入学から数日後、雄英高校では初のヒーロー活動演習が始まった。
オールマイト主導のもとで行われる実地訓練。生徒たちはヒーロー側とヴィラン側に分かれ、仮想設定の中で競い合う。士気を高める目的もあり、この演習では戦闘服――いわゆる“コスチューム”の着用が許可されていた。
ヒーローの象徴ともいえるコスチューム。その制作会社は、宣伝を兼ねて生徒たちの希望するデザインを安価で引き受ける。生徒がそれを着て活躍すれば、企業にとっては自然な広告効果となる。中には、自前で用意してくる者もいる。
忘れてはならないのは、現実のヴィランは本気で殺しにかかってくるということだ。巨大化する個性に踏まれれば即死。炎を操る個性に焼かれれば、全身火傷で人生から一発退場もあり得る。だからこそ、コスチュームにはあらゆる対策を盛り込む必要がある。
命は一つしかない。それを守るために、最大限の努力をすべきだ。
生徒たちがロッカーでコスチュームに着替える中、神代真一だけは校舎裏のコンテナへと向かっていた。彼の装備はサイズ的にロッカーに収まらないため、専用の保管ユニットが用意されている。
タッチパネルを操作し、戦闘服を起動する。
『オーナー:神代真一。認証確認。システムを起動します』
「実弾に加え、対人制圧用のゴム弾を予備弾倉として準備。障害物や建造物の破壊が想定されるため、グレネード弾は実弾のみ。殺傷能力Aランクの個性を相手にする前提で戦闘準備を。相手の出方次第で、実弾仕様に切り替えてください」
神代真一の戦闘服――海自303式強化外骨格。昨年度、海上自衛隊に正式採用された最新兵器である。これにより、非個性者でも個性犯罪者を制圧可能となった。トップヒーロー級の個性は例外だが、並の個性ならばカタログスペックで圧倒する。
この装備の導入により、個性犯罪が多発していた地域が一掃され、平和を取り戻した。神代真一の辞書に「自重」という言葉は存在しない。できることは最大限の力で実行する。効率的かつ合理的――この点においては、相澤消太とも意見が一致している。
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ズシンズシンと重厚な機械音を響かせながら、神代真一は集合地点に現れた。彼のコスチュームには、20mmマシンガンが装備されている。一発でも掠めれば、人間など紙屑のように吹き飛ぶ威力。
だが、これに文句を言える者はいない。爆破や半冷半熱といった強個性も同等以上に危険なのだから。
切島鋭児郎は、海自303式強化外骨格を見て目を輝かせた。「でかい」「分厚い」「硬い」――男のロマンが詰まった兵器だった。
「す、すげーーー!! これって海自303式強化外骨格じゃねーかよ!マジかよ、これをコスチューム申請できるの!? 俺も今からでも申請してぇぇぇぇーーー!」
「切島君は、このロマンが分かる人間ですか。良いですよね、量産型でありながらこの洗練されたフォルムは最高です。ですが、コスチュームの乗り換えは契約期間が終わってからにすべきですね。今解約すると違約金が発生して、色々と面倒ですよ」
その会話を聞いていたオールマイトの顔が、わずかに引きつった。アダムスマッシャーの一件に加え、海上自衛隊の最新兵器まで持ち込むとは―― 一般人の域を超えている。しかも、隠す気すら感じられない。
オールマイトは再度、神代真一のコスチューム申請書類を確認した。だが、すべて問題なし。コスチューム規定は極めて緩く、用意できれば何でも許可される。18禁ヒーローが存在するほどなのだから、厳格な規定など存在しない。
そして始まる訓練――神代真一のペアは、葉隠透。 彼女の個性「透明化」は、機械の前では無力だった。海自303式強化外骨格に搭載されている高精度のAIが、彼女の姿を実体として映し出す。
神代真一は、目を疑った。葉隠透は、全裸で手袋と靴だけを身につけていた。マニアックを通り越した格好に、冷静な神代真一ですら驚愕した。
H・EROアカデミアの表の店舗ですら、ここまで過激な女性は少ない。年頃の少女が羞恥心なく全てをさらけ出している。これが不細工なら別の意味で破壊力抜群だが、葉隠透の場合は“良い意味”で破壊力が抜群だった。
「頑張ろうね、神代君!」
「あぁ。うん。そうだね、葉隠さん。……でもその前に、オールマイト先生に一言モノ申してくるから待っていて」
神代真一は、さすがにこれは見過ごせないと判断し、オールマイトに詰め寄った。葉隠透の個性とコスチューム――これは、少年誌が成年誌になるレベルの大問題だ。
しかも、学校施設には監視カメラが多数設置されている。雄英高校の設備ならば、サーモグラフィーや人物像生成AIも標準搭載されている可能性が高い。つまり、合法的に生徒の全裸を視認できる状態となっていた。
この映像が裏社会に流出すれば、高値で取引されることは間違いない。神代真一は、海自303式強化外骨格のハッチを開け、オールマイトに映像を見せた。
「神代少年……これは、まずいな。非常にまずいぞ」
「えぇ、私もそう思いましたから、オールマイトだけに報告したんです。これが教育委員会にまでバレたら、一発免停ですよ。それに、あの格好で個性の直撃を受けたら、下手すれば死にます。透明化の都合上、怪我を負っても見えない可能性があります」
オールマイトは、葉隠透の状況を正しく把握したことで、その“ヤバさ”を痛感した。彼女自身の羞恥心の欠如。この状況での唯一の救いは、彼女が極めて美少女であることだった。これが男子生徒なら、一発アウトだった。
「だがな、神代少年。ここで私が彼女にマントでも貸そうものなら、さらに展開が悪化する可能性もある。なぜマントを貸したのか、なぜ身体を覆い隠すように包んだのか――そういった行為が、別の意味で誤解を生むこともある」
「じゃあ、オールマイト先生は彼女に全裸でこの訓練をやれと?怪我したら大変ですよ。それに、先生……貴方は既に女生徒の裸を見たんです。逃げずに、何とかしてくださいよ。教師なんでしょう?」
逃げ場を失ったオールマイト。
人生でも上位に入るレベルの修羅場を迎えた彼の脳裏に、一つの名案が浮かぶ。
「神代少年! 君の海自303式強化外骨格……私はその持ち込みについて、些か疑問があり抗議する予定だった。気の迷いだったよ。君の先見の目には参ったよ。まさか、葉隠少女に試験のために貸し出すことを厭わないとは。素晴らしいヒーロー精神だ。なーに、大丈夫だ。君は男だ。生身でもそれなりに頑張れるだろう!」
「……大人って汚いな~。じゃあ、オールマイト。これは貸しですよ。後、彼女のコスチューム問題は、絶対に解決してください。体育祭では民間人も多数のカメラを持ち込むんですから、流石にヒーロー人生より先に彼女の人生が終わってしまいますよ」
オールマイトは、神代真一の冷静な指摘と倫理的な懸念に押され、ついに決断を下した。彼が持ち込む数々の兵器を見て見ぬふりをする。その代わりに、現状の女性問題を解決させるというやつだ。
その場で神代真一の海自303式強化外骨格を葉隠透に譲る。臨時オーナー登録をして、そのわけも小声で話し聞かせた。
「ありがとう、神代君。そ、その~、見苦しい物を見せてごめんね。誰にも言わないでくれると嬉しいな」
「言いません。それと、眼福でした。葉隠さんは、もっと自信を持つべきです。貴方は、世間一般でいえば十分以上に美少女に分類されます。だから、ヒーローを長く続けたいなら、今回のような事に気を付けてください。表現は微妙ですが、ヒーローは文字通り体が資本です。大事にしないと親御さんにも申し訳が立ちませんよ」
神代真一は苦笑しながら伝えた。これから、強個性相手に肉弾戦を強いられないといけないから笑わずにはいられない。これが本番なら逃げて態勢を整えるが正しい回答だ。
そして、演習開始の合図が鳴る。
神代真一は、葉隠透とともにヴィラン役として建物内にて核爆弾を防衛する。対するヒーロー側は、八百万百(やおよろず もも)&轟焦凍(とどろき しょうと)というチート組であった。
鉛弾で死ねばヴィラン。生きていればヒーロー。実に単純な分け方っていいですよね。