H・EROアカデミア   作:新グロモント

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09:透明な絆

 神代真一は、葉隠透を背負いながらUSJ内部を歩いていた。

 

 災害救護の訓練施設である以上、医療設備が整った区画が必ず存在する。彼女の容体は、体温と呼吸からしか判断できない。外傷の確認ができない以上、安全な場所でヴィラン連合の撤退を待つのが最も合理的な選択だった。

 

 あちらこちらで、個性による爆音が響いている。

 雄英高校の強個性持ちたちが本気を出せば、ダース単位で人を殺すことも可能だ。それなのに、戦闘音が鳴りやまない――つまり、まだ“本気”ではない。

 

「イレイザーヘッドか13号先生が戦闘許可を出したのでしょうが……生徒の皆さんは、全力かもしれませんが“本気”ではありませんね。さて、救護施設は……二ブロック先ですね」

 

「ねぇ、神代君。私のことはいいから、先に逃げて。ほら、私の個性って透明化だから……その、脱げば見つからないから」

 

 葉隠透の個性は、透過率100%。赤外線センサーにも映らない。彼女を見つけるには、温度センサーや重力センサーなどが必要だ。よほど準備の整ったヴィランでなければ、彼女を見つけるのは困難だ。

 

「はいはい、逃げるなら一緒です。それに、一人より二人です。私たちは、クラスの中で最弱の男と女です。健康診断の個性と透明化の個性。戦いに不向きってレベルじゃありません。むしろ、私が囮になって葉隠さん一人で逃げた方が100倍合理的です」

 

「……神代君って、女性にいつもそんなこと言ってそうだね。そのうち刺されても知らないから」

 

「ははは、怖いですね。透明化の個性の貴女なら、背後からグサッと一撃必殺です。それに、私は誰にでも優しいわけではありませんよ。葉隠さんだから優しくしているんです」

 

「……ば、ばかぁ」

 

神代真一の首にかかる圧力が、なぜか増す。

 

 背負っている葉隠透の密着度が高まり、徐々に首が締まってきていた。だが、彼女の“たわわ”が二人の距離を一定に保つクッションの役目を果たしていた。どれだけ力を入れても、彼女の顔が神代真一の肩に乗ることはない。

 その時、横の通路から轟焦凍が颯爽と現れる。

 中央で戦うイレイザーヘッドの応援に向かう途中、話し声を聞いて寄り道した結果の邂逅だった。彼は出会ったのが、ヴィランだった場合には即座に凍結させる準備を整えていた。クラスメイトでなければ、今頃“氷漬け”だっただろう。

 

「神代か! 無事だったんだな。お前の背中には……葉隠か?」

 

「良かった~、轟君も無事だったんだ。私はちょっとだけ怪我しちゃってね」

 

「私の方は、何とか無事でした。葉隠さんが飛ばされた時に地面に強打されて怪我をしています。 ヴィランに見つからないよう、救護施設に向かっていたところです」

 

 轟焦凍は、二人の無事を喜びながらも、戦場に連れて行くのは酷だと理解していた。早々に救護施設に隠れて、プロヒーローの到着を待つべきだ。

 

「わりぃな。本当なら俺も一緒に付いて行ってやりたい。だが、イレイザーヘッドがヤバい。あのヴィランは、並じゃねぇ」

 

「えぇ。私や葉隠さんの個性では役に立てません。人質に取られる可能性すらある。だから、あちらは任せます。死ぬなよ、轟君」

 

「あぁ。神代も葉隠もな」

 

 轟焦凍が去っていく。

 ヒーローの仕事は、敵の殲滅だけではない。人命救助もまた、重要な任務だ。

 

……

………

 

 辿り着いた救護施設。

 

 そこには、神代真一ですら想定していなかった展開が待っていた。扉を開けると、怪我をした髑髏仮面のヴィランが、自らを治療している真っ最中だった。ヴィランであっても、怪我をすれば治療位する。それにうってつけの場所が救護施設だ。

 

「ヴィラン!? 神代君、逃げてないと!」

 

 葉隠透の叫びと同時に、神代真一はドミネーターのグリップを握る。

 

『携帯型心理診断鎮圧執行システム。ドミネーター、起動しました。ユーザー認証:神代真一。論理次官。内閣府所属。使用許諾確認――適性ユーザーです。』

 

 起動したドミネーターをヴィランに向ける。

 

『犯罪係数:アンダー30。執行対象ではありません。トリガーをロックします。』

 

「ド、ドミネーター!? 待て、公安の捜査官だ。訳あって潜入任務中だ。……学生なのか?」

 

 神代真一の個性「関係履歴」で、相手の素性を即座に把握する。公安捜査官という立場に間違いはない。裏の裏まで読み取る神代真一の能力でも、完全な“白”だった。動き出した”野良のヴィラン”の動向を把握するため、決死の覚悟でこの場にいる善良な公安だった。

 

 となれば、次の問題は、葉隠透。

 

 ヴィランという名の潜入捜査官に驚いていたが、今の会話をどこまで聞かれていたかが重要だった。

 

「葉隠さん、どこまで聞いてましたか?」

 

「打撲が酷くて気絶していたので、何も聞いていません。救護施設で神代君に治療されて、目が覚めるまでの間、何があったかも知りません。だから……迎えが来るまで、手……握っていてください。それで聞かなった事にします」

 

「ひゅ~、最近の高校生は進んでんな……俺は任務に戻る。上司に報告もあるから一度警察に捕まりに行ってくる。刺されて死ぬなよ、色男」

 

 捜査官が去り、救護施設には静寂が流れる。神代真一は、葉隠透をベッドに寝かせ、椅子を引き寄せて約束通り手を握った。

 

 ちなみに、すぐ横の窓からはUSJ中央で戦うクラスメイトたちの姿。

 遅れてやってきたオールマイトが戦っており、温度差で風邪を引きそうになるほどだった。戦場の喧騒の中で交わされた、透明な絆を感じつつ、早く救助来ないかなと神代真一は思っていた。

 

 




ヒロアカって長編だから、このくらいの速度で進まないと完結まで遠い気する!!
さて、どこかで世界の優しい裏側も紹介していく予定です。
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