神代真一が、自分の評価を下げずに最小の努力で最大の成果を合理的に手に入れるため、脳無格納庫に死体袋で搬送されていた頃――爆豪勝己は、ヴィラン連合の拠点であるバーの一室に拘束されていた。
手足は拘束され、個性の発動も封じられている。だが、暴行は一切加えられていない。 治療すら施されていた。この“異常な丁寧さ”に、爆豪は違和感を覚えていた。
(なぜ、俺を殺さない? なぜ、殴らない?)
爆豪は、敵の目的を探るように、静かに思考を巡らせていた。個性が使えれば、チャンスを見いだせる。だが、敵がそこまで間抜けだとは思っていない。
この状況は、計算された“揺さぶり”だ。
「悪いね、爆豪君。無理に連れてきて。実は、君に仲間になってほしいんだ」
「寝言は寝て言え」
即答だった。死柄木弔は、満足げに笑う。予想通りの反応――だが、それで終わるつもりはなかった。
彼の手元には、神代真一から提供された“爆豪勝己の全情報”がある。個性、趣味嗜好、家族構成、交友関係――すべてだ。その対価として、北九州でひと暴れした。合理的な取引だった。
「いいや、仲間になるんだ。強がるのもいい加減にしろ……そうだな、俺たちがどれだけ紳士的にお前を勧誘しているか、教えてやろうか」
死柄木は、爆豪の両親の情報を淡々と読み上げる。
「爆豪光己、38歳、誕生日12月1日、身長170cm、個性グリセリン。若い頃はデザイン事務所に所属。爆豪勝、42歳、誕生日3月5日、身長177cm、個性酸化汗。職業はデザイナー。どうした? 顔が青いぞ。住所や電話番号も言ってやろうか?」
「クソババアと親父に手を出してみろ、殺すぞ」
爆豪の声は、怒りで震えていた。完全に狙い撃ちされたことを悟る。
黒霧の個性があれば、誘拐などコンビニにジュースを買いに行くより簡単だ。だからこそ、爆豪は一瞬、仲間になる“フリ”をすることを考えた。両親の安全を確保したうえで、全員の首を持って帰る――それが彼の“ヒーローとしての逆転”だった。
「なぁ、分かっただろう。俺らはヴィラン連合とは言われているが、身内には優しい。それに、お前はまだマシな方だ。だって、生きて帰れる可能性があるんだからな」
「……っ!? てめぇら、俺以外に誰を攫いやがった」
爆豪は、クラスメイトのことを気にかける男だった。完璧に勝利するために、足手まといであろうとも救うことを前提に行動する。その上で、家族も守る。それができてこそ、未来のNo.1ヒーローだと信じていた。
「女の敵みたいな……」
「神代の奴かぁぁぁぁ!! ヴィランなんかに捕まりやがって、なめてんのか!」
自分のことを棚に上げて怒鳴る爆豪に、ヴィランたちは苦笑した。だが、死柄木は冷たく告げる。
「安心しろ。そいつは、もういない。一緒に捕まえたヒーローの女と一緒に、脳無の材料になる。これで世の中から“女の敵”が減るわけだ。まるで俺たちがヒーローみたいじゃないか。……よろこべよ。足手まといのクラスメイトが減ったんだ。……で、お前は仲間になるよな? 家族が大事だもんな」
その瞬間、バーのテレビが報道番組に切り替わる。雄英高校の謝罪会見が始まっていた。
『行動については、私の不徳の致すところです。誰よりも“トップヒーロー”を追い求め、もがいている。あれを“隙”と捉えたのなら、敵は浅はかであると私は考えております』
イレイザーヘッドの言葉。
爆豪勝己がヴィランに拉致されたことに対する、教師としての責任表明だった。だが、その言葉には、爆豪がまだ“敵に落ちていない”と信じる強い意志が込められていた。
『では、誘拐されたもう一人の少年。神代真一さんはどうなんでしょうか?彼は、体育祭でも目立った活躍はなく、A組で唯一第一回戦落ちしております。ヒーロー科といっても、まだ子供です。大人である貴方たちが守るべきではなかったんですか?』
『それは……』
イレイザーヘッドが口ごもる。
だが、その時、警察関係者が耳元で何かを囁く。
『あぁ……そうか、分かった。えぇ~、彼は、貴方たちが思っているような“子供”じゃない。立派な大人(意味深)です。私が保証します。むしろ、この場にいる大人たちより、ある意味、責任が取れる大人です』
その言葉が終わると同時に――バーの壁が轟音とともに突き破られる。
超至近距離で現れたのは――オールマイト。その背後には、トップヒーローたちが周囲を囲んでいた。逃げ場は、どこにもなかった。
「もう大丈夫だ……私が来た!!」
爆豪の目に、光が差し込んだ。
神代君にヴィラン殺害容疑が。
この世界じゃ、ヴィランを徹底的に保護する事になっているから、殺人の罪は重いぞ。
現実だって、被害者より加害者が保護される時代だからな。
それが極まった世界だよ。
事実、AFOだって死刑にならないんだもんな。凄い世の中だよ。