ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~   作:カゲショウ

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どうもお久しぶりです、カゲショウです。

長い間お待たせいたしました!無事に受験は終了し、これから徐々に執筆を再開していこうと思っております。

週一、二週間に一度ぐらいをめどに更新していくことを目標に頑張りたいと思います。感想や評価などがあれば、ぜひお願いします! 厚かましいようですが、やっぱり作者としては感想が原動力になりますので(苦笑)

それでは本編をお楽しみください!


13話 敵? 味方? 肩書は副会長!

「失礼しました」

 

 短く断りを入れて上質で作りの良い戦場の門を閉じる。その瞬間、俺の肩からすっ、と力が抜けていった。

 どうやら気付かないうちに身体が緊張していたらしい。まぁ、会うのはこの学院の最高権力者で、そんな偉い人に交渉の為に会うというのだ。緊張するのが普通と言うのものだろう。

 

「これでここで過ごすための目標ができたわけだが……まぁ、お先真っ暗って感じだな」

 

 取り掛かりは早い方がいい。だが、始めるだけでは先には進めない。

 旅人なら旅立つための準備が必要だ。

 サラリーマンだったら仕事をするために調べ物をしなければならない。

 学生なら明日の時間割と課題が必須だ。

 だが、俺は不完全だ。過酷な旅に出る為の準備も、仕事をするための調べものも、明日のための計画も全てが揃っていない。

 

「もう、引き返せないな……」

 

 後の祭り。言葉はバックスペースで消せるが、声はバックスペースで消して修正という事は出来ない。どうしようもないと諦めつつもため息を吐かずにはいられない。

 だが、そう長く後悔している暇はない。時間は有限なのだから、今ここで後悔している暇があるなら計画を立てて行動に移すのが建設的な判断というものだ。

 気持ちを切り替えるため為に大きく深呼吸を三回ほどする。理事長室前で深呼吸をしているというのは些か不審に見えるだろうが、今は気にしない。

 と、三回目の息を吐き終わった所で肩を軽く叩かれる。

 まさか俺の行動を不審に思った教師か? と思ったがそんなわけはないだろうと考え、叩かれた肩の方に顔を回す。

 ぷすっと、細くて先が少しだけとがった何かが俺の頬に刺さった。

 ………………………………何だ、これ。

 顔を動かさずに眼球だけ限界まで斜め下に動かし、頬に触れている物体を確認する。

 その物体は全貌は見えないが、全体的に肌色をしていて棒状の物の根元は大きな肌色の塊に繋がっていて、その塊からは同じような棒状の物体が俺の肩にフィットする形で伸びていた。

 その灰色の塊から先はここ二日でだいぶ見慣れた紺色の布地に覆われている。そしてそのさらに先には――――にんまりとどこか楽しそうに笑っている少女の顔があった。

 

「ふふっ、ひっかかった」

 

「…………はあ」

 

 一体俺が何にひっかかったと言うのだろうか? そしてコイツは誰だ。

 次から次へと疑問が募るが、とりあえずこの指をどけるのが先決だろうと、手をのせられているのとは逆の方の手で彼女の手を払い、彼女と正面から向かいあう。

 手を払われてもにんまりと笑っている彼女はどこかふわっとした雰囲気をもっていた。

 同じふわっとしたという表現を使う田城野のような緩くてまったりしたような感じではなく、つかみどころがなくて宙ぶらりん。暖簾に春風がぶつかるような、糠にポッキーでもさしてるような、そんな雰囲気だ。

 身長はさほど高いわけではなく、艶のある髪は後ろで二つに縛られている。柔らかそうな肌と高校生にしては割と発達した胸部の上にある緑のリボン。会長と同じく美人の部類だが、雰囲気といい人を落ち着かせるような声といい彼女は会長とは別ベクトルの美人だろう。

 

「で、貴女は誰なんですか」

 

 取り敢えず目の前のアンノウン先輩に、今自分の中で一番の疑問を叩きつける。

 するともう一度ふふっと笑うと、アンノウン先輩は手を後ろに回し少しこちらに詰め寄るように体を傾けて、柔らかな空気を俺の耳に当てた。

 

「君は、ウチが誰だと思うん?」

 

「変人。不審者。先輩」

 

「随分ウチの印象悪いなぁ……」

 

「初対面の人にあんなことすればそりゃそんな印象になりますよ」

 

「それもそうやね」

 

 アンノウン先輩はそう言って上体を起こし、腰と胸に手を当てて言った。

 

「ウチは音ノ木坂学院三年生の東條希や。一応副会長もやっとるからよろしゅうな」

 

「副……会長?」

 

「そ、君が喧嘩ふっかけた人の補佐役や」

 

「…………へぇ」

 

 副会長と言う単語に緊張から解かれたばかりの身体が再び強張る。

 まさかこんなにも早く生徒会からの刺客が現れるとは予想しておらず、想定外の出来事だったが、踵を数センチ浮かして膝を不自然に見えないくらいに少し曲げる事は出来た。

 

「それで、副会長様が自分に何か御用ですか? まさか生徒会長のようにこのパーカーが校則違反だとわざわざ忠告しに来たんですかね?」

 

 警戒心を全開に副会長から僅かに距離をとる。

 しかし副会長はまぁまぁと俺に言うと、にこにこと笑みを浮かべる。

 

「別にウチは会長の敵討ちの為に来たんやないで」

 

「その言葉がどこまで信用できるんですか?」

 

「国家の存亡に関わる重要書類を運ぶ運び屋程度には信用できるつもりなんやけど」

 

「その運び屋が敵国のスパイである可能性も捨てきれないんで」

 

「疑り深いんやなぁ、君は」

 

「とある成人男性のおかげで人はまず疑って接するべしと学びましたからね」

 

「ふふっ。随分とおちゃめな先生と知り合いなんやね」

 

 さっきからのやり取りで副会長は笑顔を一度も崩さない。いくら初対面だったとしても、信用ならないとバッサリ切り捨てられれば苦笑するとか別の反応をするだろうに……。副会長は笑顔を保ったまま、しかも俺の勘違いでなければどこかこのやり取りを楽しんでいるようにも見える。

 副会長東條希、本当に何が目的なんだ……。

 暫く副会長と俺との間に言葉は無く、俺の疑惑の視線と副会長の目的不明なにこやかな視線とが交錯する。

 じわりと手のひらに汗が滲んでくる。しかし、視線を外したら駄目だという謎の強迫観念に駆られてこの場から離れられない。

 放課後なのでどこかで活動しているであろう運動部の元気な声が遠くから廊下に響いてくる。

 それでも俺は、この状況を早く終わらせるために喉の奥からゆっくりと声を絞り出した。

 

「副会長。貴女は……俺の敵ですか?」

 

 俺のその問いに、副会長は不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

「ウチは敵やないで。味方かどうかは君次第やけどな」

 

 後半が何か含みを持った言い方だな。つまりあれか、こちらの出方次第では会長と同じく俺の敵になるという事か。

 正直生徒会役員全員が敵に回られると、此方としてはもしもの時に身動きが取れなくなるので望むところではない。

 なら、今俺が副会長に返すべき最適の答えは何なのか。

 その答えは二次方程式の解を求めるよりも簡単で、小説の筆者の意図を述べるより単純だ。

 

「その言葉、今は信じさせてもらいますよ」

 

 俺の答えに満足したのか、副会長は会った時と同じにんまりとした笑みを浮かべて「うんうん」と数度頷く。実の所完全に副会長の言葉を信用したわけではないが、今は表面上だけでも信用したという事にしておくのが正解のはずだ。

 大きく息を吐いて身体から余計な力を抜き、リノリウムの床にしっかりと足の裏をつける。

 取り敢えず、副会長が俺に接触してきた真意を聞きだすとするか。

 

「それで、副会長は俺に何ようですか?」

 

「ん? ウチはただ君とお話しできたらええなって思っただけで、特に用とかはないんよ」

 

「あ、そうなんですか。じゃあ俺は副会長と特に話したいとは思ってないんでこれで帰りますね」

 

「まぁせっかく会ったんやし、ゆっくりお話しよっか」

 

 そういって傍から離れようと横を向き歩き始める俺のフードを握って引き留める。その時に少しだけ首が締まって「ぉぇ」っと変な声が出てしまった。

 これ以上首が締まらないように歩みを止めて、締まっている部分を引っ張られてるのとは逆方向に軽く引っ張り気道を確保する。ったく、西木野といい副会長といいフードは人を呼び止める為のものじゃないんだがな……。

 

「なんで俺と話ししたいんですか。女子高生なら女子高生らしく仲間引き連れてどっかの店でわいわいやってればいいじゃないですか」

 

「君は女子高生に凄い偏見もっとるんやね……」

 

「そうですかね?」

 

「びっくりする位にはな~。ま、取り敢えず中庭に行こっか」

 

「え、いや。俺は行かな――」

 

「出発しんこ~♪」

 

 有無を言わさず副会長が俺のフードを引っ張って歩き出す。

 理事長程の力があるわけではなかったが、ここで無理やり振りほどいて反感を買い、そのまま敵対という展開があるかもしれない。そう思うと俺はこの手を振りほどけず、大人しく中庭まで連行されるしかなかったのだった。

 

 

 

 中庭のほぼ中心部にそびえ立つ巨木。これが何の木か分からないが結構でかい。恋愛小説であるような伝説の桜の木みたいな風貌をしているが、残念ながら桜が咲いていない。告白スポットとしては五十点ものだろう。

 そんな巨木の下に俺は連行されて、根元を囲う煉瓦の上に副会長と並んで座る。

 …………さて、どうやって逃げ出そうか。

 

「はい、これ。君はお茶で良かった?」

 

「はぁ、ありがとうございます……」

 

 いつの間に買っていたのか、ブレザーのポケットからパックのお茶を俺に差し出す。少し暖かくなってる事から察するに俺と会う少し前位に買ったのだろう。というか、俺が振り切って逃げた時どうするつもりだったんだ、このお茶……。

 少々呆れつつもパックの銀色の膜にストローを刺し中の液体を吸い出す。淹れたてと比べると香りも弱く、薄いがまずいわけじゃない。あと生暖かい。

 恐らく微妙な表情をしているであろう俺の横では、反対のポケットから出したであろうカフェオレを美味しそうに飲んでいた。

 

「それ、そんなにおいしいですか?」

 

「ん? 何でそう思ったん?」

 

「いや、随分美味しそうに飲んでらっしゃるので……」

 

「んー……まぁ女の子は甘いものは大好きやからね」

 

「そうなんですか」

 

「そうなんや」

 

 会話終了。たいして広げるような話題でもなかったけれど、副会長を満足させるにはもうちょっと会話を膨らませたほうが良かったのか?

 ストローを口に咥えたままどうしたものかとうんうん唸っていると、副会長が此方を見ながら問いかけてきた。

 

「そういえば、君はどんな感じなん?」

 

「どんな感じ……とは?」

 

「この学校での生活やって行けそう?」

 

「いえ、まったく」

 

 バッサリと言い放つ。

 流石にこれには副会長も面喰ったらしく、暫く目を大きく見開いて驚いた後に「そっか」と苦笑を漏らした。

 正直此処での生活は早々に白旗を上げたくなるレベルに不安と絶望しかない。

 クラスメイトはなんか変人ばかりだし、生徒会長とは対立した。おまけに自業自得とはいえ学校を救う約束ときた。これだけで野球だったらスリーアウトでチェンジになってもおかしくない。

 しかし現実とは無情なもので、クラスメイトの性格が明日になれば品行方正に代わることも、対立も解消されることも、約束をなかったことにさえできない。ついでに言うと、俺の今の立場を誰かとトレードする事も出来ないのだ。ならば「やって行けそうですか?」という問には「NO!」とはっきり言うしかないだろう。NOと言える人間になれた瞬間である。

 

「まぁこの学校にきてまだ二日目やしな。ゆっくりとこっちの生活に慣れていけばいいんや」

 

「無理だと思いますよ。会長いますし」

 

 正直あの会長の存在が俺の不安を加速させていくよね。次はどんな事でつっかかってくるのかとか、どういった嫌味を言ってくるんだろうとか考えると頭が痛くなりそうだ。

 

「あはは……。でも会長は……エリチは君が思ってるほど悪い人やないで。話せばきっと君も分かると思うから」

 

「その会長とつい一時間ぐらい前に睨み合ってたんですが」

 

「たまたまエリチの虫の居所というか機嫌が悪かっただけやから」

 

「何ですかそれ。随分勝手な理由ですね。生理ですか?」

 

「君との事は理事長室に行く前にエリチから聞いたけど……君、デリカシー無さ過ぎやない?」

 

「本音さえも口に出せない世の中って面倒くさいですね」

 

 軽くため息を吐きつつストローからお茶を吸い上げる。隣では「マナーやで」と苦笑しつつ、ストローを唇の先で軽く食み、白みのかかった茶色に変色させていた。

 まぁ、確かに今の発言はデリカシーと言うか配慮が欠けていたな。反省せねば。ただ、会長との口戦での事は反省しない。だって相手を黙らせるのに配慮もデリカシーも関係ないし。

 ズズズっという音と共にパックが大きくしぼみ、ストローからのお茶の供給が途切れる。どうも飲み干してしまったらしい。温かくないとつい一気に飲んでしまうのはどうにかしたいな……。

 

「ま、どのみちあの会長とは反りは合わないですよ」

 

「どうしてそう思うん?」

 

「ただの予感です。それに個人的に苦手なんですよ」

 

「まだ一回しか会ってないやん。もしかしたらエリチは君の運命の人かもしれんやろ?」

 

「無いですね。直感で感じたんですよ。この人は苦手だと」

 

「直感って……」

 

「馬鹿にはできませんよ。直感っていうのは過去の経験とかから身体が瞬時に判断する事なので、過去の経験から俺は会長が苦手な……相容れない人だと判断したんですよ」

 

 つまり直感と言うのは無意識に選ぶ一番安全な選択肢の様なものだ。先生が選択肢に迷ったら直感で書けと言うのは、勉強したことあるなら大体の答えは導き出せる筈だから、と暗に言っているわけだ。

 …………もっとも、ちゃんと勉強してれば選択肢に迷う事もないのだがな。

 

「…………確かに。君とエリチは相性悪そうや」

 

 形の良い眉をハの時にして副会長が微笑む。そんな困った子供を見るような眼で見られても、こっちの性格は変えるつもりは無いですよ。会長の性格を変えたほうが早いんじゃないですか?

 でも多分同じ話題出したら向こうも俺が性格直せば早いでしょ、とか言いそうだなぁと思いつつ空になったお茶のパックを膨らませたりして遊ぶ。

 副会長は一口カフェオレを口に含みこくんと小さく喉を鳴らして飲み、あまりにも自然に、あまりにも突然にお腹を掻っ捌いて中を覗いてきた。

 

 

「君はこの学校をどうやって助けるつもりなん?」

 

 

 その刃はガードする暇さえ与えてくれなかった。受け流す動作さえ許さなかった。それくらい突然副会長は俺の腹を掻っ捌いてきたのだ。

 だから俺はパンパンに膨らませたパックを地面に落としてしまった。

 副会長がにっこりと、理事長室前で見せたあの笑顔で俺を見る。

 途端に今まで殆ど姿を消していた警戒心が突然現れて全身をざわつかせる。冷たい汗が頬を伝うのがはっきりと分かった。

 

「……何の、話ですか」

 

 声が若干震えている。思ったより副会長の言葉に動揺してしまったらしい。

 一度軽く深呼吸をして心を落ち着かせる。が、副会長にはさっきまでの動揺が見透かされていたようで、変わらない笑顔で俺に少し詰め寄ってきた。

 

「何の話も何も、君がさっき言った事やん。自分の発言には責任を持ちたいって」

 

「盗み聞きですか。趣味悪いですね」

 

「話逸らそうとしても無駄やで」

 

「ぅぐ……」

 

 この副会長……手強いな。

 

「まぁそう身構えなくても大丈夫や。ちょっとした好奇心から聞いてみたいと思っただけやし」

 

「その好奇心はちり紙に包んでゴミ箱にでも捨てておいてください」

 

 にひひと悪ガキのような笑いを浮かべる副会長に嘆息する。

 この人……やっぱりつかみどころが分かりにくい。

 ふふふと笑ってるようで、急にぞわっとするような事を言ったり。正直ペースがつかみにくいし、手の上で転がされてる感がしてなんか気にくわない。

 

「でも気になるやん? 普通はそんな事やろうと思わないし、特に君は本当ならしなくてもいい事だし」

 

「…………まぁ、そうですけど」

 

「ならどんな風にこの学校を救ってくれるのかなぁって」

 

 どんな風にも何も具体的な方法は何一つ決まってないんですけど……。具体案があったら昨日のうちに理事長に色々条件とか転学の事とかふっかけてたし。

 ま、大体こうしたらいいのかなって感じの事は考え付いてるけど……それを案と言えるかどうかは別の話だな。

 

「で、どう? なんか考えはあるん?」

 

「具体的にどうすればいいのかはまだ模索中です」

 

「でも悠長に考えてる時間はないやろ」

 

「それ、そのままブーメランで生徒会にも帰ってきますけどね」

 

「それは言わないお約束、ってやつや」

 

 口の前で人差し指を立ててウインクしてくる。言わないお約束なんてしてないんですけどね。

 というか本当にこの人生徒会なのに仕事をしてないんだ? 放課後は生徒会のお仕事タイムじゃないのかよ。

 嘆息しつつも副会長の言ってる時間がないという事も否定できないのが現状で、少なくとも今日明日には大体の計画を練り上げておかなければならないだろう。

 ならここで一度口にして頭の中を整理するのも手かな。それに生徒会の協力が必要そうなのが何個かあるし、今この人に話すのは得策じゃないだろうか。

 

「とりあえず具体案はないんで、俺が思った改善箇所を言うだけでいいですか?」

 

「そうやね。生徒会としても外部から見た学校っていうのも知りたいし」

 

「さいで……」

 

 取り敢えず取り落したお茶のパックを拾って、側面の成分表示を眺めながら思いついた事を呟いていく。

 

「まぁ、まずは部活動の成績ですね。中学生が学校を選ぶ理由のツートップの片割れみたいなもんですし」

 

「…………ま、最初はそうくるやろうなって思ってたよ」

 

「当たり前ですね。正直今の部活動の成績じゃ部活目当ての中学生は見ようともしませんね」

 

 確か音ノ木坂の最近の成績は珠算関東大会六位、合唱部地区予選奨励賞、ロボット部書類審査で失格……後は運動部で地区予選ベスト十六のがちらほらあるくらいか。

 はっきり言えば、俺が中学生まったく興味を持たないだろう。珠算は成績だけど、合唱部とロボット部は成績とは言いにくい。それに悪く言う訳ではないが、地区大会ベスト十六なんて運さえあればなれるようなものだ。わざわざこんな弱小部に来るのはいないだろう。

 それにもう一つ言うならば、珠算は部活ではなく個人出場の成績らしいので珠算部なるものがあるわけではないらしい。だから「珠算に興味のある人は、是非とも音ノ木坂へ!」というわけにはいかない。

 

「君は、どうすればいいと思う?」

 

「現段階では部活動にいい成績を残してもらう、って事しか言えないですね。俺は部活動の実態を把握し切れてるわけではないので……」

 

「うん。知ってた」

 

 副会長も恐らく聞いてもこんな答えしか返ってこないという事は分かっていたのか、全然落胆した様子は見えない。まぁ逆に落胆されてもこっちが反応に困るだけなんだがな。

 俺は紙パックを平たく解体しながら話を続ける。

 

「次に進学、及び就職先ですね」

 

「そう? ウチ等の学校は結構進学先としてはいい所行ってる人多いと思うんやけど」

 

「地元で結構有名な大学、じゃネームバリューとしては弱いです。せめて地元で評判のよく有名ってレベルの所に毎年五人は通ってるって位欲しいです。欲を言えば国立大学に四十人合格とか」

 

「それは流石に難しいんじゃ……」

 

「知ってます。それに、大学は本人のレベルに合った一番学びたい事がある処に行くのが一番なんであんまり高望みはしません」

 

 就職に関しても同じだ。将来を学校側から強制するわけにはいかないので、ここら辺は学校側のサポートを徹底して可能性を広げる他ないだろう。

 となると、この件に関しては生徒会じゃなくて理事長に直接掛け合った方がいいな。具体案が固まったら掛け合ってみよう。

 

「で、次に伝統を重んじている所ですかねぇ……」

 

「伝統を重んじてるってアピールポイントやない? 普通」

 

「まぁ、そうなんですけど……」

 

 平たくし終わった紙パックを傍らに置いて副会長の方を向く。 

 

「昼休みにパンフレットを見ました。これも改善対象ですが、内容があまりにも興味を惹かないものばかりでしたね」

 

「というと?」

 

「伝統ある学校。教師は優しくていい人。歴史感じれる校舎……。こんなの中学生にとってはどうでもいいし、他の学校と変わりないです」

 

 伝統を重んじているのはいい。伝統があるという事は昔からあって今でも存続している程この学校に魅力があったという事に繋がるからな。

 ただ、パンフレットにはその事を前面に押し出してしか紹介されていない。こんなのを見た中学生はきっとこう思うだろう。「ああ、この学校は他の学校より少し歴史があるだけなのか」と。

 それでは楽しさと青春を求める中学生は見向きもしない。それなら、同じレベルの別の学校……例えばUTX学園にでも行けば音ノ木坂より楽しい事が待っていると感じるはずだ。

 

「伝統を大切にするのはいいですけど、どうも昔のスタイルを重視しすぎて時代の流れに取り残されてる感じがしますよ」

 

「そう言われるとそんな気がしなくもないかなぁ……」

 

 頬に人差し指を当ててこれまでの事を思い出しているが、やはり他の学校と比べて見劣りしていると感じる場面があったのだろう。

 正直に言えばこの学院はアピールポイントより改善箇所の方が目立つ気がする。だから通い始めて二日の俺でも少し調べればこんなにも大きな穴を見つける事が出来るのだ。

 副会長がうーんと腕を組んで小さく唸った後、此方にどこか俺を試すような視線と問いを投げかけてきた。

 

「君ならどうするん?」

 

「諦めます」

 

「決断早いなあ……」

 

 即決即断ができるというのは美徳だと思っております。

 しかしまあ俺だって馬鹿じゃない。流石に一度引き受けた仕事を無理ですと簡単に放り投げてはいけないという事位はわきまえている。

 となると本当にどうするか……少なくとも今俺が話した場所は改善しなければならないだろう。部活、進路、パンフレット等のアピールの仕方……うん、個人ではできそうにないな。

 ふむと口元に拳を当てて考え、頭に思い浮かんだ事をポツリポツリと口から漏らしていく。

 

「まぁ、まずはパンフレットと部活動の成績に関する事が最優先ですね。この二つはあまり時間ありませんし」

 

「と、言うと?」

 

「中学生が大体の進路を決めるのは夏です。つまり後半年の間に結果を出さなければならない訳ですから、早めに着手する必要性があります」

 

 特に部活動に関しては早く対策を講じないとまずい。ポピュラーな部活に関しては一朝一夕って訳にはいかないけど、それなりに去年よりは成績を残さなければならない。理想はこれからの大会全部ベストエイト以上なんだが……。

 

「部活に関してはリサーチが必要です。場合によっては生徒会の力が必要になるかもしれません」

 

「ウチ等が?」

 

「ええ。ただ、生徒会は通常業務もあると思うのであまり頼れませんけど……」

 

「まぁそうやね。ウチ等は結構人手不足やし、現にエリチも理事長から現状の学校生活をより良くする事を考えなさいって言われとったしな」

 

「なら生徒会はそっちの方に力を入れた方が得策ですね」

 

「どうして?」

 

「一番の情報源は通ってる生徒です。だから通ってる生徒がここで良かったと思えればそれだけで周りへのプラスイメージに繋がりますから」

 

「成程。確かにその通りやな」

 

 外部の人に状況を一番伝えやすい方法は、やはり自分が経験したうえでそれを発信する事だろう。ただ聞きかじっただけの情報等は、結局どういう物か聞かれても「~な感じらしいよ」とあいまいな表現になってしまう。

 それに、食レポ等でレポーターが本当に美味しそうに食べてると「ああ、あれは本当においしいんだろうな」と受け手は感じる。俺が言ったのはそれと殆ど原理は変わらない。

 

「パンフレットに関しては何を掲載するのかを生徒で出し合うと、より受験生に近い目線で考えられるかと」

 

「生徒目線って具体的にはどうするん?」

 

「方法は何でも。生徒を何人か集めて話し合いの場を設けるのも、アンケートを取って学院内で紹介した方がいい所を集計したり、色々方法はあります」

 

 個人的にはアンケートが時間的に最善だと思う。代表で話し合わせて無駄に議論を展開されても堪らないし、何より多くの生徒の意見が聞けるからな。

 

「後の進路に関しては学校側に掛け合う方向で考えた方がよさそうですね。生徒会もこれは管轄外でしょうから」 

 

 これが最低改善すべき箇所ですかね、と付け加えて話を終わる。あー喋った喋った。凄く口乾いたからお茶でも……あ、もう飲んでしまったんだっけ。

 傍らに置いた空の紙パックを見て落胆していると、そっと副会長がさっきまで飲んでいたカフェオレを差し出してくる。俺はありがとうございますと短く断ってストローに口をつける。うん、甘い。やっぱりカフェオレより緑茶だな。

 緑茶の素晴らしさを再認識していると、ふと隣で副会長が満足気な笑みを浮かべているのに気が付いた。

 

「…………何か嬉しい事でもあったんですか?」

 

「そうやなぁ……。期待通りというか期待以上というか……」

 

 副会長は変わらぬ笑みで俺を見る。

 そこで俺はふと、違和感を覚える。それは今の言葉だけではなく、彼女と数十分の間に交わした言葉を含めてだ。

 なんだ、この違和感は……。自然な会話だと思うけど何処かに隠れてる違和感。いや、隠れてるわけじゃない。俺がその違和感に気づけていないだけだろう。

 少しだけ思考を巡らせ考える。考えて考えて考えて……ようやく違和感が輪郭を持ち始める。

 期待通り……期待通り? 期待以上?

そうだ、この言葉がおかしい。俺達の間で交わされる言葉の中で、この言葉が出てくるのはおかしいんだ!

 だって副会長と俺は初対面の筈だ。これじゃまるで副会長は『俺をあらかじめ知っていた』みたいじゃないか!

 その事に気づいた瞬間再び冷たい汗が身体から噴き出る。エマージェンシーが頭で鳴り響く。

 

「副会長、貴女は……」

 

 若干震える声は続かない。何者なんですか? この言葉が口から出てこない。

 そんな俺にくすりと笑うと立ち上がり、ゆったりとした動作で俺の前に立つ。

 副会長の顔は子供がおもちゃを貰った時のような、願いがかなった時のような……。そんな嬉しそうな顔だった。

 

 

「やっぱり君も『天才』なんやね」

 

 

 世界が時を止めた。

 いや、時が止まるなどあり得ない。正確には俺が動けなくなっただけだ。言葉も動きもできない程衝撃を受けたのだ。

 一秒、一分、一時間……どれ位俺が動きを止めていたのかは分からない。だが、俺を再起動させたのは、皮肉にもフリーズさせた本人のくすくすという笑い声だった。

 

「そんなに睨まんでもええやん。男前な顔が台無しやで」

 

 どうやら無意識のうちに副会長を睨んでいたらしい。本能でこの人は敵だと思ったようだ。しかし此方を一方的に知っている人を敵視、もしくは警戒するのは当たり前だろう。あと最後のお世辞にイラッときた。

 

「天才って……いったい何の話です?」

 

「君の話やで。豊丘高等学校二年十四組、S級特待生の西原雅也君」

 

 一応惚けてみたが意味は無かった。本当に副会長は此方の事は知っているらしい。豊丘高の『特待生制度』についてまで、な……。

 そもそもS級特待生とは何なのか。これをざっくり説明するならば「天才階級」の一言で大体の人は理解できるだろう。

 S特は豊丘高において尊重し、自らの目標として特別視すべき存在だ。理由は単純明快。天才だから。

 この階級は学校から手厚い支援を受ける事が出来る。例えばちょっとした用事があって授業を休み際は公欠にできたり、自身の才能を伸ばすために専属のコーチをつけてもらったり等だな。

 しかも“日本の未来を背負う学生の育成”という教育方針の主軸で、国が各学生に多額の奨学金を給与するという異常なオプション付だ。正直話をするだけでも頭がおかしくなりそうだ。

 勿論何も無条件でって訳じゃない。それなりの成果は求められるし、国から奨学金を受けているのでよほどの事でもない限り転校及び退学はできない事になっている。当然と言えば当然だが、この制度を毛嫌いしている俺にとっては迷惑極まりない。

 勿論S特の事を知っているのはおかしくは無い。ただ、彼女はそれ以上の何かを知っている気がしてならない。

 

「…………何者なんですか、貴女は」

 

 ありったけの警戒心と威嚇を込めて問いかける。

 彼女はその問いかけに、またもや変わらないくすくすという笑い声の後に答えるのだった。

 

 

「ウチは東條希。必要なら協力するし、現状では君の味方のつもりやで」

 

 

 君次第やけどな、もう一度そう言って副会長はパチッと軽くウインクし、ブレザーのポケットから細長カードを取り出す。

 そして絵柄が描いてある方……ぼろぼろのローブを着て片手にランプを持ってる老人の絵を俺に向けて最初に出会った時のような笑みを浮かべた。

 

「……タロット、ですか?」

 

「そうや。期待してるで、『隠者』君」

 

 それじゃ、と踵を返して去っていく副会長の背中を俺はただ呆然と眺めていた。

 何? 『隠者』? どんな意味があるんだよ。タロット全然わからないから何が言いたかったのかさっぱり分からなかったんだけど。 正直、おじいさんには期待してないですよと皮肉ってるようにしか思えなかったわ。

 副会長が見せた『隠者』のカードにどんな意味があるかはもう聞けない。

 しかし最後に残した期待しているという言葉。本当に皮肉で言ったのか? もし本当の意味でその言葉を使ったのなら――

 

「…………いや、考えるのはやめておこう」

 

 そうだ相手の本心を考えようだなんて実におこがましいではないか。副会長が何を伝えようとしたのか、それは副会長が知っていればそれでいい。期待なんて重いだけなんだ。

 俺は貰ったカフェオレを一気に飲み干し、傍らに置いていた紙パックを掴んで立ち上がる。

 

「さて、今日はもうちょっと働いてから帰るとするか……」

 

 時間が無いのならやれる仕事は早めにやっておいた方が得策ってものだ。

 取り敢えず教室に自分の鞄を取りに行き、ゴミ箱に空になった紙パックを捨ててふぅと息を吐いて、ある目的地に向けて歩き出す。

 

 

「もう帰ってるよな、高坂は……」

 

 

 

 




次回予告
期待――その言葉に込められた真意は何なのか

取り敢えずその言葉を頭の隅に追いやって、雅也はいつかの和菓子屋へと足を運ぶ

「ちょ、み、見ないでください!!」

少しのお色気

突然のハプニングに雅也の反応は……

「方法……ですか?」

呼び出された銀髪少女の力も借り、彼はまた一歩踏み出す

「じゃ、そっちは任せたぞ」

長いプロローグがようやく終わり、彼等の戦いが今幕を開ける!!

次回「天使と小悪魔の手を握る」

「使える者は使わないとな……」

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