H・EROアカデミア   作:新グロモント

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33:インターン1

 日本国内は、AFO逮捕のニュースで沸き立っていた。だが、その裏で――潜伏していた野生のヴィランたちが活性化し始めていた。日本政府は表向きには嘆いていた。

 

 だが、裏では歓喜していた。

 

 ヒーロー業界を支えるため、毎年数十兆円の税金が投入されている。その一部は、“敵役”としてのヴィランを用意するために使われていた。今では、ヴィランたちが自主的に悪事を働き、ヒーロー活動の“餌”となっている。

 

 しかも、追い風が吹いていた。

 

 神野区事件――雄英高校の生徒がヴィランを殺害し、女性ヒーローを救出したことで厳罰を受けた。つまり、どれだけ重い犯罪をしても、殺されることはない。この事実は、ヴィランたちにとって“保険”だった。ヒーローが減り、均衡が改善される。

 

 制度的には“健全化”と呼ばれていた。

 

………

……

 

 このような状況だからこそ、雄英高校は生徒たちのインターン制度を再始動する。オールマイトの引退により、ヴィランの活性化は目に見えていた。

 

 今後、プロとしてヴィランに立ち向かうため――そして、逃亡中のヴィラン連合から身を守るためにも、実戦経験が求められる。そして、本日から――裏ビティのインターンが始まる。

 

 インターンは、職場体験とは違う。無給ではない。金をもらって働く――つまり、プロヒーローの指導のもとで“実戦”を学ぶ場だ。裏ビティには、数々のインターン先があった。体育祭でも一定の成果を見せ、根性もあり、何よりA組の一員。実戦経験もあるため、ヒーローたちからのオファーは多かった。

 

 そして、彼女が選んだのは――天国に一番近い場所だった。

 

………

……

 

 インターン先の事務所に入ると、そこには先日雄英高校を自主退学した同級生が二人、横並びで座っていた。

 

 神代真一の頬はやつれており、葉隠透は妙に落ち着いていた。裏ビティは、ここ数日で何があったのか――聞きたくもなかった。

 

「裏ビティさん、貴方ならインターン先もここを選んでくれると思ってましたよ」

 

「お茶子ちゃん、まってたよ~」

 

「来たくて来たんじゃない!! 二人が自主退学して、クラスの雰囲気が最悪なんだからね。その日の夕方にさ、爆豪君が物間君を文字通り半殺しにして、顔面が酷いことになってたんだから」

 

 物間寧人は、神代と葉隠の退学を“正当化”していた。「やっぱり、後ろめたいことがあるから退学したんだ。僕が言ったことは正しかったってことだろう。A組もこれで“元犯罪者のクラスメイト”と言われずに済むんだから、僕に感謝してよ。それに噂じゃ~、かなり女性関係が酷いとか。葉隠さんだっけ?彼女ももしかしたらね~」と、爆豪の前で言った。

 

「そこまで突き抜けると、逆に怖くなるね。よく私のこと見てる。その通りすぎて何も言えないよ。出来ることならその現場を見てみたいくらいだ。裏ビティさん、録画データとかある?」

 

「ないよ!! で、今日は何をやるの? 神代コナンヒーローがいないけど、どうしたの?」

 

「あぁ、この時期はどこもインターンで忙しいからね。コナン従兄さんは、トップヒーローの担当地区を練り歩いて事件を“発生”させてる頃だよ」

 

「ねね、お茶子ちゃん。知ってた?コナンさんの個性って“名探偵”ってなってるけど、実は人間の殺意を無作為に増幅させて、殺人へと発展させて周囲の治安を“ヨハネスブルク並”にするんだって。だから、この時期はどこでも引っ張りだこみたい」

 

 裏ビティは、理解してしまった。つまり――自作自演で事件を発生させ、解決していた。それで“名探偵”と呼ばれていた。トップヒーローが守っている地区でも発生するヴィラン犯罪。 どう考えても無理がある。特にエンデヴァーなど、日に100件の事件を解決する。

 

 つまり、その地区で100件も事件が“発生”しなければならない。

 

………

……

 

「どうしました、裏ビティさん? 聞きたくなかったという顔をしていますね?大丈夫です、貴方はもう逃げられない。嫌なことは一気に終わらせましょう。私の個性は“健康診断”と表向きは登録されていますが、本当は“関係履歴”です。この目で見た対象の全ての関係性が分かるというものです。だから、今この瞬間も裏ビティの状態が手に取るようにわかります。決して裏切らないことも」

 

「凄いよね。私も神代君に見てもらったの。AFOさんにスマブラで勝って個性を奪ってもらってね。結局、似たような個性がたくさんあるから返してもらったから、いつも通りにもどったよ」

 

 オールマイトが死に物狂いで逮捕した巨悪と、クラスメイトがスマブラ――裏ビティは、反応に困った。神代に個性で“見られた”以上、裏切りは不可能。それどころか、裏切りの兆候があれば即座に家族もろとも“処理”される未来が見えた。

 

………

……

 

「いや~~、聞きたくない。聞きたくなくない。それより、私のインターンどうするの!?給料が発生するって聞いて気合入れてきたんだよ」

 

「インターン?もちろんやりますよ。だから、私と葉隠さんがここで待っていたんじゃないですか。私は、これでも経験豊富ですから……それに、裏ビティさんのために特別に元・プロヒーローの方を講師として呼んでおきました」

 

 その時、部屋の扉が開き――お茶を持ってきた事務員、改め、元・プロヒーロー。ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの一員だった女性が登場する。世間では、彼女の今がどうなったか報道されることはなく、現状を知る者はほとんどいなかった。

 

 ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのメンバーですら、彼女が今どこで何をしているのか知らない。AFO逮捕以降、行方不明扱いとなっていた。

 

「いやいやいや、この状況はないでしょう!!神代君、葉隠さんだけでもアレだったのに、嘘でしょ!?」

 

「裏ビティさん。これからは、インターンなんですから“神代論理次官”と呼んでください。ラグドールさん改め、知床知子さんです。大丈夫です、しっかりと責任取って、刺されました。本妻、側室、愛人1号、愛人2号、彼女、セフレと皆様達には納得いただいております」

 

「彼女の葉隠透でーーす」

 

「愛人2号の知床です」

 

「神代論理次官って、碌な死に方しませんよ。今日から割り切って仕事するから、お金、期待してますから」

 

 裏ビティは、神代の上着をめくりながら言い放った。そこには、無数の刺し傷、弾痕、蚊に刺されたような跡が刻まれていた。納得させるまでに相当な努力を要した結果がそこにあった。

 

 服の下からは、葉隠透とラグドール――いや、知床知子の香水の匂いが、微かに漂っている。

 

「お茶子ちゃん、流石だね。じゃあ、今日のスケジュールは――前回同様、日本全国を回ってヴィランを“補給”するだけでなく、ヴィラン役としてヒーローたちをボコボコにして逃亡することだよ。捕まったら、色々大変だから頑張ろうね。私も一緒に手伝うから」

 

 インターンでは、金銭が発生する。つまり、“足りない現場”でヴィラン役としてヒーローを相手にすることが求められる。ヴィランがいなければ、ヒーローは成立しない。それを支えるのも、立派な“ヒーローの仕事”だ。

 

「大丈夫です。H・EROアカデミアのメンバーには変装の個性持ちがおります。念のため、容姿を変えてのお仕事です。ただし、個性は変わらないので悟られないようにしてください。重力系の個性は、珍しいですから。それと、今後のため、食事マナーや目上の人との接し方も学んでもらいます。ドレスコードはこちらで準備しますので、夕食を期待していてください」

 

「これで、4人でスマブラできるね!! 話せばいい人だから」

 

 裏ビティさんは、思わず天を仰いだ。

 

 タルタロスの最深部――そこに踏み込める人間が、どれだけいるだろうか。彼女は、本日からその一人に加わる。そして、AFOから神代真一が刺される賭けに乗らないかと“悪の誘い”を受けた。

 

 裏ビティは、刺される方に――今回のインターンで得られる給与の全額を賭ける。

 




巻き戻しの個性・・・特異点だよね。欲しい。
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