血も涙もないヒーローたちは、蛇腔病院の攻略において“本筋”とは異なる手段を選び始めていた。本来の作戦は、施設をできるだけ無傷で確保しつつ、ドクターの身柄を拘束。そして、この地で強化されているであろう死柄木弔を排除することが目的だった。
当然、ドクター側もそれを阻止すべく、避難活動を妨害するために脳無たちを放った。だが――殺意に目覚めたヒーローたちは、そんな妨害を一切無視し、最高効率でドクターと死柄木弔の排除に乗り出す。
地上から地下まで、エンデヴァーのプロミネンスバーンで貫通させるという荒業。なだれ込んでくるプロヒーローたち。ハイエンドが焼却されたことは、ドクターにとって完全に想定外だった。
だが、この施設にはまだニアハイエンドや上位脳無が残っている。勝機は、まだある――そう信じていた。
「だが、まだニアハイエンドがいる!! これだけの脳無相手では、さすがのプロヒーローでも……えっ!?」
「ほぅ。では、その脳無たちに貴様を守るよう命じるがいい。クタバレ、魔王の手先ぃぃぃぃーーーー!! プロミネンスーーーーーー!!」
ドクター、そしてその背後にいる死柄木弔もろとも、この世から焼却すべく――エンデヴァーの最高火力が放たれようとしていた。無理をすれば、二発程度は放てる必殺技。しかも、冷却個性持ちがフル稼働してエンデヴァーを補助している。
「それは、ヒーローがやっちゃアカンやつ!!ニアハイエンドたちよ、儂と弔の壁となって守れぇぇぇぇ!ジョンちゃんは、その間に儂らを転送……あれ、ジョンちゃんは?」
「一か所に集まることで、全員の個性がまとめて抹消できる。実に合理的な作戦だ」
バリア、硬化、盾、超回復――耐久系個性持ちを肉壁にしようとも、“ラスボスもクソ個性”と呼ばれる抹消が使われては、脳無など本当に“壁”にしかならない。ニアハイエンドだけでは足りない。全脳無を導入しなければ死ぬ――そう直感したドクター。
「こんなところで、儂の野望が……AFOの野望が消えてなるものかぁぁぁぁーーーー!! 全脳無、儂らを全力で守れ! 一分一秒でも多く時間を稼ぐんじゃ!」
「バーーーーーーーン!!」
ドクターは移動式の椅子に乗り込み、必死で死柄木弔のもとへ向かう。逃亡用のジョンちゃんも脳無であり、ドクターの逃亡のために肉壁へと向かっていた。
起死回生の一手は、死柄木弔を起こして戦わせること。
AFOがタルタロスの地下で神代壊理から個性を奪い、元気な肉体でスマブラを楽しんでいるなど、知る由もない。心優しいAFOは、巻き戻しの個性で壊理の個性を失う前に戻している。これは、万が一巻き戻しを失っても再度手に入れられる“投資”だった。
膨大な熱量が地下施設を包み込む。
殺意に目覚めたエンデヴァーの一撃は、余波だけで周囲の機材を融解させるほど。ヒーローたちも火傷を負う者が出ているが、殺意による脳内ホルモンがドバドバ出ており、痛みを感じていない。
ドクターはその熱波で火傷を負う。だが、焼け焦げる肌の痛みに耐えながら、必死に死柄木弔のもとへ辿り着く。仮死状態で眠る死柄木弔を起こすべく、機械を操作する。
その機械には「80%」という数字――完成まで残り20%。
それで、完璧な存在になれるはずだった。背に腹は代えられない。すぐに、蘇生モジュールを起動する。
「一体、儂が何をしたんじゃ……世のため人のため、医者になり、個性で苦しむ者の相談に乗った。個性に悩む子供を育てるための児童施設も作った。地域の開業医たちとも定期的に交流し、地域密着の医療も展開した。税金だって一円も漏れずに申告しとる。この地下施設だって、すべて国の認可が下りておるし、固定資産税だって払っとる。脳無だって、税金をチューチューしとる奴にしかけしかけておらんじゃろう!」
実際、脳無による被害などほとんどない。
エンデヴァーと九州で戦った際にビルが半壊したが、それでもヒーローの保険金で立て直しされ、保険会社以外は実質被害ゼロだった。
蘇生モジュール完了まで残り30秒。
わずかな時間だが、ドクターにとっては無限にも感じられるほど長い。ヒーローたちは、消し炭となった脳無や生まれたての脳無を押しのけ、今まさにこの場に迫ってきている。
根津校長と並び、日本が誇る“聖人”――ドクター改め氏子達磨。その彼の野望を、日本トップヒーローの一人・ミルコが打ち砕く。
他のヒーローたちより一足早く先行してきた彼女の足が、死柄木弔が蘇生しているガラスポットを砕こうとしていた。防弾仕様の強化ガラスだったため、一撃目は耐えた。だが、追撃の構えを取るミルコを止める術は、ドクターにはなかった。
「や、止めてくれーーーー!! それは、人類の宝じゃーーーー!」
「うるせぇーー。クタバレーーー満月乱蹴!」
日本No.5ヒーローの殺意が込められた一撃は、死柄木弔を守る最後の砦を打ち砕くのに十分だった。ガラス容器の液体が流れ落ち、死柄木弔も床に崩れ落ちる。
心臓は停止しており、完全に“死体”。蘇生は不完全であり、あとは腐り落ちるだけ――そう思われた。だが、捨てる神あれば拾う神あり。
山荘より脱出した裏ビティ一行が、この場に滑り込む。
ドクターの前に立ち、ヒーローたちを前に一歩も退かない漆黒のアーマーを纏った裏ビティ。今のドクターにとっては、AFOにも匹敵するほど眩しく輝いていた。
『遅くなりました!! 状況は!?』
「弔は、まだ間に合う!! 何とか蘇生をしてくれ!」
アーマード・裏ビティの腕からウィップが飛び出し、電流が流れる。 どうすれば蘇生できるかなど、裏ビティは知らない。だが、AEDのような感覚で「とりあえず電気ショックを流せば生き返るかも」と思い、実行した。
この行いがヴィラン勝利のカギとなるとは彼女も知らなかった。だが、ヒーロー視点でいえば、最悪なタイミングで現れた悪魔に映っただろう。ヴィラン連合を引き連れて、ドクターの窮地を救い、死柄木弔を蘇生する。
それが、ヴィラン勝利の鍵となるとは、彼女自身も知らなかった。
死柄木弔の体が、微かに痙攣する。身体が一瞬だけ跳ね上がり、再び沈黙――だが、裏ビティの電撃が二度、三度と繰り返されると、心拍が再び動き始める。
「……生きてる。弔が、生きてる!」
ドクターの目に涙が浮かぶ。それは、科学者としての達成感ではなく、制度の中で“見捨てられた者”を救う者への感謝だった。
………
……
…
そのころ、山荘では――殺意に目覚めた八百万百が、大量の異能解放戦線を鎮圧するため、ある行動に出ていた。殺意に心を支配されつつある中、僅かな理性が彼女を踏み留めていた。これ以上、悲惨な状況にならないように彼女の頭脳がある回答を導き出す。
ヒーローたちは、八百万百からその連絡を受け、狂気を抑えながら撤退を始める。そして、これから起こる事態をサポートするのは、夜嵐イナサ。
彼の個性は「旋風」。 まさに、この作戦に適任だった。
八百万百と夜嵐イナサはガスマスクを装着し、個性をフル活用する。創造の個性で生み出される合成麻薬――それを暴風に乗せて、敵を一気に制圧する。
「では、生きますわよ。フェンタニルの舞」
「うっしゃーーー。任せておけーーー。どこに隠れても、必ず届けてみせるっす!」
まさに、地獄のような個性の使い方だった。わずか数ミリグラムで人間を廃人にする麻薬を風に乗せ、山荘の隅々にまで行き渡らせてヴィランたちを制圧する。殺意に目覚めたヒーローが多い中で、実に理性的かつ非殺傷な制圧方法だった。
こうして、裏ビティたちが脱出した後――山荘を根城にしていた異能解放戦線の生き残りは、すべて人間としての尊厳を破壊されることになる。
これが、ヒーローのオールマイトの教え子の“戦い方”だった。
アメリカが準備を始めました。
弱体化に上限がないため…こんな使い方もできる。
☆「『童貞』は、キャスリーン・ベイトを認識できない」
神「馬鹿め。そんなくだらない事に新秩序を一つ消費した。これで、勝てますよ、死柄木弔さん、AFOさん。……えっ、おーい、どこ見てるんですか?」
弔「……先生、まだ本調子じゃないからここは任せた」
A「……僕も女性を殴るのは趣味じゃないからね。じゃあ、僕と一緒に神代君を支援しよう。ここは日本政府に花を持たせるのも悪くない」