USJでの実地訓練の日。
神代真一は、クラスメイトたちと共に試験会場へバスで向かっていた。戦うことだけがヒーローの仕事ではない。人命救助もまた、ヒーローの本質である――この点に関しては、神代真一も全面的に賛同していた。
個性という超常力を使い、人を助ける。それこそが、個性の最も正しい使い方だ。人力や重機では不可能なレベルの救助を可能にするヒーローの存在は、社会にとって不可欠。その活躍があるからこそ、国民はヒーローに税金が投入されても納得している。
しかし、その尊い活動の場において、神代真一のヒーロースーツ――海自303式強化外骨格の持ち込みは却下されていた。他の生徒たちは全員スーツを着用しているにもかかわらず、彼だけが“素の状態”で臨まなければならない。イレイザーヘッドの独断による判断だった。
スーツなしでは、神代真一の身体能力は高校生の範疇を超えない。
増強系個性持ちとは違い、個性使用前提であっても、同級生の女性に敗北する可能性すらある。
そんな彼の隣に座るのは、葉隠透だった。
「神代君、残念だったね。あのでっかいスーツ、持ち込みできなくて」
「そういう葉隠透さんは……あのさ。以前の格好も問題だったけど、それもどうかと思うよ」
葉隠透は、新しいコスチュームが間に合わず、学校指定の体操着を着用していた。だが、彼女の肉体は透明であるため、体操着の下に何も着ていないことが“見えてしまう”。 脇の下から胸元まで、下着未着用が明らかだった。
彼女の倫理観は、どこにあるのだろうか。
オールマイトにはコスチュームについて相談したが、体操着や普段着にまで言及する必要があるとは思っていなかった。
「えぇーー!? ど、どうして?」
「これは、いけません。本当にいけません……。貴方は、思春期の男子にはいささか刺激が強すぎます。クラスメイトの女子は、この格好を見て何も思わないんですか? 馬鹿なんですか、彼女たちは」
神代真一は、A組の女子たちに視線で支援を求めた。だが、全員が目をそらした。気づいてはいたが、言い出しづらかった――そんな空気が漂っている。
「あははは。いつもごめんね、神代君。そうそう、私の新しいコスチュームなんだけど……今度相談に乗ってもらっていいかな? 神代君って色々詳しそうだし」
「別に詳しくありませんが、そのくらいなら構いません。男子との距離感は適切に保ちましょう。それと……当たってます」
神代真一の腕に、柔らかくボリュームのある“何か”が触れていた。その瞬間、彼は昨今話題となっている「個性による発育影響」。その研究貢献に全てをさらけ出してくれる人という高額バイトの募集…通称“光バイト問題”を思い出していた。確かに、研究する余地はありそうだと。
神代真一は、今度ドクターにあった時にその研究に一枚嚙まないか相談してみよう思った。脳無の研究には莫大な資金が必要になる。都合の良いヴィランを製造できるメリットは大きい。だが、些かコストがかかりすぎており内閣府としても少し問題視していた。よって、ドクター自身にある程度、お金を稼いでもらおうという計画だ。
「ごめんね、つい舞い上がっちゃって。私のことをちゃんと見てくれる人って、家族以外だと神代君が初めてで……少し浮かれてた」
「やめてください。そんな純真な目で私を見ないでください。私は、あなたが思っているような男ではありません。割と本気で」
本当にその通りだ。
先日、オール・フォー・ワン相手に治癒持ち個性で恩を売っていた者と、今ここで女子の距離感に悩んでいる男子高校生が同一人物だとは、誰も思わないだろう。
…
……
………
そんな二人の様子を、背後から憎しみを込めて見つめる男がいた。
峰田実――女性にもてたいという欲望に素直で、何気に学力も高い男子生徒。クラスに一人は欲しい“オチ担当”とも言える存在だが、言動のせいで女子からは距離を置かれている。
「憎い!! 憎しみで人が殺せる個性だったら、オイラは神代を何度も殺してる自信があるぜ。緑谷だってそう思うだろ? なんで、同じクラスメイトなのにアイツはあれだけ女子と親密になれて、オイラにはないんだよ!! 不公平だろう」
「い、いや~。僕にはちょっとわからないかな。神代君と葉隠さんが仲がいいのって、この間の訓練からじゃん。仲が良いのは、いいことじゃないか」
「ちげーーよ! そういう意味じゃねーーって! オイラは、自分がモテないのに近くでイチャイチャしてる奴がいるのが気に食わないって一点だ! 不公平だろう! 人は顔か? 金か? 一体何があればオイラはモテモテになれるんだよ! 誰か教えてくれよ!」
本気で涙を流して悲鳴を上げる峰田実。幾名かの男子生徒が、彼に同意した。 だが、そんな男子生徒たちは、日本で有数の超難関・雄英高校の合格者。中学時代に“唾をつけておこう”と考えた計算高い肉食系女性が迫った結果、肉体関係を持った者も多い。
思春期の男の弱いところを知り尽くしている肉食系女子の計算高さは、過去も今も男性が考えるよる遥かにレベルが高い。唾を付けておけば、プロヒーローになった際に左団扇で生活できるのだから、女性としても悪くない投資先だ。
これらの情報は神代真一の個性「関係履歴」により、赤裸々に把握されている。万が一の場合には、その情報を元に男子生徒を味方につけることも容易い。
…
……
………
そんなやり取りの最中、A組は目的地であるUSJに到着。中で待機していた13号先生から、ありがたいお言葉が告げられる。
「個性とは、人を簡単に殺せる力です」
実に素晴らしい言葉だ。だからこそ、その個性と対峙する非戦闘系個性には、ある程度の武器は許容される――そう言い換えることもできる。
神代真一は、拳銃ホルダーに収められた一部公安が装備している制圧兵器――ドミネーターを軽くなでる。海自303式強化外骨格が持ち込めない代わりに、サポートアイテムの一つくらいは許されるべきだ。
事前申請でも「携帯型心理診断鎮圧執行システム」として認可を得ている。持ち運び可能で、認証装置付き。非殺傷モードも搭載されたこの銃は、実に合理的だ。イレイザーヘッドも「合理的だ」と評価していた。
その時、USJの中央付近に黒い靄が発生し、ぞろぞろと物騒な輩が現れ始めた。歴戦のヒーローであるイレイザーヘッドは、即座にヴィランの襲来と察知し、生徒に避難指示を出した。
「13号! 生徒を守れ、ヴィランだ!」
イレイザーヘッドの声が響き渡る。USJの中央に発生した黒い靄――それは、空間転移型の個性によるゲートだった。そこから、ぞろぞろと物騒な輩が現れ始める。
神代真一は、すぐに状況を把握した。その中に、見覚えのある顔がいくつか混じっている。
「あ……表の店の常連が何人かいるな」
小声でそう呟く。
彼らは、H・EROアカデミアの“表の店舗”でのツケを払うため、ヴィラン連合で一仕事している最中の者たちだった。彼らも襲撃対象の生徒側に、大事な“ムスコ”がお世話になっている店の跡取りがこの場に居る事を認識した。最高級店であるがゆえに、ヴィランたちもそこでは紳士的に振る舞う――という評判がある。
お互い、気まずい空気が流れていたが、知らないふりをする。
それは大人の常識だ。休日に大人のお店に遊びに行き偶然職場の上司が横に座っていても知らないふりをするのと同じ。これぞ、裏社会の“暗黙の了解”。
葉隠さんに、実は当ててるんですとか言わせたいが流石に高校生に言わせてよいセリフじゃないから自重しました。
さて、USJ編・・・死んだヴィランだけが、野良ヴィラン!! 合理的にヤバい奴は殺しておく必要がると思います。