天空のラピュタと化した蛇腔病院とその地下施設。
裏ビティにとっては無敵のフィールド――のはずだったが、意外にも狭い空間は戦いづらい。そして今、オールマイトに匹敵するポテンシャルを秘めた死柄木弔を前に、近接戦闘型のヒーローたちは次々とぼろ雑巾のように倒れていく。
崩壊の個性は伝染し、超再生も備え、個性の盛り合わせ状態。「クソゲー」と言われても仕方がない。唯一、彼に致命傷を与えられそうなエンデヴァーは、すでに二度のプロミネンスバーンで疲労困憊。
さらに、死んだと思っていた長男との再会で心が折れていた。
かすかな勝利の希望――イレイザーヘッドは、裏ビティが対峙していた。
「ヴィラン連合にスパイがいるのは分かっていた。だが、生徒であるとは疑いたくなかった。なぜだ、麗日。どうして、お前がスパイなんだ。裏は徹底的に洗った。それなのに、お前の経歴に不審な点は何処にもなかった」
「スパイじゃありませんよ。あの~、悪いことは言いませんから投降してください。私から上の方に何とか掛け合いますから。相澤先生の抹消の個性は、これからの社会にも必要だと思うんです。本当にそう思ってるんですよ」
一年にも満たない短い付き合いの教師だが、相澤先生が立派な人物であることは裏ビティも知っている。USJ事件の際、命を顧みず生徒を守った姿は、なかなかできることではない。
「麗日。お前、やっぱり洗脳されてないだろう。演技忘れてるぞ……悩みがあるなら聞いてやる。誰かに脅されているのか。……本当は、スパイは神代だと思っていた。だが、奴は林間学校後に退学して、それ以降文化祭まで顔すら出さなかった。あれは、麗日という存在を隠すための撒き餌だったんだな。何食わぬ顔で日常を送っていたお前は、アカデミー女優も真っ青な演技力だったぞ」
「だから、話を聞いてって!! 私は本当にスパイでもなんでもないです。どこの世界にこんな丸顔のスパイがいるんですか!どこにでもいる女子高生です」
“どこにでもいる女子高生”――それが裏ビティの自己定義。だが、なかなか無理がある。清純系AV女優並みに矛盾した言葉だ。
「寮生活になってからも、夜に抜け出していただろう。
インターン先も神代の親戚だった。
慣性遮断が急に目覚めたのも怪しい。
急に金回りが良くなったのも怪しい。
OFAを持つ緑谷に一番近い女ってのも怪しい。
ガラケーしか持ってないのも怪しい。
実家の建築会社の業績が急に右肩上がりになったのも怪しい。
神代と一緒に退学した葉隠が唯一お前とだけ連絡を取っていたのも怪しい。
数えればきりがないぞ」
「そうだけど、違います。スパイは他にいるんですって!! それに、私はこの仕事をして気づいたんです。ヒーローって思ってたのと違うなって。あと、AFOさんって、ちょっとスマブラが上手い親戚のおじさんみたいな人じゃないですか。今思えば、そこまで悪いことしてないと思います」
裏事情を知るがゆえに、実はAFOよりヒーロー業界の方が“悪”なのではないかという結論に至る裏ビティ。正直に言えば、オールマイト一人を生贄にするだけで日本が平和になる可能性すらある。
「AFOがいい人だと? お前は、あの暗黒期を知らないからそんなことが言える。これは教育的指導が必要だな」
「だから、人の話を聞いてください。相澤先生じゃ、私に勝てないんですって。このアーマード・裏ビティは、個性ではなく完全な兵器なんですよ。クラスメイト全員の個性を再現してるから、本当に殺しちゃいますって。時間稼ぎしても誰も助けに来ないんですから、投降してください」
そう言いながら、裏ビティはこっそり床下を経由してイレイザーヘッドの真下までウィップを伸ばしていた。AIによる自動運転も可能で、操縦者の意図を汲み取って動いてくれる。
地面を突き破る一瞬でイレイザーヘッドを捕縛。
彼の得意技である捕縛を麗日に使われたことは、彼にとってもショックだった。この瞬間、麗日の個性を抹消しようかと考えたが、それではこのラピュタが地上に落ちてしまう。
その被害は想像を絶する。つまり――何もできない。
「くそ、俺としたことが……」
「相澤先生。後で、しっかり話をさせてください。私は、被害者なんです。まるで加害者みたいに言われるのは納得できません。とりあえず、麻袋を顔に被せてウィップで拘束して、壁に押し付けてから慣性遮断……これで西側に向けて常にマッハの荷重がかかります。大丈夫ですって、先生は丈夫だからこの程度では死なないのは知ってますから」
若い子供は、大人の知らない場所で成長する。
裏ビティは、裏家業に首を突っ込み、殺しの経験も含めて多くを積んできた。その戦闘経験値は、すでにトップヒーローに片足を突っ込むレベル。出禁不可避の個性抹消を完封した彼女。
イレイザーヘッドをAFOに捧げれば、裏ビティの立場はうなぎ登りだろう。
「麗日。戻ってこい!! お前は、そっち側にいていい人間じゃない。今ならやり直せる!!」
「だから、私はそっち側の人間じゃないって何度も言わせないでよ。……あれ?これってワープゲート?なんで?」
突如、裏ビティの前に現れるワープゲート。
黒霧の個性だ。彼は表向きにはタルタロスに厳重拘束されているはずだった。だが、政府がヒーローを斬り捨てた今、その枷は解かれた。
黒い霧の中から、完全武装したH・EROアカデミアの部隊がぞろぞろと現れる。海自303式強化外骨格を4機、ドミネーターを装備した特殊部隊員たち。
その中に、裏ビティは見知った顔を見つける。――神代真一だった。
「ちょっと、ワープゲートはまだ露見させられないって……あれ。じゃあ、もしかして“アレ”が始まったの!?」
「えぇ、ご察しの通りですよ、裏ビティさん。それと、イレイザーヘッドを無力化してくださっていたんですね。ありがとうございます。裏ビティさんの働きは、AFO殿も大層喜ばれております。さすがは“最側近”と呼ばれるだけのことはあります。彼の輸送は我々が担いますので、どうぞ、このラピュタの維持を」
「そこにいるのは神代か!! やっぱり、麗日の部下がお前だったんだな。俺としたことが、見え見えの罠に嵌まったぜ……怪しすぎるお前に目が行き過ぎていた」
H・EROアカデミアの隊員たちも、笑いをこらえるのに必死だった。
「イレイザーヘッド。裏ビティ“さん”だ。“さん”をつけてください。爆豪君も少し抵抗しましたが、素直に従ってくれましたよ。なんせ、爆豪君は裏ビティさんに返しきれないほどの大きな恩がありますからね」
「合ってるけど、そうじゃないでしょ。そうじゃ。どうして、みんな私を“悪の手先”みたいに虚像で仕立て上げるの。やめてよ、私はどこにでもいる平凡な女子高生なんだから!」
「お前のような女子高生が何人もいてたまるか……麗日……」
そう言い残して、イレイザーヘッドは意識を失った。
完全に誤解されたまま、言いたいことだけ言って倒れていくイレイザーヘッドに、裏ビティは内心ムカつきを隠せなかった。その鬱憤を、これからヒーローたちで晴らすつもりだった。
漆黒のアーマーに身を包んだアーマード裏ビティを先頭に、彼女に従うようにH・EROアカデミアの部隊が移動を開始する。裏ビティには“不殺”の心が一応あるが、他の者たちにはない。一切合切、殺して進む。
その光景を見たヒーローたちにとっては、まさに悪夢だった。どんな攻撃も通らない。近代兵器最強の一角である海自303式強化外骨格を貫通できる個性は、トップヒーローの中でも一握りしかいない。
そんな一行を見て、死柄木弔が近づいてくる。
全裸で戦っていた彼に、神代真一が衣服を手渡す。今の死柄木弔には、強化スーツなど必要ない。その肉体は、すでに“完成”されていた。
「思い出したぜ、やっとだ。神代真一……昔、遊んだことがあったな。確か、志村ダンゾウのところの子供だったか。こんな場所で従弟と再会するなんてな。懐かしいぜ、真一君」
「やっと思い出してくれましたか、転弧君。64でスマブラをやりましたよね」
「思い出したぜ、あのクソピカチュウ使いが」
「カービィ使いに言われたくありませんね。では、改めて状況を説明します。我々日本政府は、AFOを内閣総理大臣として迎え入れます。そして、この場にいる全兵力は、この時点よりあなたの傘下となります。ご自由にご命令ください。日本の腐ったヒーロー業界は滅ぼすことが既定路線ですので、ご安心を」
さすがに耳を疑う死柄木弔。だが、それは事実だった。その証拠に、黒霧もこの場に現れ、死柄木との再会を喜んでいる。
「弔!! 長らくお待たせしました。タルタロスからあなたの成長を見守り、会える日を楽しみにしておりました」
「黒霧じゃん。じゃあ先生も解放されてんのか……負ける未来が見えねぇゲームだな」
清々しい顔をする死柄木弔。そして、彼は最初の命令を下す。
「帰って、みんなでスマブラするぞ。黒霧、真一君、裏ビティ“さん”」
「えぇ、喜んで転弧君。ですが、AFO殿はホムラ使いで強いですよ」
「私はタルタロスで特訓しましたので、ある程度やれます。サポートいたしますよ、弔」
「いやいやいや、絶対に私のポジションおかしいでしょう。なんで、悪の手先まで私のこと“さん”付けなの!? もう、やめてよ〜!」
圧倒的フィジカルと個性を誇る死柄木弔の攻撃で、ヒーローたちは紙屑のように消し飛ぶ。
どこに隠れても、神代真一の個性で無機物の経歴が読まれ、個性まで把握される。
ワープゲートで全ての攻撃を別の場所へ飛ばす絶対防御。さらに空間遮断で全てを切断する。
触れるものすべてを音速で飛ばし、A組全員の個性を機械的に再現したアーマード裏ビティを装着する――世界最強の女に最も近い存在、それが裏ビティだった。
そして、それらを支援する国内最精鋭部隊。
彼らの殲滅力を前に、プロヒーローたちはなすすべなく倒れていった。
この事件は、後の日本における歴史の転換点として語り継がれる。近代世界史において、ヴィランによるクーデター成功事例として――日本の名が刻まれることになる。
やっと、終わりが見えてきた。
ヒロアカ名作・・・ここまでたどり着くのは長かっ…あれ?そうでもないか。