H・EROアカデミア   作:新グロモント

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62:ヒーロー殺し1

 ヒーローたちの敗北というニュースは、日本国内ではさほど問題視されなかった。それよりも国民の怒りを買ったのは、ヒーロー業界を支えるために毎年何十兆円もの税金が投入されていたという事実だった。

 

 しかも、ヴィラン役までヒーローが演じていた。国家ぐるみのエンターテインメント構造が明るみに出れば、国民の怒りは天元突破する。ヒーローが飽和し、国民の負担で“いい飯”を食っていたとなれば、誰だって納得できない。

 

 当然、日本政府にも批判が集中する。

 

 その責任を取る形で内閣総理大臣が辞任し、代わって就任したのは、強いリーダー――AFO改め、死柄木全。この人事により、誰も文句を言わなくなった。

 

 国民は、反撃されないと分かっているからこそ文句を言う。だが、この政権は違う。やられたら必ずやり返す。しかも、死柄木政権とは名ばかりで、実態は従来の官僚機構がそのまま運営を続ける。結果として、日本政府はかつてないほど政治がやりやすくなった。

 

 ただし、腐敗や怠慢は即“死”に直結する。

 

 本気で政治に臨む者だけが、政治を担う時代が始まった。

 

 新政権が最初に着手したのは、ヒーロー業界への補助金の大幅削減だった。毎年80%ずつ減額し、3年後には完全撤廃を明言。ヒーロー制度は、国家の支出から切り離されることとなった。

 

 代わりに、ドクターの医療技術と個性の知見を活用した医療改革が始動する。元々、高い知名度と権威を持つ医師であり、脳無を製造できるほどの技術力を持つ彼の知見は、医療界にとって“鬼に金棒”どころではない。

 

 さらに、異形系個性への差別は「AFOへの反抗」と見なすと宣言。これにより、異形系国民から絶大な支持を獲得する。

 

 国外への対策も抜かりはない。巻き戻しの個性とオーバーホールの個性を活用し、独裁国家の権力者や世界的富豪とのコネクションを構築。アメリカ、中国、ロシア、インド、EUなど、主要国が新政権を承認。国連では悲願だった常任理事国入りが決定し、日本経済はとんとん拍子で上向きに転じた。

 

 今まで特権を濫用していたヒーローたち以外は、この恩恵を享受し、新政権を歓迎した。「ヴィランこそ真の救世主」「ヒーローこそ真のヴィランだったのでは」と言われるほど、世論は反転する。

 

 その空気をいち早く察知したのがマスコミだった。彼らは視聴率が取れるなら何でもやる。オールマイト登場に絡めて、ヒーロー補助金や債務増大に着目した特番が次々と組まれ始める。

 

 こうして、日本には高度経済成長と平和な時代が訪れた。

 

 町を歩いてもヴィランやヒーローに遭遇することは滅多にない。それが、かつて以上に安全だったことを国民は実感する。

 

 ただし、まれに野生のヴィランが現れる。「ヒーローがいないなら犯罪し放題」「個性を悪用し放題」などと考える愚か者もいる。

 

 もちろん、力を使うのは自由だ。だが、日本各地には過剰防衛システム「アダム・スマッシャー」が配備されている。彼らは逮捕などしない。ただ、殺す。再犯防止と犯罪率低下を同時に実現する一石二鳥の策。

 

 この状況が整うまで、わずか一か月。これこそが、ヒーローでは決して成し得なかった“本当の力”の使い方だった。

 

………

……

 

 そのころ、日本有数のヒーロー科を擁する雄英高校では、大きな変化は見られなかった。まるで一か月前のヴィランとヒーローの衝突などなかったかのように、日常が続いていた。AFOは、雄英高校のようなヒーロー教育機関に対して一切の干渉を行っていない。

 

 むしろ「子供は学業に励むべきだろう」と考えているほどだった。

 

 とはいえ、外部では確実に変化が起きていた。この一か月で、全国のヒーロー事務所のうち約3割が倒産。世間からのバッシングに加え、補助金という名の血税が打ち切られたことで、運営すればするほど赤字になる。ならば、事務所を畳み、今ある資金で就職先を探す方が健全な判断だった。

 

 運よく年齢や貯蓄の面で“逃げ切れた”ヒーローだけが、心のどこかで「セーフ」と思っているのだろう。

 

 雄英高校A組では、朝の朝礼が始まろうとしていた。気だるそうな顔をしたイレイザーヘッドが教室の扉を開けて入ってくる。

 

「おまえら、席につけ。授業を始めるぞ」

 

「みんな、席につくんだ!!」

 

 飯田天哉が声を張るが、言われる前から全員着席済みだった。

 

 ヒーロー科の生徒は、まだ誰も欠けていない。だが、他校ではヒーロー科から別科への移籍が進んでいるという噂がすでに聞こえてきていた。ヒーローは「公金チューチューする害虫」とまで言われる昨今、自ら稼げもしない死地に飛び込む者はほとんどいない。

 

 現存しているヒーロー事務所も、あと何か月持つか分からない状況だ。税金で運営されていたヒーロー事務所。その補助金が毎年8割ずつ削減され、3年後には完全撤廃になると明言されている。

 

 今年中に8割の事務所が閉鎖・縮小され、来年にはほぼ消滅する。卒業する頃には、ヒーローという職業は“プロパチンカス”並のレア職になっているだろう。新規でヒーロー事務所など立てても仕事なんて来ない。地道に営業するにしても、この過去最高に良い治安のどこにヒーローの必要性があるのだろうか。

 

 そんな中、イレイザーヘッドが静かに口を開く。

 

「まず、残念なお知らせだ。セメントス先生が、これまで雄英高校で様々な施設を違法建築していた罪で終身刑……になりかけた。安全管理が不十分な建屋でのヒーロー科授業など、余罪は山ほどあるらしい。だが安心しろ。セメントス先生の個性は建築業界において革命的だ。ある建築会社(麗日の実家)で働くことで恩赦が認められ、本日をもってご退職されることになった」

 

「「……」」

 

 静まり返るA組。だが、イレイザーヘッドの報告はそれだけではなかった。

 

「続いて、リカバリーガールだが……強制わいせつ罪で逮捕された。なんでも、生徒に無理やりキスをしていたとかで、誰かが訴えたそうだ。年齢やこれまでの功績を考慮して、刑務所ではなく医療刑務所に収監されることになった」

 

「「……」」

 

 さらに空気が重くなるA組。だが、報告はまだ終わらない。

 

「パワーローダー先生だが……過去に迫撃砲を生徒に放って殺しかけた件が再調査され、殺人未遂として終身刑が決まった。お別れは後でみんな言うように。いいか、未来のヒーローだからといって、やり過ぎはダメだぞ」

 

「「……」」

 

 今さらなぜ問題になったのか――そう思うA組。だが、世間一般ではこれが“常識”だった。

 

「ミッドナイト先生だが……未成年との淫行罪で教員免許剥奪だ。過去に手を出した生徒から訴えられたらしい。最近はヒーローへの風当たりが強いからな。みんな、気をつけるように。写真なんて残すからこうなるんだぞ」

 

「「……」」

 

 “やっぱりか”と誰もが思った。いつか訴えられるとは思っていたが、このタイミングだったかと納得する空気が流れる。

 

「ランチラッシュ先生は、もっと稼げる職場があるらしく転職された。これからは政治家相手に腕を振るうそうだ。いいですね、栄転ですよ、栄転」

 

「「……」」

 

 あのレベルの味に慣れた生徒たちは、これからの学食生活に絶望する。だが、報告はまだ続く。

 

「13号先生だが……知らない間に子供がたくさんいたらしく、“私が面倒を見る”と言って退職された。今は軍属になっている。世の中、知らないところで子供が増えることもあるみたいだから、みんなも気をつけろよ」

 

「「……」」

 

 だんだんと訳が分からなくなってきたA組生徒たち。この状況で本当に学校運営ができるのか、不安が募っていく。

 

「え~、根津校長だが……動物愛護団体から大量のクレームが届いた。さらに、校長が勝手に学校の地下を改造して大阪までリニアを引いていたことが発覚し、無許可工事の責任を問われて動物園送りになった」

 

「「……」」

 

 ここまで名前が出ていないある教師のことが気になった緑谷が、そっと手を挙げる。

 

「あ、あの~相澤先生。オールマイトは……?」

 

「安心しろ。オールマイトは私用で休んでいるだけだ。なんでも、母親が再婚するらしく“紹介したい人がいる”とかで会いに行っているそうだ。あの年で新しい父親とか困惑するだろうが、みんな野暮なことは言うなよ」

 

 そして、残された数少ない教員――イレイザーヘッドの授業が始まる。今の彼には、ヒーローとして教えられることは何もない。“抹消”を失った彼は、ただの一般人。だからこそ、彼は学業と「これからの身の振り方」について、生徒たちに語り始めるのだった。

 




そろそろ、神代君にも働いてもらいましょう。
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