁長官、国家公安委員会委員長、防衛大臣。日本最高峰とも言える権力の一角たち。彼らに何かあれば、日本が傾くと言っても過言ではない。

ヴィラン側からは、AFOと黒霧の二人。

 

 そして、この場をセッティングし、案内役を務めるのは――内閣府直属機関「H・EROアカデミア」の論理次官・神代真一と、治癒官・癒月静。そして、もう逃げる事も裏切る事もできなくなった“裏ビティさん”。

 

「本当に実現させるとは思わなかったよ、神代君。自己紹介は必要かな? 政府側の皆さん」

 

「不要だ。早く仕事を終わらせてくれ。我々は、この場を誰かに見られるだけでも政治生命が終わる」

 

 防衛大臣の言う通りだ。

 

 AFO――個性黎明期から存在する、悪のカリスマ。そんな男と接触していたとなれば、それだけで政治生命は吹き飛ぶ。だが、これは“必要なこと”だった。

 

 目的は、タルタロスに収監されている凶悪なヴィランたちを“無個性化”する壮大な計画。これを実現できるのは、AFOをおいて他にいない。何より、無力化においてこれよりも人道的な方法はない。“命のSDGs”の観点からも優しいプランだ。

 

 神代真一の本音を言えば、凶悪なヴィランを“対ヒーローの的”として活用したい。だが、そういったヴィランたちは、決して政府の指示に従わない。それどころか、率先して民間人を襲うような連中だ。

 

 死んだ方がマシな連中――せめて、ヒーローの訓練に役立てばいい。だが彼らは、自分より強者を嗅ぎ分ける能力が高く、危機察知能力も高い。ヒーローが到着する前に逃亡し、犯罪を繰り返す未来が容易に想像できる。

 

 よって、無個性にして安全に管理して死刑執行まで、徹底的に今までの罪を自覚させ、酷使して、被害者の気持ちがスッキリするように役に立ってもらう。使い終われば脳無の原材料コースもしっかりと完備されている。

 

「大丈夫ですよ、大臣。ヴィラン側から今回の件が漏れることはありません。この場にいる者たちも、決して口にしません。私の個性『関係履歴』にて、そのあたりは入念に調べを済ませてあります」

 

 神代真一の言葉の重みは、政府側もよく知っている。

 

 この個性による“裏取り”があるおかげで、今までこの場に居るメンバーは政治生命を守ってこられた。身内の裏切りすら看破し、“絶対に裏切らない者たち”で盤石な地位を築いてきた。

 

 その対価として、神代真一は――今の地位に加え、ドミネーター、海自303式強化外骨格など、“一学生が持つには過剰すぎる”装備を手にしている。

 

「神代君の言う通りだ。それに、この場に君たちがいる理由は簡単だ。不測の事態が発生した場合……君たちが命を持って償うためさ。当然、その時は残念だけど、神代君やそこの彼女にも死んでもらう」

 

「勿論です。その覚悟があり、この場に全員いますから、AFO殿。さぁ、タルタロスへ参りましょう。人払いは済ませてあります。裏ビティさん、あなたの無重力の個性でAFO殿の車椅子を持ち上げてください。我々のような者たちより、ヒーロー志望のリアルJKに押された方が気分がいいでしょうから」

 

 顔が引きつる裏ビティさん。

 

 こんな夜更けに呼び出され、高級車に乗せられ、何度もワープゲートをくぐらされて――着いた先には、日本政府高官と裏社会の伝説が待っていた。彼女の気持ちは、誰にも測れない。

 

「裏ビティ君。分かっていると思うが、決して失礼のないようにするんだよ。学生だからという言い訳は通じない。この場にいる全員の命がかかっている」

 

 警察庁長官からの“ありがたいお言葉”。彼女の顔は、警察庁長官に記憶される。

 

「神代君の個性を疑っているわけではありませんが、酔った勢いでとか。洗脳の個性による事態に備えて、後で制約系の個性持ちで今日のことは喋れなくします。裏ビティさん…場合によっては、ヴィランより先に貴方を殺さないといけなくなります」

 

 国家公安委員会委員長からの“ありがたいお言葉”。彼女の顔は、国家公安委員会委員長に記憶される。

 

「裏ビティ君。国外に出る際は、防衛省に届け出が必要だからね。もし、国外で君のGPSが消失したら……分かるよね?」

 

 防衛大臣からの“ありがたいお言葉”。彼女の顔は、防衛大臣に記憶される。

 

「はははは、人気者だね裏ビティ君。そうだね、僕も君の顔を覚えたよ。どこかで出会うことがあれば、車椅子を押してくれたお礼をさせてもらうよ」

 

 AFOからの“ありがたいお言葉”。彼女の顔は、AFOに記憶される。

 

 裏ビティさんは、入学式前に戻れるなら――絶対に「金のためにヒーローをやる」とは言わないだろう。

 

 彼女はこれから目撃することになる。凶悪な個性を持つヴィランたちが、次々と“一般人以下”に落ちぶれていく様子を。

 

………

……

 

 AFOは、ご機嫌だった。元々、個性集めは彼の趣味の一環だ。

 

「やはり、時代と共に個性は進化するね。昔では考えられないような個性も、今では当たり前のように存在している。どうだい、神代君の個性……私に譲る気はないかい?代わりに、君が望む個性を用意してもいい」

 

「それは困りますよ、AFO殿。私は、この個性を買われたから今の地位があります。政治において“絶対に裏切らない仲間”を集められる――凄いアドバンテージですからね。つまり、お断りいたします。答えは聞かなくても分かっていたでしょうに」

 

 神代真一の返答に、AFOは肩をすくめて笑った。その笑いは、諦めでも怒りでもない。

 

 ただ、時代を見守る者の“納得”だった。

 

「残念だよ。……あぁ、だけど君たちの林間学校には、少し手を出させてもらう。弔たちには何も教えていないから、上手くやり過ごしてくれ」

 

「……轟君の個性ですか? いや、違いますね。あの個性は戦闘系として完成しすぎており面白味もない。なにより、今さらAFO殿がこの程度の個性を欲しがるとも思えません。つまり、それ以外となると――担任の抹消か、引率ヒーローのサーチといったところですか」

 

「そうだと言ったら、邪魔をするかい?」

 

「私の個性ではありませんので、ご自由にお持ち帰りください。ですが、しっかりとヴィランの育成は忘れないでくださいね。最近、ヒーロー側が一強すぎて、政府も困っているんですから」

 

 AFOは満足げに頷き、車椅子の肘掛けに手を添えた。その横で、裏ビティさんは胃痛を感じながら、必死にエスコートを続ける。

 

 彼女の無重力の個性は、今や“悪の象徴”を運ぶ手段になっていた。ヒーロー志望の女子高生が、国家と裏社会の橋渡しをしている――それが、今の“優しい世界の裏側”だった。

 

………

……

 

翌日。

 

 林間学校の準備が始まる。クラスメイトたちは、楽しげに荷物をまとめ、期待に胸を膨らませていた。

 

 だが、麗日お茶子――裏ビティさんは、違った。彼女の瞳には、昨日の記憶が焼き付いていた。

 

 高官たちの顔。

 

 AFOの声。

 

 タルタロスで無個性化されていくヴィランたちの姿。

 

「楽しい学校生活を潰しやがって……」

 

 彼女は、神代真一にそう言って、キレ散らかした。だが、神代はただ一言だけ返した。

 

「それが、ヒーローの“現場”です」

 

 こうして、裏ビティさんの“優しい世界”は、静かに終わった。だが、彼女の“ヒーローとしての覚悟”は、ようやく始まったばかりだった。

 

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