H・EROアカデミア   作:新グロモント

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08:JKの暴力

 神代真一は、このヴィラン連合による襲撃を事前に知らされていなかった。だからこそ、周囲の生徒と同じように動揺を演じることに成功し、結果としてイレイザーヘッドの疑惑の目を回避していた。

 

 生徒にじりじりと迫ってくるヴィランたちは、今では絶滅危惧種に指定されつつある“野生のヴィラン”だ。金を払わずとも、ヒーローの餌になってくれるありがたい存在。彼らのような人物が減る事は、国家にとってマイナスだ。なぜなら、演出されたヴィランを用意するにはお金がかかる。つまり、国庫の負担増につながる――冗談のように聞こえるが、これが国の“真実”だった。

 

 これ程の”野生のヴィラン”を一度に用意できるのは、AFO(オール・フォー・ワン)以外にいない。何より、空間転移型の“ワープゲート”の個性。あれほどの激レア個性は、大国でも一人か二人いるかどうかというレベル。その持ち主がヴィランだという事実は、個性に詳しい者からすれば“狂気”としか言いようがなかった。

 

「スマホは繋がりませんか。上鳴君、君の個性で外部との連絡はできますか?」

 

「えっ!? ……いや、ダメだ。なんか妨害されてるっぽい。神代って、なんか冷静だな。ヴィランと対峙したことあるのか?」

 

「(野生の)ヴィランなんて、滅多に出会うことはありません。私は平和主義ですから、危ないことには近づかないんです。 13号先生、イレイザーヘッドが殿をしている間に逃げて、応援を呼びましょう」

 

 サクッとイレイザーヘッドを囮にして逃げることを提案する神代真一。この場にいる全員が、それが“正解”であることを理解していた。だが、ここにいるのは無力な子供ではない。日本有数のヒーロー科に所属する、強個性を持つ未来のヒーローたちだ。

 

 特に、無駄に高いエベレスト級のプライドを持つ爆豪勝己は、それを良しとしない。

 

「馬鹿か、神代!! 今、ヴィランが目の前にいるんだぞ。俺らはヒーローを目指してんだ。敵前逃亡してどうする!」

 

「言いたいことは分かるよ、爆豪君。だが、イレイザーヘッドは13号先生に“生徒を守れ”と指示した。さらに、私たちに個性の使用許可は出していない。いいか、相手がヴィランだとはいえ、自衛のための個性使用は“極限状態”でなければ許されない。プロ免許がない私たちが対人戦闘をすれば、ヒーロー免許を永遠に取得できない可能性もある」

 

 日本では、一部例外を除き、個性を使って人を傷つける行為には厳格な処分が待っている。命の危険が迫った時に限り、自衛のための個性行使が認められる。例え相手がナイフを持っていても、“刺されるまで”反撃できないと言われるほどの制度的厳しさ。

 

 その抜け道の一つが、プロヒーローの責任下での個性使用。この枠内であれば、問題が起きても責任はヒーローが負うため、生徒でも対人使用が可能になる。

 

「そんなことは分かってんだよ! だから……」

 

『こんなところで争っているなんて、雄英高校の生徒は暢気ですね……暢気ですね! (チラチラ)』

 

「(チラチラ)」

 

 黒霧の登場。

 神代真一は、彼と面識がある。AFOとの接触時には、彼のワープゲートを使って何度も移動していた。 先日の治癒個性持ちの案件でも、実際に何度も利用していた。

 

 黒霧としては、「暢気にしていないで逃げてくださいよ」と言っている。黒霧にはヴィラン連合にも立場があるので、ここに神代真一が留まられると困る。A組に神代真一がいることは把握していたが、彼なら“察する”はずだと信じていたが未だに逃げていなかった。

 

 それに対して、神代真一は眼で訴えた。逃げようとしても、腕をがっしりと掴んでいる葉隠透がいて、それができなかった。既に逃げられる状況ではない。だからこそ、適当に”野良のヴィラン”がいる場所に彼女と一緒に落としてくれ――と、眼で会話した。

 

「生徒には指一本触れさせません!」

 

 13号先生のブラックホールの個性が火を噴く。日本においてオンリーワンの個性。あらゆるものを呑み込み、塵にする能力。 その希少性から、過去に何度も誘拐未遂に遭っているほどだ。

 

 日本政府は、彼女の個性を研究開発するため、卵子を密かに入手しクローンを作っていた。秘密裏に“新時代の戦略兵器”を構築していた。核兵器を過去にするブラックホール爆弾の研究。数百体のクローンに一人程度の確率で個性発現に成功し、暴走誘導による人工ブラックホール生成――費用対効果は抜群だった。

 

 ヒーローという圧倒的な力に対抗するため、政府も倫理を切り捨て始めている。ヴィランという明確な矛先が消えれば、次に狙われるのは政府自身――そう彼らは考えている。

 

 生徒を本気で守っている13号先生の背後で、そんなことを考えている生徒がいるなど、彼女は一生知ることはないだろう。

 

 だが、13号先生の戦闘経験の浅さが命取りとなり、黒霧に敗北。生徒たちはワープゲートによって飛ばされ、行き先で待ち構えていたヴィランたちに囲まれることとなった。唯一、ワープゲートから逃れた飯田天哉が、学校からプロの先生たちを呼びに向かう。

 

……

………

 

 神代真一は、葉隠透と共に飛ばされた。

 

 着地地点は、ビルが立ち並ぶ広い通路。飛ばし方が雑だったため、4メートルほどの高さから落下。

 

「きゃーーーー!! がっ」

 

 葉隠透の悲鳴と、鈍い着地音。

 彼女は咄嗟に受け身が取れず、地面に激突してしまった。彼女の個性は透明化で常時発動しているため、怪我の状態が“見えない”。

 

「これって、ひょっとしなくてもヤバくないか。怪我の状態が把握できない。血も透明なのか!? 本当に何も見えないって」

 

 神代真一は周囲を見渡す。絵の具でも落ちていないかと探す。存在はしているのだから、外付けで色を塗れば形が把握できる――そう考えた。

 

「おぃおぃ、落ちてきたと思ったら子供じゃねーか。 こいつら、さっさとボコして次に行こうぜ。そっちの方は女みたいだが……顔が見えねぇんじゃな~」

 

 数名のヴィランが、神代真一と葉隠透を確認し、勝利を確信していた。一人は気を失った透明化の女。もう一人は異形系でもなく、強個性特有の“圧”も感じられない。

 

 彼らにとっては、ただの“餌”だった。

 

「あぁ、赤い絵の具ならそこにあったか」

 

 神代真一は、ドミネーターのグリップを握る。

 

『携帯型心理診断鎮圧執行システム。ドミネーター、起動しました。ユーザー認証:神代真一。論理次官。内閣府所属。使用許諾確認――適性ユーザーです。』

 

 起動したドミネーターを野生のヴィランに向ける。

 

『犯罪係数:オーバー300。執行対象です。セーフティ解除。執行モード:リーサル・エリミネーター。慎重に照準を定め、対象を排除してください。』

 

 何のためらいもなく神代真一は、引き金を引いた。ドミネーターから放たれた高出力のマイクロ波が、ヴィランの胸部を貫く。 肉体内部で水蒸気爆発が発生し、内側から破裂した。

 

血の池が、赤い絵の具のように広がる。

 

「えっ……待て待て待て! お前はヒーローだろう!? ヴィラン相手でも、個性を使って人を殺せば――」

 

「安心してください。個性は使っていません。それに、仮に個性だったとしても……目撃者が誰もいなくなれば、バレません。これが、もう一つの“個性を使う抜け道”です」

 

 ヴィランたちは、殺傷能力の桁違いさに恐怖し、逃亡を始めた。残念なことに、背を向けて逃げるより、前進して戦いに来た方がまだ分があっただろう。彼等は新しい絵の具となり活用される。

 

 神代真一は、赤い絵の具を利用して葉隠透の無事を確認する。

 落下の衝撃で左腕を骨折し、頭部を打ったことによる軽度の脳震盪。透明な肉体ゆえに、外傷の確認は困難だったが、血の染み方と反応で推定できた。

 

 彼は、羽織っていたコートを脱ぎ、葉隠透に掛ける。そして、彼女を背負いながら、救護施設のある方向へと歩き出す。

 

 途中、血の池から少し離れた場所で、念のため証拠隠滅を実施。ドミネーターのデコンポーザー機能を使い、周囲の惨状を原子分解し、痕跡を消去した。

 

 暫く歩くと葉隠透が、微かに意識を取り戻し、背中で呟いた。

 

「……神代君……ごめんね……私、足手まといだった……」

 

「そんな事は、ありませんよ。男の子は、女性を守る為なら何倍も頑張れるんです。だから、そういう時は謝らず応援してください。私だって男の子ですからね」

 

 神代真一は、背中に当たる「たわわ」と両手で支える尻の重みというJKの暴力をその身で感じていた。

 




 緑谷や爆豪、轟などの主役級を除けば、裏方なんてこんな働きが限界でしょう!
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