H・EROアカデミア   作:新グロモント

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54:異能解放戦線2

 ヒーローたちの襲撃を事前に察知していれば、異能解放戦線は対策を立てられる。待ち伏せ、誘導、建物の倒壊――やりたい放題だ。しかも、ヒーローはこの状況でも殺人を行わない。異能解放戦線にとっては、これほど“やりやすい”戦場はない。

 

 個性をセーブする必要もない。全力で振るえる。

 

 さらに恐ろしいのは、異能解放戦線の構成員が自己犠牲を恐れないこと。死兵となってでも理想を達成しようとする。一人一殺の覚悟を持つ彼らに対して、一騎当千のトップヒーローたちが死力を尽くさなければ勝機はない。

 

 正直、エンデヴァーが初手からプロミネンスバーンを連発していれば、勝負は早かっただろう。轟の個性で冷却しつつ、同種の個性持ちでエンデヴァーを固定砲台化すれば最高効率。プロミネンスバーンを防げるヴィランなど、世界でも数えるほどしかいない。

 

………

……

 

 突入前、ホークスはトゥワイスだけは確保しておきたいと考えていた。彼に誘われ、少し奥まった部屋まで足を踏み入れてしまう。そして、気づいた時にはもう遅かった。四方には、二倍の個性で複製された荼毘が待機しており、逃げ場はなかった。背中の羽は、一瞬で焼かれていた。

 

「ごめんな、ホークス。最後まで俺らの仲間になってくれなかったから、これしかなかったんだぜ。俺が教えた情報も公安や警察に漏らすしさ~。ひでーやつだぜ」

 

「なぜ……なぜ情報がヴィラン連合に漏れた」

 

 ホークスは痛みに耐えながら、悔やんだ。この数か月、煮え湯を飲む思いで任務を遂行してきた。公安、警察、そしてエンデヴァーにも情報を伝え、万全を期したはずだった。

 

 決起は来月。

 今なら異能解放戦線は油断している――そう信じていた。

 

「しゃべりすぎだ、トゥワイス。今もこいつが見聞きした情報が公安や警察に送られてるかもしれねぇ。全国のヒーローを無理して集めた時点で、バレない方がおかしいだろ。異能解放戦線が全国に根を張ってるの、知ってんだろ? お前ら、馬鹿なのか」

 

「俺にしゃべりすぎって言いながら、荼毘だって喋ってんだろ。それに、ヒーロー側に俺たちのスパイがいるとは思わなかったのか?普通、いると思うだろ。USJ、林間学校……それなのに、学校関係者はダメでしょう」

 

 ホークスは、ヴィランの指摘に思わず納得してしまう。学徒動員すれば、情報漏洩のリスクはさらに高まる。過去にヴィラン連合に襲撃された雄英高校は、今回の作戦から外すべきだった。

 

 ここから、起死回生の一手を考える。

 

「俺は確かに公安関係者だ。今度こそ、本気で仲間になる。公安の情報をヴィラン連合に提供できる。スパイだったが、今から本気で鞍替えしたい。潜伏した体裁でいれば、より良い情報を引き出してみせる」

 

「おぃおぃ、ヒーローがそんな簡単に組織を鞍替えしていいのかよ。確かに、この状況じゃ命乞いして鞍替えするくらいしか、生き残れねぇよな。トゥワイス、(神代)にかけろ。確か、奴の個性はカメラ越しでも大丈夫って話だ。今の話が嘘だったら即殺す。本当なら、公安から今すぐ有益な情報を引き出さないと殺す。それでいいな」

 

 ホークスは頷くしかなかった。

 

 日本を守るため――彼はそう信じていた。だが、唯一気がかりなのは、どうやって“審議”を判定するか。洗脳系個性による自白も考えたが、異能解放戦線にその手の個性持ちはいないと確認済みだった。

 

『あ~、もしもし、俺だよ俺。そうそう、トゥワイス。今目の前でホークスが死にかけてんだけど、今からヴィラン連合に鞍替えするって言ってんだよ。公安の情報も流すってさ。悪いけど、確認してくれね? 今カメラONにするから、頼むな』

 

『トゥワイスさんの頼みなら、お安い御用ですよ。どれどれ~、鷹見啓悟のお心は…あぁ、ダメですね。ヴィラン連合への忠誠心、項目すら存在しません。可能性はゼロです。彼は、また裏切ります。……携帯型心理診断・鎮圧執行システム『ドミネー…あ、すみません。こっちも今、獲物が来たので。では、お互い頑張りましょう』

 

 ホークス――本名・鷹見啓悟は、ドミネーターの起動音と自分の本名から理解した。彼らはすでに公安と太いパイプを持っている。では、なぜ自分がこの場にいるのか。公安に育てられた恩返しのつもりで、汚れ仕事もこなしてきた。

 

 だが――日本の闇は、ホークスが思っていたよりも遥かに深かった。

 

「はは、はははは。笑っちゃうね。これじゃあ、俺が道化じゃないっすか。エンデヴァーさん、日本の闇は俺たちが思ってるよりずっと深かった。殺せ。もう、お前らと話すことはない」

 

「日本の闇の深さについては、俺たちも同意してるぜ、ホークス。マリアナ海溝より深いぜ。それだけは保証してやる。これも全部、オールマイトとヒーロー業界が元凶なんだがな……じゃあ、万が一にも復活しないように念入りに焼いてやる。お前の大好きなエンデヴァーの技で――赫灼熱拳」

 

 その日、日本No.2ヒーロー。

 “早すぎる男”は、ヒーロー業界の闇に焼かれて、早すぎる人生の幕を閉じた。

 

………

……

 

 強襲するヒーローたちを迎え撃つ異能解放戦線。まさかの反攻により、ヒーロー側の足並みは乱れ始める。異能解放戦線のスポンサーであるデトネラット社は、全財産を投入してサポートアイテムを配布。

 

 その結果、彼らはヒーローと互角に戦えるだけの力を得ていた。

 

 トップヒーロー相手には分が悪いが、それ以外の者たちには十分な効果がある。戦闘開始からわずか30分で、ヒーロー側には数十人の死傷者が出ていた。今まで、政府が用意した“安全なヴィラン退治”しか経験していないヒーローたちは、死が身近にあると知った途端、動きが鈍る。

 

 そして、恐怖がさらなる恐怖を呼ぶ。

 

 だが、それすらも日本政府が“想定していたストーリー”に過ぎない。この場には、日本各地から呼ばれたヒーローが集結している。インターン生を受け入れていたヒーローたちにも、当然声がかかっていた。

 

 その中に――神代コナンの姿があった。

 個性:名探偵。名探偵とは本当の個性ではない。彼の個性の特徴は、“人間の殺意を無作為に増幅させ、殺人へと発展”することにある。

 

 殺される恐怖が、人としてのタガを外す。「殺される前に殺さなければならない」――それは、正当な報復だ。相手だけが殺す気で、こちらが殺せないのでは、勝てる戦いも勝てなくなる。

 

「ヒーローも異能解放戦線も、適度に損耗してほしいね。両陣営、日本の未来のために頑張って」

 

 神代コナンは、ただ歩くだけで人の心を乱す。場合によっては、隣の人と肩がぶつかっただけで殺し合いに発展する。この敵味方入り混じる戦場では、彼の個性は“最低最悪”の災厄だった。

 

 恐怖が恐怖を呼び、疑心暗鬼が加速する。

 

 この状況下で、万が一ヒーロー側が勝利したとしても――大半はタルタロス行きとなる。AFOによる個性狩りの対象となるのは、戦闘に参加した者すべてだ。

 

 いかなる理由であろうとも言い訳は通じない。なぜなら、数か月前、学生の身分で死に物狂いの状況下、女性を助けるために殺人を犯した未成年の少年が厳罰を受けた。それを踏まえれば、ヒーロー資格保有者や仮免許保有者が戦闘中に殺人を犯した場合、死刑か無期懲役は確定的だ。

 

 ヒーロー側も、ヴィラン側も――どちらかが“勝ちすぎないように”する。それが、日本政府の思惑だった。

 

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