H・EROアカデミア   作:新グロモント

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43:無償奉仕の精神

 死穢八斎會の大事件の裏で、警察主導のもう一つの計画が進行していた。この件については、神代真一もノーマークだった。壊理の個性確保が、他のすべてに優先される以上、仕方のないことだった。

 

 だからこそ、AFOと同じく最下層に収監される囚人情報を見た神代真一は、驚きを隠せなかった。

 

 神代真一は、新たな入居者の独房に入り、ため息をついた。

 

「ワープゲートの個性で捕まるとか、恥ずかしくないんですか。 一応、タルタロスに収監中の自由行動は許しますが、勝手に個性で逃亡しないでくださいよ。外部の人に見つかると面倒なんです」

 

「いや〜、すみません。グラントリノにしてやられました。死柄木弔のためにも、ここを一刻も早く脱出したいのですが……頼めますか?」

 

 黒霧に取り付けられている装置を外せば、すぐにでも彼は個性で逃亡できる。個性発動を検知すると爆発し、囚人ごと消滅するシステム――一応、刑務所らしい仕組みは存在していた。だからこそ、すぐに外す。貴重なヴィランをこんなところで失うのは日本の国益が失われる。

 

 黒霧の収監により、ヒーローたちが彼との特別面会を求めていることを神代は知る。ヴィラン連合の要とも言える黒霧の確保に尽力した功労者からの要請。無下にはできない。

 

 だが、神代が対応に困っていると、AFOがその独房までやってきた。

 

「これはいいチャンスだ。弔たちはこれで“移動”という足を失った。だからこそ、これからどう動くか、考える必要がある。自分で考え、行動し、成長する。今の弔には、それが必要だ。ヴィラン連合として、どう成長するか――僕は見たい」

 

「つまり、私はこのままタルタロスで“捕まっている体裁”がよいということですか、AFO」

 

 AFOの収監に加え、ワープゲート持ちの黒霧。危険物を一か所にまとめるという考えは合理的だ。だが、ここはヒーローたちが思っているような“監獄”ではない。

 

 ヴィランの治療と次の職場へ運ぶための病院兼ハローワーク――そして、AFOの個性狩りの場でもある。

 

「そうだ。それに、君には他にも仕事がある。僕と壊理が個性を十全に使える場所に運ぶことさ。あぁ、安心してくれ神代君。ちゃんと、ヒーローたちとの面会時間には帰ってくるから」

 

「本当に頼みますよ。表向きの立場もあるので……あ、死柄木さんから電話だ」

 

………

……

 

 死柄木からの呼び出し。黒霧が捕まり、移動手段を失ったヴィラン連合。その代替手段を、H・EROアカデミアが用意することを望んでいた。

 

 何のために“足がつかない金”を渡したと思っているのか――神代は文句を言いたかった。

 

だが、必要な物は用意するという約束だ。それに、そろそろ義娘・壊理の個性訓練の成果も見せる時だった。

 

 

 ヴィラン連合。知名度では、国内二番手のヴィラン組織。ちなみに一番は、日本政府が最初に作った肝いりヴィラン組織――“黒の組織”。CIA、SVR、公安、MI6、モサドなど、スパイしかいない組織となっており、運営側も「どうしてこうなった」と困っている。だが、集まった者たちの個性は本当に優秀だった。

 

「“黒の組織”……日本政府なら知ってるよな。俺らより有名な、日本最大にして最古のヴィラン組織だ。あれを潰して吸収する。奴らの潜伏先や知ってる情報を教えろ。代わりに働いてやるよ」

 

「あぁ、やっぱり。“黒の組織”は、私がいるH・EROアカデミアと似たような感じの所です。日本政府がヴィランを育成して派遣するために作った“存在しない”ヴィラン組織です。でもなぜか、勢力が拡大したおかげで、CIA、NSA、AVR、公安、MI6、モサドが所属する意味不明な組織になっていますよ」

 

 ヴィラン連合の者たちも驚いていた。まさか、日本政府肝いりのヴィラン組織が、日本最大にして最古の組織だったとは。

 

「ふざけんなよ。俺が壊す前から、日本のヒーロー業は瓦解寸前すぎるだろ。政府が支援を止めた瞬間、ヒーローがヴィラン堕ちするだろこれ」

 

「大正解です。ヒーローとヴィランの均衡を壊し、日本を壊したのは――オールマイト。彼が無尽蔵にヴィランを狩り続けたことで、ヒーローが殉職せずに減らなくなった。その結果、ヒーローは増え続け、社会保険料負担は減少。ヒーロー業界を支えるため、ヒーロー負担の割合は毎年右肩上がり」

 

 輝かしいヒーロー業界。だが、その輝きの正体は――国民の血税だった。

 

………

……

 

「腐ってやがる。じゃあ、ヒーローへの税金投入を止めればいいだろ。やりたい奴だけ勝手にやらせておけよ。それが真のヒーローだろ。“無償奉仕の精神”はどこに行ったんだ」

 

「そんな奉仕の精神はヒーローにはありません。むしろ、無償でヒーローの敵となってくれているヴィラン側に“無償奉仕の精神”があると私は思っています。。ヒーローは、個性を使うことでしか生活の術を知りません。今さら一般企業に就職して、自分より弱い個性を持つ人の下で働けると思いますか?無理です。多くのヒーローがヴィランに転職します。政府は、これを何より恐れている。だから、死柄木さんが日本を崩壊させたいなら――ヒーローを壊すより、今からでも“ヒーローにヴィラン連合が転職”した方が最速です」

 

 皮肉だった。ヒーローが増えれば日本が崩壊し、減れば安定する。

 

………

……

 

 その時、愛らしい声が響く。神代真一に抱きつく義娘――神代壊理。

 

「パパ〜、仮面のおじさんの手を戻したよ。壊理、頑張ったよ!」

 

「よくできました。個性の運用にも慣れてきましたね。流石、私の娘です」

 

 Mr.コンプレスの失われた片腕が、今復活した。その個性の素晴らしさに、ヴィラン連合も今さらながら壊理が欲しくなる。

 

「お前、もう懐柔したのか。パパって、お前そんな年じゃないだろう」

 

「こんな子供に手を出すなんて人間の屑ですよ、弔君。今のうちに壊した方がいいです」

 

「それな! 俺も思った。こんな少女を手籠めにする奴に善人はいねーってのはお決まりよ」

 

 死柄木弔、トガヒミコ、トゥワイス――言いたい放題だった。まだ手は出していない。というか、出す予定は神代真一にはない。

 

「失礼ですね。私は、本妻、側室、愛人1号、愛人2号、彼女と3歳の息子もいますが。

流石に6歳の女の子に手を出すほど飢えていません。訂正してください」

 

 誰も神代の発言を信じようとしなかった。仕方なく、全員と一緒に風呂に入っている写真をヴィラン連合の面々に見せつける。

 

 その結果――さらに呆れられる。

 

「やっぱ、お前クズだわ。同じ男として最低だと明言してやる」

 

「でも、そのクズの力が必要なんですよね。一度ドクターにも相談してみてはどうですか?ドクターは、いまだに脳無の製造を止めていません。力になってくれると思います。あと、私がクズなら貴方も同類ですよ。元をたどれば同じ血筋なんですから」

 

「……は?」

 

 死柄木弔は、神代の言葉に一瞬耳を疑った。“同じ血筋”――その意味が、まだ理解できない。

 

「すこし、しゃべり過ぎました。思い出されたら、その件については、また話しましょう」

 

………

……

 

 数日後。

 

 死柄木弔は、ドクターからの情報を元にギガントマキアに上下関係を認めさせるべく戦いを挑む。その戦いは、目立ちすぎる。だからこそ、神代真一は、移動手段・衣食住の物資支援の代わりに“戦う場所”を指定する。

 

 外国人が勝手に土地を開墾して住みついている場所。

 不法投棄の産業廃棄物が放置されている場所。

 怪しい宗教団体が宗教施設を作っている場所。

 政府がトンネルを通したいと考えている山岳地帯。

 

 そういった“政府にとって都合の良い場所”を指定する。代わりに、その周辺の政府保有の監視衛星はすべて止める。

 

 ヴィラン連合が暴れたとなれば、警察の強制介入が可能になる。彼らが暴れた場所を入念に調査し、一網打尽にできる。ヒーローも仕事ができるし、ヴィラン連合も“必要なもの”を手に入れられる。

 

 これが――日本政府とヴィランの“正しい付き合い方”だった。

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