H・EROアカデミア   作:新グロモント

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37:インターン5

 作戦区域の一角――工事中のマンション。そこには、H・EROアカデミアから搬入された海自303式強化外骨格が複数機、待機していた。葉隠透の個性によって、効果範囲が拡張されたおかげで彼等の仕事の効率も跳ね上がる。従来の光学迷彩を超える透過率100%。肉眼では、何がどこにあるかすら判別できない。

 

 今回のヒーロー主体の作戦において、日本政府のスタンスは一貫している。ヒーロー業界と仲違いするつもりはない。ただし――数は減らせ。ヒーロー活動は自由だが、税金でやるな。警備会社のように契約者から金を取るなら構わない。

 

………

……

 

 ヒーローたちの主力が死穢八斎會に向かう中、神代真一たちは“便乗”を狙っていた。ドローンによる監視で、ヒーローと警察の動きは逐次把握済み。

 

 だが、地元密着型のヤクザを甘く見すぎていた。突入前に、主犯格であるオーバーホール一味には悟られていた。

 

 さらに――ヤクザたちは、普通に個性を違法使用するし、警察やヒーロー相手に刃物で応戦する。更には、拳銃まで発砲していた。個性が一般化した時代でも、日本における銃火器の所持は厳しく制限されている。

 

 これは、癒着の可能性を示す“赤信号”だった。

 

「地元密着型のヤクザが拳銃で警察に応戦か。この地元で活動していたヒーロー達は、後で洗わないとダメだな。癒着の可能性が濃厚だ。……で、癒月静治癒官、例の物の設置は終わりましたか?」

 

「滞りなく。葉隠さんの個性のおかげで、見つからずに楽勝ね。Tier3のBH(ブラックホール)爆弾だから、被害範囲は直径200mくらいしかないわ」

 

 13号先生のクローンから製造された、日本政府の秘匿兵器。本来は国家間戦争用。だが、第五世代特異点である“子供”が暴走した場合、子供ごと“消し飛ばす”ことが政府内部で決定されていた。

 

 一部研究機関では、巻き戻しによって人間が“猿”にまで退化する可能性すら示唆されている。備えるのは、国として当然。そうならないように全力を尽くすのが“大人の仕事”だ。

 

「嫌な仕事よね。6歳の女の子を“愛人3号”にするか、“殺す”かの二択とか……で、愛人1号の私のこともしっかり忘れないでね。面倒見てくれないと、刺し傷治してあげませんよ」

 

「癒月静治癒官。はいはい、静さんの事を忘れるはずないでしょう。それに、私でなくても息子に娶らせようかとも考えています。上手にコントロールすれば、特異点同士の子供が誕生します。一気に第八世代まで進化するかもしれません」

 

 年齢差を考えれば、常識的な意見。神代真一の“光源氏計画”より、息子の許嫁にする方が対外的にも無難。だが、AFOはそんな“つまらない展開”を嫌う。人が嫌がることが大好きな“個性時代のパパ活おじさん”。光源氏計画を実行しなければ、へそを曲げるのは目に見えていた。

 

 そんな馬鹿げたやり取りの最中――ヒーローたちは、死穢八斎會の本拠地に潜入を果たす。監視カメラの映像を盗み見ていたが、そこには信じられない光景。住宅街の地下に、巨大な迷宮が広がっていた。

 

「おぃおぃおぃ、ふざけんなよ……確か、この町って地盤沈下が多くて、下水道管破裂のニュースを先日やってた」

 

「地盤沈下対策で、市が特別予算を組んだあれですね。おかげで、日本全国から“うちは大丈夫なのか”って問い合わせが相次いで、国会で調査費用が計上されたとか」

 

 指定ヴィラン団体が、地域の地盤を考慮して地下迷宮を工事するなどあり得ない。しかも、盗電までしており、維持費用は近隣住民や工場に“転嫁”されていた。

 

 仁義を重んじる古風なヤクザ――その看板は、完全に“嘘”だった。薬物、危険物の売買まで行っており、これを今までヒーローが見逃していたなら――グルだ。

 

「公安に送信。血税で貪っていた悪党は、裏ビティさんの地球衝(ジオ・インパクト)の練習台にでもしましょう。いざ使う時にためらわれると迷惑ですから」

 

「あら?葉隠さんはいいの?」

 

 ほぼ同時期に裏の世界に踏み込んだ葉隠透。だが、彼女は女としても“裏家業”としても、裏ビティより先を進んでいた。既に、初体験は済ませていた。

 

「ドミネーターを持たせた時点で、既に経験済みです。愛って怖いですよね」

 

「ほんと、なんでこんな悪い男に捕まっちゃうんだろうね……私も人のことは言えないけどさ。個性で私たちのことを読み切って、欲しい時に欲しい物や言葉をくれるって反則よ。だから、刺されるんだからね」

 

 女性を完璧に落としたゆえに刺される――神代真一は、納得できなかった。だが、時に“愛”は個性を凌駕する。それを、彼は実感していた。

 

 

◇◆◇◆

 

 死穢八斎會の一斉検挙の数日前。

 個性消失弾の“正体”が人間であることを知らされたヒーローたちは、衝撃を受けていた。作戦概要が伝えられ、救助対象の少女の位置が特定されるまでは、各自が“今まで通り”に過ごすよう厳命される。決して、気取られないように。

 

 その間――各自が己の個性を鍛えることとなる。

 

 A組の生徒として、麗日お茶子も訓練に参加。インターン先で鍛えた個性の成長。今まで、その“物差し”はAFOしかいなかった。だが、今は違う。

 

 クラスメイトとの比較。

 

 同時期に入学し、互いに切磋琢磨するこの状況。これぞ、青春。

 

「デク君の必殺技、カッコいいね。足技なんだ」

 

「麗日さんの個性だって、応用がすごいじゃないか」

 

 好きな人に褒められるのが嬉しい年頃。イチャイチャの空気は周囲にも伝わるが、生暖かく見守られていた。だが、その空気は長くは続かなかった。教師――オールマイトが、作戦成功率を少しでも高めようと、生徒たちに“必殺技”の確認と調整を促した。

 

「必殺技……あれも必殺技でいいんだよね」

 麗日お茶子は、少し戸惑いながら呟いた。

 

「どうしたのかね、麗日少女。私でよければアドバイスするよ。これでも、今まで色々やってきたから、必殺技に関しては誰にも負けない自信があるよ」

 

 周囲の生徒たちが、興味津々で耳を傾ける。爆豪は腕を組み、緑谷は目を輝かせていた。

 

「えっ!? デク君が見たいのか。じゃあ、少しだけだよ。インターンで教わった私の必殺技……えーと、西はあっちだから。ゴホン」

 

 麗日は、ポケットから小さなパチンコ玉を取り出す。

 

 何の変哲もない金属球。だが、彼女が手に持ち、個性を発動した瞬間、地球衝(ジオ・インパクト)の一撃は、訓練場の空気を一変させた。西へ向かってマッハで飛んでいったパチンコ玉は、音速を突破し、空気を裂いた。

 

 その衝撃波に、A組の生徒たちは一斉に振り返る。

 

「麗日少女、今のまさか……」

 

「えへへ、オールマイトはご存じですよね。知り合いに聞いたら、“地球衝”って言うらしいんです。今のはパチンコ玉程度ですが、本気を出せば6トンまで飛ばせます」

 

 触れた物体を地球の自転から解放し、その場に固定され西方向にマッハで打ち出されたかのようにみえる。それは、無重力の“深化”であり、慣性遮断の応用でもある。

 

「す、すごい個性だ……今のは、無重力だけでは不可能のはず。恐らく、西と言っていたことから、慣性遮断のような個性がなければ成立しない。オールマイトから以前に聞いたことがある。全盛期の時代、海外で起きた大惨事――その犯人も、確か“地球衝”という個性だったとか」

 

「緑谷少年、その話は大っぴらにはダメだよ。はははは、麗日少女。イレイザーヘッドと一緒に、少し向こうで話そうか。個性の使い方について、危険がないようにしっかりとやらないとね」

 

 オールマイトに連れられ、別室へと向かう麗日お茶子。

 

 その背中を、爆豪勝己は黙って見送っていた。彼の目でも、地球衝の軌道は正確に追えなかった。そして、自身の必殺技――徹甲弾(A・P・ショット)と比較して、舌打ちする。

 

(西限定とはいえ、6トンの物体をマッハで打ち出す?インターンで何かを掴んだレベルで、そこまで行けるか?)

 

 爆豪は、疑念を抱いていた。麗日お茶子の個性進化は、自然な成長ではない。何かが“介入”している。

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