H・EROアカデミア   作:新グロモント

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26:林間学校4

 数日間にわたる林間学校。神代真一は、その間にラグドールの電話番号を“自然な形で”手に入れることを目的にしていた。国家権力を使えば、分からない番号など存在しない。だが、それでは意味がない。女性から“自発的に”番号を渡され、そこから親密になる――それが、彼の流儀だった。

 

 だが、その前に――刺し傷が増えそうな予感がしていた。風呂場での一件以来、葉隠透からの圧がすごい。流石に林間学校という場では、彼女も自重していた。女子部屋も男子部屋もクラスメイトがいるため、流石に“至らなかった”。

 

 代わりに、女子たちから向けられる視線は冷たい。夜の情事に関する暴露が広まり、神代の“株価”はストップ安。峰田実よりも社会的地位が低くなりつつある――そんな空気すら漂っていた。

 

 そんなことなど露知らず、林間学校二日目。ようやく“合宿らしい”ことが始まる。イレイザーヘッドによる、個性を伸ばす特訓だ。

 

 入学以来、鍛えてきたのは技術面と体力面。遂に、個性面の強化に踏み込む。

 

 濃厚な数か月を経て、誰もが「個性が伸びた」と勘違いしている。だが、実際はそうではない。あの爆豪勝己ですら、入学当初に実施した“個性ありのボール投げ”の記録は、ほぼ伸びていない。

 

 個性を伸ばす――それは、簡単そうで難しい。

 

 個性は、使わなければ伸びない。それは筋肉と同じだ。使ってこそ鍛えられる。

 

 だが、この個性社会において、個性の自由行使は基本的に禁止されている。簡単に人が殺せるから――ある意味、仕方がない。異形系個性や常時発動型は例外だが、A組の大半は殺傷能力の高い個性持ち。雄英高校に入学するまでは、個性使用が抑制されていた。

 

「じゃあ、早速お前たちに配ったプラン通りに個性訓練を始める。言っておくが、楽じゃないから――死ぬな」

 

 雄英高校は伊達じゃない。各々の個性を伸ばすために、考え抜かれたプランが実行される。どうすれば個性が伸びるのか――教師の経験が光る瞬間だった。

 

 だが、個性がよく分からない神代真一は、イレイザーヘッドに少し離れた場所へ呼び出される。

 

………

……

 

「ここならいいだろう」

イレイザーヘッドの配慮。

 

 少なくとも、クラスメイトたちに聞こえる距離ではない。

 

「神代。お前は、国に提出している個性申請に偽りがあるだろう。『健康診断』? 本当のことを言え。そうでなければ、個性を伸ばす方法も分からない」

 

「合ってますよ。私の健康診断“も”できます。でも、個性に偽りがあるという点では、緑谷君も同じですよね?」

 

 無個性の人類も、今なお存在している。高校入学直前に個性が発現した緑谷出久は、レアケースとして有用な研究対象だ。しかも、その個性はオールマイトと比肩しうる増強系。

 

 本来なら、雄英高校ではなく専門の研究機関にいるべき存在。

 

「お前は、俺が無理やり口を割らせるとは思わないのか?その気になれば、丸腰の生徒一人――なんとでもなるぞ」

 

「思いませんよ。だって、イレイザーヘッド……いいえ、相澤先生は、立派な教師です。私はこの目で見た者しか信用しません。貴方は、その信用に足る人物だと理解しています」

 

 神代真一は、何もしていない。A組の生徒の一人として、そこにいるだけ。色々と問題のある兵器を持ち込むが――言い換えれば、それ以外に何の問題も……あった。

 

「じゃあ、お前の“不純異性交遊”について、俺は一教師として教育的指導をだな」

 

「葉隠さんとは、不純ではありませんよ。純愛です。ただ、その愛が複数あるだけです。私は事前に葉隠さんにも伝えていました。私は、貴方が思っているような人間じゃないって」

 

 最低な男の言い訳だった。

 

 イレイザーヘッドは、この瞬間――教師人生において“新しいタイプの問題児”と遭遇したことを理解する。この林間学校で、神代真一の個性を鍛えつつ、曲がりくねった根性を叩き直してやると誓った。

 

「最低な言い訳だな。教育的指導だ……お前に足りないものは、危機感だ。常に自分は安全地帯にいると思っているが、そうじゃない。だから、お前には命の危険を感じる“最も危険な特訓”を用意した。――葉隠、出番だぞ」

 

「はーい。はーーい。神代君、“愛が複数ある”とか、色々聞かせて欲しいな。それに、昨日の神代君……風呂上がりにラグドールさんの匂いがした」

 

 葉隠透。今の今まで、息を潜め、気配を殺してその場にいた。プロの殺し屋かと思わせるほどの隠密性。そんな彼女が、コスチュームを纏い、右手には凶器――ツイストダガーin葉隠仕様。神代が“仕事用”に送った品だった。

 

「神代……お前が刺される方に、俺も次のボーナス賭けるわ。引率のヒーローにまで、何やってんだ。よし、いけ葉隠。死なない程度なら、何をやっても教師の権限で俺が許す」

 

「分かったよ、相澤先生。神代君にナニやってもいいんだね」

 

 教育委員会に報告したら減給間違いなしの行動。

 

「神代、お前の個性は俺と同じで、弱点は“目で見えない相手には効果がない”ことだ。だが、それは甘えだ。そこに存在する以上、見えるように努力しろ。お前は、俺とは違い第五世代(・・・・)だ――やればできる」

 

 個性の開花は、死を身近に感じることで起こることが多い。事実、神代も“刺されるたびに”少しずつ成長してきた。

 

 神代は、個性を全開にする。未だに、葉隠を見ることはできない。だが、彼女が動く際に物理現象は必ず発生する。無機物に対して『関係履歴』を使うことで、間接的に葉隠を炙り出す。

 

 少しずつ、着実に――見えない葉隠を捉えていく。

 

 神代真一は、個性『関係履歴』を最大限に展開する。葉隠透の姿は見えない。だが、彼女が動くたびに空気が揺れ、草がなびき、地面が沈む。その“痕跡”に対して、神代は関係履歴を走査する。

 

  無機物に刻まれた“接触履歴”を逆算し、葉隠の位置を割り出す。

 

「そこだ」

 

 神代の手が空を切る――だが、葉隠のダガーがその腕に浅く触れる。切り傷が増える。血が滲む。 葉隠透は、静かにその血を舌で美味しそうに舐め取る。

 

愛と殺意が混ざり合った、感情の臨界点。JKに手を出した以上、神代真一も覚悟すべきだ。もう、戻れないぞ。

 

………

……

 

 その様子を、個性訓練の合間に眺めていた裏ビティ――麗日お茶子は、拳を握りしめていた。

 

「絶対に、あんな風にはならない。私は、真っ当に生きる。ヒーローとして、誰かを守るために」

 

 だが、彼女の存在はすでに公安、警察、軍、AFOに知られている。そして、世界の目も彼女に向き始めていた。

 

 EU在住のトップヒーローの一人――“黎明卿”。彼は、麗日お茶子との接触を望んでいた

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