ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~ 作:カゲショウ
この小説は現在メインで投降している小説の息抜きで投降していこうと思います。
これは原作に男をぶっこんで進む話です。原作の方が好きという方はそっとブラウザバックしてください。
タグの世界は繋がっているシリーズというのは、まぁ、読んでたらわかると思います。その中で一言言っておきます。
問題児シリーズとは一切関係ありません!
何気ない朝のひと時。窓際の最後尾というベストポジションに陣取る俺は、ポカポカとした春の陽気を体全身で浴びながら、ホームルームで連絡事項を伝える先生の声を右から左へ聞き流しながら窓の外を眺める。
連絡事項なんて特に聞かなくても誰かに後で後ろに書き出されるのでわざわざ聞くものでもないので、視線を教壇に立って話している担任教師から窓の外で満開に咲き誇っている桜へと移す。
俺自身、花を愛でるような雅な性格ではないし、別段植物に興味があるわけでもない。
だが、最近の地球温暖化現象の激化にも関わらず四月に咲いた桜をよくやったと心の中で褒めた。まあ、よくやったと言ってもこれを小説にするならば冒頭場面で使えるぞというとても下らない理由からなので特に深い意味を含ませていない。
「――以上が今日の連絡事項だ。そんじゃ、今日も一日頑張れよー」
担任教師である田嶋雄一〈たじま ゆういち〉先生の気の抜けるような号令でホームルームが終了する。
どうやら俺がぼーっとしている内に話が終わったらしい。当然と言えば当然なのだが話の内容は一切頭に入っていない。
しかし、何とかなるだろうという根拠のない自信が俺の中にあった。
「さて、今日も一日平和に過ごすか……」
去年はとある事情によりまったく平和とはかけ離れた生活を強いられていた。しかし二年になりその事情とやらはかたがついたので、今度こそ平和な生活を送ってやると言う決意を込めて呟く。
「あ、そうだ」しかしその決意は、教室の扉から顔だけを覗かせている田嶋先生の一言によって揺らぐことになる。
「雅也、お前はちょっと着いてこい。話がある」
「…………」
「そんな嫌そうな顔をしても無駄だからな」
まさか平和な生活を送ろうとした矢先に呼び出しをくらうとは……。もしや、さっき話を聞いていなかったのがばれたのか? だとしたら何か文句か説教の一つでもあるかもしれないな。
俺はごく自然な動作で後ろの扉と窓の外を確認した後に少し考えを巡らせる。
実際ここから逃げ出すことは簡単だ。全力ダッシュして後ろの扉から出るか、ロープを使って窓から脱出すれば良いだけなのだ。しかし、後々校内放送で呼び出される危険性がある以上従うしかないか。
これも別に無視しておけばいいのだが、田嶋先生からの呼び出しとなると真剣に考えなければならない。何故なら田嶋先生は一年前、
『一年十四組の西原雅也〈にしはら まさや〉。今から三十秒以内に職員室まで投降しないと面談の時に聞きだしたお前の恥ずかしい過去を暴露する』
などと言って脅迫まがいの事を言う始末である。職員室の近くにいた事もあり、結果的にはギリギリ間に合ったが凄く恥ずかしかった。…………うん、マジでこの先生なんなんだよ。職権乱用しすぎだろ。
俺は過去の事から学習をしない愚かな人間ではないので、ため息を吐きつつ渋々呼び出しに応じることにした。
「分かりましたよ。それで、どこに行けば良いんですか?」
「進路指導室だ。俺はお前の一時限目の公欠を担当の先生に伝えるから、先に行って待ってろ」
「……はいはい。解りましたよ」
その間に逃亡しようかと考えたが自分の保身のために大人しく従うとしよう。別に進路に悩んでいる訳ではないのに、場所が進路指導室なのが解せないが大人しくしておくのが吉だ。
「…………にしても『欠席』じゃなくて『公欠』、ね……」
二度目のため息とともに席を立つ。俺はよく人から三白眼で怖いだ無愛想だと言われるが、今はその顔がさらに酷くなっているのが自分でも分かる。
その理由は先ほど田嶋先生が言った『公欠』という言葉だというのも理解している。
俺は『特別』な人間ではない。だがこの学校では入学当初から、俺は『特別』な人間になっている。それが気に食わないし、正直ウザったいとまで感じている。
いつまでたっても慣れない自分の扱いに苦笑しながら進路相談室へと向かう。
「……どうか面倒事に巻き込まれませんように」
切実に祈りながら一人廊下で呟いた。
「おーっす。待たせて悪かったな」
呼び出しに応じて進路指導室で待つこと数十分。田嶋先生はまったく悪びれた様子もなく、何かの書類を片手に進路指導室に姿を現した。
……人を待たせた人間の態度ではないな。そう思った俺は嫌味の一つでも言ってやりたくなったので、大げさに肩を竦めて言った。
「別にいいですよ。教師は生徒の貴重な時間を浪費させるのも仕事のうちですからね」
「そうだな。んで、お前を呼び出した理由だがだ……」
嫌味をスルーされた。一年の時も思ったが色んな意味で面倒くさい教師だな、おい。
俺が不満そうな態度をとっても田嶋先生は気にせず、持っていた書類を俺が座っているソファの前のテーブルに置き、恐らく自分で持ち込んだであろう電気ケトルを使ってコーヒーを淹れ始める。
「お前はコーヒーいるか?」
振り返らず、コップにインスタントコーヒーの粉末を入れながら問いかける。俺は短くため息をついてソファに座りなおして答える。
「緑茶があるなら緑茶をお願いします。なければコーヒーで」
「ん、了解。ちょっと待ってろ」
そう言って田嶋先生は机の引き出しを開けて急須と茶葉を取り出した。……それも田嶋先生自身が持ち込んだ物なのだろうが、急須を持ち込んでいるとは予想外だ。
俺は慣れた手付きで緑茶を淹れる田嶋先生の背中を見ながら大人しく待つ。
田嶋先生は俺が一年生の時からの付き合いだ。担任教師だったこともあるのだが、何かと絡んでくるのでいつしか教員の中で一番話しやすい相手になっていた。
背は特別高いわけではなく、百八十前後だろう。何のセットもしていないのか髪は無造作にはねており、顔からは活力を見いだせず、無気力を象徴しているようだ。そしてその顔には気怠さを際立たせるかのような三白眼がついている。
性格もそこまで積極的ではないのだが、解りやすい授業をするという事で数学教師の中では一番人気がある。また、進路指導の担当でもあるのだが、生徒一人ひとりに親身になって真剣に取り合ってくれるという事でここでも高い評価を受けている。
しかし、ある程度親しくしていた俺からすれば、それは「いちいち後から質問されるのが面倒くさい」という理由からの事だと知っているので、やはりいい先生とは思えない。
暫く黙って待っていると、コトッと俺の前に湯呑が置かれる。透明感のある緑色の液体からは、心が落ち着くような香りが立ち上っている。
俺は「どうも」と短くお礼を言って緑茶をすする。
口にした瞬間広がるお茶特有の渋みと、茶葉の味わい深い香りが口の中に広がり、若干苛立っていた俺の気分を沈めて穏やかなものにしてくれた。
「……相変わらず淹れるの上手いですね。若干ムカつきます」
「淹れてもらっておいて失礼な奴だな……」
そう言って田嶋先生は左手に持っていたコーヒーを一口飲む。好みの味だったのか、普段変わらない表情が少し綻んだ。
しかしそれも一瞬ですぐにいつもの活力の失われた顔に戻る。そして短いため息をついて、まるでお遣いを頼むような気軽さで言った。
「お前には別の学校へ行って欲しいんだ」
……………………は?
田嶋先生の言葉が頭の中で何度も反芻される。頭の回転速度では少し自信があったのだが、言葉の意味を中々理解できない。
別の学校へ行け? それは留学とかそんな感じのニュアンスで受け取っていいのか?
「あの、田嶋先生。言ってる意味がよくわかりません」
「ん? あぁ、すまん言葉が足らなかったな」
「言葉足らずにも程があると思います」
いや、本当に言葉足らず過ぎだろ。仮にも教師が言っていい言葉じゃなし、これを教育委員会とかの奴らが聞いてたら大問題に発展しかねないぞ……。
ジト目で田嶋先生を睨みつけるが、本人は全く気にせずにコーヒーを一口飲んで言葉を続ける。
「正確にはお前には約一年間留学的なものをしてきてほしいんだ」
「的なものって……留学じゃないんですか?」
「まぁな……。つか概要は朝に連絡したはずだが?」
「興味がなかったので聞き流してました」
「聞いとけ馬鹿野郎」
呆れたようなため息を一つ吐くと、俺の向かいのソファに座る。
コーヒーを机の上に置くとソファに深く座り直し、見るからに気怠そうな顔をして朝俺が聞き流した話を始める。
「これは国や学校のお偉いさんとかが決めたプロジェクトなんだがな……。この学校から何人か他の高校にレンタルさせる事になったんだ」
「レンタルって……。まるでモノ扱いですね」
「言葉のあやだ。実際は生徒数の少ない学校の来年度までの人数合わせや気まぐれ、女子高の共学化に向けてのテスター的な役割が目的だ」
「つまり、派遣みたいなもんですか」
「そういう事だ」
そう言って短くため息をつく。その顔に若干の呆れが見て取れるので、田嶋先生自身この生徒派遣プロジェクトには乗り気ではないらしい。
認めたくはないが田嶋先生はこう見えてまともな思考回路をしているので、こういった馬鹿げたプロジェクトに呆れているのだろう。
「んで、既にいくつかの高校から要請が来ててな。お前にはその中から一つ選んで欲しいってわけだ」
そう言うと田嶋先生は、持ってきた書類をテーブルの上に広げて見せる。書類の右下の所にコピーではない他校の承認印が押されているので冗談ではないことが窺える。
ざっと見た感じ普通校と共学化希望の女子高が三校ずつと言った感じだ。その中には俺が知っている有名校もあったので少し驚いている。
だが……いや、だからこそ俺は疑問に思うことが一つあった。
「……何でうちの豊丘高校がこんなことを?」
そう。何故ただの国立高校であるうちの高校がこのような事をしなければならないのか、それが俺の疑問だった。
しかし真剣な表情で問いかける俺に対して、あくまでおどけた口調で田嶋先生が答える。
「いや、ほらあれだよ。ウチの高校無駄に生徒多いじゃん」
ある意味納得の理由だった。
うちの高校――国立豊丘高等学校は一クラス四十五人の十四クラス編成で全校生徒は千八百人を超えるというマンモス校だ。加えてそれが九割男子なので全校集会など凄いむさ苦しい。
何故こうなったかと言えば、部活がそこそこ強い所がある事や、うちの高校の周りは何故か女子高ばかりが建っており地域の男子諸君の行き場所が限定されてきたからと言うのが主な原因だ。
今回の生徒派遣はその弊害がようやく回ってきたからか、それとも本当に気まぐれなのか……。まぁ、だとしても生徒の他校への派遣が「はいそうですか」と納得できるわけではないが。
「要請があった高校は一番遠いところで桜が丘女子高等学校だな。近い所は結構あるから把握してない」
「それくらい把握しておきましょうよ。というか、今の口ぶりだとこの六校以外にもあるということですか?」
「まあな。今回は俺の独断でこの六校に絞ってきた」
何故だ。そう問いかけようと一度口を開きかけるが、この教師に説明を求めてもちゃんとした答えが返ってくるとは思えなかったので話題を変える。
「桜が丘ってここら辺じゃ聞かない名前ですね。どれくらい遠いんですか?」
「そうだなぁ……。関東地方じゃないことまでは覚えてるんだけどなぁ……」
「県外だったとしても限度を考えろよ」
寧ろなんでそんなところから要請が来たのか不思議だよ。いや、でも国が関わっている時点で全国各地から要請が来ていてもおかしくないのか?
今度は田嶋先生に代わって俺が呆れたため息を吐いてソファに深く座りなおす。
「とりあえず俺が行くか行かないかは別としてメリットを教えてくださいよ。それを聞いたうえで判断しますから」
「メリット、か……」
そう呟くと、田嶋先生は顎に手を当ててしばらく考える。
「高校によるが、それぞれこちらから提示した条件の待遇はするし、各校独自の待遇も用意されている」
そう言って田嶋先生は広げた資料の中から件の『桜が丘女子高等学校』と『文月学園』と書かれた資料を俺の目の前に掲げる。
「例えば桜が丘はうちの生徒が住むための場所を用意してくれるし、授業料も半額でいいというVIP待遇。文月学園は二年生以上はD以上のクラスに編入できるし太っ腹なことに授業料は全額免除だ」
それはまた随分と手厚い待遇だ。
他にも奨学金が貰えたり、部活動に入った場合の部費免除などがある。この二校だけでも一般生徒にとっては破格の待遇だろう。
だが俺の心は揺れ動かない。
「それだけですか? もしそうなら俺は断固としてこの学校から離れるつもりはありませんから」
「随分とこの学校が好きなんだな」
「まさか」
田嶋先生のちゃかしを鼻で笑って一蹴する。
はっきり言えば俺はこの学校が嫌いだ。転校したいとだって何度思ったかわからない。
だがそれでも俺が転校しない……いや、転校できないのは、俺がこの学校特有の忌まわしい教育システムに同意のサインをしてしまったからに他ならない。
俺はこの学校に通う大半の生徒とは違う特別な扱いを受けている、だから俺はよほどの事情でもない限り転校できない。そして俺はその事を心から嫌悪している。だから俺がこの学校が好きなどという事はあり得ない。
田嶋先生はその事を知っているので軽く肩を竦めてコーヒーを飲む。俺も怒りなどで高ぶった心を鎮めるために緑茶を飲む。
「……で? 全校共通のうちから出した条件は何ですか?」
「そうだなぁ……。お前が一番喜びそうなやつで、編入先の高校が廃校にでもならない限り一年後にその学校に転入できるってところだな」
「!!」
驚きで一瞬持っていた湯呑を落としそうになったが、何とか持ち直す。
正直住む場所の確保や授業料などどうでもよかったが、その条件だけは俺の心を大きく揺れ動かした。
俺はこの学校から転校できない。しかし田嶋先生がこの話を持ち出してきたという事は、俺はこのプロジェクトに参加さえすればこの学校から解放されるという事だろう。
俺のその反応に満足したのか田嶋先生は無気力そうなその顔に笑みを浮かべた。
「それで、行くのか? 行かないのか?」
「ハッ、愚問ですね、田嶋先生」
教師の問いかけを鼻で笑うのはどうかと思ったが、それがどうでも良くなるくらい俺のテンションは上がっていた。
「その話。引き受けさせて頂きますよ」
身を乗り出して田嶋先生に右手を差し出す。一瞬驚いた顔をするが、次の瞬間には不敵な笑みを浮かべてその右手を握り返してくれた。
細身の体からは想像できないがっしりとして硬い田嶋先生の手に、俺は何故か親近感を覚えた。
「で? どこの高校にするんだ?」
手を放してソファに座りなおした田嶋先生が問いかける。そこには、さっきの不敵な笑みは無かった。
「とりあえず共学化に向けてのテスターは避けたいので女子高以外ですね」
テーブルの上に広げられた書類のうち『文月学園』『音ノ木坂学院』『七芝高校』以外の書類を端にまとめて置く。
それを見た田嶋先生が小さく笑った気がするが、俺は気にすることなく三枚の書類をざっと眺める。
そして一枚の書類――音ノ木坂学院の書類の途中で視線をいったん止める。
「豊丘高生の特別クラスの設立……。これってどういうことですか?」
「ん? あぁ、確か既存のクラスの中にウチの生徒を分けるんじゃなくて、独立したクラス……いうなればウチの生徒専用のクラスをつくるって事らしいな」
「そんなことが可能なんですか?」
「あー……。そこはデカい校舎の割にはクラスが少ないらしいから教室が有り余ってんだろ」
「はあ……」
田嶋先生の言った事に何処か違和感を覚えるが、それを一度頭の隅に追いやって書類に意識を戻す。
本来ならば生徒を混ぜて親睦を深めるべきなのだろうが、世間では続々と新学期が始まっているこの微妙な時期にこんなバカげた事をするので、わざわざクラスを再編成する手間を省く意味では理にかなっている。
他の条件を見ても決して悪い条件は提示されていない。俺としては悪い話ではないな。
ふと視線を上げると、音ノ木坂の書類をずっと見ていた俺を、田嶋先生は何故かしたり顔をして見ていた。
「……何ですか」
「いや、別に? お前ならそこを選ぶだろうと思っていたが……そこに行ってみるか?」
田嶋先生が問いかける。そう言われると掌の上で転がされていたみたいで気が進まないが、他の二校より興味が湧いたのは残念ながら事実だ。
ならば俺の出す答えは一つだ。
「はい。俺はここに行きます」
こうして俺の国立音ノ木坂学院での生活が決まった。
「音ノ木坂学院は女子高……だと……っ!?」
原作が始まるちょっと前位のお話です。
さあ、次回から音ノ木坂でμ'sの皆と出会うんだろうなと考えていたのですが、それは随分先になると思います。
一応息抜きという事にしてますが、未完にならないように頑張りたいと思います!