ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~ 作:カゲショウ
ラブライブの映画が遂に始まりましたね! 作者はとてもテンションが上がっております。
しかし、公開日には課外が、舞台挨拶の日には部活の大会があって重要な日に限って外せない予定が入っていてテンションは下がり気味です!
一応、今日友人と見に行く約束をしているのでテンション上げてみようと思います。ネットに流れてる「最高だった!」という言葉が真実かどうか確かめてやる!(どうせ面白いんだろうけど)
それでは本編をどうぞ
「本ッッッ当にごめんなさい!!」
腰が九十度曲がっているんじゃないかと思うほど深々と頭を下げる銀髪の少女。
この少女が誤っているのは先ほどの誤解から起こった一連の騒動の事だろう。
少女曰く、俺が高坂に鉄槌を下すために偶然壁ドンと呼ばれる態勢になったところに偶然遭遇し、俺が高坂に言い寄ってる不良に見えたらしい。
確かに見た目がこんなのだし、正直自分でも少し悪乗りが過ぎたなとは思っている。
だが、まさか警察に連絡はいかなくともごつい店員さんに肩掴まれて、弁解する暇もなく三人で仲良く事務所まで連れてかれるとは思はなかった。
その後、事務所での取り調べと銀髪の少女の誤解を解くのに小一時間かかってしまった。貴重な時間を無駄にしたというかなんと言うか……。とりあえず解放されてよかった。
そして今は書店を出てすぐ近くにあった公園に俺達はいて、銀髪の少女が頭を下げているという状況になっている。現役中学生に頭を下げられている目つきの悪い高校生。この光景を見た一般市民はきっと警察、またはそれに準ずる組織を呼び出すだろう。
もしそうなれば、さっきと同じことの繰り返しで無駄な時間を過ごしてしまう。それだけは絶対に避けたい。
「だから、あの…………」
だから俺は――――
「……………………」
「ベンチの上で土下座するのをやめてもらっていいですか!?」
ベンチの上で土下座することでその危険を回避していた。
因みに何故ベンチの上なのかというと、ただ単純に制服が土で汚れたら困るからだ。土下座なのは言うまでもないだろう。
「ふっ……! くっ、くく……!!」
顔を上げてると、少女の傍らでは高坂が口と腹を押さえて懸命に笑いを噛み殺そうとしているが、残念ながらそれは叶わず笑っていることはバレバレだった。
確かに自分がおかしな行動をとっていた自覚はあるが、隠し切れないほど笑う必要はないだろ。そんな意味を込めて高坂を軽く睨み付ける。
そんな俺の視線に気が付いたのか、高坂はそっぽを向いて二、三回わざとらしく咳払いをする。そしてまるで何事もなかったかのようににこやかに銀髪の少女の肩に手を乗せる。
「ね? 言った通り面白い人でしょ?」
「おい待てコラ。コイツに何時、何を吹き込んだんだ」
「何って、学校で私と西原さんが出会った時の事を九割の真実と一割の嘘を交えつつ話しただけですよ」
「何故嘘を交ぜた」
「私の良心です」
得意げに言い張る高坂。正直コイツの事だからその一割ではなく二、三割くらい嘘だろう。コイツとの付き合いは合計しても一日にも満たないが、そんな気がする。
「なあ、銀髪の……」
「あ、私絢瀬亜里沙って言います」
「すまない、まだ名乗ってなかったな。俺は西原雅也。高校二年生だ」
さっきの高坂のイラッと来る笑顔ではなく、無垢な笑顔で名乗られたので、ついつられて名乗ってしまった。いや、名乗りたくないとかじゃないんだがな。
「……絢瀬に聞きたいんだが、コイツは俺の事をどんな風に話してた?」
「西原さんの事をですか?」
えーっと、と人差し指を頬に当てて記憶を掘り起こす絢瀬。
そしてその時の事を思い出せたのか、両の手をぱちんと合わせてその顔に笑みを浮かべる。
「雪穂の家のおまんじゅうを買いに来て道に迷ってたから道を聞いたら、持っていた地図が改定前のだって気が付いてなんともない風を装って実はかなり落ち込んでいた人って言ってました」
「…………マジで?」
「はい!」
満面の笑みで頷く絢瀬。俺はエスパーでもなんでもない一般人だが、絢瀬が嘘を言っているようには見えなかった。
しかし、だ。もし絢瀬の話が本当だとするのなら、高坂は確かに嘘を吐いたことになる。
俺は確かに饅頭を買ったが、盛大に胃を鳴らしたはずだ。地図を持ってはいたが、それは改定前の地図ではなく、担任教師に騙されて渡された改竄された地図のはずだ。その担任教師への殺意を口にしたが、落ち込んではいなかったはずだ。
言わない事を嘘だというのならば、彼女は嘘をついた。
俺の年上としての尊厳を守るための優しい嘘を……。
その事実に若干の感動を覚えつつ高坂を見る。俺の視線に気が付いた高坂は、絢瀬の肩に置いていた手を口元に当てていやらしい笑みを浮かべる。
「どうしたんです、西原さん? 感激して言葉もでないんですか?」
「……俺の感動を返せこの野郎」
「私は女の子なので野郎じゃないですよ」
コイツ……一回痛い目見させてやろうか。いや、やめておこう。また面倒な権力者達に捕まってしまう。
そんな俺の気持ちも知らない高坂はむかつく笑顔をこちらに向け続け、その隣で絢瀬が困ったような笑みを浮かべている。
……しかしあれだな。同じ『笑顔』という括りでは同じなのに、高坂と絢瀬の笑顔の間には大きな隔たりがあるよな。いったいこの違いはなんなのか……純粋さか?
「西原さん、今失礼な事考えませんでしたか?」
「失礼なことは考えてない。ただ真実の確認をしていただけだ」
そう、もう変えられない真実を、な……。
高坂が失ってしまったであろう物の大きさを憐れんでいると、さっきの説明では納得のいかなかったのか高坂が軽く睨んできた。
女はこういう事に妙に鋭いと聞いていたが、まさか本当に該当する奴がいるとはな……。
まぁ、だからと言って謝る気も弁解をする気もないんだけどな。高坂よ、不満があって睨むなら好きなだけ睨むがいい。俺は痛くも痒くもないし。
そんな意味を込めて嘲笑すると、高坂の頬がヒクっとつり上がる。
この時俺はほぼ直感で理解した。キレたな、と。そして地雷を踏みぬいてしまったことを……。
「……ねぇねぇ亜里沙、少しお腹すかない?」
「え? う~ん、そう言われれば少し……」
「じゃあ何か軽く食べに行こう!」
笑顔で絢瀬の手を取る高坂。しかしその笑顔はどこか不自然で、つい最近に似た笑顔を見たような気もするのは何故だろう。ついでに悪寒を感じたのも何故だろうか?
しかし絢瀬は形の良い眉はハの字にする。
「でも今何か食べたら晩御飯食べられなくなっちゃうよ?」
「大丈夫大丈夫! 軽く何か食べるだけだから」
「そうなの? じゃあ行こうかな」
どうやら話はまとまったらしく、二人はそれぞれの鞄を手に取り寄り道の準備を始めていた。
仲良きことは美しきことかな、絢瀬は紺色の鞄を両手で下げて、高坂は絢瀬と同じ鞄を左肩に右手でどこか見慣れた黒の鞄を持って笑いあう。
これ以上ここにいてもコイツ等はどこか寄り道するみたいなので無意味だろう。それに用も済んだので二人に付き合う必要もないだろう。
そう思って俺は正座を崩してベンチから立ち上がる。
「じゃあ、俺はもう帰るわ」
「何言ってるんですか? 西原さんも一緒に行くんですよ?」
「…………は?」
もう一度言おう。は?
高坂が何を言っているのかさっぱり理解できなかった。
一緒に行く? そんな話ではなかったはずだ。お前の提案した寄り道は絢瀬と二人でって話ではなかったのか? というか誘われた記憶すらないぞ。
「さ、西原さん行きましょう」
暫く体がフリーズし、頭だけが働く。
そして俺は一つの結論を導き出した。
「知らん。俺は帰る」
俺は高坂の誘いを蹴る事にした。
そもそも俺は家に帰って晩飯の用意をしなければならないのだ。仮に俺の幼馴染に誘われても断っていただろう。
「……良いんですか、そんな事言って? 間抜けなお兄さんって今度から呼びますよ」
「どうぞご自由に」
「亜里沙に嘘偽り無い私との出会いを話しますよ」
「俺がお前らにどう思われようと俺に実害は無いから好きにすればいい」
悠然とした態度で高坂の脅迫をはねのける。よくよく思い返してみればコイツ等は中学生で交流もめったにないだろうし、どうせ一年後にはここを去るので気にする事じゃないな。
「……そうですか、じゃあ仕方ないですね」
ため息を一つ吐いて諦めたように笑う高坂。もし純粋に誘ってくれているのならば少し申し訳なく思うが、俺にもやる事があるから仕方がない。
俺は膝についた埃を掃って自分の鞄を取ろうとして――――初めてあの時の悪寒の正体に気が付いた。
「じゃあ、この鞄が間抜けなお兄さんの手元に戻らないのも仕方ないですよね」
俺の鞄はこの公園に来た時の位置にはなく、何故か高坂の手にぶら下がっていた。
そして、ニッコリと笑顔を向けられているはずなのに、その眼の奥はクスリとも笑っていない。
…………ああ、そうか。こいつのこの笑顔はあの時の理事長の笑顔に似てるのか。
抵抗しても絶対に数倍返しで返ってくるという考えに辿り着いた俺は、無条件に白旗を上げて高坂の『寄り道』に付き合う事にした。
………………今日の晩飯は簡単なものにするか。
やってきたのは先日俺が昼飯を食べに訪れたジャンクフード店。
店内は流石にごった返すほど人がいるわけではないが、放課後という時間帯なのに……いや、だからこそ人がいた。満席になってなかった事にとりあえず胸を撫で下ろす。
カウンターに三人並んで注文をする。絢瀬はソフトドリンクとポテト、高坂はシェイクとハンバーガーを注文し、それを受け取ると「じゃあ、早く来てくださいね」と残してさっさと席を確保しに行った。
このまま逃げてやろうかとも思ったが、バックがまだ高坂たちの手中にあるのでその考えを思い直す。
そして八つ当たり気味にチーズバーガーのチーズ抜きを注文すると、意外や意外、照り焼きバーガーを出された。
文句を言える立場ではないが、値段の都合上取り替えてもらおうとしたが、なんの因果かその店員はあの時、組立前のチーズバーガーを出したその人だった。
営業スマイルで「さっさとどけや」と威圧してくる店員に何も言い返せずに支払いを済ませ高坂達の下に向かう。八つ当たりしたはずなのに気分が晴れないのは何故だろう……。
晴れない気分のまま暫く二人を捜索し、窓際の四人掛けのテーブル席に座っているのを見つけると重い足取りでその方向に歩き出す。
「遅いですよ、間抜けなお兄さん」
「俺のせいじゃないだろ」
「ま、立ち話もなんですから座ってください」
「言われなくてもそうするよ。はぁ……」
ため息を吐きつつ高坂の前の席に腰を下ろす。
さっきから思ってはいたが、コイツはどうに人の話を聞こうとしない。もっと詳しく言うなれば聞いてはいるがスルーするか、別の話題を唐突にふってくるとかだな。
会話は心のキャッチボールとよく言われている。しかし、投げられた球を見逃し、あまつさえそのボールを拾わずに新しい球を投げる人物は世界広しと言えどもそういないだろう。というか、いてたまるか。
まあ、結局何が言いたいかというと、帰りたいという事である。
「なあ、高坂」
「何ですか? 間抜けなお兄さん」
「俺の鞄はどこだ」
「間抜けなお兄さんが強奪できないように亜里沙に預かってもらってます」
そう言って高坂はハンバーガーを一口食べて隣に座っている絢瀬に視線を向け、つられて俺も彼女に視線を移す。というか、強奪みたいな手荒な手段はまず使わないから。
その事で高坂に説教の一つでもくれてやろうとしたが、絢瀬を見た瞬間俺の口がその動きを止めてしまった。
「………………ハラショー」
そこには高級料理でも食べているかのような満悦の表情を浮かべつつ、低価格で庶民的なポテトを食べている女子中学生がいた。
…………ジャンクフードのポテトってこんな表情ができるほど美味なものだったか?
確かにジャンクフードは『体に悪いものほど美味しい』と言われ広く親しまれている。かくいう俺も時間がないときや人との付き合いでお世話になっている。もっとも、その人付き合いで来る機会などそうそうないのだが……。
だがそれは置いといて、だ。やはり大量生産された食品を温めなおしているだけなので味の質には限度がある。俺は別に食に煩いというわけではないが、冷凍食品が世界で一番美味いとは未来永劫ないだろう。割と便利で気に入ってるけど。
話を戻そう。言い方は悪いが、何で絢瀬はポテト一本でこんな表情ができるんだ?
考えられる場合は三つ。一つは彼女がジャンクフードマニアであるという場合。二つ目はジャガイモが好物という場合。そして最後にそもそもジャンクフードを食べた事がなく、今日初めて口にした場合。
いつもの俺ならば即座に一番と三番の選択肢を切り捨てていただろう。特に一番は偏見ではあるが、女子中学生としてどうかと思うし。金銭面と健康面〈スタイル〉を考慮すると可能性が一段と薄くなる。
しかし俺は即座にその二つを切り捨てられずにいる。
何故か。
彼女が高坂雪穂の友人だからだ。
高坂は常識がある方ではある。それは二日前に理解していた事だ。だが、必ずしも『常識がある=常識人』という式が成り立つわけではない。少なくとも高坂においては『常識がある≒常識人』という方程式が成り立つ。
まぁ何が言いたいかというと、高坂の性格は若干型破りであり、その友人である絢瀬もその可能性があるという事だ。
この世界には『類は友を呼ぶ』という諺がある。似た者同士が無意識に惹かれあい、集うという意味のそれだ。
故に彼女がジャンクフードマニアである事、そしてジャガイモが好物である事とジャンクフードの初体験である事のどれかが当てはまる可能性もある。
「三番……いや、二番か? 大穴で一番の可能性が……」
「何ぶつぶつ言ってるんですか?」
どうやら思考の一部が口から洩れていたらしく、高坂にジト目で睨まれてしまった。まぁ、だからといって俺の心にダメージがあるわけではないけどな。
何でもない、と言って照り焼きバーガーを一口頬張る。高坂はそうですかと言ってシェイクに口をつける。その際に高坂の柔らかそうな頬が少しだけ窄むのが何故だか可笑しかった。
「そういえば間抜けなお兄さんって高校生なんですよね? 何高なんですか?」
「いきなりだな、お前」
「良いじゃないですか、何か減るわけでもないんですし」
「俺の貴重な時間が経るんだよ」
「あ、上手いですね。『減る』と『経る』を掛けたんですね」
「そんなつもりは毛頭なかったんだが」
「で、どこなんですか?」
ガン無視かよ。ほんと、高坂と会話するのは疲れる…………。
本来なら話してやる理由も義理もないのだが、俺の鞄は現在トリップ中の絢瀬のもとにある。つまり、少なくとも絢瀬の意識が現実世界に戻ってくるまで時間を潰さなければならない訳で……。
「ふぅ……」
俺は大きなため息を一つついて背もたれに体を預ける。
「制服を見て分からないか?」
「分からないから聞いてるんです」
確かにその通りである。
「はぁ……国立豊丘高等学校だよ。というか、都心付近の男子は大体ここだろうが」
「あー……。そういえばクラスの男子がそこの話をしてたような……」
そんなこともあったなぁ、と言いそうな顔でシェイクを飲む。
『都心付近の男子は小学校から高校までが決められたレールの上』と言われる位この事は有名だと思っていたのだが、どうやら女子の中ではそうではないらしい。そのことに若干の不満を抱かずにはいられないが、俺一人がそれを洩らした所で何かが変わるわけではないのでそれを飲み込む。
「ん? でもここからだと学校まで若干遠くないですか? 通学とか大変じゃないんですか?」
高坂が眉間に軽くしわを寄せて問いかける。
しかし、これは高坂が疑問に思うのも無理はない。
何故なら豊丘高校は都心から少し離れた所、早川駅のすぐそばに建っている。なので秋葉原からだと若干通学が面倒くさいのだ。
まあ、一応寮が学校の近くに団地のように密集しているので、都心近くの男子が通学に苦労することは殆どないんだがな。
「俺はもともと調布市に住んでたからそんなに不便じゃなかったし、今は訳あって音ノ木坂に通う事になってるから問題ないはないな」
「それじゃあ、今西原さんは音ノ木坂に通ってるんですか?」
「ああ」
「そうなんですか。大変ですね」
そう言って、高坂はいつの間にか食べ終わっていたハンバーガーの包装紙を綺麗に折りたたむ。そして――
「「って、ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!??????」」
――店内への迷惑や俺の鼓膜の強度などお構いなしに、体を乗り出して絢瀬と絶叫する。というか絢瀬、話聞いてたのか……。
「え? 今音ノ木坂って言いました!? なんでですか? 実は間抜けなお兄さんじゃなくて間抜けなお姉さんだったんですか!?」
「違う。というか、この容姿で女であってたまるかってんだ」
「じゃあ実は先生で音ノ木坂に転勤になったんですか!?」
「落ち着け絢瀬。確かに俺と似たような顔の教師はいるが、俺は教員免許を持っていない」
「「じゃあ、どういうことなんですか!!」」
「だから落ち着けって言ってるだろうが……」
俺の肩を掴んでサッカー日本代表もびっくりのチームワークで勢いよく前後に揺する二人を何とか落ち着かせようと冷静に訴えるが、相当動揺している二人は聞く耳持たずで俺を捲し立てる。
ああ、この声のボリュームだと店に迷惑がかかるなと思っていると、揺れる視界の隅にあの店員が映りこむ。
笑顔なのに、営業スマイルのはずなのに背後から隠しきれない怒気を発している店員。
五月蠅いから黙らせろ。そんな確かなメッセージを俺は感じ取った。
「間抜けなお兄さん!」
「どういう事か教えてください!」
「…………ええい! いい加減落ち着け!」
痺れを切らしたのと視界の端に映る店員が恐ろしいのとで、興奮状態にある二人を脳天にチョップを下して黙らせる。
二人はあぅ、と奇声を上げて頭を押さえる。そしてようやく冷静になれたのか、すみませんと謝って席に座りなおす。店員も視界から消え去った。
「ったく、二人とも少しは人の話を聞くことを覚えろよ。特に高坂」
「しょうがないじゃないですか。音ノ木坂は女子高のはずなのに、男子が通ってるって聞いたらそうなりますよ」
不貞腐れた態度の高坂。確かに驚きはするだろうが、そこは何とか堪えてほしいものだ。
「でも、どういう事なんですか? 本当に女の子になったんですか?」
ジト目で隠しもしない悪意の言葉が投げられる。俺にチョップされたのがそんなに気にくわないか、高坂。
高坂の態度に辟易してため息を吐くと、絢瀬が小さく声を漏らす。
「そういえば前に、お姉ちゃんが暫く男の子が来るって言ってた気がする……」
「え? ウチのお姉ちゃんはそんな事一言も言ってなかったよ?」
「なら連絡ミスか、ただ話を聞いてなかっただけだろ」
「あぁ……お姉ちゃんならやりかねないなぁ…………」
おい見知らぬ高坂姉よ、妹からさらりと酷い事言われたぞ。
高坂の言葉に絢瀬が苦笑を漏らす。優しそうな絢瀬が否定しないという事は本当にそうなのか? もしそうならあの時「お姉ちゃん二号」という称号を貰わなくて本当に良かったと心から思うよ。
「というか、二人とも姉さんが音ノ木坂に通ってるのか?」
「はい!」
「学年は違うみたいですけど。亜里沙のお姉さんが三年生で、ウチのお姉ちゃんが二年生。間抜けなお兄さんと同学年ですよ」
「そうなのか? なら隣のクラスか」
「何でそう言い切れるんです?」
「何でも何もクラスメイトに会って来たし、それに…………」
「それに?」
「…………いや、なんでもない」
「?」
きっと言っても信じてもらえないだろう。クラスメイトが俺以外苗字に「田」という漢字が入っているという奇跡を……。
「あの、西原さん。一つ聞きたいことがあるんですけど……」
「なんだ?」
遠慮がちに上目使いで聞いてくる絢瀬。その仕草は小動物を彷彿とさせ、つい近所に住んでいた子供に接していた時の柔らかめのトーンで答えてしまった。絢瀬の隣で「私の時と態度違いませんか?」と言いたげな視線を向ける高坂は無視しとくか。
絢瀬はなかなか言葉が出てこないのか何度も口をパクパクと動かす。
何を言おうとしているのかは分からないが、絢瀬の表情は至って真剣だ。
だから俺は彼女がその言葉を吐き出すのを待つ。
「何で、音ノ木坂に男の子が通ってるんですか?」
「何で、ねぇ…………」
原点回帰。
そもそもさっきまで彼女たちが我を忘れて興奮状態に陥っていたのは、俺が音ノ木坂に通っていると言った事からだ。そういう意味では彼女の問いは至極まっとうで、何ら可笑しなことはない。
ただ、説明するのはいささか面倒くさいし、場合によっては俺が田嶋先生に騙された所も話さなければならなくなるのでできれば回帰してほしくなかった。
「……絢瀬のお姉さんは、そこの所教えてくれなかったのか?」
「はい……。お姉ちゃんは何回聞いても『亜里沙が気にするようなことではないわ』って言うだけで……」
「ふむ……」
絢瀬の言葉を受けて、彼女の姉の言葉の真意を探る。
絢瀬が姉の事を話す時に邪険に扱ったりしない所を見ると、彼女達姉妹の仲は悪いわけではないだろう。
ならば何故彼女の姉は彼女に音ノ木坂に男子が通う理由を話そうとしないのか。……いや、もしかしたらそうじゃないのかもしれない。
彼女の姉は男子が通う、その理由の理由。つまり、生徒数が減少したから共学化を図る前の段階。国立音ノ木坂学院が廃校になるという事を話していないのではないだろうか?
もしそうなら何故話していない?
考えられるのは二つ。一つは本当に絢瀬に関係ない事だったから。だが、関係ないなら話しても問題ないはずだ。もう一つは、絢瀬を不安にさせたくなかったから。ならば彼女が廃校という事実を知って不安になる事はなんだ?
この少ない情報から、廃校というワードから生まれるであろう彼女の不安を考える。
「……なあ、絢瀬。なんでお前はそんなことを知りたいんだ?」
一つの仮説を頭に思い浮かべて、それを立証するために必要な情報を彼女から引き出す。もし俺の仮説が正しければ迂闊に話していい内容ではないので、こちらの手札は伏せておく。
俺の問いに、絢瀬は一瞬目を丸くしたが、すぐにさっきまでの真剣な――でもどこか柔らかく微笑んだ――顔に戻った。
「私、音ノ木坂に入りたいんです」
その言葉が俺の中で立てられた仮説を立証してくれた。
「……やっぱりな」
「何がやっぱりなんですか? 間抜けなお兄さん」
「いや、何でもない。ただ予想が当たってたなと思っただけだ」
高坂が頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げる。ただ、わざわざ説明するのも面倒くさいので説明はしない。
絢瀬の姉が理由を話さない理由、それは絢瀬自身が音ノ木坂への入学を希望しているから。
そりゃ廃校の事を知ったら不安になるだろうし、姉としては余計な心配を掛けさせたくなかったのだろう。
ならば、真実を話すのは彼女次第という事になる。
「なぁ絢瀬、その気持ちに嘘偽りはないな?」
「はい」
「今現在で音ノ木坂に何が起こってるのか知っても、お姉さんに心配を掛けさせないって約束できるか?」
「……自信は、ないです」
俯いた絢瀬の顔に少し影が差す。
「私、いっつもお姉ちゃんに迷惑かけてばかりだから、絶対に守れるかは、分かりません」
でも、と言葉を続け、顔を上げる。
その顔には確かな決意があった。
「お姉ちゃんが困ってるから、助けてあげたいんです」
「……そうか」
仲良きことは美しきことかな。
妹思いの姉と姉思いの妹の互いを思いあう優しさ、実に素晴しいものではないだろうか。
「なら、話してやるよ。音ノ木坂の現状を」
言葉は短くて、説明は不十分だけれども、きっと彼女なら大丈夫だろう。
そんな根拠もない信頼を抱きながら、彼女達に音ノ木坂の現状、そしてこれまでのいきさつを話し始める。
「――――と、まぁこれが今俺が知ってる全てだ」
全てを語り終える。ちらりと二人の表情を窺うと、高坂がやっぱりかと確信がいったような表情なのに対し、絢瀬が酷く悲しそうな表情をしていたのが印象的だった。
「音ノ木坂が……廃校…………」
ぽつりと呟かれたその言葉は絶望と呼ぶには少し温いが、強い悲しみが込められていた。
「噂には聞いてたけど本当に廃校になるなんてねー……」
「正確には廃校になるという話が上がってるだけで、本決定されたわけじゃないからな」
「それは分かってますよ。ただ、なんかそういうのって漫画の中だけだと思ってたので実感が湧かないんです」
「まぁ、分からないでもないな」
実際廃校なんてそうそう出会える事じゃない。いや、出会っていいものでもないのだろうけど。
話を聞いてはいそうですかと割り切れるタイプはそうそういないだろう。突拍子のない事に耐性ができていると思っていた俺でも未だに実感がない。ならば耐性もなく志望校がなくなるかもしれないと告げられた彼女のショックは想像に難くない。
「……私のおばあちゃんは音ノ木坂出身なんです」
唐突に絢瀬が語り始める。
俺も高坂も最初こそ不審思ったが、とりあえず黙って聞く。
「おばあちゃんは音ノ木坂はいい所だって言ってて……入学前に色々あって悲しそうだったお姉ちゃんも、音ノ木坂に入学してから前みたいに笑えるようになって、羨ましいって思ったんです」
彼女の中にある音ノ木坂への憧れとでも言うべき告白。
自分もこうなりたい。ここに行けば楽しいことが待っているかもしれない。そんな彼女の願望〈ゆめ〉。
「たくさんの笑顔がある音ノ木坂に、入りたいんです……」
「亜里沙……」
告白を終えた絢瀬を高坂が悲しそうに見つめる。
何処にでもあるような、誰もが思うような理想の高校生活。楽しくて、充実していて、友達がいっぱいいて、たくさんの笑顔に囲まれて過ごす、ありふれた生活。そんな生活が始まる前に終わろうとしている。
「どうにかなりませんか? 間抜けなお兄さん」
「どうにかって……凄い無茶ぶりをしますね、高坂さん」
高坂の無茶ぶりに軽く肩を竦める。
無理だ。できるわけない。そんな単語が駆け巡る。
所詮は一介の高校生だ、やれることなんてたかが知れてる。廃校なんて馬鹿でかい問題をどうにかできるはずがない。
…………そう思っていたはずだ。
――――貴方と田嶋君は本当に似ているもの
あの時の理事長の言葉が頭の中で小さく、水の波紋のように響き渡る。
この言葉が俺の何を指しているのかは分からない。
「だが、まぁ――」
ただ、今この瞬間だけは、この根拠も何もない言葉にかけてみようと思えた。
「お前等が望むなら、方法が無い訳じゃない」
口に出してから後悔する。
何が方法が無い訳じゃない、だ。まったくのノープランじゃないか。方法どころか計画すらまともに立てられないのにできるものか。
心の中で数秒前の自分に罵詈雑言を吐く。もし俺がマゾだったならセルフSMプレイが出来ていたのだろうが、生憎そんな性癖は持ち合わせていない。
「本当ですか!?」
「まぁ、な……」
一度吐き出された言葉はなかったことには出来ない。
だからその言葉を聞いた絢瀬がさっきまでの悲しそうな表情から一変して瞳を期待で輝かせる。
………………やるしかない、か。
大きく深呼吸して二人と向かい合う。
「それで、だ。お前等に聞きたいんだが、本当に廃校を阻止したいか? 阻止するために俺に協力できるか?」
「もちろんです!」
「私は第一志望が違うけど……亜里沙の悲しむ顔は見たくないですし、異議はありません」
なんだかんだ生意気なところもあるが、高坂も人の子のようだ。友達思いのいい奴だ。
心意気は十分。ならば後は自分のできることをやるだけだ。
「じゃ、そろそろ俺は帰るわ」
「そうですね。結構長居したみたいですし」
「あ、これ鞄です」
「おう」
ここで人が何かするときに必要となるたった一つのものは何かを話そう。
多くの人は『才能』や『理由』などと答えるだろう。少数派ではあるが『計画』もある。
確かにそれらも大切だ。だが、俺はそうは思わない。
才能は足りない分を人数で補えばいい。理由は結果の後につければそれでいい。計画はどうせ途中で破綻する。
なら何が必要なのか?
「それでは失礼します、間抜けなお兄さん」
「さようならです!」
「おう」
それは日本語で三文字、英語に直して十文字で、全ての行動の根源となるものだ。誰もが持っているけど、使わない奴もいる。そんな必要なもの。
「やる気、出してくか」
必要なたった一つのもの。それはやる気である。
次回予告
「どうしようもないな、おい」
その場の勢いで約束してしまった廃校の阻止
やる気だけで全てが上手くいくわけもなく、頭を抱える
苦悩する雅也
神は無情にも救いの手を差し伸べてくれなかった……
「ちょっと、また無視なの!?」
そして再び出会う赤髪のローレライ
何かと突っかかる彼女から雅也は何とか逃走を図る
その果てで彼を待っているものとは……
次回「十六歳の孤軍奮闘記」
「貴方、それは校則違反よ」