H・EROアカデミア   作:新グロモント

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23:林間学校1

 学生生活のビッグイベント――林間学校。

 

 昨今のヴィラン連合やヒーロー殺しの一件を受け、学生であっても自衛のために、より実践的な訓練が求められるようになった。本来は2年生以降で実施されるカリキュラムを、前倒しで導入する異例の措置。

 

 それだけ、現場は“優しい世界”ではなくなっていた。

 

 宿泊施設兼訓練場に向かうバスは、目的地より遥か手前で停車する。見渡す限りの森――富士の樹海を思わせる景色。絶対に毎年、何人もの死者や犯罪者が死体を埋めているに違いない。そんな妄想が自然に浮かぶほど、空気は静かで濃密だった。

 

 生徒たちは、バスの中の息苦しさから解放され、大自然の空気に清々しさを感じていた。だが、その気分は長くは続かない。

 

 途中休憩だと思って降りた先に待っていたのは――この日のために雄英高校が無理をして雇った、ヒーローランキングNo.32のワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ。

 

『煌めく眼でロックオン!!』

 

『猫の手 手助けやって来る!!』

 

『どこからともなくやって来る…』

 

『キュートにキャットにスティンガー!!』

 

『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!』

 

 ヒーローのキメ台詞。だが、妙齢の女性たちが婚期を焦っていることは、神代真一の『関係履歴』の個性が見逃さない。雄英高校の一年生という“金の卵”を前に、内心では色々と滾っていた。林間学校という特別な場で、既成事実を狙っている――金の卵、改め“金玉”を。狙われているのは轟焦凍だ。彼との既成事実ならば、間違いなく後の人生は左団扇で暮らせる。子供の個性も外れない。

 

 そんなことまで神代の眼は読み取っていた。

 恐ろしい事に個性サーチで標的にされた男は、逃げることはできない。仮にここを運よく逃れても、街中で偶然に出会うという“自然な形”で距離を縮めることが彼女たちには可能だ。

 

 その方法で、彼女たちは幾人もの婚期が危うい女性たちを“救って”きた。それゆえのヒーローランキングの順位。

 

「うわ、キッツ」

 

「だ、ダメだよ神代君。女性の人にそんなこと言ったら……」

 

 神代真一は、思わず心の声が漏れてしまった。それに対して、大人の余裕を見せる葉隠透。その無自覚な言動は、灰色の青春を送り続けているピクシーボブの心に致命傷を負わせた。

 

 戦う前から勝負は決まっていた。JKにもなれば、彼氏の一人や二人いる――そんな現実を、彼女は知りたくなかった。

 

「よーし、決めたわ。私、この二人を徹底的に狙うわ。ラグドールちゃん、この二人をしっかり見て覚えて、弱点を」

 

「あちきの個性で男の子の方はできるけど、女の子は透明だから無理だよ。それに、男の子の弱点は……」

 

「はい、そこまでにしてください。うちの馬鹿な生徒がご迷惑をおかけしました。今の紹介で分かった通り、彼女たちはプロヒーロー。今回の林間学校において、我々のサポートをしてくれる」

 

 ラグドールの“チート個性”により、葉隠透を除く全員が彼女の個性の毒牙にかかる。遠く離れていても居場所が把握され、弱点までバレてしまう。しかも、100名までストック可能。常識的に考えれば、どの組織でもお抱えにしたい人材だ。

 

 だが、個性で見られるのは相手も同じだった。ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツたちの情報は、すでに神代真一の頭の中に整理されていた。

 

………

……

 

 そして始まる、地獄の林間学校。A組の生徒たちは、まさかの途中下車をさせられ、宿泊所がある場所まで“走らされる”。道中の森は、“魔獣の森”と呼ばれる危険地帯。一筋縄ではいかないプロヒーローたちが、あの手この手で妨害してくる。

 

 神代真一は、どうすべきか悩んでいた。他の生徒たちは、ヒーローコスチュームを持ち込んでいる。だが、彼のスーツは先日の期末試験で損傷が酷く、修理中。つまり、ほぼ生身。

 

 一応、ヒーロー名が“ホワイトコート”と設定されている都合上、市販の白衣に袖を通しているだけ。あってもなくても同じレベルだ。

 

「なにぼさっとしてんだ、神代君。こんなところで油を売っていては、皆に置いて行かれるぞ!それとも、体調が悪いのか? それなら、僕が先生に……」

 

「大丈夫だよ、飯田君。私の個性では、皆の足手まといにしかならないから、ゆっくり行くよ。先に進んでいいよ」

 

「ならば、尚更じゃないか。役に立たない個性なんてない。それに僕たちはクラスメイトじゃないか。同じ釜の飯を食べて、同じ学び舎で学ぶ。そんな仲間を置いては行かない。それに、みんなも待ってくれている」

 

 委員長として、クラスメイトを気にかける良い生徒。

 飯田天哉は、善良な人間だ。彼が本音でこれを口にしていることを、神代真一は理解している。だからこそ――眩しい。眩しすぎた。思わず目を覆い、「目がぁぁぁぁぁーーー」と叫んでしまった。

 

………

……

 

 その頃、生徒たちが見渡せる場所にて、イレイザーヘッドがラグドールのサーチ結果を聞いていた。凡そ、彼が知っている情報と大差はない。だが、それを一見しただけで正確に把握できるのは、恐ろしい個性だと誰もが思う。

 

「ラグドールさんの個性でも、相手の個性やその特性までは分からないのですね。そういえば、ピクシーボブに『キッツ』と言った生徒がいたでしょう。彼の弱点は何だったんですか?」

 

「(心が)キレイな人だって。なんでも目が焼けちゃうらしいよ」

 

 理解に苦しむ弱点に、イレイザーヘッドは頭を抱えたくなった。その時、「目がぁぁぁぁ」と叫ぶ神代真一を見て、サーチの個性の怖さを理解した。

 

「何であいつは、飯田を見て叫んで……いや、止めておこう。人の趣味嗜好を探るのは合理性に欠ける。教師として、葉隠には急所を外して刺す技術や拘束術を教えておいてやる」

 

 イレイザーヘッドは、静かにそう言い残すと、ラグドールに訓練メニューの調整を指示した。葉隠透――透明化という個性は、戦闘においては“見えない”という利点を持つ。

 

 だが、それだけでは足りない。見えない者が“確実に仕留める”技術を持ったとき、初めて“脅威”になる。そして、その技術を教えるのは――教師の責務だ。

 

 そして、イレイザーヘッドは静かにメモを取る。

 

「葉隠透:透明化+急所制圧術。

神代真一:目が弱点。

訓練メニュー:接近戦特化、心理耐性強化」

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