塚内直正。彼は、警察庁の中でもちょっとした有名人だ。オールマイトとの旧知の仲と言うことがあるだけでなく、近年発生しているヴィラン連合や死穢八斎會の事件に関わり、数々の功績を上げていた。
黒霧の逮捕という素晴らしい成果もあり、近く昇進するという話も出てくる。
昇進すれば扱える情報の幅も増える。つまり、今まで調べられなかった事も調査可能となる。塚内直正は、先日イレイザーヘッドから頼まれたある少年について調べて欲しいという依頼。警察と言う国家権力を使えば、少年の一人や二人の情報など朝飯前だ・・・と、先ほどまで彼も思っていた。
警察は個性データベースにもアクセスできる権限を保有している。場合によっては、健康診断のデータや学歴情報、犯罪歴まで確認可能だ。雄英高校の入学者達は警察協力の元で、素行調査や経歴調査などが行われていた。
警察庁にある端末に座り、塚内直正がキーワードを入力する。
「神代真一と…何々、年齢15歳。個性健康診断。小学校、中学校と特に変な情報はないな。両親も健在。父親は神代ダンゾウの職業は、喫茶店の店長…この面構えで?無理があんだろう。母親は、職歴なしの専業主婦。嘘くさい」
塚内直正の直感がこの経歴が嘘であると判断する。彼の一族は嘘を見破る個性が目覚める事が多い。だから、彼もそれに漏れなかった。では、嘘の情報からどうやって神代真一の正体を突き止めるかになる。だから、イレイザーヘッドが言ってた情報から辿る方法を思いつく。
「情報じゃ~、既婚者だったな。神代くるみ?胡桃?どんな字だ。ひらがな検索でもいけるが該当なし。後は、神代ハス太、神代アカネ・・・だめだ、何も出てこない。日本において、個性登録を回避できないはずだ。知床知子は、検索できるし正常な情報だ。癒月静…ビンゴ!!」
文化祭メンバーから手に入れた神代一家の情報を元に塚内直正は、彼に繋がる人物の情報を拾い上げた。
癒月静。年齢24歳。個性は月環…夜限定で彼女の両手が触れた対象を癒す。傷口の細胞を復元させ完治させる程の回復力であり、刺し傷などに特に効果が高い。士傑高校を卒業後は、セントラル病院に高い治癒能力を買われて就職。数年後、諸事情でセントラル病院を退職…そのあとの経歴はない事になっている。
関西にある士傑高校。関東にあるセントラル。どちらから先に情報取集に回るか考えたが、彼は、古い順に追う事にした。このご時世、大体の事はネットやビデオ通話で終わる。だが、彼みたいな古風な人間は足を使う。
深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている。
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……
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士傑高校の卒業生に関する情報。一般人にはおいそれと見せる事はできない。だが、警察であれば違う。昨今、物騒な時代になってきた。士傑高校においても、ヴィラン犯罪には細心の注意を払っている。
いざと言う時に警察との協力は大事だ。よって、少しだけ見なかった事にする。士傑高校における卒業生情報、過去のアルバムや成績表。当時の教師たちとの会話。文化祭や体育祭の過去映像など手に入る情報は全て集めた。
士傑高校は、雄英高校と並ぶとされる強豪校だ。
塚内直正は、東京に戻る新幹線の中で手に入れた情報をファイルリングする。癒月静の親兄弟の情報まで調べ上げており、東京に在住していることまでは警察の情報で分かっていた。
「学業は優秀。その個性ゆえに体育祭では、主に後方支援。医師免許持ちの保険医の元で個性を伸ばす特訓に従事し、生徒や教師からも非常に信頼を得ていた。将来は、その個性を使って治癒系ヒーローになるのではないかと嘱望されており多くのヒーロー事務所から指名を貰っていたと…セントラルへの就職理由は、もっと多くの人を助けたいという事か」
治癒系個性の価値は、天井知らずだ。そんな女性がセントラルに就職するのだから何も可笑しい事はない。では、どうして退職したかだ。学生時代の状況からよほどの心変わりでもない限り、そんなことは起きない。
塚内直正は、現状をまとめた情報をイレイザーヘッドに送信する。
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癒月家。東京の一等地にしてはそれなりに大きな家だった。治癒系個性が目覚めやすい彼女の実家は、太かった。治癒系個性には警察もお世話になる事が多いため、失礼は許されない。こういった家は、同種の個性持ちと横繋がりが強いため、問題を起こせば一人の責任問題ではすまない。
インターホンが鳴る。
『どちら様ですか?』
『警察の者です。実は、癒月静さんの事で少しお話をお伺いしたいのですが…』
警察手帳をカメラにかざして身分を証明する塚内直正。
『あの子の事は、もうそっとしてやってください。帰ってください。話す事なんてありません』
『いえ、あの少しだけでもお話を。今どこで何をしているかだけでも』
追い返されて当然だ。
まさか、実の娘が15歳の少年と同棲して愛人をやっているなど世間様に言えるはずがない。それに、当時の年齢を考えれば、逮捕案件だ。だが、顔を見せに帰ってきたり、来年は孫の顔を見れる事もあり、今警察様にバレれば獄中で出産もあり得る。
だからこそ、親も必死に隠して何も言わない。
そんな事実があるなど塚内直正でも予想すらできない。
………
……
…
最後の頼みの綱であるセントラル病院にまで彼は足を運ぶ。本来、このレベルの大規模病院だと、医者や看護師の数も凄まじい。入れ替わりも多い。だが、治癒系個性持ちは別だ。よって、必ず誰かが覚えているだろうと踏んでいた。
そう、確かに覚えているセントラル関係者は多かった。誰も詳細を話そうとしない。全員が話を濁すばかりだ。警察と言う強権を持っても医療従事者の口は堅かった。当然、彼女が関係した患者情報も個人情報の観点から部外者が閲覧できない。
「ここまできて手詰まりか…いいや、病院関係者がダメでも患者なら」
塚内直正は、当時の癒月静の写真を患者たちに見せて確認して回った。昔の事である為、出来るだけ長く入院してそうな人を片っ端から当たる。しかし、セントラル程の病院は終末医療の場所ではない。最先端医療の場であり、長期入院患者などごくわずかだ。
数時間が経過して、諦めかけた塚内直正。院外の喫煙所で煙草をふかしていると一人の老人が彼に近づく。
「お前さんかい。癒月さんの事を嗅ぎまわっている警察ってのは」
「いえ、別に嗅ぎまわっている訳じゃないんですけどね。ちょっと、この病院を去った理由や今どこにいるか知りたくて」
老人も煙草を一服する。入院患者なのに、こんな不健康を許されるのだろうか。医療費の無駄である。
「…傷害事件じゃよ。入院患者の男性をナイフでグサッってな。何が原因かはしらん。だが、それが原因で彼女が病院を去ったのは事実じゃよ。セントラルで治癒系個性を使って人を癒す彼女が傷害事件を起こしたとなれば、病院も庇いきれんかったんだろう」
「それは、また……何でそんなことって、知らないんですよね。ですが、そんなことは新聞にも何処にも情報がありませんよ」
ここは、セントラル病院だ。金など呻るほどある。莫大な和解金を積んだと塚内直正は、予想した。だいぶ、近づいてきたと彼は直感する。
その時、携帯に上司から呼び出しがある。すぐに警視庁に来るようにと命令だ。ヴィラン連合、もしくは黒霧が口を割ったかと彼は期待する。
………
……
…
警視庁に到着すると、彼は上司と一緒に上の階へと移動する。止まった扉には、警察庁長官室と書かれていた。つまり、警察のトップだ。彼からすれば雲の上みたいな人物。
入室が許可され、椅子に座るように指示される。警察庁長官から一言、塚内警部に確認がある。
「君は優秀な警察だ。日本語以外に習得している語学は?」
「英語とドイツ語を少々」
その言葉に警察庁長官は少し顔が緩む。
「では、決まりだ。黒霧逮捕や死穢八斎會逮捕の一件での君の活躍は知っている。だからこそ、日本を代表してヴィラン犯罪が多い国外でそのやり方を指導して欲しい。3年だ…戻ってきた時には警視正の椅子を用意しよう」
「ほ、本当ですか!! 僕が警視正に!?」
警察庁長官は、頷く。生きていたらと言わないのは彼なりの優しさだった。本音を言えば、君のような勘のいいガキは嫌いだと言いたいのだが、我慢している。
「では、明後日の便でEUに飛んでくれ。出先では、現地のトップヒーローの一人が君を迎える事になっている」
「あ、明後日とは急ですね。ヴィラン連合の一件が片付いてからでは…」
警察庁長官に言葉に文句を言った瞬間、塚内直正の進退だけでなく、上司の将来も左右する。
「うん?聞こえなかった。明後日の便で君はEUに行くんだ。必要な物は全て現地で調達しなさい。支度金はこちらで用意する。いいね」
「わかりました。塚内直正、明後日にEUに飛び。現地にてプロヒーローと合流します」
こうして、また一人、神代真一の後を追う者が消える。
嘘を見抜く個性など、対処方法は簡単だ。嘘を言わずに真実だけで人をだます事だ。お国の上の連中はこのくらい朝飯前だ。政府保有のデータベースには、特定の検索ワードを入力すると検知される仕組みがある。
目立つ餌となり、獲物を引き寄せる魔性の女…癒月静。生きて日本の地を踏むどころか、生きてEUの地を踏めない可能性がある塚内直正が座る予定だった椅子は……彼の上司が座る事になる。
そして、捜査資料などがなぜか消えてなくなる。
チェーンソーマンの漫画・・・レゼさん登場するあたりがごっそり売り切れてた。
ふざけんなよ!!