H・EROアカデミア   作:新グロモント

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長かったインターン編もこれで最後。


40:インターン8

 死穢八斎會の事件は、全国ニュースで大々的に報じられた。違法薬物の販売、銃火器の輸入と所持、高性能爆弾の開発――表向きの罪状は、いずれも“わかりやすい悪”だった。

 

 だが、本当の目的――救助対象である“壊理”の存在は、報道されることはなかった。

 

 ヒーローとは、勝たねばならない。この大規模作戦で、ヒーロー側が本来の目的を達成できなかったなどと知られてはならない。首謀者・治崎廻(オーバーホール)の逮捕、構成員の一斉検挙、町に平和が戻ったという“成果”だけが強調された。

 

 だが、治崎廻の輸送中――ヴィラン連合の襲撃により、彼は重傷を負う。両手の消失。そして、彼が最も嫌がる“組長”というアキレス腱を、神代真一は死柄木弔に情報提供しており利用される。

 

 オーバーホールは、壊理を失い、個性を使えなくなり、組を失い、仲間を失い、そして恩人である組長までも、死柄木弔の手によって目の前で“崩壊”させられた。心がへし折れる様子に、死柄木は満足げに笑った。あまりの上機嫌に、神代真一を回らない寿司に誘うほどだった。もちろん、支払いは政府持ち。

 

 その際、死柄木弔はオーバーホールの懐から個性消失弾と血清を回収。その報告を聞いた神代真一は、逮捕時に身体検査を怠った警察官を“必ず首にする”と心に誓った。なんで、テロリストの所持品も確認せず護送しているんだと。ついでに、個性消失弾と血清は何個か譲ってもらい、日本政府でも厳重保管され、麻酔銃のような非効率ではなく、ガス兵器のように広く浅く効果がでる改良が始まった。

 

………

……

 

 その日から、神代真一は多忙を極めた。死穢八斎會の関係者全員を“関係履歴”で洗い出し、公安・警察と連携して一網打尽にする。逮捕の手は副市長にまで及び、地元建設会社の資材横流しも発覚。逮捕者は数百人に達した。

 

 当然、癒着していた地元ヒーローも含まれており、死穢八斎會と共にタルタロス送りとなった。意気消沈する警察やヒーローたちに、神代は“手柄”を分配し、事件の記憶を塗り替えようと奔走した。

 

 だが、彼にはまだ眠る暇はない。BH爆弾で消し飛んだ施設の残骸を調査し、取りこぼしがないか確認。夜には、タルタロスの最下層へと向かう。

 

 そこには、元気いっぱいで遊ぶアルビノの少女がいた。神代真一の姿を見た瞬間、少女は笑顔で飛び込んくる少女を両手を広げて迎え入れる。

 

「パパですよ、壊理」

 

「おかえりなさい、パパ! 今日はね、おじいちゃんとスマブラしてたんだ!」

 

 壊理――かつて苗字のなかった少女。今は“神代壊理”という名前を持っていた。

 

 ここまで懐くには理由がある。辛い過去など、子供には不要。AFOによる“記憶改竄”が施されていた。トラウマを抱える少女の心を治療する優しい個性パパ活おじさん。これが魔王だなんて誰が思うだろうか。

 

 しかし、この状況を作るために、神代は骨を折った。人が嫌がることを率先してやるAFOに対し、「巻き戻しの個性を安定して得るため」という一点を押し通し、壊理を義娘ポジションとして受け入れを許された。

 

 これで、身内から刺される心配もない――と神代は安心していた。だが、それは彼だけの幻想だ。壊理を家に連れて帰り、本妻、側室、愛人1号、愛人2号、彼女に見せたら――どうせ刺される。そういうプレイは、あかんやろうと。

 

 本当なら、AFOを“パパ役”にすれば、「パパのために頑張る」という体裁で個性も安定するのでは――と提案した。だが、AFOは拒絶した。「パパと呼ばれると、奴のことを思い出すから嫌だ」と子供じみたい言い訳だ。だが、その奴というのがEUのトップヒーローのことだと、神代にはすぐ分かった。 AFOとは、同族嫌悪の関係にある。

 

「まったく、今から僕の体が治るのが楽しみで仕方がないよ。さぁ、今日はもう遅いから寝なさい。明日は、お外で個性の練習をしよう。大丈夫さ、僕がついているから」

 

「おじいちゃんの身体を治すためにも、頑張るね!」

 

 犯罪臭しかしない絵面だった。だが、幸せそうなおじいさんと孫の構図だと何も知らずに見れば健全だ。ちなみに、壊理を抱き上げる様子を写真に収め、オールマイトやヒーロー達に見せつけてやる準備はすでに整っていた。

 

 AFOにとって、個性の特訓で壊理の個性暴走に巻き込まれても構わない。巻き戻しで肉体が全盛期になったら、壊理を分解して再構築で止めればいい。タルタロスに収監されたオーバーホールの個性も、既にAFOの手中にある。事が終わればこの個性は壊理へと譲渡される手筈になっている。嘗て、自分を苦しめた男の個性を壊理が持つ・・・闇が深い。

 

 ここまで順調になるとAFOは、メインプランとサブプランの修正を検討し始めていた。ドクターと進めている新たな研究は本当に必要なのかなど。

 

「壊理、そろそろ家に帰るからおいで」

 

「はーい」

 

 神代真一は、義娘の手を取り、そっと抱きしめる。今まで誰にも触れられなかった手。初めて抱きしめられる温もりに、壊理は涙をこぼした。心のどこかが、確かに“暖かく”なっていた。

 

 この“幸せ”という現実を、肌で感じていた。

 

「壊理。何かあれば、パパに言うんだよ。パパは、壊理のためなら何でもできる。さぁ、帰ってママたちとも仲良くなろう。みんないい人たちだから」

 

「ママ……たち?」

 

 一般教養の範囲で、パパとママは一人ずつだと理解している壊理。だが、そんな常識が通じるはずもないのが神代一家。

 

「そうだよ。普通の家庭は、ママが複数いるんだよ。あと、今日から壊理はお姉ちゃんになるんだ。 弟のハス太のことも、面倒を見れるね」

 

「うん! 壊理は、お姉ちゃんなんだから!」

 

 壊理は、おじいちゃんと別れ、家族が待つ暖かい家へと帰る。たとえ、魔王や政府の思惑がどうあれ――一人の少女の心が救われたことに、違いはなかった。

 

 そして、家族みんなでお風呂に入る最中――葉隠透がその画面を写真に収め、裏ビティに少女の元気な姿を伝えた。裏ビティは、6歳の少女と一緒に風呂に入っている神代真一の姿に、言いようのない不安を覚えていた。

 

 義娘という新しいポジションを知らぬ彼女は、こんな少女を“愛人3号”にする作戦に加担したことへの、良心の呵責に悩まされていた。

 

 だが、真実はもっと酷かった。

 

 壊理は、記憶を改竄され、AFOを“おじいちゃん”と認識していた。その事実を知った日――彼女の中で、何かが静かに崩れた。

 

「こんな世界を作ったヒーロー業界なんて、滅んでしまえばいい」

 

 その言葉は、誰にも聞かれていない。

 




救われた少女・・・いい話だ。

次は文化祭と異能解放軍だったかな。

文化祭、かつてのクラスメイトが遊びに行くのはありだと思います。
息子と娘も紹介しないといけないしね。

閑話でEUヒーローの来訪編もやりたい。

オールマイトに退学させられたことに対して少しだけ意表返しもしたい。
神代の父親は・・・神代ダンゾウ。旧姓:志村ダンゾウなんですよね。
つまり、思わむところで関係があります。
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