H・EROアカデミア   作:新グロモント

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55:異能解放戦線3

 異能解放戦線とヒーローとの戦いの場に、圧倒的な狂気が生まれようとしていた。きっかけとなった出来事は、些細な一言だった。

「どうせ殺されない。機を待てば再起できる。くたばれヒーロー」

 

  そんな勝ち誇った顔をしたヴィランの態度に、あるヒーローが無性に苛立ちを覚えた。ヒーロー側の“不殺”――それは、ヒーローとしての立場を守るため、またヴィランであっても命の尊厳を認めるという精神から成り立っていた。

 

 だが、そのバランスは、神代コナンの個性によって崩壊する。

 

 それだけで、ヒーローの堪忍袋の緒は切れた。彼のサイドキックは、異能解放戦線との戦いで重傷を負い、顔半分を火傷して失明していた。それほどの犠牲を払っても、ヴィランの扱いは手厚く、ヒーロー側は保険業者に文句を言われ、市民からは「何やってんだ」と揶揄される。

 

 サイキックヒーローとして名を馳せた彼は、普段なら考えられない行動に出る。乱戦の中なら、誰にもバレることはない。

 

「あまり調子に乗るな、ゴミ。“捩れろ”」

 

 その瞬間、ヴィランの心臓に謎の圧力がかかり、圧壊する。外傷はなく、急にヴィランが静かになった。司法解剖されればバレる可能性はあるが、敵の数が多すぎて死因を一つ一つ調べる余裕などない。

 

 敵を確保するより、殺した方が圧倒的に楽で合理的。

 

 そして、その狂気は一人、また一人と伝染していく。

 

 範囲殲滅力を持つセメントス、マッドマン、シーメイジにもその狂気は感染する。土葬と窒息の最悪コンボで、圧倒的な殺害数を誇る。彼らは「他のヒーローの負担を減らすため」と自分に言い聞かせていた。

 

 チャージズマの彼も同様だった。後方にいるクラスメイトを守るため、彼は“男”になる。敵幹部から奪った雷の電力を、襲ってくるヴィランに利用し、脳を焼き切った。外傷からはバレないと信じ、徐々に倫理観のタガが外れていく。

 

 ヴィラン殺しを実行したヒーローたちの言い訳は、「誰かを守るため、仕方なかった」。その免罪符を心に持つことで、彼らは心の安定を保とうとする。

 

 だが、空気の変化にヴィランたちも敏感だった。「殺さねば、殺される」――ヒーローがヴィランと同じ土俵に立った瞬間だった。

 

 大事なことだが、「バレなきゃ犯罪じゃない」。

 それをヒーローがやり始めた時点で、もはやヴィランとヒーローの違いは消える。

 

………

……

 

 そんな襲撃を受けている異能解放戦線とは別に、蛇腔病院にもヒーローたちの捜査の手が及ぼうとしていた。だが、すでに情報が漏洩していることもあり、院長であるドクターは何ら困る様子はなかった。

 

 ハイエンド、ニアハイエンドはすでに起動済み。通常の脳無たちも準備は整っていた。

 ここを本気で潰すなら、ヒーローたちの総力が必要になる。この拠点には、莫大な時間と費用がかけられており、新しい場所で再開するには途方もない労力が必要となる。だからこそ、万全な状態でヒーローを迎え撃てるなら、逃亡するつもりはなかった。

 

『分かりました、神代論理次官。そのようにドクターにはお伝えいたします』

 

 ドクターの傍らにいるのは、日本政府との連絡役兼、死柄木弔の治癒役として派遣されている癒月静治癒官。ドクターとしても、飲まず食わずでは暮らせない。一定以上の信頼ができる人物はありがたい存在だった。

 

「山荘側ではすでにヒーローによる襲撃が始まりました。蛇腔病院も間もなく始まります。こちらに割り当てられた主力戦力は、エンデヴァー、ミルコ、プレゼントマイク、イレイサーヘッドと他数名のトップヒーローです」

 

「随分と甘く見られたものじゃ。こちらにはハイエンドやニアハイエンドの情報が漏れていないとはいえ、USJの一件もあったのに。しかも、入院患者を避難までさせとる。で、お前さんはどうする?必要なら安全地帯まで転送くらいはしてやるぞ」

 

 本来は、あと一か月ほどドクターのもとで働く予定だった癒月静。

 

 だが、ヒーローたちの突入において、彼女が役に立てることは少ない。夜ならば個性による回復支援もできただろうが、昼間では非力な女性に過ぎない。

 

 そういうことなら、送ってもらおうと考えた。万が一、姿を見られたら面倒なのは事実だ。

 

「それでは、お言葉に甘えて……市街の拠点までお願いします。後は、こちらの人員に回収してもらいますので。これからも、我々日本政府の内閣府直属機関『H・EROアカデミア』を御贔屓に」

 

「あぁ。しかし、お前さん……本当に何も手土産はいらんのか?儂はてっきり、ここの研究成果の一つや二つくらい盗んでいくと思ったんじゃがな。それらしい行動一つも見せんとは」

 

「当然です。私が依頼を受けたのは死柄木弔の治療役。そして、研究に没頭できるようにドクターの身の回りの世話だけです。それに、仮にも日本政府がヴィランの研究に手を貸したらダメでしょう。そういうことは、“悪と正義が入れ替わってから”にしますとのことです……これは、神代論理次官からの伝言です」

 

「まったく。最近の若者は、どいつもこいつも恐ろしい連中ばかりじゃ。仕方ないの~。本当なら、手土産の一つでも強請られれば渡そうと思っていたんだが……こいつもお前さんたちにくれてやる。最近、日曜5時枠で放送していたアニメから着想を得て作った愛玩タイプの脳無――QBじゃ」

 

 どこぞの魔法少女の相棒のような、可愛らしい脳無。

 

 ドクターは最近、愛玩用の脳無を何体か作っており、異常なほど可愛がっている。それぞれ、二倍の個性と移動用個性を付与されているなど、手のかけようは尋常ではない。

 

「これ、爆弾とか仕込んでませんよね? 私が持ち帰ったら、お前ら全員焼却してやるとか、そういうオチじゃないでしょうね?」

 

「失礼な! この子が持つ個性は、ありふれたテレパシーだけじゃよ。気になるなら、あの神代に見せればいいだろう。すぐに分かることだ」

 

 癒月静は少し考え込む。

 

 将来、自分の子どもがこのQBと名付けられた脳無を見て育つのかと思うと、複雑な気持ちになる。そのうち「僕と契約してヴィランになってよ」などと口走るのではないか――そんな妄想が頭をよぎる。AFOも一人称が「僕」だから、余計にその影がちらつく。

 

 そして、対価に個性を貰って悪の手先になる――もはや“個性パパ活おじさん”という言葉に偽りがなくなってきた気がする。だが、それを口に出すほど彼女は子どもではない。

 

「そういうことでしたら、頂いておきます。では、すべてが終わりましたら、またお会いしましょう。ドクター」

 

「儂の長年の研究成果、高台から見ておくがいい。これが、儂とAFOの努力と研究の結晶じゃ」

 

 癒月静が市街に転送された後、ドクターは知ることになる。

 

 神代コナンによる狂気が拡大しており、蛇腔病院に突入してくるヒーローたちが“血も涙もない存在”に変貌していることを。そもそも、脳無相手に手加減などしない。だが、それは“戦術的な無慈悲”ではなく、“感情的な殺意”に変わっていた。

 

 まさか、地上から地下に向けてエンデヴァーの最大火力――プロミネンスバーンが貫通してくるなど、ドクターは想定していなかった。脳無とはいえ、見えない一撃で消し炭も残らないほどの攻撃を受けては、超再生など意味をなさない。

 

「嘘ぉぉぉーーーー!! 儂のハイエンド達がぁぁぁぁぁぁ!」

 

「見つけたぞ。AFOの片腕ぇぇぇぇ!」

 

 ドクターは、ヒーローたちの突入が“作戦”ではなく“処刑”であることを悟る。倫理も手順も、すでに崩壊していた。

 




異能解放戦線…実は、超常解放戦線に改名されているタイミングだった( ゚Д゚)

A「僕と契約して、ヴィランになってよ。どんな願いもかなえてあげる。だから、ヒーロー達と戦ってほしんだ」

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