ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~   作:カゲショウ

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お久しぶりです、カゲショウです。
本当は昨日のうちに投稿する予定だったのですが、思わぬアクシデントに投稿できませんでした。すみませんでした。

一万UA超えました! 読んでくださった方、本当にありがとうございます! これからも頑張りますのでどうか温かい目で見守っていてください

さて、色々語りたいことはあるのですが、前書きであまり長く語るのもあれですので短くまとめようと思います。

まず一日遅れだけどラブライブ!五周年おめでとうございます!自分はいわゆる新参ライバーなのですが、本当にこの作品に出会えてよかったと思います。六年目に突入しても変わらず応援したいと思います!

次にサンシャイン!!のグループ名決まりましたね。個人的にはAqoursよりLirの方が好きだったのですが、なんにせよ凄く期待しています。CD発売が待ち遠しいです(笑)

最後に、これから私用で大変申し訳ないのですが、大学受験が本格的に始まるので更新は現実逃避をするときのみになってしまいます。偏差値40くらいなのに国公立しか選択肢がないので、泣く泣く勉強します。
Twuitter始めたので、そちらで投稿する時は連絡しますので気軽に覗いてみてください。

それでは、本編をどうぞ


11話 十六歳の孤軍奮闘記

「……はああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー…………」

 

「に、西原君、どうしたの?」

 

「……もう、ノリと勢いで約束なんてしない」

 

「本当にどうしたの!?」

 

 田城野が恐らく素であろうオーバーリアクションをしているが、机に突っ伏している俺はそれを見る事は叶わなかった。

 昨日から月の昇降を経た朝。自分がやらかした事を激しく後悔し、独り机に突っ伏していた。

 やらかした事、というのは初対面の中学生達(内一人は二度目)と無謀と言っても過言ではない約束をしてしまったことだ。

 約束という程確かなものでもなかったが、口約束でも約束だ。確実性は欠いたとしても契約は履行すべきだし、何より期待を持たせてしまったのなら向こうが失望するまで何かするべきだろう。

 ……………………と、昨日理事長からの協力の申し出を条件次第だとのたまっていた高校二年生がいます。

 恥ずかしくて死にそう……という事ではないが、理事長に生意気言ってすみませんでしたと謝りたい気分だ。

 何が条件次第だ。ほぼ無条件で承諾したようなもんだろ、これ。なにハイリスク・ノーリターンの蛇の道を突き進もうとしてるんだよ。何が方法は無いわけじゃないだ、百里先まで濃霧で覆われてまったくのノープランのくせに何を偉そうに言ってんだ。

 

「どうしようもないな、おい……」

 

 本当にどうしようもない事してくれたな、昨日の俺……。もはや後悔の域を超えて怨んでさえいるまである。

 しかしいつまでもそんな状態で考え込んでも状況が好転するわけでもないので、去年田嶋先生の無茶振りで鍛えられた思考の切り替えをする。

 冷静に考えるんだ、冷静に……。

 何故俺は素直にアイツ等と寄り道をしたのか。俺の鞄が物質〈ものじち〉に盗られたから、これは理解できる。

 何故俺はチーズバーガーの組立前を注文したのか。ただの八つ当たり、これも理解できる。

 何故俺はあいつ等の前で廃校から救う方法があると言ってしまったのか、これが理解できない。

 いや、正確には原因は分かっている。だた何故それが原因となったのかが理解できないのだ。

 絢瀬が悲しそうにしていたから? 違う。

 高坂にどうにかしてと頼まれたから? 違う。

 俺自身、音ノ木坂の廃校をどうにかしたかったから? 違う。

 

 

――――貴方と田嶋君は本当に似ているもの

 

 

 理事長の言葉が、きっとあの時の俺の判断を狂わせたに違いない。

 なら何故理事長のあの言葉が俺の判断を狂わせるに至ったのかを少しだけ説明しよう。

 まず第一に言っておかなければならないのが、俺は田嶋先生に似ていると言われるのが鳥肌が立つほど嫌いだ。

 理事長の言うように俺と田嶋先生は外見もそして内面も似ている所がある。三白眼(田嶋先生は活力が見いだせないオプション付き)で無愛想。権力者や目上の人間にも物怖じしない態度に考え方と喋り方、俺と田嶋先生を知っている人からは良く言われる共通点だ。

 なので普通なら親近感が湧いて仲良くなれそうなものなのだが、俺は田嶋先生とそうはならなかった。

 何故か。

 それは田嶋先生には多彩な才能が有り、俺にはないからだ。

 同属嫌悪。そういうには少しだけ違うのかもしれないがつまりはそういう事だ。持たざる者は自分の持っていないそれを持っている者を羨み、嫉む。

 アイツと自分はこんなにも似ているのにこうも違うのか。どこまで人生を巻き戻してやり直せばそれが手に入れられるのか。

 さらに田嶋先生はその多彩な才能を意味のある事に積極的に役立てようとせず、無駄な事――主に俺を騙す事――に使っている。それが俺の嫉みをさらに大きくさせる。

 アイツには情報を操る力が、人を騙すだけの話術と知識が、人を導く力がある。だが、それを有効に使おうとしない。

 似ているからこそその違いを嫉み、似ているからこそ自分もそうなるのではないかと怯え、そうなりたくないと嫌悪する。だが、それがあの時の俺を狂わせたかというとそうではない。

 田嶋先生は無駄遣いこそしているが才能はある。

 俺はそこだけは田嶋先生に憧れていると言ってもいいだろう。何故なら俺はそれを持っていないからだ。

 才能の無駄遣いなどというマイナスの面に目を瞑れば、田嶋先生は嫌悪の対象から憧憬の対象に変わる。俺が田嶋先生の事を嫌悪しつつも完全に拒絶しなかったのはこのためだ。

 だからこそ理事長のあの言葉は俺を狂わせた。

 理事長の言葉が田嶋先生のどの部分まで内包した物かは分からない。だが、もし『田嶋先生の才能面を含めた部分』を指しているとしたら……。

 たとえ理事長がそう思ていなかったとしても、今でも少しだけ浮かれてしまう。

 …………まぁ、俺にはそんな才能がないことは昨日一日方法が思いつかなかったから無いって知ってたけどね。浮かれてた俺マジざまあ。

 

「力が……(面子を)守れるだけの力が欲しい…………っ!」

 

「なんで急にやられかけのヒーローみたいなセリフ!?」

 

「実際にやられかけてるからな、俺」

 

「そうなの!?」

 

「ああ。期待と現実って奴とちょっとな……」

 

「予想以上にまともな事と戦ってたよ!?」

 

 いつの間にか俺の机の横にしゃがんでいた田城野が驚いている。コイツは俺が他に何と戦ってると思っていたのだろうか。残念ながらこの世界には宇宙に住んでいる人は居ないし、遺伝子改造された人も物理法則を無視した馬鹿でかい宇宙まで続くエレベータも無いぞ。

 というか朝来た時より田城野が近いせいでオーバーなリアクションが耳に響いてうるさい。

 放送部なだけあってか田城野はいい声をしている。鈴を転がすような綺麗な声は聞いていて気持ち良いが、鈴というのは五月蠅くすれば綺麗から一転して雑音となる。要は喧しいという事だ。

 その喧しさから少しでも遠ざかるために俺は伏せていた上体を起こす。

 五月蠅いから少し黙れという念を込めて田城野を軽く睨むが、田城野はそれを俺の机に両手と顎を載せてえへへと笑い返すだけで反省の色はない。

 俺はそんな彼女に呆れて何も言わずに盛大にため息をついた。

 

「でも西原君、何か悩んでるならちゃんと誰かに相談しなきゃだめだよ?」

 

「相談してどうにかなる問題じゃないんだけどな……。それに俺、相談できる人いないし」

 

「…………ごめん」

 

「おいそこで謝るなよ。そんな反応されたらこっちも反応に困るだろうが」

 

 そこはせめて笑い飛ばすかさっきまでのオーバーリアクションを返してほしかった。

 ま、正確にはこの学院にはだけど、豊丘高にも少なかったのでそんなに大差はないだろう。

 

「あはは……。あ、だったら私が西原君の相談相手になってあげるよ!」

 

「田城野が相談相手……?」

 

「うん!」

 

「はは、面白い冗談だな」

 

「冗談って事ににされた!?」

 

 ガーンという効果音がつきそうな顔でショックを受け、「冗談じゃないのに……」と頬を膨らませて拗ねる田城野。

 ちょっとした冗談だったのだが、こんな反応を返されたら少し罪悪感が生まれてしまう。

 田城野は外見もだが内面も幼く、俺がここに来る前の家の近くに住んでいた割と親交のある子供を彷彿とさせ、いつものように強気でいられない。

 まぁ小さい子供泣かせたら家族全員で俺に説教するからというのもあるが、その子供自身俺に懐いていた様なのでペットに接するように多少甘めに対応してた影響が大きいだろう。

 

「悪い、ちょっとした冗談だ」

 

「…………本当に?」

 

 依然として拗ねた様子で睨んでくる田城野。しかし、本人は睨んでいるつもりなのだろうが毛ほども怖くない。

 

「ホントホント。オレウソツカナイ」

 

「何で全部片言なの!? というか今さっき嘘ついたばっかりだよね!?」

 

「そんな些細な事は気にするな」

 

「全然些細な事じゃないよ!」

 

 立ち上がり両腕を上下に激しく振って抗議する田城野。今更だが朝からこんなに騒いでて疲れないのだろうか?

 そんな田城野を見ていると流石に諦めたのか子犬が威嚇するような声で暫く唸った後、諦めたように小さくため息を吐いた。

 

「とにかく、私が西原君の相談相手になるから悩んでたらすぐ相談してね?」

 

「ああ。その時はお言葉に甘えさせてもらうよ」

 

「えへへ。絶対だからね!」

 

 そう言って田城野は向日葵のように明るい笑みを浮かべて小指を立てた右手を突き出す。

 一瞬何の合図か分からずにその手と田城野を交互に見ていると、指切りだよと言われて合点がいく。この年にもなって指切りをするとは思はなかったので、若干戸惑いつつも同じように右手を差し出す。

 田城野はその差し出した小指を自分の小指と絡ませて軽く腕を上下に振りながら楽しそうにあの脅迫する歌を歌い始める。マジで針千本飲ませるとかヤバいだろ。この歌の起源が気になる。

 

「ゆーびきった! これでもう約束は破られないね!」

 

「一番確実性の薄い口約束で何を言ってるんだか……」

 

「むー、そんな事ないよ」

 

「はいはい」

 

「あ、信じてないでしょ!」

 

 暫く田城野とそんなやり取りを繰り返していると始業を告げるチャイムが教室に響き渡る。

 田城野はまだ何か言いたそうにしていたが、流石にチャイムに逆らうことは出来ないのか大人しく自分の席に戻る。といっても隣の席なので隣からジト目で見られているのだが、まあ特に気にすることでもないな。

 先生が来るまでの間頬杖をついてこれからの事を考える。

 廃校を阻止する活動をするのはほぼ決定事項みたいなものなので、何もしないという選択肢を後ろ髪を引かれながらも手放す。

 そして活動するにあたって今の自分に足りないもの、この学院に必要なものを頭の中に思い浮かべる。

 放課後までに大まかな方針まで決まるといいのだが…………。

 俺は何度目か分からない大きなため息を吐いた。

 

 

 

 

「はーい。みんな今日も一日お疲れ様。気を付けて帰ってねー」

 

 安田先生の間延びした号令とともに生徒たちは本日のお勤めから解放され、背伸びをして体をほぐす奴や友人と放課後の計画を話し合う奴、己の部活へと足を運ぶ奴と様々だ。

 

「じゃあね西原君。また明日ー」

 

「おーう、またな」

 

 俺の隣の席の住人の田城野もその例にもれずいつの間にか取ってきていた鞄を肩にかけ笑顔で手を振ってくる。

 俺もそれに片手を上げて返し、わざわざ荷物を取ってそれだけ言って去っていく田城野の背中に、律儀な奴と呟いて見送る。

 田城野が完全に教室から退出したのを見届けると、俺は椅子の背もたれに自分の体重を預けて窓の外を見る。

 そこには未だに見慣れない音ノ木坂の風景と、窓にぼんやりと反射する俺の疲れた顔があった。

 正直自分でも表情が分かりにくいなと思うよな俺の顔に、ここまではっきりと疲れたと分かる表情が出ているのに少し驚きつつその理由を思い出す。といってもそんなのは思い出すまでもなくすぐに分かる事なのだが……。

 結論から言えば方法なんて思いつかなかった。

 朝から放課後まで頭をフルに回転させて考えたのだが、出てきた答えはこれだけだった。

 まずこの学院を救うにあたって今の自分に何が足りないのかを考えた。すると権力、知識、人望、人員などが一瞬で出てきた。

 次にこの学院に必要なものを考えようとしたが、そもそもこの学院に来て二日目の奴に分かるわけないという大きな壁にぶち当たる。

 それでもめげずに昼休みに職員室を訪ねてパンフレットを貰ったり、田城野に音ノ木坂の事を聞いたりはした。

 その結果分かったことは、この学院は伝統ある学校でそれ以外のアピールポイントはない。あるとすれば中庭付近で飼育しているアルパカぐらいらしい。アルパカを飼育している事に恐らく今日一番驚いたのは秘密だ。

 部活動等の活動実績はどうなっているのか尋ねても、どの部活も地区大会の一回戦敗退などばかりで大した成績は残せていないようだ。

 パンフレットに書いてある教育方針や進学・就職実績もどれもパッとしないし、学校行事もどこにでもあるようなありきたりな物ばかりだった。

 正直偏差値もそこまで高いわけではないようなので、もっと面白そうな学校……それこそUTX学園等の学校に生徒が流れるのも素直に頷けるのが今の現状だった。

 俺には力がない、学院には必要なものが多すぎる。この現状を打破するにはそれこそ生徒会長などの権力のある生徒を筆頭に、学院総出で改革を行わなけれならないだろう。

 だというのに、理事長は生徒会長にこの案件を回さないと言うのだ。正直頭のねじが一本飛んでいるのではないかと思ってしまう。

 一応理事長には条件次第で引き受けると言ってはいるので権力と人員は確保できるだろう。だが、それでも足りないものはある。

 

「…………屋上で頭冷やすか」

 

 少しの現実逃避と休憩のために席を立って教室をでる。

 その際にお茶を買って飲もうと思い、屋上に行く前に一階に下りて自販機で緑茶のパックを購入して再び階段を上る。二度手間だなぁと思いつつも気分転換だと割り切って屋上を目指す。

 似たような景色の続く階段を上り四階に辿り着いたところでふと昨日の事を思い出す。

 

「そういえば四階には音楽室があったよな……」

 

 音楽室。つまり昨日であった赤髪のローレライの棲み処である。

 しかも今は放課後なので彼女が話していた通りなら、今は音楽室で彼女はピアノを弾いているのだろうか? それにしてはピアノの音が一音も聞こえないな……。

 

「ま、俺が気にするような事でもないか」

 

 寧ろ会わないほうが俺の精神はこれ以上疲労しなくて済むわけで、現在進行形で疲労困憊なこちらとしてはその方がありがたいくらいだ。

 それでも屋上へ行くには音楽室の前を通らなければならないので、細心の注意を払いながら屋上を目指して歩く。

 帰宅する生徒もぱらぱらといるのでこの中に紛れれば見つかる可能性はぐっと下がるだろうと思い、人波の流れに逆らうように進んでいく。

 だがやはりここは元女子高だ。男子生徒という異物に、青いリボンをした女子生徒は物珍しさ半分、警戒半分といった感じに俺を避けてゆく。

 人海戦術使えるじゃんと思った矢先にこれだ。これでは人の中に隠れきれずに見つかってしまうではないか。くそっ、何がいけないんだ! 顔か。

 ここまで簡単に予想できると悲しさよりいっそ清々しいな。そう思いつつもやはり感じる少しの悲しさを紛らわすために右手に持っている緑茶のパックを玩ぶ。

 

「…………先輩?」

 

 俺は容姿やファッションには無頓着なほうで、現に俺は朝起きた時のぼさぼさの頭で過ごしている。流石に寝癖が酷い時は軽く直してから登校するのだが、そもそも俺と関わる人自体少ないのであまり気にする必要性を感じない。

 

「ちょっと、先輩ってば」

 

 そういえばその事を弟の侑希に話すと、何故か憐憫の視線と共にため息を送られたのだがあれはなんだったのだろうか?

 

「先輩!」

 

 ……まぁ今は余計なことで頭を使わないでおこう。よそはよそ、ウチはウチの精神でこれからも過ごしてい――――

 

 

「ちょっと、また無視なの!?」

 

 

 そんな大声と共に急にフードが後ろに引っ張られ、首が絞まる。ポリスか!? 俺は何もしてませんよ!

 そんな注意の一つでもと思ったが首が絞まってまともに声が出せない。ポリスというのは半分冗談なのだが、マジで誰だよ。いきなり首絞めるとか非常識にも程があるだろ……。

 これ以上気道を圧迫されないようにするために力のかかる方向と逆に襟元を引っ張る。そして軽く睨むように振り返ってその人物を確認する。

 俺より少し低く、胸には青いリボン。全体的に精巧に作られた人形のように整ったパーツでできてるくせにピアノを弾かせたら誰よりも人間だと感じさせる特徴的な赤毛を持つ少女。

 

「……赤毛のローレライか」

 

「何ですか、その名前!」

 

 ぎゅっとフードを握る手に力が籠る。どうやらご立腹のようだが、いったいどうしたというのだ……。八つ当たりなら別の方へお願いします。

 彼女が怒ってる理由が分からずに取扱いに困っていると、彼女は再び声を上げて怒り出した。

 

「何で無視するんですか! 昨日もでしたけど流石に酷いと思わないの!?」

 

「無視て……。呼び止められてないんだけど」

 

「呼びましたよ。先輩って」

 

「この世に何人先輩と言いう存在がいると思ってるんだ。つか手を放せ、苦しいだろ」

 

「え? あ」

 

 俺に言われてようやく気が付いたのか、フードを掴んでいた手を放す。

 一瞬だけ申し訳なさそうな顔をしたが、すぐに元に戻る。

 俺は久しく入ってくる空気を肺一杯に吸い込んで、赤毛のローレライに向きなおる。

 

「先輩だけで分かるのは親しい間柄の奴だけだ。そうじゃない奴にはちゃんと名前をつけろ」

 

「それなら先輩だってちゃんと名前で呼びなさいよ」

 

「知らない名前をどうやって呼べと?」

 

「………………言ってなかった?」

 

「ああ」

 

 どこかでやったようなやり取り。正確に言えばつい昨日に高坂としたやり取りに酷似していた。

 思えば俺は初対面の相手に名前を言ってなかったり聞いてなかったりするな……。そもそももう一度会うなんて考えないからなんだけど。そう考えると、あの日秋葉原で出会ったメガネの少女とも再会することになるのだろうか? ま、流石にないか。

 ふと思考の海から這い上がって赤毛のローレライを見ると耳を真っ赤にしてそっぽを向いて、俺と視線を合わせようとしなかった。

 

「おい、どうしたんだよ」

 

「な、なんでもないわよ!」

 

「さいで……」

 

 何で半分キレてるんですかね、コイツ。

 またこいつは面倒くさいなとうすうす感じ始めていると、彼女はぼそぼそと何かを呟き始めた。

 

「……し……きよ…………」

 

「は?」

 

 なんて言っているのか分からないので耳を彼女に近づけて聞き取ろうとすると、彼女は真っ赤な顔で思いっきり叫んだ。

 

「私の名前は西木野真姫よ! ちゃんと覚えときなさい!」

 

「…………了解」

 

 耳を近づけていたのが仇となり、至近距離で大ボリュームの彼女の声を聴いてしまい鼓膜が破れるかと思った。

 ここでうるさいと言ってしまうと、また彼女の機嫌を損ねかねないので言葉を飲み込む。

 

「……ま、とりあえず落ち着け。な?」

 

「……そうね。そうさせてもらうわ」

 

 本当は俺が飲むために買った緑茶を差し出す。西木野はそれを躊躇いながらもありがと、と小さく呟いて受け取る。

 ……こんなことになるならもう一本買っとけばよかったな。彼女に飲まれてゆく緑茶を見ながらそう思った。

 

「ふぅ……」

 

「落ち着いたか」

 

「おかげさまでね」

 

 彼女は髪の先を指先でくるくると弄りながらそう告げた。

 これでようやくまともに会話ができると思い、俺はついさっき疑問に思ったことを聞いてみることにした。

 

「そういえばお前、なんでここにいるの?」

 

「何でも何も……ここは一年生の教室がある階だからでしょ?」

 

「…………一年生だったのか?」

 

「仮に私が先輩だったら先輩の事を先輩って呼ばないわよ」

 

 それもそうか。

 という事は一年生が青のリボンで二年生が青と赤のリボンか。一応覚えておこう。

 

「先輩、その調子でこれから先の生活大丈夫なの?」

 

「多大な不安しか抱えていないから大丈夫だ」

 

「それは普通大丈夫の部類じゃないわよ……」

 

 呆れたように西木野はため息を吐いた。しかしそうは言ってもだな西木野、その不安の一部はお前が担ってるんだぞ。

 

「気にしたら負けだぞ。ところでお前は今から音楽室に?」

 

「そうよ。先輩に昨日私の演奏をぼろぼろに言われたし」

 

「そこまで言ってないだろう?」

 

「言ってたじゃない!」

 

「あれでも一応言葉は選んだんだが」

 

「……先輩って気遣いとか会話とか苦手でしょ」

 

「……否定はしない」

 

 実際その通りだし。そういえば俺が会話する相手って気を使わなくて済む相手ぐらいしかいなかった気がする。

 自分の交友関係の狭さに我ながら驚きだ。

 

「今日は変な先輩によく逢う日ね……」

 

「俺以外にもそんな奴がいるのか?」

 

「ええ、まぁ。昼休みにちょっとね……」

 

 その変な先輩って二年二組の生徒じゃないだろうな? 正直あそこは変人の巣窟だと思うし。

 西木野はふっと小さく息を吐いて佇まいを正した。

 

「まぁちょうどいいわ。音楽室に行くわよ」

 

「は? なんでそうなるんだよ?」

 

「そんなの私の演奏をもう一回聞いてもらうために決まってるでしょ」

 

「そんな決まり初めて知ったわ」

 

 手帳に『女子生徒の命令は絶対に守る事』とでも校則にあるのか? もし書いてあったら速攻でその手帳を破り捨てる自信がある。

 

「何してるんですか? 早く来なさいよ」

 

「お前も大概会話苦手だろ。敬語使うなら最後まで使え。つか俺は行かないからな」

 

「はぁ!? 何それ、イミワカンナイ!」

 

「イミワカンナイのはこっちのほうだよ。なんで素直に従わにゃならんのだ」

 

「先輩に私の演奏を聞かせてあの時の言葉を撤回してもらうためよ!」

 

「あの時は大変失礼な事を言ってしまい誠に申し訳ありませんでした。……これで満足したか?」

 

「しないわよ! いいから私が来なさいって言ってるんだから素直についてきなさいよ!!」

 

「お前はどこの独裁者だよ……」

 

 そのうち「私がルールだ!」的なことを言いそうだな……。いや、流石に言わないか。

 しかし何というか、怒りで冷静な判断ができてないからか随分と滅茶苦茶な事言ってるよな、コイツ。

 友達がいないって言ってたから他人との距離の置き方っていうのが曖昧な部分もあるんだろうが、それにしても自己中心的すぎるだろ。

 そう考えるとヒトラーとかムッソリーニとかって凄いよな。自分を考えの中心に置きながらも政治ができてたんだし。

 特にヒトラーとかその理念をもとに行動を起こして潰れかけだったドイツを立て直したんだから本当に凄い。そしてそれを予言していたというノストラダムスはもっと凄い。

 やっぱり危機的な状況にはかなり強引な指導者が必要なのか?

 …………俺はなれるのか? そんな指導者に。

 いや、違うな。それは間違ってる。正しい答えじゃない。

 ありきたりだが、なれるかなれないかじゃない。正しい答えは――

 

「――なるか、ならないか……」

 

 これが一番正しい答え。

 なれるかなれないかは結果論にすぎない。何もしてないのに結果だけを気にしていても仕方がないではないか。

 今回の件だってそうだ。廃校になるかならないか、それは結果だ。

 アクションを起こさない限り廃校になる。だが、何かアクションを起こせば0から1になり廃校にならいという可能性が生まれる。

 なら俺がすべき事はただ動き始めるだけでいい。

 指導者じゃなくても、廃校阻止に動き出す第一人者になるんだ。かなり他力本願ではあるが、俺に触発されたそういう才能のある奴が学校を引っ張り始めるまでやれるだけやって俺が目印になる。それが俺がすべき事だ。

 目の前にかかっていた濃霧が少しだけ晴れる。それが嬉しくて少しだけ笑みがこぼれてしまう。

 

「? どうしたのよ、いきなり」

 

「いや、ようやく方針が定まったと思ってな……」

 

「何それイミワカンナイ。兎に角早くついてきなさいよ」

 

 そんな俺の心情を知ってか知らずか、西木野が俺を急かす。

 だが悪いな、今の俺はそんな悠長な事をしてる場合はないんだよ西木野。

 

「何度も言ってるだろ、西木野。俺はついて行かない」

 

「はぁ? 何でよ!」

 

「何で……か。そうだな、しいて言えば――」

 

 俺はそういいつつパーカーのポケットからこんなこともあるだろうと持ってきておいた『ある物』を取り出し、素早くピンを抜いて地面に叩きつける。

 

「たった今用事が出来たからだ」

 

「何それ、イミワカンナ――!?」

 

 瞬間、世界が光に覆われる。西木野も眩しさに言葉を止め、腕で視界を覆う。

 俺はその瞬間を逃さず、脱兎のごとく階段の方に駆け出した。

 

『ちょっと! なんなのよ今の!』

 

 遠くで西木野が叫ぶ声がする。しかし俺は振り返ってる暇などないし、立ち止まって説明している暇もない。そんなことをすればまた彼女に捕まって、強制的に音楽室に連行されるだろう。

 だから俺はただ駆ける。西木野に捕まらないように、そして理事長室へ行くために。

 ……因み、俺が使った『ある物』というのは、緊急離脱用にS特の友人が作ってくれた『使っても安全シリーズ』の閃光玉だ。

 これは小さな黒い球の形状をしており、刺さってる安全ピンを抜いて地面に叩きつけると本当に一瞬だけ強烈な光を発するという代物だ。

 威力も抑え目に作られているので、製作者曰く室内でも安全に使用できるらしい。

 だが一応使用する際には細心の注意が必要となるので、濫用するのはお勧めしないとのことだ。

 と、まあ強制的にあの場から離脱して無事に階段までたどり着くことができた。後ろを振り返ってみるが、西木野が追いかけてきてる気配もないので一度立ち止まり、呼吸を整える。

 さて、方針は定まった。あとはあの理事長からどれだけの好条件を引き出せるかが問題になってくる。

 …………正直うまく言いくるめられる気しかしないのだが、やるしかないのだ。

 

「ふぅ…………。よし、行くか」

 

 深呼吸をして覚悟を決める。絶対にやってやると心に誓い、そのための一歩を踏み出す――

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 直前に聞きなれない凛とした声に止められる。

 せっかくの勢いが削がれた事に多少の苛立ちを感じつつ、声の主を確認するために振り返って――後悔した。

 一番最初に視界に入ったのは、彼女の光を反射して輝く綺麗な金髪だった。

 そこからだんだんと視界を広げていく。透き通るような白い肌、サファイヤを埋め込んだのではないかと思うほど蒼く綺麗な瞳は少し吊り上って高圧的な印象を受けるが、彼女の纏う知的な雰囲気がそれをいい方向へと変えている。

 そして制服の上からでもわかる抜群のプロポーション。それが彼女の整った顔と合わさって、綺麗な人から美人と形容するのにふさわしいバランスを保っている。

 胸には見慣れない緑色のリボン。それが彼女が三年生だという事を理解させる。

 ふと、理事長の言った事が脳裏を横切る。

 

 

――三年生のリボンをしててスタイルのいい金髪の美人な生徒が居たらほぼ間違いなく生徒会長よ

 

 

 三年生で、スタイルが良くて、金髪の美人。それがこの学院の現生徒会長の特長であり、今目の前にいる人物の特徴でもある。

 その人物は俺の肩から手を放し――

 

 

「貴方、それは校則違反よ」

 

 

――容赦のない、凛として、氷のように冷たい声音で国立音ノ木坂学院生徒会会長はそう告げた。

 

 

 

 

 




次回予告
「この学校にいる以上、校則は守ってもらいます」

世の中には出会わないほうが良い人がいる

恐らく雅也にとってのそれは生徒会長だ

「パーカーは制服じゃありませんよ」

「そんなのは屁理屈よ」

「でも理屈です」

二人の間で始まる口論戦争

果たしてこの戦争の勝者は……

「残念だけれど、その条件は認可できません」

そして彼はついに行動を始める

次回「可能性達は動きだし、彼らはまだ出会わない」

「そう、この子があの人の言ってた……」
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