H・EROアカデミア   作:新グロモント

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63:ヒーロー殺し2

 新政権・死柄木内閣。

 既存の官僚機構を基本的に引き継いでいるが、“新政権”という響きに群がる者は後を絶たない。特に、巻き戻しの個性やオーバーホールの個性など、有益な能力が揃っている今、個性を奪い与える力を持つAFOに顔を売りたい者は、何を犠牲にしても近づこうとする。

 

 そんな中、神代真一の個性は最高に便利だった。裏の裏まで読み取るその能力は、悪だくみをしている連中や他国のスパイすら一発で見抜く。だからこそ、15歳にして圧倒的な権力と地位を手に入れているとまで言われている。AFOとの太いパイプを持つ彼に近づこうとする者も後を絶たない。

 

 AFOは“悪の象徴”として君臨するだけで、政治にはほとんど関与しないという方針を貫いている。だからこそ、AFOと連絡が取れる者には、無数の愚者が群がる。その対応に、神代真一は寝る間もないほど忙しい日々を送っていた。

 

 「家庭を守るため」と若さで乗り切るが、三徹はもはや若さの問題ではない。そんな疲れ切った神代のもとに、笑顔で仕事を持ってくるAFOが現れる。

 

「いや〜、神代君。忙しいところ悪いね。実は、前々から考えていたことを実現したくてね。そのために、君の力が必要なんだ。いや、君にしかできないと言っても過言じゃないよ。その体に刻まれた無数の刺し傷が、その証拠さ」

 

「……えっ!? 本気ですか?」

 

 神代は、AFOの意図を即座に読み取った。鍛え上げた個性は、魔王の思考すら透かしてしまう。AFOは本気で、ヒーローの心を壊そうとしていた。嫌がらせのためなら、どんな犠牲も厭わない――それが、世界の魔王の黄金精神。

 

「話が早くて助かるよ。僕は平和主義者だから、平和的にヒーローを壊そうと思ってね」

 

「……いや、さすがに無理じゃありませんか。年齢的にも、色々と」

 

 AFOは神代の肩に手を置き、笑顔で言い放つ。

 

「“無理”というのは嘘つきの言葉だよ。途中でやめるから無理になるんだ。それに、君にできなかったら誰が実現できる?僕が認めたんだ。6歳(壊理)から31歳(ラグドール)まで堕としたその手腕は並じゃない。考えてみれば、31歳って君の母親(神代ラケル)より年上じゃないか」

 

「そこまで言われるのでしたら、分かりました。一度、彼女を確認して心の隙間を探しましょう。未亡人になって日が長いですよね。あの手の女性は、過去の旦那に重ねられるシーンを混ぜることで隙ができやすいという統計があります。……年齢差は、巻き戻しの個性で埋めましょう。女性は、いつまでも若くいたいという願望がありますから、いけるでしょうね」

 

 AFOは、親指を立ててグッジョブのポーズを取る。

 

「シナリオはすべて君に任せる。そうだね、一か月で成果を出してくれ。ヒーローたちの合法的処分が始まるのが、ちょうどその頃だ。あの男には、すべてを失ってもらわないと気が済まないからね。年甲斐もなくワクワクしてきたよ」

 

「とりあえず、相手の懐に飛び込むためにハス太と壊理ちゃんを使いましょうか。あのくらいの年齢の人は、可愛い子供が好きなはずです。実の子が孫の顔すら見せに来ないのだから、良い感じに働いてくれます。そして、AFO殿も“妻に先立たれた男”という設定でいける」

 

 実の息子と義娘をAFOの子供として扱う――非情な男、神代真一。

 

 これからも長い付き合いになるのだから、今から縁を繋いでおくに越したことはない。それに、スマブラでたまに対戦してくれるから、神代家の者からは意外と人気だったりする。

 

………

……

 

 こうして、雄英高校の教員大量離職の一か月前から、プロジェクト「H・ERO」が始動した。

 

 神代は、オールマイトの実家・八木家で母親を監視し、生活パターンから趣味嗜好まで徹底的に分析。その情報をもとに攻略ルートを確定する。

 

 AFOは、35歳くらいのジェントルマンを装い、妻に先立たれた二人の子供を育てる立派な男として振る舞う。ハス太と壊理は完璧な演技で、オールマイトの母親の心の隙間に入り込む。可愛い子供に弱いのは、年配者の常だ。

 

 夫の情報を引き出し、思い出の場所や印象的な場面を再現。AFOの個性が“暴走気味で周囲を若返らせる”という設定も忘れない。まずは、近くにいるだけで体調が良くなる。一瞬触れただけで、少し若返る体験をさせる。暫くはそれだけでいい。次第にソフトタッチが増えていく。

 

 夜、神代とAFOは作戦会議を開く。

 失敗は許されない。文字通り、死を意味する。AFOも内心では嫌悪感を抱きながら、この作戦を遂行していた。

 

「順調です。彼女のステータスに“死柄木全さん”への好意が確認されました。触れることで体調が良くなる、心拍が上がるなどの反応も出ています。巻き戻しの影響で肉体年齢が若返っているのが原因でしょうが、彼女は“戻せ”とは言わない……誰だって若くなりたいですからね」

 

「たった二週間でここまで成果を出すとは、さすがだよ。30歳くらいまで若返ったら、とどめを刺しに行こう。できれば、僕の子供でも仕込むかな。その方が彼へのダメージは計り知れない。……やれるね、神代君。いいや、ヤレ。ここまで来たら、僕はどんな犠牲も厭わない。オールマイトの歪む顔、壊れる心を想像したら、最高の気分さ」

 

「いいですが、多分刺されますよ……なぜか、私も本気で女性を堕とした後は、いつも刺されるんですよ」

 

 死柄木弔よりも傷の多い男、神代真一。それが、彼の戦ってきた道の証だった。

 

「だが、そこに愛はあったんだろう。僕は一向に構わないよ。刺し傷程度でオールマイトを壊せるなら、安いものさ。では、明日はハス太と壊理を連れて動物園に行くことになっている。お弁当を作ってくれるらしい。いや、本当に子供の力はすごい。彼らの無邪気さと愛嬌は、年配者の心を溶かす最強の武器だ。」

 

 AFOは、ハス太と壊理の笑顔に包まれながら、着々と“義父”としての立場を築いていく。

 

「後で、二人の欲しい物を聞いておいてくれよ。僕は、労働にはしっかりと対価を支払うからね」

 

「えぇ、もちろん。動物園に行く際の服装や気をつけるべき点もお伝えします。『関係履歴』で確認したところ、亡き夫と行ったことがあるらしいです。その際の記憶に鮮明に残っている場面を再現しましょう。それで親近感がぐっと上がります。そのタイミングで手を添えて、“少しだけ当時のあなたを見てみたい”と囁けば、自然に若返りを促せます。好感度が十分に上がっていれば、振り払われることなく、30歳程度まで若返らせることが可能でしょう」

 

 神代真一は念のため、近くの高級ホテルを予約しておく。ハス太と壊理には、しっかりと別部屋を用意する徹底ぶりだ。

 

「女なんて、清潔感と見た目と金と愛と若さと地位と権力と暴力があれば、だいたい何とかなる」 それが神代真一の持論であり、彼が辿り着いた“真実”だった。

 

………

……

 

 そして、二週間が経過する。

 出会ってわずか一か月で攻略されてしまった女性は、決して悪くない。攻略本を片手に課金力で戦う男に勝てる者など、いないのだ。今日、ついにAFOは“念願の日”を迎える。

 

 人生において、笑いをこらえるのがここまで難しいと思ったことは彼にはなかった。大事な義息子になる相手に会う前に、笑い死にしてしまうのは残念すぎる結末だ。必死で笑いを抑えながら、品の良い料亭でスーツをビシッと着込んだAFOと、娘・息子役のハス太と壊理が待機していた。

 

 ふすまが開き、スーツ姿の八木俊典――オールマイトが現れる。

 

 彼がまず目にしたのは、母親の姿だった。それは、彼が知る年老いた女性ではなく、若かりし頃の母親そのもの。今では写真でしか見られないはずの姿が、そこにあった。

 

「え……えっ!? 母上!? ど、どうしたんですか。化粧で若返るにしてもやりすぎですよ。相手に失礼ですって」

 

 オールマイトの鳩尾に、母親の鉄拳が飛ぶ。肉体が限界に近い彼にとって、その一撃は想像以上に重かった。苦痛に顔を歪めながら、無理やり席に着かされ、ようやく“相手”を見る。

 

 背中しか見えていなかったその男が、ゆっくりと振り返る。

 

「くっくっく、一応初めましてと言っておこうか。八木俊典君……今日から、僕が君の“お義父さん”だよ。そして、もうすぐ年の離れた兄弟もできるんだ。祝ってくれるよね」

 

「あら? お知り合いだったの? お母さん、全さんと再婚することにしたの。今日から新しい“お義父さん”よ」

 

 オールマイトの目が絶望の色に染まる。

 

 顔からは血の気が引き、今何が目の前で起きているのか理解できない。座っているだけなのに、めまいがし、倒れそうになる。人間は、理解不能な状況に直面すると、言葉すら失う。何か言わねばならないのに、何も言葉が出ない。ただ、なぜか涙だけが溢れてくる。

 

「ああああああああああぁぁぁぁっ…………」

 

「おや、気を失ったか。あぁ、大丈夫ですよ。私はこう見えて、色々と持っている男ですから。気を失った義息子を起こすくらい、楽なものですよ」

 

 AFOは個性を使って何度もオールマイトを起こし、見せつける。彼の数少ない“自分より大切な人”が奪われる瞬間。そして、汚された瞬間でもあった。

 

 肉体はボロボロでも、心はヒーローであり続けたいと願っていたオールマイト。だが、彼の心は、目の前の光景に耐えられるほど強くはなかった。

 

 AFOの真の恐ろしさ――それは、相手の嫌がることなら、どんな労力も惜しまないこと。このやり方は、親を殺されるよりも深いダメージを与える。

 

 そして、AFOはオールマイトに“とどめ”を刺す。彼の耳元で、囁く。

 

「君の母親、なかなかいい女じゃないか。これから、僕も守ってくれよ、ヒーロー。君がHEROしてる間に、僕はH・EROしてるんだけどね。はっはっはっはっは」

 

 ぐしゃっ――オールマイトの心の中で、何かが壊れる音がした。

 

 ヒーローは、救いを求める声がある限り立ち上がる。だが、この声を聞いて立ち上がれるヒーローは、もういない。

 

  彼自身ですら、そう断言できた。

 




ステイン様とは違い、こういう殺し方もありだとおもいます。

そろそろ、ヒロアカも終わりが見えてきました。
これが真の平和的なヒロアカであると信じたい。
日本崩壊していないし、苦しんだ人も少ない・・・結構いい感じになったかと思いました。
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