H・EROアカデミア   作:新グロモント

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03:合理と観察

 入学初日の書類記入を終えると、間髪入れずに体力テストが始まった。 この“個性飽和時代”においても、通常の学校では個性を禁止した体力テストが一般的だ。 個性の強弱によって結果が左右されるため、平等性を保つための措置とされている。 だが、この方針には批判も根強い。

 

 体力テストでは個性禁止なのに、学力テストでは個性の活用が許容されている。 特に、目を閉じている間だけ知能指数が上昇する個性や、極めて限定的ながら強力な認知系個性を持つ者たちが、全国模試の上位を占めているのが現状だ。

 

 つまり、この体力テストは神代真一にとって不利な構造だった。 肉体面において、神代真一は決して他の生徒に劣ってはいない。 だが、戦闘系個性を使われて彼の身体能力では太刀打ちできない。 このテストではサポートアイテムの使用は不可とされており、入試で持ち込んだアダムスマッシャーも、通常授業での使用は禁止された。

 

 理不尽な話だ。生徒のコネと権力で用意したアイテムを使用させない。神代真一にとって、コネと権力も立派な“個性”の一つである。だが、「郷に入っては郷に従え」。その結果、神代真一の体力テストの順位は――

 

「最下位でないから良しとしましょう。ここでもブービーとは、また爆豪勝己に言われそうですね」

 

 その言葉に、イレイザーヘッド――相澤消太が静かに応じた。

 

「神代。俺は、お前の考え方は合理的だと評価している。生徒のコネと権力も個性の内だ。本来であれば、サポートアイテムも持ち込みさせるべきだと俺は考える。だが、アダム・スマッシャーはやり過ぎだ。あれでは、お前の実力を測れないだろう」

 

 完全自立稼働するアダムスマッシャーは、アイテムの域を越えている――それが相澤消太の判断だった。実に合理的な裁定であり、神代真一の好む回答だった。「なぜダメなのか」を感情論ではなく、制度的な観点から説明してくれる。

 

 それこそが、理想的な教育者の姿だった。

 

 神代真一は、相澤消太の経歴を“関係履歴”の個性で観察しようとした。だが、途中まで確認したところで突然ロックがかかる。是非とも裏側に欲しい人材――そう思った矢先の遮断だった。

 

 個性「抹消」は、表よりも裏でこそ活用されるべき能力だ。すでに表社会で知れ渡った彼の能力では、メタを張られてしまう。裏家業に従事した方が、今より遥かに安定し、莫大な稼ぎにもなる――神代真一はそう分析していた。

 

「おや……」

 

 相澤消太が、神代真一に向き直る。

 

「神代。お前の個性は、俺と少し似ている。他者を視認する必要があるという点でな。その上で言わせてもらう。あまり、やんちゃはするな。“健康診断”とやらは、一体どこまで深く読み取れる?対象は自分だけか?それとも他人も含めるのか?そういった事を深く詮索されたくないのならば、俺には使うな」

 

 歴戦のプロヒーローの洞察眼は、神代真一の数歩先を行っていた。藪をつついて蛇を出す――そのリスクを避けるため、神代真一は大人しく“生徒”として振る舞うことにした。

 

 その後も、様々な体力テストが行われた。神代真一が注目したのは、緑谷出久のボール投げだった。

 

 緑谷出久は現在最下位。今まで個性らしい個性を見せていない。このボール投げで結果を出せなければ、確実に最下位が確定する。神代真一は、彼の個性をその目で確認できると踏み、少し興味を持っていた。

 

 彼の個性は――「ワン・フォー・オール」。あのナンバーワンヒーローと同じ個性である。神代真一の「関係履歴」で入念に読み取った結果、個性が継承されたことは間違いなかった。

 

 個性とは本来、発現者個人のものであり、他者に継承などできないのが一般常識。だが、例外的な存在を神代真一は“家庭の事情”として知っていた。裏社会で生きる者にとっては、彼と持ちつ持たれつの関係。お互いがwin-winであり続けることを望むほどの関係性だった。

 

「これはこれは……凄まじいレベルの増強系個性。個性だけで評価すれば、間違いなく世界上位レベルだ」

 

 緑谷出久の個性を初めて目撃した者たちは、皆同様の評価を下した。圧倒的な増強系。入学試験での噂では、あの巨大ロボを粉砕したと言われていたが、これを見せられれば誰もが真実だと確信する。

 

・・・

・・

 

 その頃、相澤消太は神代真一を観察していた。入学時の書類に一切の不備はない。小学校、中学校にも確かに在籍していた記録がある。当時の同級生に話を聞いても、誰もが「あぁ~、あいつね。クラスに一人はいる普通の奴だよ」と口を揃えて言う。

 

 問題はここからだった。

 雄英高校合格者は、裏で身辺調査が徹底されている。例外は存在しない。それでほとんどの者は裏が取れるが、神代真一だけは確証を得るに至らなかった。

 

 写真でも、背格好や雰囲気が似ている程度で、確実に本人だと言える情報が揃わない。個性の申告も「健康診断」となっているが、在学中に神代真一だと思われる人物が個性を使ったという話はない。

 

 極めつけは、入学試験の実技で持ち込まれたアダム・スマッシャー。明らかに試験内容を知らなければ、あのような装備を持ち込むことは不可能だ。次期個性対策用の防衛兵器を一介の学生が用意できるなど、常識ではあり得ない。言うなれば、最新鋭の戦闘機を学生が持ち込むようなものだ。

 

 後日、アダム・スマッシャーの製造元に問い合わせたところ、「知らぬ存ぜぬ」という正式回答が返ってきた。それもそのはず。政府に納品されるアダムスマッシャーは規格化された量産型。

 

 神代真一が持ち込んだのは、アダム・スマッシャーのプロトタイプにして原点。オンリーワンの採算度外視で製造された存在だった。量産型とは構造も思想も異なる。あれは兵器ではなく、制度設計者の“意思”を具現化した暴力装置だった。

 

 相澤消太は、頭を悩ませながらも、書類の整合性と表向きの履歴に矛盾がないことを確認していた。だが、違和感は消えない。この生徒は、何かを隠している。それも、単なる嘘ではなく、ヒーロー制度そのものに関わる“構造的な秘密”だ。

 

 そのとき、画風の違う男――オールマイトが笑顔で現れた。

 

「相澤君! また生徒のことで悩んでいるのかな? ほほぅ、神代少年か。身元照会でも一応裏は取れていたはずだが……色々と腑に落ちないところはあるのは事実だ。だが、問題を起こせばすぐに対処もできるし、今のところ問題はなかろう」

 

 相澤消太は、眉をひそめながら答える。

 

「不良生徒というわけでもないか。それならば、爆豪の方が百倍問題児だ。……で、根津校長は何か口を割りましたか? 明らかに、神代の事を知っている雰囲気だった」

 

 オールマイトは、首を横に振った。

 

  生徒の進路の都合上、根津校長は神代家を知っている。毎年、プロヒーローの夢に破れた生徒を何人も斡旋している立場だ。制度の裏側を知る者は、表の秩序を守るために沈黙する。根津校長は、無駄に高い頭脳を持つがゆえに、ヒーロー制度を維持するために神代真一の存在が“必要不可欠”であることを理解し全てを黙認していた。

 

 その結果、彼の胃にはダイレクトアタックが決まっていても、今の秩序ある世界を守るために清濁併せ呑む。それが、教育者の鏡としてあるべき姿だった。

 

 制度の表と裏。

 

 ヒーローとヴィラン。

 

 教育と管理。

 彼は、すべてを俯瞰しながら、静かに歩みを進めていた。

 




ヒーロースーツっていいよね。

スーツパワーで圧倒するスタイルを将来的にオールマイトもやるんだし、生徒がやっても問題ないはず!!

ヴィランを火力で圧倒するスタイルは、作者が好むところです。まぁ、個性なんてチート相手をするんだから幾ら火力を積んでも許される。
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