H・EROアカデミア   作:新グロモント

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42:(閑話)裏ビティさん

 ヒーローが渡航するには、面倒な手続きが存在する。ヒーロー活動は血税で賄われ、個性登録も国家主体であるため当然のことだ。だが、そんな法律などガン無視できる人物も、世の中には存在する。

 

 その一人が、昨今日本で動画投稿されている内容に目をつけ、来日する。この時、日本政府は本気で航空機ごとBH爆弾で吹き飛ばすか検討したほどだった。だが、撃ち損じれば全面戦争になる。リスクが高すぎた。

 

 EUのトップヒーローの一人が来日。本来ならば大々的に報道されるはずだが、報道機関は沈黙を保っている。

 

 個性黎明期から生存が確認され、個性研究に多大な貢献を果たし、サポートアイテム開発の発展にも寄与。世界中の個性差別撤廃に尽力し、孤児支援にも私財を投じる。“生きる聖人”として歴史教科書にも載る男。そして、根津校長の製造者。

 

 日本でのかつてのヒーロー名は――黎明卿ボンドルド。

 

 オールマイトが活躍する少し前、彼は国外へ拠点を移した。倫理観がぶっ飛んだ研究成果は、いずれも“有用”と証明されている。犠牲となった人間は数えきれないとされるが、確固たる証拠は存在しない。今ではEUの“アンタッチャブル”として活動している。

 

 それゆえにヒーロー名に()の文字は禁止とされていた。

 

 EUでは、EU版タルタロス送りか、黎明卿送りかの選択肢がある。後者を選べば自由の身となるが、彼の元に送られたヴィランを見た者は誰もいない。EU版タルタロスの看守たちも、謎の光る鉄仮面をつけているという噂すらある。

 

………

……

 

 ボンドルドが搭乗する飛行機には、娘のプルシュカと、脳無ナナチが同乗していた。

 

「ほら、皆さん。あれが日本ですよ。オールマイトが活動拠点にしている国であり、AFOという魔王がいる国です。未だにヒーロー制度を維持できている数少ない国です」

 

「あれがパパを追い出した国ね」

 

「まったく、日本の脳無のせいでオイラの評判が下がるから、文句の一言でも言ってやらねーとな。ボンドルドの研究成果を参考にして、なんであんなビジュアルの脳無ができんだよ」

 

 彼らの来日は、当然AFOも感知していた。だが、感知できるということは、相手にも感知されるということ。双方が不干渉を貫く。戦えばお互い無事では済まない。残機制のボンドルドを殺し切れる程の手はAFOにもないし、AFOを殺し切れるほどの兵器の準備はボンドルドにもない。

 

「日本は比較的治安が良い国です……今は。町を歩けばヒーローが沢山いますので安心してください。ヴィランもいますが、野生に遭遇することは稀です。ですから、ヴィランに会ったら手でも振ってあげれば、見て見ぬふりをしてくれますよ」

 

「それじゃ~、プルシュカつまらない。せっかくヒーローの国際ライセンス取ったのに」

 

「別にいいんじゃね。この国じゃ安全にヒーローの真似事ができるんだろ。オイラが面倒を見ててやるから、野暮用済ませてこいよ。あと、オイラを巻き込むんじゃねーぞ」

 

 ボンドルドは「当然です」と言い切る。彼の用事は、かつての実験動物――根津校長にお見合い相手を紹介することだった。奇跡を再現できた今、子孫繁栄に困っている協力者に報いるため、遥々海を渡ってきた。

 

 そして、愛の個性を持つ少女にぜひ会いたいと思っていた。彼女は動画投稿ヴィランの活動支援をしている事が仇となり、見つかってはいけない人物に見つかってしまった。それが、二人の運命を変える事になる。

 

「アメリカから特許侵害だとか色々言われて黙らせるのに苦労しました」

 

「あの子を見た時は、プルシュカもびっくりしちゃったよ。まさか、本当にネズミマウスに会えるなんてね」

 

「これ、ボンドルドじゃなかったら絶対に消されてる案件だぜ」

 

 専用機にはもう一匹、“ミドルスペック”という個性を持つ、某ネズミにそっくりな♀も乗っていた。

 

………

……

 

 ボンドルドが雄英高校へ赴く間、プルシュカとナナチは日本観光を楽しんでいた。異形系個性持ちも多く、都会では差別を受けることは少ない。むしろ、ナナチのフワフワと良い匂いに惹かれて、触りたがる人の方が多かった。

 

 JKたちも、プルシュカとナナチを見て「ぬいぐるみみたいで可愛い〜」と歓声を上げる。その場に偶然居合わせた麗日お茶子は既にナナチを撫でまわす。街中で異形系個性が歩いているとはいえ、これは普通に犯罪レベル。男から女だった場合は、即刻痴漢逮捕が成立する。

 

「なんで、どこに行ってもオイラをみんな撫でまわすんだよ。日本人は謙虚じゃなかったのか」

 

「ちょっと、ナナチをモフモフしていいのはプルシュカだけなんだからね。離してよ」

 

………

……

 

 その時、ヴィランの徒党がプルシュカを攫って猛スピードで逃走。異形系個性でクモの糸を放出し、三次元軌道で街中を逃げる。

 

「ひゃっはーーー!! 高値で売れそうなガキをゲット!!」

 

「兄貴、これで俺らを追ってこられる奴なんて誰もいねーっすわ!」

 

 蜃気楼を展開する妨害個性と高速移動。完璧なコンビネーションだった。

 

 裏ビティとフロッピーが目の前に居ての出来事。学生とはいえ仮免許を持つヒーローが、目の前で誘拐を許すなど恥でしかない。

 

「そこの二人。てめーらヒーローなんだろ。目の前の誘拐くらい防げよバカ! このままじゃ、(犯人が)殺されちまうぞ!」

 

「ウラビティ、追いかけるわよ!」

 

「わかったわ、フロッピー!」

 

 だが、二人を置き去りにして超速度で駆け抜けるナナチ。ボンドルド謹製の脳無ナナチは、複数個性を所持していた。その一つ、“剛足”により、チーター並の速度で地上も壁も走り抜ける。ナナチは、個性を押し付けられた事で複数の個性保有に成功した貴重な事例だ。

 

 この時、裏ビティの本能が働く。「画風が違う人の実力は侮れない」――緑谷の言葉が脳裏をよぎる。画風どころか世界感が違うレベルの二人。

 

 スマホの連絡先は、神代真一。

 

『どうしました、裏ビティさんから連絡があるなんて。どうせ碌な事じゃないんでしょう?』

 

『神代論理次官って、酷い事言うよね。それより……プルシュカとナナチって名前に聞き覚えない? プルシュカって少女が今、ヴィランに誘拐されて行って』

 

『裏ビティさん……そのヴィラン、殺していいです。プルシュカという少女とナナチという謎生物を必ず救ってください。すぐに日本政府から政府認定の殺人ライセンスを与えます。これで、いかなる罪も無罪です』

 

『聞きたくないけど教えて。ヴィラン連合、死穢八斎會……どのレベルでヤバい案件?』

 

『AFO案件です』

 

 その言葉を聞いた瞬間、裏ビティの表情が変わった。つまりこれは、失敗すれば都市が消し飛ぶ案件。プルシュカがそれほどまでに重要なのか、それともナナチという生物の方か――今は、そんなことはどうでもよかった。

 

「私の平穏を返してよぉぉーーー!! フロッピー、私本気でやる。もう、何が何でもあの子を助けるからね。リミッター解除……相手は西側に逃げたんだ。だったら、私が飛べばいいんだよ!」

 

「え?ウラビティ、確か貴方の必殺技ってマッハを超えるんじゃ……」

 

「Plus Ultra!!」

 

 地球衝(ジオ・インパクト)を“移動”に用いる。肉体が崩壊しないのは、彼女が着ているスーツの性能あってこそ。音を置き去りにする速度で、ヴィランを追い詰める裏ビティの背中に、ナナチは思わず呟いた。

 

「JKヒーローって……すげぇな」

 

………

……

 

 音速の蹴りがヴィランの背中に突き刺さる。蜃気楼が一瞬で吹き飛び、クモの糸が千切れ、プルシュカが宙に舞う。その身体をナナチが受け止め、二人は無事に着地した。

 

「ひゃっはーー……ぐえっ!?」

 

「兄貴ーー!?」

 

 ヴィランたちは、裏ビティの蹴りで沈黙。その場にいた通行人たちは、何が起きたのか理解できず、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 

 プルシュカは、地面に座り込んだまま、裏ビティを見上げた。

 

「すごい……日本のJKって、音速で飛び蹴りできるの?」

 

「……まぁ、そういう日もあるわよ」

 

………

……

 

 

 後日。

 

 娘を救われた“感謝”として、ボンドルドから裏ビティ宛にサポートアイテムが届く。彼女のコスチュームに合わせて設計された腕装備――筒状のユニットから、粘着性の高い糸が放出される。

 

 その名も「月に触れる(フォーカレス)」。緑谷の黒鞭のような機能を持ち、捕縛・移動・牽引に応用可能。

 

 このアイテムが黎明卿から直接送られたことは、裏世界でも瞬く間に広まり、裏ビティの名は留まることを知らない。AFOの側近として、ギガントマキアと同列扱いされ始める。




確か原作でもこのくらいの時期に裏ビティの装備が増えた気がする。
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