H・EROアカデミア   作:新グロモント

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53:異能解放戦線1

 異能解放戦線とヒーローの大激突

 

 それは、日本国内における過去最大級のテロリストとの戦いとなる。だが、これほどの事態にもかかわらず、日本政府はほぼ関与していない。公安のごく一部が、体裁を保つためにわずかに動いているだけだった。

 

 日本No.2ヒーローであり、公安肝いりのヒーロー――ホークス。彼は実に優秀なヒーローだ。正義感が強く、正義のためなら殺しすら厭わない。幼少期より公安に育てられた数少ない存在であり、どんな任務も淡々とこなし、公安委員長からの信頼も得てきた――そう思っていた。

 

 だが、ホークスは公安委員長の動きに違和感を覚え始めていた。

 

 事の発端は、ヴィラン連合との接触と、異能解放戦線への潜入任務。ホークスはそのために、あの手この手を尽くした。ベストジーニストの協力を得て仮死状態を演出するなど、大がかりな作戦も実行した。

 

 手に入れた情報を公安に流す。だが、日本政府の動きは鈍い。未曽有のテロが発生しようとしているにもかかわらず、自衛隊への協力要請も、国外ヒーローへの支援要請もない。

 

 他国のトップヒーローをダース単位で派遣してもらえれば、今なら余裕で制圧できる。

 

 例えば、日本と良好な関係を築いているペルシャ湾岸諸国のトップヒーロー“カビの女王”が来れば、11万人のテロ勢力など1時間もかからず死体に変えられる。

 

 つまり、日本政府は国内最大の危機に対して、極めて関心が薄い。「個性の問題はヒーローが解決する」という建前。警察とヒーローのすみ分け。だが、今はそれどころではない――それがホークスの言い分だった。

 

………

……

 

 異能解放戦線の拠点を歩いていたホークスは、見慣れない数名の男女を見つける。彼らに付き添うように、最重要監視対象のトゥワイスが外出するという情報を得る。

 

 今まで見たことのない男女が、トゥワイスと親しげに話しながら出かけようとしていた。ホークスは焦る。少しでも情報が欲しい今、多少の危険はあっても近づくことを決めた。

 

「あれ~? 分倍河原さん。どこかにお出かけですか?」

 

「ホークスじゃん! いや~、わりーな。ちょっと仕事だ仕事。本当なら俺も断りてーんだが……こいつらの頼みとあっちゃ~、そうはいかねーんだわ。安心しろ。荼毘、コンプレス、スピナー、トガちゃん達にも許可取ってるから」

 

 ヴィラン連合と縁が深い連中が他にもいる――ホークスは初めて知る情報に驚く。男の方は高校生くらいの体格。女の方はホークスと同年代ほどだが、明らかに戦闘慣れした雰囲気を纏っていた。

 

「トゥワイスさん、あまり時間がありません。少し先にヘリも準備しております」

 

「OK! じゃあ、ちょっと出かけてくるわ」

 

 車に乗り込むトゥワイス。

 ホークスは羽の一枚を車に近づけ、尾行を試みる。だが、その瞬間――車の扉が開いた。

 

「錦木さん」

 

「はーい、ボス。ごめんね、こっちも仕事なんで」

 

 錦木と呼ばれた女性が拳銃を抜き、ホークスの羽を正確に撃ち落とす。

 

「おぃおぃ、嘘だろ……俺が操作してる羽を、移動中の車から正確に撃ち抜いた……殺すか。 ……いや、それじゃ潜入の意味がない。戻ってきたら、それとなく聞いてみるか」

 

 トゥワイスの行き先が、エンデヴァー事務所のある街だとは、ホークスは知る由もなかった。もし公安委員長に信頼されていれば、神代真一の顔も知っていたはず。だが、知らなかった。

 

 つまり――公安はホークスを“駒”以上の存在とは見ていないということだ。

 

………

……

 

 車内。

 神代真一は、トゥワイスと世間話を始める。

 

「ホークスさんの情報は、すでに渡していたのですが、まだ働かせているんですか?」

 

「いや~、だってもしかしたら改心してこっち側に来るかもしれねーじゃん。で、どうよ? ホークスの心境、変わってたりした?」

 

「いいえ、まったく変わりありません。いつも通り、公安へ情報を流しています。その情報源のほとんどが、トゥワイスさんです。口が軽すぎるのも問題ですよ。その結果、あなたの仲間が死ぬ可能性もあるんです。あと、帰ってからも私たちのことは“知らない”で通してください。公安で情報は止まるでしょうが、面倒なので」

 

「気をつけるってば。そういえばさ、そっちの子は新顔じゃん。いつもの治癒の彼女はどうしたの? まさか、振られた?」

 

 トゥワイスが言う“治癒の彼女”――それは神代真一の愛人1号、癒月静治癒官。ヴィラン連合も治癒系個性には世話になっており、彼女には頭が上がらない。実際、異能解放軍との戦いの後は、彼女の治癒能力が大いに活用された。

 

「癒月静治癒官は、死柄木さんのところで強化支援中です。夜限定とはいえ、彼女ほどの治癒個性があれば、死柄木さんにも有益でしょう。それに、セントラル病院での勤務経験もあるので、看護師に紛れ込むことも可能でした」

 

「本当に、お前ら日本政府ってこぇぇぇーよな。表ではヒーロー支援して、裏では俺たちとズブズブだもん。まぁ、俺はどっちでもいいけどよ」

 

 日本政府は、常に“勝ち馬”に乗らなければならない。そして、万が一AFOが敗北した場合には、即座にヒーロー側へ乗り換える準備も整えている。そのため、現時点では最低限の支援に留めているが、政府の視線は“今”ではなく“その先”を見据えている。

 

 巻き戻しの個性まで手に入れる可能性があるAFO陣営に組する方が、どう考えても勝率は高い。

 

 さらに、現在強化中の死柄木弔――彼の改造が完了すれば、日本トップヒーローたちが束になっても勝てない。加えて、ドクターの脳無製造技術や個性複製技術は、軍事・医療・産業のいずれにおいても革新的な価値を持つ。

 

 金食い虫と揶揄されるヒーロー制度とは異なり、これらの技術は日本政府にとって“最高の投資対象”である。

 

 世の中は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。つまり、ヴィランが勝利した瞬間、ヴィランがヒーローとなり、ヒーローがヴィランとなる。よって、“新しいヒーロー”を支援する国家こそが、正義を名乗る資格を持つ。

 

「日本政府は、勝ち馬に乗るのが大好きなんですよ。過去の世界大戦では、負けた結果、色々と大変でしたからね。ちなみに追加情報ですが……オールマイトが個人的な伝手を使って、各国のトップヒーローたちに支援要請をしています。これに対して、日本政府は断固として派遣を拒否しています。内政干渉にも程がありますし、トップヒーローの無断派遣は、下手をすれば戦争の火種になります。……一部例外はありましたが」

 

「俺は学がねーからよくわかんねーけど……個人が他国のトップヒーローを呼ぶって、ヤバくねーか?つまり、エンデヴァーみたいな連中が何人も来るってことだろ?……止めてくれてありがとうな! やっぱり、お前ら、いい奴だな」

 

 こうして、ヘリに乗ったトゥワイスは――かつて拉致した少年(爆豪)の心を救うため、ヴィランでありながら“ヒーロー的な行動”を取ることになる。

 

◆◇◆◇

 

 

 日本政府は、ヒーロー業界から異能解放戦線との戦いに向けて強い支援要請を受けていた。陸・海・空の自衛隊による飽和的な支援を求める声もあった。作戦が失敗すれば未曽有の大被害が出ると警告されていたが――政府は「それはない」と確信していた。

 

 政府は、個性犯罪に対するカウンターとしてヒーローの存在意義を説いてきた。だからこそ、万が一作戦が失敗した場合には、彼等の存在意義はないとしてTier1のBH(ブラックホール)爆弾によって地域ごと消し去る方針を決定している。

 

 これで、ヒーロー側の懸念も払拭できると考えたのだ。

 

 11万人のテロリストと、それに匹敵するレベルのヒーローたち。これを合法的に、ヒーローの依頼という形で“焼却”できるのであれば、政府としても要望を飲む価値がある。そもそも、11万人を収容できる施設など存在しない。

 

 この情報は、ヒーロー側には「作戦が失敗した場合のみ政府が引き継ぐ」と伝えられていた。一方、ヴィラン連合には「ヒーローの敗北と同時にBH爆弾が投下されるので、死に物狂いで3km以上離れろ」と明確に通達されていた。

 

 これは当然の対応だった。

 

 ヴィラン連合は、自主的に野生のヴィランたちを立ち上がらせ、国庫負担を軽減してくれた。さらに、ドクターに至っては“生きる聖人”と呼ばれるほどの功績を持ち、日本政府に多大な貢献をしている。

 

・蛇腔総合病院の創設者かつ理事長

→ 一般市民から尊敬される医療関係者として認知され、病院運営に尽力

 

・児童養護施設の開設や個人病院との連携を全国に展開

→ 社会的弱者への支援を装い、広範囲に福祉活動を展開

 

・慈善事業への積極的参加

→ 気まぐれとも思えるほど多方面に関与し、地域社会からの信頼も厚い

 

 彼一人のおかげで、どれだけの人間が救われ、雇用が生まれたか。しかも、税金もきちんと納めており、制度的には“完璧”だった。脳無の製造においても、死人を使うなど人道的な手法を取っており、政府として彼を責める理由はない。

 

 むしろ、政府は彼からの協力要請を待ち望んでいるほどだった。国産脳無の製造に向けて、政府は惜しみない支援を行う予定である。当然、目的は軍事利用だ。

 

………

……

 

 ヴィラン連合がヒーローが攻め入る情報をを知ったのは、死柄木弔が目覚める一か月前のこと。本来であれば、死柄木が万全な状態となってからヒーロー側と異能解放戦線が正面衝突する予定だった。

 

 だが――トゥワイスがホークスに情報を漏らしてしまったことで、戦火は予定より早く切られることになる。ホークスが公安だけでなく、警察やヒーローにも情報をリークしたことで、今回の事態が発生した。

 

 公安と警察だけなら何とか止められたが、No.1ヒーロー・エンデヴァーにまで情報が回ってしまったことで、もはや止めることは不可能だった。

 

 神代真一は、ヴィラン連合にこれらの情報をすべて流す。

 

『口は禍の元ですから、今後は気をつけてください、トゥワイスさん。他のメンバーもそうですが、特にあなたの個性目当てで、アメリカ・中国・インドの超大国が誘拐を試みています。今回の戦いの中でも、接触を図ろうとする機関は多いでしょう』

 

『マジ!? マジなの!? 俺の個性ってそんなにすげーの!?もしかして、左団扇で生活できたりするん!?』

 

『ええ、余裕ですよ。アメリカ最大の製薬会社から、年俸2億ドルでスカウトしたいという話もありました。超法的措置でヴィラン連合での罪状はすべて清算するという話も。知ってますか? アメリカでは個性:カブトガニや個性:オブトサソリを持つ者を拉致監禁して繁殖させています。彼らの血液や毒は、1リットルあたり数万ドル。毒に至っては数千万ドルの値が付きます。あなたの個性なら、それを無限に複製して医療革命が可能なんです。他にも用途は山ほどあります』

 

『や、やめろよ……今、一瞬だけ。ほんの一瞬だけ転職を考えちまっただろうが。俺は、死柄木たちと最後までやるって決めたんだ。トガちゃんもこっちにいるしな』

 

 神代真一は、少し不安になる。

 

 トガヒミコは、緑谷に淡い恋心を抱いている。そして、麗日にもそれに近いレベルで恋心を持っている。人の恋路に口を出せるほど、神代は真っ白な経歴の持ち主ではないが……この三角関係がきっかけで、トゥワイスの脳が壊れないか心配だった。

 

 素直に祝えるのか、それとも緑谷と同じくドス黒い闇を心に抱えるのか――不安は尽きない。

 

『表立っての支援はできませんが、脱出に備えて裏ビティさんをそちらへ攻め入る部隊側に配備します。彼女の個性なら、数十秒もあればBH弾の範囲から抜けられます』

 

『いつも気遣いありがとうな! あ、ホークスってどうすればいい? アイツ、裏切り者なんだろ?』

 

『いえ、こちらにとっては裏切り者ではありません。ご自由に処分してください。ただし、甘く見ないでください。彼は日本No.2ヒーローです。だから、あなた本人が接触するのは避けて、コピーにしてくださいね。そして、全員で囲んでから殺した方がいいです。逃げられないような頑強な地下で。彼の個性は便利ですが、破壊力に欠けますから』

 

『オッケー。分かった。それじゃあ、また終わったら差し入れの寿司待ってるからな。ワサビは控えめで頼むぜ』

 

………

……

 

 ヒーローたちと異能解放戦線の戦いの裏で、日本政府はこの時を狙って脱出しようとするスパイたちの対応に躍起になっていた。中には、強個性持ちを拉致して国外へ逃げようとする連中もいる。特に、大使館まで逃げ込まれたら、手も足も出なくなる。

 

 だからこそ、決戦日の数日前から、大使館付近のビルでは公安やH・EROアカデミアの職員たちが武装して待ち構えていた。犯罪係数が高い連中は軒並み、殺しつくされる。そして、下水道があふれる程の死体を積み上げた。




あれ・・・男を磨き上げた爆豪君相手に、不完全な死柄木って大苦戦するんじゃないだろうか。
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