チームアップ――ヒーロー事務所同士が事件解決のために手を組む制度。本来は、獲物の取り合いによる足の引っ張り合いを防ぐための健全な仕組みだ。だが、今回の相手は“指定ヴィラン団体”――死穢八斎會。健全とは程遠い。
死穢八斎會は、地域密着型のヤクザ。かつては用心棒や地上げで稼いでいたが、今では強個性の一般人が増え、ヤクザ百人がかりでも倒せない“化け物”が無数に存在する。収入源は激減した。それでも存続できているのは、野生のヴィランを“飼育・繁殖”、危険薬物の密売といった新しいシノギがあるからだ。
そして、このような地域密着型のヤクザは、一部のヒーロー事務所の食い扶持でもある。彼等がいるお陰でパトロールという体裁で国からお金を引っ張れる。
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死穢八斎會への動きは、政府とヴィラン連合が先行していた。ヒーロー側は出遅れた。だが、無駄に有能なヒーロー――ナイトアイが目を付けたことで、個性消失弾の出所として即座に疑われる。さらに、公安と同じく“現物の弾”を一つ押収されるという、死穢八斎會が想定していない大失態が発生していた。
ヴィラン連合は、引石健磁を犠牲にして接触に成功したばかりだった。それなのに、成果がヒーローに横取りされる可能性すら見えてきた。
死柄木弔は、苛立ちを隠さず神代真一にクレームを入れる。
『引石さんの一件は、お悔やみ申し上げます。しかし、そのミスはこちら側ではありません。相手はヤクザ者だとお伝えしておりました。ヒーローは“不殺”の理念を持っていますが、相手は貴方たちと同業者です。相手をよく調べ、行動を予測し、常に複数の予備策を準備して事に臨む。無策で突っ込めば、食われますよ』
『わかった。わかった。いいさ。目的は“ガキ”だったな。じゃあ、あのムカつく野郎は、最高に苦しめてもいいんだよな』
神代は、誰のことかすぐに察した。恐らく若頭――オーバーホール。若く、見た目も悪くなく、個性も最強格。本来なら生け捕りにして陸自の強化人間計画の礎にしたかったが、仕方ないと諦める。
翌日、神代の元にとんでもない情報が届く。ヒーロー側が死穢八斎會に本格的に動き出した。作戦を主導するのは、ナイトメア事務所。かつてオールマイトのサイドキックだった有能なヒーロー。
予知という“チート個性”を持つが、戦闘においては決定打に欠けるため、他事務所へのチームアップ要請が飛ぶ。その依頼は、神代コナンの事務所にも届いた。H・EROアカデミア側としては、裏ビティをギリギリ送り込めたのは“僥倖”だった。
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タルタロスの最下層。裏ビティは、これからの任務の重大さを叩き込まれていた。
「第五世代の特異点。巻き戻しの個性なんて、これはいけないね。世に出たら大変なことになる。本当なら僕自身が取りに行くべきなんだが、まだ本調子じゃない。それに、奪うなら制御方法が分かってからがいいね」
「その通りです、AFO殿。だから、まずは私がその子と関係を持ち、信頼関係を構築します。個性制御や特訓は一任しますので、安定して使い方が判明し、個性が成長したところで――奪ってください。いつも通り、個性はAFO殿が、私が身体で」
男同士の“友情”には程遠い会話。裏ビティと葉隠透は、黙って聞いていた。
だが、今回は裏ビティの役目が重大だった。6歳の少女――壊理を救い出し、神代との接点を作る。毒牙にかける手伝いをする。まともな精神なら、罪悪感があっただろう。だが、壊理が生き残る道は、あまりにも細かった。
「ランドセルを背負う年齢の子供とは、神代君は最低だね。僕でもそこまで悪党にはなれないよ。でも、その子の個性はぜひ欲しいから、少し手伝うよ。裏ビティ君は、無重力の個性だったね。じゃあ、慣性遮断の個性をあげよう。本来なら無重力の到達点だが、まだ君には遠いからね」
「わーい、ありがとう。貰えるものは貰う主義ですから」
無重力の深化――慣性遮断。触れた対象を地球の自転から解放し、消し飛ばす“地球衝(ジオ・インパクト)”へと至る。秒速約360mも吹っ飛ばされる。室内で使われれば、ミンチだ。
「おじ様、私も私も!!」
「葉隠君に“おじ様”と呼ばれては、応えないといけないね。君の個性は透明化……ならば、拡大化がいいね。これで、自分だけでなく半径200mまで透明化できる。ジョジョの“アクトン・ベイビー”と同じことができると思えばいいさ」
神代真一は、これが“個性時代のパパ活”かと内心で思っていた。JKに個性を配る悪い魔王――いや、AFOの個性が減ったと思えば、弱体化に貢献している。善か悪か、判断は難しい。
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ヒーローたちは、死穢八斎會の調査に奔走していた。個性消失弾の材料となっている少女――壊理の所在を特定しようとしていた。その情報は、公安を通じてヴィラン連合にも漏洩していた。
神代コナンの事務所からの参戦は、ウラビティのみ。職場体験、インターンを経て、初めての“表の仕事”。彼女は少し感動していた。やっと、正しいヒーロー名が使える――と。
「梅雨ちゃん!! 梅雨ちゃんも呼ばれたんだ」
「お茶子ちゃんもね。たしか神代君の親戚のところだったわよね?あの後、何か分かった?葉隠さんの事も」
ウラビティは、当然聞かれると思っていた。葉隠透は、既に作戦区域に潜伏済み。透明化の拡大化により、万が一の場合には壊理だけを攫って逃げる手はずになっている。透明になれば、イレイザーヘッドの抹消でも解除できない。
「ウラビティって呼んでね。フロッピー。神代君と葉隠さん、大丈夫だと思うよ。神代君の子供にも、彼女だって受け入れたみたいだから。でさね――神代君の子供がヤバい位に可愛いんだよね、これが。神代君とは別の意味で、女関係が酷くなりそうなほどに」
「うん? 神代君って子供いたの?まぁ、手広くやってそうだから居ても可笑しくないけど……葉隠さんとの関係も知ったうえで認めてるとか、将来が心配だわ」
ウラビティのスマホには、葉隠透が神代ハス太を抱き上げている写真が映っていた。その傍らには、見たことのない女性――、に加え見覚えのある“行方不明中の女性”と同じ髪色をした後ろ姿が写っていた。
「可愛いよね。今度、抱っこさせてもらうんだ」
「……あぁ、お茶子ちゃんが“彼女2号”になるのね。緑谷君の脳が壊れるわ」
「ならないよ!! やめてよ、私はあんな地獄に入り込めないよ」
「そう、ならいいわ」
人様の家庭を地獄だと表現するあたり、ウラビティは図太く成長していた。
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女子達のやり取りの最中、緑谷出久が現れる。彼の姿を遠くから確認した神代真一は、静かに思案していた。
(さて……どうやって、緑谷出久と麗日お茶子を“くっつける”か)
彼の目には、二人の“ステータス”が見えていた。好感度、信頼度、共闘回数――まるでゲームのように、数値化された関係履歴。イベントを適切に進行させれば、恋は成就する。
「デク君!!」
お茶子のメス声が響く。その瞬間、ウラビティの“表の顔”が発動する。誰も、彼女が政府のスパイだとは思わない。女とは誰もが女優であった。