ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~ 作:カゲショウ
今回はものっそく長くなりました。いや、ほんとに……
ある人物の口調も変だし、最後失速気味でむちゃくちゃですが、どうかお付き合いください
それでは本編をどうぞ
ついでに覗いてみてください↓
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世界には出会わない方が互いに幸せに生きていける人が存在する。
例えば理想主義者と現実主義者。現代社会に生きる人たちは夢を見るべきなのか、それとも現実を見るべきなのかで平行線の議論が繰り広げられるだろう。
例えば悪魔と天使。二者は既に人ではないが「~のような人」と言えば大体想像が付くと思う。
例えば何がとは言わないが、たけのこ派の人ときのこ派の人。出会えば互いに一歩も引かない戦争を始めてしまうだろう。
このように世界には反りの合わない人同士が出会うと、必ずと言っていいほど無益なものしか生み出さない。
かの有名な紫式部と清少納言も出会いさえしなければ崇高な文学者でいられたのはずなのに、出会ってしまったばかりに日記に互いの悪口を書くといったブラックな面を生み出してしまっている。もっとも、それを人として親しみが持てると解釈すれば、単に無益だと言い切れないが……。
それでも彼女たちの邂逅により生まれた人間味は、崇高な文学者としてはマイナスとなった。
プラスとマイナスの内、その出会いがマイナスを生み出すというのなら俺はその人と出会うべきではないと思っている。だってマイナスにはメリットが存在しないからだ。
できる事ならその人には、一生出会うことのないようなどこか遠くの国で幸せに生活していて欲しいものだ。
しかし俺にとってそうであるであろう人は案外近くにお住いのようだった。
「ちょっと、聞こえているのかしら?」
「……あぁ、すみません」
彼女の割と早目な登場に俺は驚いて呆然としていたが、彼女の恐ろしいまでに冷たい声によって脳が再稼働する。
目の前で冷ややかな視線を浴びせ続ける彼女を改めて見る。
廊下の蛍光灯の光でさえ反射する金髪。
加工したサファイアのような瞳。
高校生とは思えない整ったプロポーション。
そして彼女が纏う凛としていて凡人の接近を拒むようなどこか近寄りがたい雰囲気。
情報さえ知っていれば百人中百人がこう答えるだろう。この人が国立音ノ木坂学院の生徒会長だ、と。
「……すみません、貴女は誰ですか?」
それでも念には念をという事で素性を確かめてみる。
彼女はその問いに対して、表情も雰囲気も崩さず冷たい声音で答えた。
「私は音ノ木坂学院生徒会会長の絢瀬絵里よ。そういう貴方は何者なのかしら?」
「昨日からここに通う事になってしまった二年の西原雅也です」
「そう。では西原君、再び言うけれどそれは校則違反よ」
そう言って会長は俺の身体を指さす。
その先には特に校則違反になりそうなものは無く、ただ制服とパーカーに包まれた俺の身体があるだけだった。
…………え? 何が校則違反なんだ?
会長の指の先にあるのは何の変哲もない西原雅也という存在があるだけで校則に触れるようなものは何もないはずだ。もしかしてあれか? 俺の存在が校則に反しているというのか? もしそうなら人権なにもあったもんじゃないな。……まぁそんな事は無いだろうけど。
となると俺の存在以外の何がいけないんだ? 顔……は流石に違うだろうし、服装も何も問題は無いはずだ。
となると後はパーカーの下に隠した閃光玉や爆竹しかないが……まさかこれの存在に気が付いたのか!?
確かに閃光玉とかはいくら危険性がないからと言っても普通に校則違反だし、何も知らない人にすればただの危険物だ。注意されても文句は言えない。
む? ならばどうして会長は俺の服の下の秘密に気が付けたんだ……? 会長とはこれが初対面のはずだから知る由もないはずなのに。
「……まさか透視能力? いや、もしかすると犬並みの嗅覚で嗅ぎ当てた可能性も……」
「貴方、いい加減無視するのはやめて貰えるかしら?」
会長が変わらない冷気の中に僅かな怒気を滲ませる。よく見ると眉間にも薄くしわが寄っているので怒っていることが容易に想像できた。
どうもさっきの西木野の事といい考え事をしていると会話を途切れさせてしまう癖があるようだな。反省反省。
「すみません、少し考え事をしていたもので……。それで、自分のどこが校則に反しているのでしょうか?」
「そんなの言わなくても分かっているはずでしょう?」
「分からないから聞いてるのですが……」
「……ふざけているの?」
「いえ、微塵も」
正直に答えただけなのに、会長はもはや怒気を隠そうとせずサファイアの瞳で睨みつけてくる。
というかキレるの早すぎじゃないですかね? カルシウム足りてないんじゃないの?
「もう一度言います。貴方の来ているそのパーカーは校則違反よ。だから早く脱ぎなさい」
あ、そっちの方だったか。というかそれしかありえないか。誰だよ透視能力って言った奴、もうちょっと現実的な事言えよ。…………はい、俺です。
そういえば理事長が生徒会長は厳しいからパーカーを着るのをお勧めしないって言ってたな。成程、確かにこういう人ならば勧めにくい。
口煩そうというか厳格というか……まぁ学級委員長とか生徒会長とか本当にぴったりだな。
っと、また何もせずに黙ったままだとまた会長に怒られてしまう。そう思いとりあえずこの場だけでも脱いどくかと思ってファスナーに手をかけ――その手を止めた。
待てよ、よく考えるんだ。俺は最初会長に何が見抜かれたと思っていた? パーカーじゃない別のものだったはずだ。
そう、俺が見抜かれたと思っていたのはパーカー――の下に潜めてる閃光玉等だったはず。つまりパーカーを脱ぐ→危険物のオンパレード→会長キレる→説教、もしくは反省文コースという一連の流れが出来てしまうわけか。面倒くさい。
…………この場合、大人しく従うのと抵抗するののどちらが面倒くさくないのだろうか?
五秒考えて決断。そしてファスナーから手を放し、不機嫌な会長をまっすぐ見据える。
「嫌です」
ただシンプルにそれだけを伝える。
すると会長の瞳の中にあった凍てつくような氷が融け、静かではあるが近づくだけで火傷しそうな怒りの炎が灯る。
会長には悪いとは思うが、いつ西木野がリベンジしてくるか分からない今、こいつらを手放すわけにもいかないんだ。
「やはりふざけているのね?」
「まさか。俺はただ会長にこれ以上迷惑を掛けないようにしてるだけなのですが」
「そう思うのなら早くそれを脱いでもらえないかしら? 今とても忙しいの。貴方に構ってる暇はないのよ」
「それなら放っておいてくださってもいいですよ。寧ろその方が個人的に嬉しいです」
「っ! そうはいかないから口頭注意しているの。貴方も高校生なのだからそれくらい分かるでしょう?」
会長が一瞬拳を握ったが、すぐに解いて俺を睨む。
……うーん、面倒くさい。いや、俺が悪いのは百も承知だけど諦めが悪いというか何というか……。妥協を許さないという点は好感が持てるが、できる事なら第三者でいたかった。
「……はぁ」
「何故貴方がため息をつくのかしら?」
「いや、面倒くさいなと思い――――あ」
「面倒、くさいですって……っ?」
……しまった。つい本音が口から零れてしまった。
恐る恐る会長の様子を観察する。サファイアの瞳に宿る怒りの炎は青色。握りしめた拳は解かれることはなく、彼女の白い肌がさらに白くなるまで握りしめられている。
そして全身から沸き立つ怒気はドス黒いオーラを纏い、彼女の心情をこれでもかというほど表していた。
あぁ、面倒くさいことになってしまった……。大人しくパーカー脱いで怒られとけば良かった。いや、そっちの方が怒られるか。
「……だから嫌だったのよ、共学化なんて」
「へぇ、そうなんですか」
「ええ。貴方みたいな女子目当ての不良が入ると学院の名前に傷がつくから嫌だったのよ」
「………………へぇ」
不良、ね……。別に不良なんて言われ慣れてるというか、俺への第一印象の九十パーセントは不良っていうのは分かってたさ。うん。
女子目当てって思われるのも仕方ないな。なんせ女子高の試験生として来た男子の殆どはそうなのだろうから。俺は違うけど。
だから俺はこのくらいの事で怒ったりはしないさ。なんせ俺は理事長基準だと大人だからな。怒ってないから会長を怒鳴ったりしない。これが俺じゃなかったら会長は今頃どうなってた事か。
だが、まぁあれだ。うん。
――――もう会長に遠慮する必要は無いよな?
「とにかく、貴方のせいで悪い噂が立つのはこちらが困るので早く脱いでもらえるかしら?」
「嫌です。なんで理由もないのに脱がなきゃいけないんですか」
「校則違反だからに決まってるでしょう」
「それは音ノ木坂の校則ですか?」
「それ以外に何があるというのかしら」
「だったら知ってるわけないじゃないですか。……少し考えれば分かる事ですよ?」
「っ! 知らなくても常識よ」
「豊丘高校では違反じゃなかったんで。会長の言う常識の範囲って狭いんですね」
「貴方……っ!!」
会長が鋭い眼差しで俺を睨む。そして暫く俺を睨んでいたが、冷静さを取り戻すためか数回深呼吸をして青い炎を再びこちらに向ける。
ま、それくらいで怯む俺じゃないんですけどね。
「……少なくとも音ノ木坂では違反よ。生徒手帳にも書いてあるはずよ」
「ここの手帳を持ってないんで分からないんですよね」
「なら私のを貸すからよく読みなさい」
そう言って会長は胸ポケットから生徒手帳を取り出し、ぱらぱらと捲った後とあるページを開いたままこちらに突き出す。
俺はそれを受け取って羅列している文字を眺める。見たところ服装に関する校則が書いてあるページのようだった。
会長が読み上げてくれた方が手間が省けて楽なんだがと思うが黙ってその項目を読み進める。
………………ふむ。成程な。
「手帳、ありがとうございました」
「ここの校則を理解できたかしら?」
「ええ、おかげさまで」
「だったら早くそれをぬ――」
「会長が嘘つきだという事が分かりましたよ」
「……どういう事かしら」
返した手帳が会長の手の中で少し歪む。物は大事にしないといけませんよ、会長。
しかし俺はその言葉を飲み込み、若干芝居がかった口調で別の言葉を吐き出す。
「そんな事聞かなくても優秀な生徒会長ならば理解できるでしょうに。……あ、理解できてないからあんな事言ってたんでしたね。すみません」
「貴方ねぇ……ッ!! いったい何が言いたいのかはっきりしてもらえる……ッ?」
「……しょうがないですね」
もはや堪忍袋の緒が糸一本で繋がっている状態の会長をあまり刺激しないように――でも遠慮はせず――言った。
「服装に関する校則。『本学院に通う生徒は原則制服を着用し、制服の改造は厳禁とする』」
「そうよ。だから貴方は校則違は――――」
「別に駄目だとは書いてませんよ」
「な――っ!?」
会長の言葉を遮った俺の言葉に眼を見開いて絶句する。
俺は会長のその顔を見て少しばかり気分を良くし、得意気に言葉を続ける。
「校則を要約すると『原則制服を着用して改造は禁止』となります。つまり制服を着用し、改造をしてなければ校則を守っている事になります」
「だから貴方のパーカーは違反していると言っているの」
「何言ってるんですか? 俺は制服を改造せずに着てるじゃないですか」
「パーカーを着ているでしょう?」
「パーカーは制服じゃありませんよ」
「……原則制服よ」
「あくまで原則ですから例外だってあるでしょう? それに制服は着てるんですって」
「上から着てるだけです。改造じゃありません」
「そんなのは屁理屈よ」
「でも理屈です」
「――ッ!! いいから脱ぎなさい!」
「嫌だね」
遂に怒鳴りつける会長にあくまで冷静に応える。冷静に、冷厳に……。
そんな俺の態度がどうやら会長の最後の糸を切断してしまったらしく、会長はもはや親の仇を見るような眼で睨んで全身を怒りで小刻みに震わせている。
うざいか? 気にくわないか?
別にそれでいい。そのまま俺に怒りをぶつけてればいい。
二度と近づきたくなくなるくらい憎め。そうすればお互いが幸せになれるはずだ。
「いいからパーカーを脱ぎなさい! 校則違反よッ!!」
あーあ、遂に言い返すことがなくなったから高圧的な態度で抑えつけにきたか。
…………まったく、これだから今までのうのうと日々を消費していた人間はいけない。
一回詐欺師みたいな教師と本気で口論して出直してこい!
「……会長の主張はよく分かりました」
「……本当かしら」
「ええ。つまりパーカーは学校指定の制服ではないから校則違反だと言いたいんですよね?」
「……そうよ。分かったなら早く脱いでちょうだい」
「なら下着とかも校則違反ですよね?」
「…………は?」
身構えていた会長が肩透かしにあったようにぽかーんとする。ハッ、なんて間抜けな顔なんだ。
しかし流石生徒会長。切り替えが早く、再び青い炎を俺に向ける。
「何を言い出すかと思えば……」
「でもそういう事ですよね?」
「そんなわけないじゃない。まともな思考もできなくなったの?」
キレてるからか会長の言葉の棘が太くなっている。俺は痛くも痒くもないのだが、一生徒会長としてその発言はどうかと思うぞ。
その事に若干呆れるが、それを悟られに様にしながら言葉を続ける。
「でもパーカーは校則違反なんですよね? なら同種である下着も校則違反なはずですよ」
「パーカーと下着が同種なわけないでしょう?」
「いやいや何を言ってるんですか。パーカーは『学校指定』の制服じゃないから違反なんですよね? ――下着は学校指定じゃないでしょう?」
そう、会長の理論で判断するならば下着も校則違反という事になってしまうのだ。
パーカーは制服ではないから違反だと言うのならそれ以外の制服でないもの、下着や髪留めも制服ではないので校則違反のはずだ。
ようやく会長も俺の言い分を理解したのか、苦虫を十匹くらい噛み潰したように顔を歪めてもなお反論する。
「そ、そんなのは極論よ! 常識の範囲で物は言いなさい!!」
「別に俺は会長の主張をくみ取っただけですよ」
「……本当にムカつくわね、貴方ッ」
「知ってます」
ギリッと奥歯を噛みしめる音が聞こえた。
ふと会長の手元を見ると、右手は固く握られ小刻みに震えており、左手で必死に抑えるように反対の腕を掴んでいた。
今にも飛び掛かりそうになっているのを必死に抑えているのだろう。現に会長の瞳がそう語っているのだ。
個人的にはもう少し会長の相手をしてやってもいいのだが、本来俺は理事長に交渉に行く途中だったのでこれ以上時間を無駄にするわけにもいかないだろう。
本当はもう少し会長との間に溝やら壁やらを作って二度と会いたくないと思わせたかったのだが仕方がない。最終手段を使ってこの場を離脱することにしよう。
「会長、自分用事があるんでこれで失礼します」
「ま、待ちなさい! まだ話は終わってないわ!!」
「いや、言ってなかったですけど、この服装については許可貰ってるんで。いくら会長が口煩く言ってもやめるつもりはありませんよ」
「許可ですって? 一体誰に貰ったというの!」
「この学院の最高権力者ですよ」
「最高権力者って……まさかッ!?」
驚愕して一歩後ずさる会長。
まぁ、自分が認めていないのにその上の責任者が認めてるっていう事実は割とショックなはずだ。特に会長のような生真面目な人間には信じられない事だろう。
…………ま、俺には関係ないか。
「それじゃ、失礼します」
軽く頭を下げてその場を後にする。何も言われない所を見るに相当ショックだったようだ。一応「どんまい」という言葉を送っておこう。心の中でだがな。
目の前の階段を一段一段踏みしめて降りる。
気持ちを切り替えよう。これから相手にするのはさっきの会長より数倍は厄介な相手なんだ。少しの慢心で足元をすくわれるぞ。
「すぅ……ふぅ…………。よしッ」
深呼吸して気持ちを切り替え、先ほどより少し早足で階段を下る。
絶対にいい条件にならない事は分かっている。だが、少しでも俺が有利でメリットのある条件を引き出して見せる。
そんな確かな決意を胸に、俺は最後の一段を降りきった。
私達が理事長に直談判して見事に玉砕し、面白い事を始めようとしている二年生が来た後の放課後の生徒会室。
今日は生徒会の会議が無くて、いつものようにエリチと書類の整理をしたりする予定……だったけど、雷でもないのに視界が一瞬光に覆われる現象の原因を探るためにエリチ出て行って今は私一人しかいない。
別に書類が多いわけじゃないから私一人でも大丈夫だけど、全部やってしまうと真面目なエリチは暫く申し訳なさそうな顔をしちゃうからなるべくゆっくりと作業を進める。
「これはエリチに確認してもらわなあかん書類。こっちは会計の子に任せた方がええな。そしてこっちは……ウチで処理できるかな」
書類を担当ごとに仕分けしつつ自分で処理できる書類を探す。
といっても副会長である私のメインの仕事は会長の補佐だからやれる仕事はあんまりないんだけど……。そう思うと苦笑が漏れてしまった。
私は自分がまったく生徒会の役に立っていないとは思ってないけど、やっぱりこういう時はだけは少し寂しくなってしまう。
「副会長はフォロー職やからな。仕方ないか」
トントンと仕分けが終わった書類をまとめる。結局ウチの手元に残ったのは、各部活動からの要望書と三冊のファイルだけだった。
することの無くなった私は何気なくそのファイルの内一冊を手に取る。
その表紙には生徒会の顧問の先生が書いたと思われる文字で『国立豊丘高等学校預かり生徒名簿 二学年』と書かれている。
確かこれは音ノ木坂と豊丘高校の連携企画でこっちに来てる生徒の名簿だったはずだ。
「そう言えばこの企画にエリチ、最後まで反対しとったな」
思い出すのはついこの前までの事。エリチは毎日のように理事長室に通って懸命に反対していた。何分も、何十分も……。
結局理事長との話し合いの結果、豊丘高生とクラスを分けるという事で落ち着いたけどエリチはそれでも不満そうだったっけ? 不謹慎だけどあの時の不貞腐れてたエリチは可愛かったなぁ。
そんな事を思い出しつつ一枚一枚捲っていく。
そこには音ノ木坂に来てくれた生徒のバストアップの写真と個人情報などが書かれていた。
「…………二年生には意外と個性的な人が多いんやね」
それが私がこのファイルを見て思った事だった。
二年生の参加者には部活や個人で出た大会等で賞を貰っているような人等様々な分野で活躍している人が多く、個人プロフィールの欄に『性格に多少の難あり』と書かれている人も若干名いた。
「…………後者の人達はエリチに見つからんようにせんとな」
きっとこれを見たら「だから共学化には反対だったのよ」と言うだろう。もう共学化のテストは始まってるのだから、あまり会長であるエリチと豊丘高生との間に溝ができないように私が何とかしないと!
そう決意し、四十とナンバリングされてる生徒の書類に目を通して――少し違和感を感じる。
「後一枚ある……?」
聞いてた話では一クラスの定員は四十人のはずなので、豊丘高校からもそれに収まる様にという事だったはずなのに。
不思議に思いつつも最後の一枚を捲る。
そこにはセットされていないの寝癖頭に、カメラのレンズではないどこか遠くを見ている三白眼の男の子がいた。
顔を構成する一つ一つのパーツにまとまりはなく、所謂『平凡』な顔立ちをしているけど、彼の眼だけはとても印象的だった。
目つきは鋭いけど、まっすぐにひたすらに前を向いているような彼の眼が……。
「この子、名前はなんて言うんかな……」
視線を横にずらして名前を確認しようとした瞬間、聞きなれた怒鳴り声が聞こえてきた。
『ま、待ちなさい! まだ話は終わってないわ!!』
「……エリチ?」
普段冷静で声を荒げないエリチが響くほどの声を上げている。それだけで私はただ事じゃないと思い、ファイルを開いたまま机に置き席を立つ。
その際に近くに置いていたタロットカードを掴んでブレザーのポケットに突っ込む。
「あっ……!」
だけど急いでいたからか掴めきれなかった一番下のカードが手から零れて広げていたファイルの上に落ちる。
急いでカードを回収しようと手を伸ばして、目に飛び込んできた文字に体が硬直する。
『西原雅也』
落ちたカードの隣に黒のインクで刻まれているその名前に私は見覚えこそなかったが、聞き覚えはあった。
私の叔父から彼の話はよく聞いていた。どんな人物かも聞かされていた。そして、彼が持っているであろう可能性を一番よく聞かされていた。
だから多少の興味はあった。他人の口からではなく、直接会ってその人柄を確かめたいと思っていた。
そして今、その気持ちが抑えきれない程に高まっているのを自分でも理解できる。
予想外の嬉しい事態に思わず頬が緩んでしまう。何とか気持ちを抑えて何時もの表情に戻して、落ちたタロットカードを拾い上げる。
カードには杖とランプを持つ老人が書かれている。
大アルカナに属する『隠者』のカード。
このカードが意味する事を思い出し、抑えてたはずの好奇心と嬉しさが再び溢れ出てくる。
廃校という学院の危機に私達は何もできないはずだった。学生だからって話を聞いた時は何もできないって落ち込んだし、寂しかった。
だけどどうだろう! カードは私に三つの可能性の存在を教えてくれた!
一つ目はエリチの『理想』、『可能性の開花』を表す『星』のカード。
二つ目は今日来た二年生の三人の『成功』、『約束された将来』を表す『太陽』のカード。
そして三つ目は彼のカード……。まだ会ったことが無いから確信は無いけれど、話で聞いた彼に私はこのカードはふさわしいと思えた。
「そう、この子があの人の言ってた……」
だけど百聞は一見にしかずと言うし、彼が話に聞いていた人とは違う性格かもしれない。
だから彼に会ってこのカードが示した事が何なのかを見極めなければ。
「でもその前に……。エリチの安否を確かめてからやねっ」
『隠者』のカードをポケットにしまって、私は生徒会室を後にした。
「やっと着いたか……」
多くの試練を乗り越えて魔王城に辿り着いた勇者の気持ちが今なら分かるかもしれない。何故って? 似たような事を体験してきたからだよ。
本当ならばもっと早くたどり着けるはずだったんだが……西木野といい会長といい、人の邪魔をしやがって。いや、西木野には少しだけ感謝してもいいか。実際、西木野の強引さを目の当たりにしなければ俺は今ここに来なかっただろう。
俺がするべき事、それはただ動き出すだけだ。
勿論無策という訳にもいかないので多少の下地作りと材料提供はさせて貰う。
ただそこから完成させるのが俺ではなく、俺に触発されて廃校阻止に向けて動き出した奴か、元々動き出そうとしていた奴かというだけだ。
本当は優秀と言われる会長の手助けをと思っていたが、反りが合いそうにないので断念するしかないだろう。
無力な俺にできる事は少ない。だが自分の発言に責任が持てるだけの事はするつもりでいる。
そのための第一歩が今だ。ここで失敗したらこの後が全て駄目になってしまう。
だから――――――――負けられない。
理事長室の荘厳な扉を三回ノックすると「どうぞ」とここ三日で聞きなれた声が返ってくる。
失礼しますと一言断って中へ入る。部屋の中を見渡すまでもなく、理事長は窓際に配置してある机で仕事をしていた。
「西原……君?」
「はい。それ以外に誰に見えます?」
「……ふふっ。田嶋君かしら」
俺の訪問が意外だったのか入った瞬間は目を丸くしていたが、こう切り返してくるあたり流石だと言わざるを得ない。だが、できるならもっと別の返しをして欲しかった……。
いきなり出鼻を挫かれて精神的優位を奪われそうになったが、深呼吸で気持ちを切り替える。
そんな事を知る由もない理事長は持っていたペンを置いて微笑みかける。
「それにしても今日はどうしたの? 誰かにいじめられた?」
「何で最初に聞くのがそれなんですか……。というか貴女は俺の母親か何かですか?」
「学校にいる間は生徒たちは私の子供のようなものですから」
「……さいですか」
駄目だ、どうしても戦意を削がれてしまう……。恐るべし理事長……!
「とりあえずそこに座ってて。今何か淹れるわね」
「いえ、お気遣いなく」
「あら、今日は田嶋君から西原君は緑茶が好きだって言うから用意してるのに」
「…………お願いします」
「はい。ちょっと待っててね」
どこか嬉しそうに飲み物の準備を始める理事長。
本当は手早く済ませたかったのだがやはり緑茶には勝てなかったか……。いや、でも一度落ち着いて考えをまとめるという点ではこれで良かったのかもしれないな。
ソファに腰を下ろして理事長が来るのを待つ。物音が少ない理事長室にコポコポというお湯を注ぐ小気味のいい音が響き、茶葉の仄かな香りに鼻腔が刺激された。この匂いは田嶋先生が淹れてくれる時によく使ってる茶葉か? どうやら田嶋先生から聞いたのは本当らしい。アイツ余計な情報流しすぎだろ……。
若干その事に呆れつつ待っていると、目の前のテーブルに渋い色合いの湯飲みが置かれる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
軽く会釈して湯飲みに口をつける。
落ち着く茶葉の匂いと渋みが口内に広がるが、田嶋先生のに比べるとやや渋みが薄い。
「田嶋君程上手く淹れらないけれど……どうかしら?」
「まぁ、美味しいですよ。個人的にはもちょっと茶葉を蒸らした方がいいと思いますけど」
「あらそう? なら次からはそうするわね」
くすりと笑って理事長は自分の湯飲みに口をつける。
それから暫くお互いに黙ってお茶を堪能していたが、理事長が湯飲みを置いたことでそれは終わりを告げた。
「それで、今日はどういう要件かしら?」
「…………昨日の話の続きをしに来ました」
いつもより声のトーンを一つ落として言う。
『昨日の話』という単語と俺の声のトーンで何を話したいのかを理解したように理事長は佇まいを正した。
「昨日の話、というと廃校に関する話ということね」
「はい。今日はその条件についての交渉に来ました」
「条件次第では協力してくれると?」
「条件次第、ですが」
「……良いでしょう。とりあえず貴方の要求を聞かせてもらえるかしら?」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げ、上げると同時に理事長の眼をまっすぐに見据える。
とりあえず交渉の席まで相手を持ち出すことはできた。後は理事長次第、か……結構きついな。
唇を軽く湿らせ、口を動かし始める。
「まず俺の要求ですが、俺の要求する物は『生徒会長と同等の権力』ただ一つです」
「同等の権力?」
「はい。此処の生徒会長はどうも融通の利かない堅物のようなので、まずこちらの要求は通らないでしょう。なので自分を動かしやすくするなら必要かと」
「あら、もう生徒会長と会って来たの?」
「会う、というよりエンカウントでしたが一応……」
流石に会長を煽りに煽って対立関係を深くしたという事は言わないでおこう。言ったら此方が不利になる気がするし……。
理事長は「そうねぇ……」と考えこむ。
「残念だけれど、その条件は認可できません」
バッサリと切り捨てられた。
予想の範囲内だが、この条件が通るのなら通って欲しかったな……。歯を強く噛んで悔やむ。
「理由を聞いてもいいですか?」
「理由と言っても小難しい理由ではありません。生徒会長の権限というのはあくまで責任のある立場であり、生徒の為に使う物です。それを個人に与えるのは……」
「では失敗したときの責任は自分が全て引き受けます」
「ならなおさら認可できません。貴方に無理を言っているのは私です、なので責任も全て私が持ちます」
頑なに譲ろうとしない理事長。この時無理を言ってる自覚があるならそもそも頼まないでくれと言いかけたが、それを口の中で何とか分解する。
そんな事をぐちぐち言ってる場面じゃない。今は断られる事を前提に考えていたもう一つの案を通すことに集中するんだ……ッ。
「分かりました。では別の条件にします」
「別の条件があるのね……」
「何事も慎重に、です」
喉を潤すために緑茶を一口すする。ふぅ、落ち着くな…………。
「では、別の条件ですが――どうしました?」
「え? ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてたわ」
顔を伏せていた理事長。その表情は暗く、まともに話し合いができる雰囲気ではなかった。
いきなりどうしたというのだろうか?
「……西原君、貴方は本当にこの学校を救いたいと思ってる?」
「……いや、本当にいきなりどうしたんです?」
理事長の言葉に困惑する。
確かに意思確認は大事だと思うが、今それが必要かと言われれば別にそうでもないだろう。
不審に思いつつも理事長の次の言葉を待っていると、理事長はその暗い表情の顔を上げて申し訳なさそうに微笑んだ。
「私から頼んでおいてこんな事を言うのもどうかと思うけれど、西原君が本当はやりたくないのに私に頼まれたからやるっていう思いなら別に無理して引き受けなくていいのよ?」
「……それは自分の条件は吞めないから遠ましに拒絶しているんですか?」
「違うわ! そうじゃないの……」
少しだけ喰い気味に否定する理事長。
理事長の膝の上に置かれていた手がキュッと拳を形成する。
「今日絢瀬さんが来て廃校阻止の為に生徒会で動かせて欲しいと言われたの。私はその申し出を……断った」
声が、微かに震えている。
「絢瀬さんは生徒会長として動こうとしてくれている。でもそれは絢瀬さんが本当にやりたい事じゃない気がしたの」
「だから断った、と?」
「ええ。そしてその時私は自分の過ちに気づいたわ。私は貴方の可能性に囚われすぎて貴方の意思を蔑にしていました、絢瀬さんにはあんなことを言ったのにも関わらず……」
「で、俺の意思を確認して協力の意思がないならこの件から手を引いてもらおうという事ですか」
「……ええ」
静かに理事長は頷く。
その目はまっすぐに俺の眼を見ており、嘘や気遣いを見逃すつもりは無さそうだ。
「はぁ…………」
ソファに深く座りなおして大きく息を吐く。
俺の意思、か……。正直に言うと俺はこの学院を救いたいなんて一ミリも思っていない。
別に思い入れがあるわけでも大切な人が通ってるというわけでもないので、はっきり言うとこの学院の未来なんて微塵も興味がない。
俺はいつも自分のやりたい事をやって生きてきた。誰かの為に動いた事なんて両手で数えるほどしかないだろう。
「……では理事長。はっきり言わせてもらいます」
だから今回も俺は自分のやりたい事をやろう。
誰かに言われたからでも、唆されたからというわけでもなく自分の利益の為に。
理事長は口を一文字に結んで俺の口から出てくる言葉を待っている。
俺はその口をゆっくりと開いた。
「『学院側の全面的協力』『西原雅也個人への支援』を新たな条件として提案します」
「…………え?」
理事長は目を丸くして俺の顔を見る。なんか今日こんな顔を見る機会が多いな……。
暫く呆然として俺の顔を見ていた理事長だが、はっと我に返る。
「えっと、どういう事なの?」
「どういう事も何も、俺が用意してた別の条件を提示しただけですが?」
「えっと、そういう事じゃなくて……」
「廃校を阻止することが俺のやりたい事かって事ですか?」
「え、ええ……」
「別にやりたい事ではないですね」
「ッ!? それなら何故……っ!!」
「別の理由があるからですよ」
「別の……理由?」
「はい」
頷いて言葉を続ける。
「恥ずかしい話、昨日下校途中に知り合い? の中学生と話しまして、理由は詳しく話せませんが廃校を救う方法が無いことはないと言ってしまったんです」
「……方法、あるの?」
「残念ながら現状では何とも言えないですね」
肩を竦めて言うと理事長は乾いた笑いを漏らした。
理事長のその何気ない仕草に少し馬鹿にされたような気がして心が傷ついたが、軽く咳払いをして誤魔化す。
「とにかく、確かに具体的な策も計画もないですが、俺は自分の発言には責任を持ちたい……。まぁぶっちゃけて言うと格好つけてみたいんですよ。なんかこういう時に格好つけられたら物語の主人公みたいじゃないですか」
おどけたように言って薄笑いを浮かべる。
まぁ、あくまで主人公『みたい』なだけで、俺はそんな万能の超人じゃない。
授業を聞くだけでテストで満点をとれないし、見ただけで経験のないスポーツで格上のプレイヤーを倒せないし、何も学ばずに芸術的な絵を描くことはできない。
そんな平凡な俺の少しばかりの虚勢。
自分はできる人間だと思わせる暗示。
でもそれだけで何かが変わるわけではない。虚勢は所詮虚勢で、暗示はただの暗示だ。俺の中の本質は変わらない。
それでも俺はそれをやめない。やめたらきっと何もできなくなるから、やめない。
「…………そう。わかったわ」
暫く黙り込んでいた理事長が静かに頷く。
「西原君、貴方の要求はそれだけなの?」
「まぁそうですね……。条件というわけではないですが、頼みたい事は一つありますね」
「あら、何かしら?」
急にすっかり元の調子に戻った理事長がニコニコと笑う。コロコロとテンションを変えて忙しい人だ……。
若干呆れてため息をつきつつパーカーのファスナーを少し下ろし、制服の胸ポケットに入れていたものを取り出してテーブルの上に置く。
「こ、これって……」
「転学届です」
因みに昨日の夜に改めて書き直した最新版である。
理事長はその転学届を見ながらひどく困ったように微笑む。確かに昨日は理事長に無理だと断られた転学届ではあるが、俺がそう簡単に諦めると思ったら大間違いだからな!
「西原君、昨日も言ったけれど貴方の転校云々は私の一存では決められないの。だから……」
「それは心得ています。だから自分が頼みたい事は理事長に転学許可を貰う事ではないです」
ファスナーを上げて着衣を正す。因みに、ここでお前ちゃんとした格好してないだろとツッコんではいけない。
「俺が頼みたいのは理事長への小さな仕事ですよ。それも期限が一年もある仕事です」
「一応私も忙しいから簡単な仕事なら引き受けましょう」
「簡単ですよ。ただこの一年間の内に豊丘高校から俺の転学許可を貰ってくるだけでいいんで」
「……西原君、人の話を聞いていましたか?」
「聞いてましたとも。だから頼んでるんですよ」
「西原君……」
最初は呆れたようにしていた理事長の顔にだんだんと憐憫の色が浮かんでくる。
いや、聞いてたけど日本語が理解できなかったとかそんなんじゃないですから。だからそんな眼で俺を見るのやめてもらえます? なんか自分が本当に可哀想な人間に思えてきてしまうので。
「こっちは廃校阻止っていうでかい仕事を請け負うんですから、それに比べたら簡単でしょう?」
「そ、それを言われると痛いわ……」
苦笑しつつ片方の手のひらを頬に当てる。所謂おばさんが井戸端会議してる時によくしてるようなポーズだ。
……妙に似合ってるとは思ってませんよ?
理事長はそのポーズのまま暫くうーんと唸りながら考えこみ、大きくため息をついてやや自棄っぽい口調で言った。
「分かりました。確かに見返りもなしに頼むのは平等ではないですね」
「それじゃあ引き受けてくれると?」
「ええ。私にできる限りの努力をさせて貰います」
「……ありがとうございますっ」
深々と頭を下げてお礼を言う。
恐らく俺の戦いはこの時から始まったのだろう。廃校という大きな敵を倒すための戦いが、今この瞬間から……。
不安や怯えが無いと言えば嘘になるが、これからの俺にはそんな事を感じて立ち止まってる暇や怯えは時間の無駄だ。必要ない。
今からの俺に必要なのは『やる』という事だけで、利益を出すためなら俺はどんなことでもやってやる。そんな決意を胸に頭を上げる。
そこにはニコニコ笑顔に何故か薄ら寒さを感じさせる理事長がいた。…………嫌な予感がする。
「条件の方も一応さっきので飲ませて貰うわね」
「あ、はい」
「成功報酬の方も早ければ明日からにでも豊丘高校に掛け合ってみます」
「お願いします」
「もし失敗したら来年から音ノ木坂に通ってもらいます」
「分かりまし――ゑ?」
理事長の言葉に思わず変な声が出てしまう。変な言葉じゃなくて古語の「え」だが……。
というかそんなのはどうでもいい! え、今理事長なんて言った? 失敗したら音ノ木坂に通えって言った?
……………それ、一番最悪なパターンなんだけど。
放心して声が出ない俺を置いて理事長は話を進める。
「これは私の持論なのだけど、人にやる気を起こさせるときはご褒美と罰を両方チラつかせた方が集中して取り組めると思っているわ」
「……つまり?」
「やるなら本気でお願いね」
ニッコリと笑いかける理事長。俺はその笑顔に、乾いた笑いしか返すことができなかった。
…………世の中って、理不尽だ。
次回予告
音ノ木坂学院の廃校阻止
この場所での目標を貰い、雅也の音ノ木坂での生活は本当のスタートを切った
「もう、引き返せないな……」
彼が歩む道は希望か絶望か……
「ウチは敵やないで。味方かどうかは君次第やけどな」
そんな中雅也のもとにスピリチュアルな先輩がやってくる
「この学校での生活やって行けそう?」
「いえ、まったく」
二人の間で交わされる会話
そして豊丘高校の闇が話される……
次回「敵? 味方? 肩書は副会長!」
「やっぱり君も『天才』なんやね」