H・EROアカデミア   作:新グロモント

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60:異能解放戦線8

 神代真一は、事態の進行が理解を超えていることに困惑していた。

 

 ヴィラン連合の“タクシー”としての任務だったはずの裏ビティが、なぜ主力陣営と混ざってヒーローと対峙しているのか。それどころか、蛇腔病院を地下施設ごと地上に持ち上げてラピュタを再現するなど、命令には一切含まれていない。

 

 ――化け物が、化け物らしい進化を遂げる。

 

 そろそろ首輪をつけておかないと、飼い犬に手を噛まれる。神代はそう考える。

 

 麗日お茶子のアキレス腱――それは「家族」だ。善性を捨てきれない彼女は、家族を見捨てることができない。それは、神代の眼で確認した限り、確かな事実だった。

 

 麗日家の建築会社は、すでに株式の大半をAFOと日本政府が保有している。会社とは社長の持ち物ではなく、株主の持ち物。親族が保有していた株も、札束で頬を叩いて買い占められている。

 

「恐怖で人を縛るのでは上手くいかない。彼女には、立場で縛られてもらいましょう。彼女は、人の期待を裏切れない……期待していますよ。緑谷君のお嫁さん」

 

 彼女の個性は、慣性を遮断するという特性から、西側諸国に対して絶対的な破壊力を持つ。太平洋から来るであろうアメリカ相手には、地形そのものを武器にできる“極悪な存在”だ。

 

 今、日本のヒーロー業界は、風前の灯となりつつあった。

 

 現在放送されている「地獄の轟家」。日本No.1ヒーローによる個性婚、望む個性が生まれなかったことによる虐待、育児放棄、そして長男のヴィラン化。これらはすべて事実に基づいて構成されており、誰も否定できなかった。

 

 実際、荼毘の母親は現在入院中である。

 

 更に保険業界、銀行業界といった金に敏い連中の動きは迅速だ。日本政府のように思い腰を上げる必要はない。彼らは独自の情報網を駆使し、この戦いを監視するため、あらゆる手段を用いていた。銀行員や取引先にいる監視系個性持ちを総動員している。

 

 ヒーローとヴィランの立場が入れ替われば、犯罪者に口座を提供していた銀行となる。そうなる前に、口座を封鎖し、資金を持ち出せないようにする。日本政府が依頼する前から動くその仕事の速さは、賞賛に値する。

 

 神代のもとに、日本政府の決定事項が回ってくる。

 当初より若干予定は早いが、ここで政府はヒーローたちを“斬り捨てる”。毎年数十兆円規模の税金を投入しているにもかかわらず、今回の作戦失敗は重くのしかかる。正義は、勝たねばならない。作戦失敗が簡単に許されると思っている時点で、すでに間違いだ。

 

 そんな愚行を犯したヒーローたちは、山荘と共に“チリ”になっている。つまり、ヒーローとテロリストが“いい具合に減った”ことになる。

 

 蛇腔病院にはトップヒーローも残っているが、替えが効く個性ばかりで、失っても惜しくはない。それより重要なのは、ドクターの技術、トゥワイスの個性、トガヒミコの個性―そして、AFOのバックアップ的存在である死柄木弔だ。

 

 神代が今後の行動を思案していると、とても“偉い人”から電話がかかってきた。

 

『神代君。今回のヒーロー作戦失敗に伴い、内閣総理大臣が辞任する。その後釜には、かねてより調整していた死柄木全……通称AFOが就任することが政府内部で決まったよ。これも、君の個性のおかげで物分かりのいい議員が揃っていたおかげだ』

 

『いいえ。今の日本を支えられたのは、総理のご尽力があってこそです。AFOもそのことを深く理解しております。また、タルタロスでの配慮も含めて、死柄木内閣発足後は現政権には良いポジションをお約束いただいております。AFOは、基本的に“悪の象徴”であり続けるようなので、雑務は今まで通りをご希望と伺っております』

 

 数時間後、日本政府は内閣交代を世界に通知する。

 後任には選挙など面倒な手続きはなく、AFOが就任する。誰も異議を唱えない。彼ほど“力”のある人物が他にいないからだ。

 

 そして、それを支える準備も政府主体で進められてきた。

 

 その一つが――日本のヒーローたちの“実態”だ。彼らの活動を援助するため、毎年莫大な税金が投入されている。その財源は社会保険料であり、税金で個人事業を営んでいる。さらに、彼らは政府が用意した“ヴィラン役”のヒーローを毎度捕まえて町を守っていると主張している。

 

 今回のような“本物”のヴィランやテロリスト討伐となると、任務を放棄して政府に後を任せようとする。その実態も添えられる。逃げ場はない。

 

 野生のヴィランなど、全国で発生している事件の1%程度しか存在しない。この事実を知れば、世間は「ヒーローに税金を使うより、他に使え」と言うだろう。

 

 それこそ、AFOの思うつぼだ。世論に従い、ヒーロー補助金を大幅減額し、軍事費を増大させるだろう。ヒーローという職業は消え、軍人として雇用する方がはるかに安上がりで命令権も所有できる。

 

 それが嫌なら、他国にでも行けばいい。

 

『では、今後もAFO殿との調整を頼んだよ。それと、五年もすれば君も大臣だ。おめでとう、20代の若さで日本の大臣になれるなんて滅多にない事だよ。成人した暁には、AFO殿を含めて盛大に祝わせてもらうよ』

 

『ありがとうございます。ありがとうございます』

 

 これで神代真一は、かねてより考えていた“制度を作る側”の人間になる。

 

 夢の一つが、現実の道筋として見えてきた。ならば、あとは本腰を入れるだけ。腐ったヒーロー業界には早々に退場してもらい、血税は使うべきところに使うべきだ。

 

 神代は、H・EROアカデミアの全員に伝達する。

 

『これより、我々H・EROアカデミアはプランBを実行します。各自は速やかにヒーローたちの親族保護を止め、帰投せよ。補給を終えたのち、直ちにヴィラン連合の支援に向かってください。誘拐されても問題ありません。AFOが首相になれば、色を付けて返しに来ますよ。火種はどの国も欲しくはありませんからね……あ、ただし裏ビティさんの家は例外です。必ず守ってください』

 

 通話を切った神代真一は、次なる連絡先へと手を伸ばす。

 公安、警察庁、海上自衛隊――これまで個性で恩を売ってきた各機関に、今こそ“回収”の時だと告げる。そして、日本各地に配備されているアダムス・マッシャー部隊にも、集合要請が発令される。

 

 AFOが首相に就任した直後、国内外からの反発は避けられない。その鎮圧のためには、どれほどの戦力があっても足りない。神代は、すでに“戦後の秩序”を見据えて動いていた。

 

………

……

 

 この状況を最も楽しんでいるのは――AFOだった。

 

 彼のオールマイトへの嫌がらせは、まだ終わらない。

「人の嫌がることを率先してやりましょう」――それが、彼の信条だ。

 

 巻き戻しの個性によって、30代前半の男前に若返ったAFOは、ある下町に家を購入していた。隣の家には「八木」という表札が掛かっており、今は一人暮らしの年配女性が住んでいる。

 

「オールマイト。僕はね、君が嫌がることをするのが大好きなんだよ。君に“お義父さん”と呼ばれるのは虫唾が走るが、君がもっと苦渋を感じるなら、それは僕にとって最高の喜びだよ」

 

 隣人として徐々に親密になり、巻き戻しの個性を持つことを明かす。

 

 そして、若返りを体験させることで距離を縮めていく――それが彼の作戦だった。誰もが歳をとる中で、“若返り”という現象には憧れがある。

 

 年老いた女性であれば、「あの頃は……」と思うことも多いだろう。

 

 そして、紳士的で素敵な男性がそんな個性で女性を若返らせればどうなるか――つまり、そういうことだ。

 

 これが、“個性パパ活おじさん”の本当の力。

 

 この手の攻略において絶対的な力をもつ神代真一の出番もやってくる。女性を堕とす事にかけては、AFOも神代真一の手腕をべた褒めするほどだ。

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