神代真一は、死柄木弔からの呼び出しを受け、山中の仮設コンテナへと足を運んでいた。
人気のない山中――隠れるには妥当な選択だが、生活には不向きだった。コンビニはなく、上下水道も未整備。電気は発電機頼りで、故障すればテレビもエアコンも止まる。“壊す”ことを目的とする者たちにとって、皮肉なほど脆弱な拠点だった。
死柄木弔は、AFOとドクターという後ろ盾を失い、今後の方針を模索していた。組織を拡大し、“すべてを壊す”ためには何が必要か――彼は、試されていることを薄々感じていた。
だからこそ、呼ばれたのが神代真一。同行するのは、葉隠透と裏ビティ。万が一の際には、葉隠透が完全ステルスとなりドミネーターで死柄木を排除する。裏ビティは、ヴィラン連合の紅一点・渡我被身子との“女子会”要員として同行した。男だらけの空間で女性が寝食を共にするのはストレスがかかると思い彼なりの配慮だった。
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「金が要る。当座の活動資金に加え、ヒーローたちから隠れられる拠点。ここはダメだ。生活拠点にならない。それに加え、先生は捕まって収監されている。お前たちの言いなりにはならないが、仕事はやってやる。代わりに、俺たちに必要な物を用意しろ」
「私の権限で可能な限りの手配をします。活動拠点として、各主要都市にあるH・EROアカデミアの拠点を一つずつ差し上げます。今の貴方たちの人数なら、快適に暮らせるだけの設備が揃っています。それと、当座の活動資金として現金資産とこちらのカードをお渡しします。月の限度額は各々200万です」
葉隠がアタッシュケースを開き、クレジットカードと現金を提示する。拠点の位置と鍵も渡され、さらに個性増強剤――ブースト、エネルギー・ステロイドなども揃っていた。
「ん?なんで、ケースの中にSwitchとスマブラがある?まぁいいや、暇だからこれも持っておく」
「えぇ、どうぞ。ちなみにそのスマブラ、夜になると“魔王”というヒカリ/ホムラ使いが現れます。非常に強いので、頑張ってください」
死柄木は、カービィでボコボコにしてやると意気込んだが――ゲームの中では個性は通用しない。真の実力者を前に、彼は“現実”を知ることになる。
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「お茶子ちゃん、お茶子ちゃん。また会えるなんて嬉しいぃぃぃ。ねぇねぇ、お話しましょう」
「いや~、お仕事中だから。それに、こっちでは“裏ビティ”で通してるからヒーロー名でお願いね。なんか、距離近くない?ねぇ、私そっちのケはないんだけど」
狭苦しいコンテナの中で、渡我被身子との女子会が始まる。JKの会話が空気を包み、場の緊張を緩和する。人は、JKと一緒にいるだけで平和になれる――それを全人類は知るべきだ。
その空気の中で、荼毘だけは沈黙していた。彼は、今後の進退を考えていた。このままヴィラン連合にいても、本当の目的は達成できない可能性がある。むしろ、H・EROアカデミアに鞍替えした方が、エンデヴァーを排除できるのでは――と。
「ほんと、アンタらはすげーな。日本政府がここまで真っ黒だったなんて、俺は知らなかったぜ。神代だっけ?俺の目的、分かってんだろ。手伝えよ。代わりに何だってやってやる」
「今、“何でもやる”と言いましたか?」
荼毘――本名・轟燈矢。日本No.2ヒーロー・エンデヴァーの長男。個性“蒼炎”は、父を超える火力を持ち、自身を焼くほどに強い。さらに、母の“氷結”の個性も眠っている。世界でも最上位の“種”の一つ。
「あぁ、言ったさ」
「では、ヴィラン連合として今のまま頑張ってください。……ですが、貴方には特別に他のお仕事も依頼したい。エンデヴァーに関する情報を丸裸にしてご提供します。さらに、ヒーロー公安委員会が彼に出す依頼などもリアルタイムで分かる専用端末も」
荼毘は、満足げに頷いた。だが、彼が思っているような“仕事”ではないことを、後々知ることになる。
日本政府は、エンデヴァーを超える個性を“絞り放題”と聞くと、それに耐えうる個性を持つ女性たちを選抜する。火力の強化ではなく、制御に重点を置いた組み合わせ。想定外の方向からヴィラン連合は、日本政府を悩ませる。
H・EROアカデミアは、既に選抜を終えていた。その中には――『童貞殺し』の個性を持つ女性もいた。童貞からのあらゆるダメージを無効化し、非童貞からのダメージは三倍になる。自身が童貞である限り、個性のペナルティすら無効化できる。日本政府が保有する“対オールマイト用”の最終兵器の一つ。
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「では、最初の仕事をお願いしたい。死穢八斎會という指定ヴィラン団体があります。詳細はまだ伏せますが、それとなく接触して欲しい。その組織には、囚われている可哀そうな6歳の少女がおります。 実に可愛らしい少女で、少しばかりお近づきになりたいなと…私が」
「俺らは、アンタの女集めに使われる訳か……碌な死に方しねぇぇぞ。女の敵が。だが、仕事は仕事だ。組織をデカくするためにも、やってやるさ」
後ろ盾のないヴィラン連合にとって、資金提供者は不可欠。AFOが繋いだ縁を、今こそ活かすべき時だった。
「誤解です。これは、一人の少女を救うために必要なことです。皆さん、忘れがちですが――私は政府の人間です。内閣府所属なんですよ。政府が国民を守らずして、どうするんですか。仲良くしましょう」
「頭おかしいぜ、あんた。崩壊の個性がある俺相手に握手を求めるとか。じゃあ、仲良くやろうぜ、日本政府のお役人さん」
神代真一は、死柄木弔に右手を差し出した。崩壊の条件を知ったうえで、当然のように握手を求める。今の死柄木は、成長過程にある。信頼関係とは、先に踏み出す事こそが大事。
神代真一は、死柄木弔の右手と握手する。
崩壊の個性の条件――“五本指で触れる”ことを知ったうえで、あえて“握手”という形式を選んだ。
「今の貴方は、壊すことよりも“繋ぐこと”を学ぶべきです。組織とは、崩壊ではなく構築によって拡大する。そのために、私は貴方に“論理”を提供します。そして、必要ならば“感情”も」
死柄木弔は、何も言わずに手を離した。だが、その沈黙は“拒絶”ではなかった。それは、彼なりの“受諾”だった。
ヴィラン連合は、新たな後ろ盾――内閣府所属の論理次官・神代真一を得た。それは、表向きには“敵対”でありながら、制度の裏では“協力”という形を取る。日本政府は、ヴィラン連合を“制御可能な混沌”として再編しようとしていた。
その第一歩が、死穢八斎會への接触。囚われている6歳の少女――壊理。彼女の個性“巻き戻し”は、制度の均衡を崩す“神の領域”だった。
日本政府は一人の少女の命を助けるため、ヴィラン連合と協力する。いい話だ。