H・EROアカデミア   作:新グロモント

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65:初めての裏ビティ

 暗黒のヒーロー時代が終焉を迎え、誰もが平和を享受する時代。

 

 神代真一も、家族とともに穏やかなひとときを過ごしていた。家庭サービスは家庭円満の基本。子供たちを連れて遊園地に出かけるのは、至って普通の休日の過ごし方だった。

 

 だが、その家族との時間にわざとブッキングしてくる裏ビティさんは、もはや悪魔的な成長を遂げていた。彼女は「今日こそ緑谷とキめる」と意気込み、葉隠透にもアドバイスを求めて完璧な戦略を立てていた。

 

 ただし、葉隠はそもそも“押し倒した側”であり、恋愛的な駆け引きは微妙だなとは神代が口が裂けても言えない。

 

 裏ビティさんは「今日のデートでキめることができれば、何でも言うことを聞く」と宣言。神代真一は、アメリカNo.1ヒーローに彼女をぶつけて正面から「個性:新秩序」を手に入れようと考えていた。裏ビティさんの個性なら、勝てる可能性は十分ある。

 

 しかし、だがこれを実行するにしても裏ビティさんの願いを成就させる必要がある。不思議なことにターゲットが見当たらない。作戦失敗では裏ビティに試練を与えられない。

 

 神代はスマホで連絡を取る。

 

『あぁ、裏ビティさん。今、TDKの入口で貴方を見つけているんですが……お相手はどこに?一応、葉隠さんの透明化で隠れているけど、あまり近づくと感づかれるので少し離れて監視しています』

 

『どこって、来た来た!! あの平凡な服装をした緑頭、リュックにオールマイトのキーホルダーを付けた子だよ。途中退学したからって、嘗ての同級生を忘れないでよね』

 

 神代は、裏ビティに手を振る人物を確認。特徴()すべて一致していた。だからこそ、最終確認を取る。

 

『裏ビティさん、最終確認です。今、手を繋いだ人とゴールさせればいいんですよね?』

 

『そうそう。後の連絡は、イヤホンを通じてお願いね』

 

 手を繋ぐ二人は、まるで恋人のように嬉しそうな顔をしていた。このまま夜のHOTELに連れ込めるのは間違いない。だが、仕事である以上、好感度は天元突破させる必要がある。

 

 ジェットコースターなどの絶叫系アトラクションは当然として、食事や雰囲気まで金に物を言わせて最高の演出を用意。待ち時間ゼロのために係員の買収も済ませていた。

 

 時間が経つにつれ、ボディタッチが増える。食べ物を分け合い、あーんをし合う初々しいカップル。神代はそれを見守りながら、家族サービスも並行してこなす。仕事と家庭の両立は、本当に大変なことだ。

 

………

……

 

 日が暮れ始めた頃、TDKのパレードを見終わる。裏ビティは、近くのHOTELに良い部屋を予約済み。連れ込む気満々だったが、相手が先手を打つ。

 

「今日は、帰したくない。ここのHOTELを取ってるんだ」

 

「デク君!! やっと、その気になってくれたんだ。うん!! 今日は私も帰りたくないなぁ〜」

 

 心の中でガッツポーズをする裏ビティ。細かく指示を飛ばしてくれた神代に心から感謝し、遠くを通り過ぎる神代一家に親指を立てて感謝を伝える。そして、TDKに隣接する高級HOTELへと消えていく。

 

 その幸せそうな背中を見送る神代一家。

 

「ねぇねぇ、神代君。なんか隠してるよね?」

 

「葉隠さん。私は、何も隠してないですよ。隠しているのは……いいえ、止めておきましょう。裏ビティさんが真実の愛に目覚めただけかもしれません」

 

 偶然にも同じHOTELに宿泊する神代一家。鉢合わせしないか、神代は今から不安を隠せなかった。

 

◇◆◇◆

 

 翌日。

 

 裏ビティさんは幸せオーラ全開で登校。誰が見ても「何かあった」と分かる。誰かに聞いてほしい、聞かせたいという雰囲気が溢れていた。

 

 親友の蛙吹梅雨が気を利かせる。

 

「お茶子ちゃん、今日はすごく機嫌がいいわね。いつもは疲れたOLみたいなのに、今日はまるで恋人ができた女子高生みたいに輝いてる」

 

「えへへへ、そうかな。そうだよね。実はね、昨日、私……TDKのお泊りデートに行ったんだ」

 

 ざわざわと騒がしくなる教室。

 女子高生のお泊まりとくれば、そういうことに決まっている。では、お相手は誰か――その話題で持ちきりになる。

 

 その時、主役の緑谷出久が登校。

 A組の視線が爆豪に集まるが、彼にもフォローできる限界がある。

 

「おはよう!! どうしたのみんな? 僕に注目して」

 

「デク君……その、おはよう。昨日は、すごく楽しかったよ。それに、すごく良かったよ」

 

 不思議そうな顔をする緑谷。

 主語がなく、何が楽しかったのか理解していない。

 

「何の事? 昨日は、かっちゃん達とクラスの男子で進路相談会してたんだ。ヒーローやる前に一度進学してからしろって。それも一理あるよね。大学で学びながらヒーローもできるし。社会人になる前にもう一度よく考えるよ」

 

「てめぇは、前しか見ない馬鹿だからな。俺が、ボコボコにしていう事を聞かせてやった。感謝しろよ……裏ビティ”さん”」

 

「……えっ? 昨日? クラスの男子と進路相談?うん?んんん?」

 

 裏ビティは状況を理解できない。

 

 昨日、確かに緑谷とTDKで遊び、ディナーを食べ、部屋風呂に入り、お互いの“初めて”を交換したはずだった。

 

 問いただそうとした瞬間、相澤先生が教室に入ってくる。

 

「あぁ〜、今日はみんなに新しいクラスメイトを紹介する。色々と特例すぎて、手続きのために三日ほど休んだ。悪かったな」

 

「先生、何を仰ってるんですか?先週末に教壇に立っていたじゃないですか」

 

 飯田の発言に相澤も首をかしげる。だが、弁明の前に廊下で待ちくたびれた転入生が教室に入ってくる。

 

「今日からA組のクラスメイトになるトガヒミコです。よろしくね、お茶子ちゃん、緑谷君。……お茶子ちゃん。昨日は、とっても素敵な時間をありがとう。どうしたの?そんな信じられないって顔して。ふふふ、そうだよ。先週末の相澤先生も、実はワタシだよ」

 

「は、ハメめられたぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」

 

 トガヒミコの内情を相澤が知るはずもない。彼女が国外でナニを手に入れる為に出国した事は、偽情報だ。真実の情報は、既に手に入れて帰国済み。更には、獲物を食うため準備を終えていた。

 

 どこぞの映画の悪役ではないのだから、自分の計画を実行前にペラペラ教えるなどしない。既に実行してから教える。その上で、相手の行動を読み、先手を打つ。

 

「お茶子ちゃん……酷い。私の初めて奪ったのに、そんな風に言わなくても」

 

「こっちだって初めてだったの!! 変身使って、デク君に化けるとか……私の初めて返してよ〜!」

 

 A組の誰もが沈黙する。

 この状況に下手に突っ込めば、爆発するのは確実だった。担任である相澤先生も、無言で時が過ぎるのを待つしかなかった。

 

 教室には、異様な空気が漂っていた。裏ビティさんは、涙と怒りで顔を真っ赤にしながら、机を握りしめて震えている。トガヒミコは、満足げな笑みを浮かべながら、緑谷にウインクを飛ばす。

 

「お茶子ちゃん、そんなに泣かないで。どうしてもって言うなら、”戻してあげる”から。壊理ちゃんの力で、昨日の“初めて”はなかった事にしてあげる。だから、もう一度“本物”とやり直せばいいのよ。ね?」

 

 トガヒミコは、スマホである番号に電話する。

 

『あ、もしもし、神代君? ちょっと、壊理ちゃんの力を借りたいな~。いいの!? ありがとう。今度、お礼はするから』

 

「そんな問題じゃないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 」

 

 裏ビティさんは、アーマード・裏ビティを展開し、教室の窓を突き破って飛び去った。その姿は、まるで恋に敗れた戦士のようだった。その怒りの矛先は、何処に向かうかは明白だ。

 

 神代真一の個性を知る裏ビティは、あの日のやり取りから既にトガヒミコの存在を知っていたと今さら理解する。その上で、何食わぬ顔でトガヒミコの計画に乗った。神代家に殴り込みに向かった裏ビティさん。

 

 あのやろう、ぶっ殺してやるという気兼ねで全速力で向かう。

 

………

……

 

 数時間後、裏ビティさんは戻ってきた。スーツは半壊し、顔面はアンパンマンのように腫れ上がっていた。だが、表情はどこか晴れやかだった。

 

「ヨグ=ソトース はダメだって。あれは、人類が勝てる存在じゃないんだって。子供の個性で守られているのは卑怯だよ。……でも、巻き戻してもらった。だから、もう大丈夫。でも、あの記憶は消えない。心の傷は、巻き戻せないんだよ……」

 

 誰もが言葉を失う中、神代真一からのメッセージが届く。

 

『お疲れ様でした。だから、何度も確認したじゃないですか、この人でいいのかと。 』

 

 裏ビティさんは、スマホを握りしめながら、さっさとクタバレクソ上司と恨み言を言った。




ネタも尽きてきたので、そろそろ最終回になるかもしれません。

本当は、ダークマイトさん登場も考えたんですが、難しかったのでやめました。

原作同様に8年後あたりに!!
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