H・EROアカデミア   作:新グロモント

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64:それぞれの進路

 ヒーロー業界の崩壊によって、日本には好景気が到来した。

 日経平均は過去最高を日々更新し、経済は活況を呈していた。だが、元ヒーローたちの就職難は続いていた。特殊技能を持つ者も多いが、彼らを雇うことは世間体が悪く、企業イメージを損なうリスクがある。下手をすれば、取引停止にすらなりかねない。

 そのため、彼らは自衛隊など軍事方面への就職を希望する。

 

 当然、トップヒーローたちがこぞって応募するため、数少ない枠は一瞬で埋まってしまう。そんな中、雄英高校ヒーロー科では進路希望の提出が迫っていた。生徒たちは迷いながらも、現実と向き合う必要があった。

 

 裏ビティさんの進路希望は、第一希望:専業主婦、第二希望:専業主婦、第三希望:専業主婦。その回答を見た相澤先生は、無言で再提出を求める。

 

「やり直し。お前の個性なら何でもできる。もっと現実を見ろ。それに、専業主婦には相手が必要なんだぞ。緑谷を養う必要があるなら、お前が働くしかないだろう」

 

「相澤先生、デク君を養うって~そんな、テヘヘヘ。私は、普通に学校を卒業して、普通に結婚して、普通に子供を産んで、普通に生活するから、これでいいんです」

 

 あきれて言葉も出ない相澤先生。世界最強の女に手が届きそうな位置にいる化け物であり、個性抹消をAFOに売り渡した生徒。これが“普通”なら、世の中の生徒の大半は劣等生以下だ。

 

「まぁ、そういう事にしておいてやる。あと、あまり他に迷惑をかけるなよ。オールマイトが新しい父親に会って10歳くらい老け込んで帰ってきたのには驚いた。あのな〜、仮にも教師相手にそこまでやるか普通。苗字が変わって“死柄木”とか……お前、碌な死に方しないぞ」

 

「だから、私は関係ないんですって……そりゃ、何も知らなかったってわけじゃないですよ。でも、手伝いとかしてないんだから無罪ですよ。合理的に考えて、オールマイト一人の犠牲で日本経済や治安が良くなるなら、いいんじゃないですか?」

 

 その発言を聞いていたクラスメイトたちは、麗日お茶子の異常性を認識し始める。

 

 裏ビティがちらりと爆豪に目線を送る。才能マンである爆豪は、ここで助け舟を出さなければ次に潰されるのは自分だと察する。

 

「そんなことはどうでもいいから、俺の進路票だ」

 

「……爆豪は、ヒーローを諦めたのか。まぁ、それも合理的な判断だな。第一希望:防衛大学への進学、第二希望:モンスター・ハンター……なんだこれ? いや、俺もゲームは知ってるぞ。だが、現実でそんな職業はないだろう」

 

 まだ、そんな職業はない。だが、爆豪が卒業する頃には、それは“新たに生まれる職業”になることが確定していた。

 

 今、日本の四国――改め“死国”をAFOが全力で魔改造している。ハス太と壊理がオールマイトの心を壊す手伝いをした対価として「リアルでモンハンをやりたい」と希望した。

 

 その結果、死国全土をリアルモンハンワールドに改造する大計画が始動。個性は使わなければ伸びない。だからこそ、個性を気兼ねなく使える場所を用意し、訓練と観光の目玉にもする予定だ。

 

 そして、その様子を動画配信することで、ハンターたちは日銭を稼ぐ。いわば、Vtuberのような職業形態である。

 

 そのモンスターには、神代一家も絡んでいた。

 

 神代真一の妻の一人・神代アカネの個性は、漫画やアニメ・ゲームに登場する怪獣を具現化できる。

 

 

神代真一の子供である神代ハス太の個性でクトゥルフ神話のモンスターを呼び寄せる。

 

 神代真一の母親である神代ラケルの個性で物質をなんでも捕喰するという特性をもつ架空の単細胞生物アラガミを生み出せる。

 

 これらの化け物に加え、ドクターが製造する脳無も配置され、エンタメ性はさらに高まる。死んでも脳無として再利用される安心設計。

 

 さらに、AFOによる若返りの景品なども用意され、運が良ければAFOから強個性が貰えるという“夢の商売”だった。

 

 ド派手な個性でモンスターや化け物を薙ぎ払うことでお金を稼ぐ――これが、真のエンターテインメント。そして、最初のプレイヤーとして死柄木弔が挑戦することが決まっていた。

 

「問題ねぇ。それに、もう(レゼの)No.1ヒーローだ。あとは、アイツと一緒に配信で稼いで最強だと証明してやる」

 

「そうか……あと、クリスマスの結婚式な。俺は参加するが、席は知り合いが多いところにしてくれよ。裏ビティ“さん”と同じ席だけはやめてくれ。オールマイトも可哀想だから、裏ビティ“さん”から一番遠い席にしてやれ」

 

 爆豪は静かに頷く。

 

 そして、緑谷も進路票を提出した。そこには、ただ一言――「ヒーロー」と書かれていた。それを見た相澤先生は、目を見開いた。今のご時世で、まだヒーローを目指すとは正気の沙汰ではない。

 

 毎日、どれだけの事務所が閉鎖していると思っているのか。

 

「緑谷。分かっていると思うが、お前が卒業する頃にはヒーロー業界への補助金はなくなっているぞ。つまり、ヒーローという名の“自営業”だ。今までのように公金で自由に活動できるヒーローではなくなる。それを理解しているな」

 

「もちろんです。でも、やっぱり僕はヒーローをやりたい」

 

 その言葉に、裏ビティさんは泣く泣く進路希望を書き直し始めた。無給で人助けすら可能性がある。万が一の場合は、金と権力で黙らせる必要が出てくるだろう。

 

 よって、裏ビティさんの進路は「内閣総理大臣のSP」もしくは「政界進出」となった。

 

「そうか、頑張れ。あと、裏ビティさんと早くヤっておけ。逃がした獲物が大きいと気づいたときには、もう手遅れだぞ。独り言だが……トガヒミコが今、とある国に行っている。そこでは、同性婚も認められていて、女性同士でも子供ができる個性があるとかないとか……俺はどうなっても知らないぞ」

 

「よくわかりませんが、ヒーロー目指して頑張ります!!」

 

 緑谷は危機感をまったく感じていない。だが、裏ビティさんだけはすべてを理解した。

 

 そして、ガラケーで神代真一に連絡を入れる裏ビティさん。画面には短く一言――「緑谷を堕としたい。どんな犠牲も厭わない」とだけ打ち込まれていた。

 

 下半身事情なら神代真一への信頼度は、間違いなかった。それこそ、AFOにオールマイトの母親を攻略させるほどの手腕だ。覚悟完了した裏ビティさん…その覚悟の結果、近い将来、スターアンドストライプに単独勝負を挑まされることになるとは想像もしていなかった。

 

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