ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~   作:カゲショウ

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どうも、カゲショウです

まず最初に、誤字報告をしてくださった方ありがとうございました!
なんか読者と作者が作品を一緒に作り上げてる感があって個人的に誤字報告機能は最高ですね。テンション上がります。

今回は割と愚だってしまったので先に謝っておきます。すみませんでした!

ですがこの失敗を糧に次回からは精進していこうと思います。ですので読者の皆様、どうか私の作品にお付き合いください。

それでは本編をどうぞ。


14話 天使と小悪魔の手を握る

 天使と悪魔。自分の全てと引き換えに力を借りるというならば、人はどちらに自分を売り渡すだろうか?

 恐らく満場一致で天使の力を借りるとなるだろう。勿論俺だってそのような状況に陥れば天使の力を借りたいと思う。だって奴らは基本的に大した代償を要求してこないし。

 だが、彼らは悪を徹底的に許さない。もし後ろめたい事、もしくは人様に顔向けできないような事をしようとした時は魂を渡しても力を貸してくれないだろう。

 そういう人達は悪魔の力を借りる。奴らは基本的に力を貸す事を惜しまず、例えやる事が天使の逆鱗に触れる事だとしてもケケケと小笑いしつつ手を差し伸べる。

 ただし求める代償はそう安くは無い。彼らの力を借りるには精神、肉体……最悪魂を献上する必要がある。メリットもデメリットも極端に大きいのが悪魔という生き物だ。

 支払う代償は少ないが制限がある天使と、代償が大きい代わりに制限を設けない悪魔……。

 さて、これらの条件が提示された場合、廃校から救うという局面に対してどちらの力を借りる事が賢明な判断と言えるだろうか?

 

「答えは神のみぞ知るってね……」

 

 俺はふっと乾いた笑いを浮かべつつ、いつか迷い込んだあの住宅街に足を踏み入れる。

 空は既に茜色に染まり、良い子はみんな帰り始めたであろう時間帯だが、そこまで良い子でない俺は目的地である穂むらに向かっている途中だ。

 

「ある程度把握してるつもりだったがやっぱり複雑だな、ここは」

 

 複雑に入り組んだ道に辟易する。

 平城京とか平安京の方が歩きやすいんじゃないのか? と愚痴りたくなったが、そんな事をしても急に地形が変化するわけでもないのでしっかりと飲み込む。

 今必要なのは愚痴を垂れ流す事ではなく、なるべく遅い時間にならない内に高坂の元へ辿り着く事だ。

 

「少し急ぐか」

 

 茜色が差し込む道を少し早足で歩く。夕方だがまだ少し暖かい空気と吐息がシンクロした。

 

 

 

 

 急ぎ始めて十分もたたない内に、俺は無事穂むらへと辿り着く事が出来た。まずはその事に安堵し、一息つく。

 暖簾の向こう側のガラスからは光が漏れているので、どうやら営業はまだやってるらしい。ギリギリセーフ……って所なのか? 営業時間知らないから良く分からないけど。

 まぁどうでもいいかと呟いて暖簾をくぐって店内に入る。それと同時に「いらっしゃいませー」という優しい声を掛けられた。

 中にいた高坂の母と目が合うと、彼女はまぁと瞳を輝かせ嬉しそうに微笑む。

 

「あら、貴方は前来てくれた……」

 

「はい西原雅也と申します。その節は娘さんに大変お世話になりました。ありがとうございます」

 

「お礼なんていいのよ。困った人を助けるのは当然なんだから」 

 

明るく笑う高坂母。憎らしさをまったく感じない笑みを浮かべる人が、本当にあの小憎たらしい笑みを浮かべる中学生の母だとは信じ難いな。どことなく似てる気はするけど信じ難い。

 

「それで西原君。今日もお饅頭を買いに来てくれたのかしら?」

 

「ああ、いえ。今日はお伺いしたのは違う事なんです」

 

「違う事?」

 

「はい。娘さんに……雪穂さんにお話があって伺ったのですが、御在宅でしょうか?」

 

「雪穂に? 多分今は部屋で何かしてると思うけど……大切な話ならあがっていく?」

 

「そうですね……」

 

 この時間に、しかも素性もよく知らぬ男が訪ねてきたというのにあまりにも無防備ではないか? そう思ったが、実際結構長くなる可能性はあるので、玄関で高坂を立たせっぱなしという事もあり得る。

 もしそうなったらアイツは人の話を半分しか聞かない、もしくは所々で何かしら茶々を入れてくるだろう。淹れるのはお茶だけにして欲しいものだが……。

 となると此方としては、あがって腰を据えて話をさせてくれるというのならありがたい話だ。ただそれで相手の家庭に迷惑をかけるのは忍びない。

 うーんと唸って考えていると、高坂母が何が面白かったのかくすくすと笑い始めた。

 

「子供が遠慮しないの! まだウチは営業中だから気にせずゆっくりしていきなさいな」

 

「……それじゃあ、今回はお言葉に甘えさせてもらってもいいでしょうか?」

 

「もう、そんなに畏まらなくていいのに……」

 

「いえ、こういう時はちゃんとしろと躾をされてますので」

 

「そうなの? いいご両親をお持ちなのねぇ」

 

「…………まぁ」

 

「ふふっ。じゃあ雪穂の部屋まで案内するからついてきて頂戴」

 

「お邪魔します」

 

 どうぞ、と高坂母の明るい声に迎えられて高坂家に足を踏み入れる。

 暖簾の奥のタイル張りの廊下を抜けて、靴を脱いで本格的に高坂家にお邪魔する。

 高坂母が小まめに掃除しているのか、ぱっと見えるところには埃等見えず、床は照明を反射して優しく光っていた。

 華美な調度品等も見受けられない落ち着いた雰囲気にまとめている高坂家のセンスに少しばかり感心する。

 

「……いい雰囲気の家ですね」

 

「そう? ふふっ、ありがとう」

 

 顔は見えなかったが、声は少し弾んでいるように聞こえたのは多分気のせいじゃないだろう。だって声のトーンが客を出迎える時の声と殆ど変わらなかったのだから。

 高坂とは違って純粋な人なのか? いや、高坂も純粋だったか。純粋に生意気なんだ、アイツは。

 そんな事を考えている内に階段を上りきって、二つ扉が並んでいる内の手前の扉の前に立っていた。

 

「今雪穂呼ぶから待っててね」

 

 掌をこちらに向けて微笑んで待機を促す。

 俺はそれに素直に頷き、高坂母の背後から一歩引いた所に立って待機する。

 

「雪穂ー。ちょっといいー?」

 

 コンコンと控えめにノックして中にいるであろう高坂を呼ぶ。すると「何ー」と言葉が扉の向こうから返ってきて、こちらに何かが近づいてくる。

「何か用? お母さん」

 扉の向こうには緑顔の生物がバスタオル一枚を身に纏って立っていた。

 ……おかしい。俺は確か高坂の家にきて、高坂の部屋に訪れた筈だ。だから扉の向こうにいるべきなのは高坂雪穂であるはずだ。いや、高坂雪穂でなければおかしい。

 頭を軽く振って高坂母を挟んで立っている生物をもう一度見る。

 少し暗めの茶髪。高坂も確かこんな髪の色だった気がする。髪型は天に向かって結われたものが一房ついているので判断つかないが……。

 身長。記憶が正しければ、高坂はこの生物と同じくらいの身長だったと思う。

 スタイル。そもそも分からないから判断材料から除外。ただ、大きくも小さくもない胸の大きさはそれっぽかった。

 目。目の周りが緑色の何かで覆われてるので判別不可能。

 声。高坂のものだった。

 結論。この緑顔の生物は高坂雪穂であり、彼女は実は人類の亜種である可能性が高い。

 …………まぁ、そんなわけないか。もし亜種なら高坂母も亜種だし、何より顔にキュウリつけてる生物などいてたまるかと言いたい。

 はぁ、と何気なくついたため息が高坂母とシンクロする。どうやら高坂母も娘の醜態、もといだらしなさに呆れたのだろう。

 

「雪穂……あんたなんて格好してるのよ」

 

「いいじゃん別に。家なんだから」

 

「いくら家の中だったとしても、よ。何そのキュウリとバスタオル姿は」

 

「美容のためのキュウリパック。バスタオルじゃないと豊胸マッサージがやりにくいし」

 

 これ、俺は聞かない方が良かった気がする。

 どうやらまだ高坂は俺の存在に気づいていないようだが、何も見てないですよと主張するように顔を背ける。

 しかしこの親子、何故かそこから胸の大小の話を始めてしまいやがった。

暫くしたらやめるかなと踏んでいたが甘かった。なんか段々内容が俺の聞いていい範疇を軽く超えてるし、高坂の個人情報は筒抜けだし……。

俺は話を切る為に、はぁとため息を吐きながら高坂母の陰から姿を現すべく横に一歩ずれる。

 

「高坂、早く何か服を着るなりしてくれないか? 話ができないんだが」

 

「………………………………………………………ぇ?」

 

 目を丸くするという慣用句が日本にはある。意味は驚いて目を見張るという事らしいが、成程、確かに驚いたら目を丸くするんだな。昔の人はよく人を見ている。

 うんうんと昔の人に感心している間も、高坂は口をパクパクさせて突っ立っていた。魚の模倣か? あんまりうまくないな。

 

「え? ちょ、なん、なん……」

 

「西原君が何かあんたに話があって来たのよ。早く何か着なさい」

 

「すみません高坂さん。大事な娘さんの柔肌を少しでも見てしまって……」

 

「謝らなくていいのよ。此方こそ見苦しいものを見せてしまってごめんなさいねぇ……」

 

「ちょ、見苦しいってなに!?」

 

 己の状態を忘れて実の母に大声を上げる高坂。

 ただ、このままだとまた母対子の討論大会が始まってしまうので、高坂の方を向かずに注意する。

 

「高坂、お前はツッコむより先に何か服を着るのが賢明だと思うが?」

 

「ちょ、み、見ないでください!!」

 

「安心しろ。登場時の少ししか見てないし、見る気もさらさらない」

 

「それはそれでムカつくんですけど!?」

 

「はいはい。とりあえず雪穂は部屋に戻って人様の前に出られる格好になっていなさい」

 

 激昂するする高坂を高坂母が部屋に押し戻して扉を閉める。最後まで何か言っていたが全力で無視した。

 

「ごめんね。すぐに着替え終わると思うから、もう少し待っててくれる?」

 

「いえ、突然押しかけたのは自分ですから話を聞いてくれるならばいくらでも待ちますよ」

 

話を聞いてくれるなら、な。取り敢えず、高坂と話をする前に気分を鎮める所から始めなければいけない事は理解した。

高坂母はそれじゃあ私はまだ店番あるから、と言って去ってしまった。この状況においての唯一の盾だったのだが店番ならば仕方ない。

 

「………………入ってきてください」

 

 少し低めのトーンでそう告げられ、とりあえず扉を開けて入る。

 中には白のタンクトップのシャツに丈が短くて脚を大胆に露出しているホットパンツ姿の高坂が、クッション的なのを抱えて此方を睨んでいた。

 

「失礼する」

 

「失礼を働くなら帰ってください」

 

「お前ほど失礼を働く気はないから安心しろ」

 

「私がいつ間抜けなお兄さんに失礼をしました?」

 

「記憶喪失か? 若いのに大変だな」

 

「常識的に考えれば記憶喪失なわけないじゃないですか」

 

 ふむ。やはり生意気だなこの小娘。だが、こんな軽口が叩けるという事は怒りもさほどあるわけではないだろう。取り合えず少しは楽になりそうだ。

 適当に座ってくださいと促され、取り敢えず小さな白いテーブルの前に胡坐をかく。高坂もクッションを抱いたままテーブルを挟んだ対面に座る。

 一つ咳払いをして話を始める。

 

「それじゃあさっそく本題に入るがいいか?」

 

「その前に、間抜けなお兄さんは私に一つ謝る事がありますよね」

 

「ない。それじゃあ本題だが――」

 

「いや、ありますよねぇ!?」

 

 ダンッと左手でテーブルを叩いて俺の言葉を遮る。なんだ、まだ怒ってたのか。

 はぁと思わずため息を吐いたら、高坂が耳ざとくそれを聞きつけて何処か棘のある口調で言う。

 

「間抜けなお兄さん、乙女の恥ずかしい姿を見てため息とかどういう了見ですか?」

 

「乙女を語りたかったら少なくとも絢瀬並の性格になって語るんだな」

 

「論点はそこじゃないでしょう!?」

 

 面倒くさいな……。まぁ俺にも非が無いとは言い切れないから、五月蠅い黙れと切る事もできない、か……。

 再びため息を吐いて、早く話を進めるために俺は謝る事にした。

 

「花も恥じらう乙女の高坂雪穂さんのバスタオル一枚という醜態を不慮の事故とはいい、見てしまった事を深く反省しております。すんませんでしたー」

 

「謝るならちゃんと謝りましょうよ!!」

 

「事故は意図せず起こるものだから、そんなに深い反省を求められても困る」

 

「人の裸を見といてその言いぐさ……」

 

「安心しろ。そもそもお前の裸体等見ても性的興奮はしない」

 

「ふんっ!」

 

「ぅわぷ!?」

 

 クッションを顔面に投げつけられた。クッションがもともと柔らかいので顔面は痛くは無いが、反動で倒れた際にぶつけた後頭部が痛い。

 顔面にクッションが埋まる形になっているので息苦しい。若干クッションから漂うこの匂いは高坂のものか? 少し甘く柔らかい匂いがする。

 上体を起こして高坂を軽く睨む。クッションは重力という絶対の理の下俺の膝の上に落ちていった。

 

「高坂、何故クッションを投げた」

 

「ムカついたからですけど?」

 

「開き直るかこの野郎」

 

「私は女の子なので野郎じゃないですよ」

 

 本当に生意気な奴だな……。いや、ここで俺もキレたら話が進まなくなる。

 ならばここは、かつて田嶋先生の下で自動的に培われてきた大人な対応でコイツの機嫌を取る事を第一に考えるとするか。

 

「高坂、俺はお前が何が不満で怒っているのかは分からない。だが、もし半裸を見られて怒っているというならば『事故』だったという事でどうか水に流してくれないか?」

 

 頭は下げないが少し媚びるような、申し訳なさそうな声で言う。

 そしてさりげなく事故という部分を強調し、これは予想外の出来事であったというのを高坂に伝える。伝わるといいな、この想い。

 

「…………まぁ、私もその位の事は理解してますよ」

 

 視線を少し俺から外して拗ねた子供のように呟く高坂。若干居心地が悪そうに体を縮こまらせているあたり、少しはその怒りが混じっていたという事だろう。

 

「でも……でもですよ? やっぱり一人の女の子としては魅力がないとか無反応だったりするのは少なからず傷つくんですよ!! 別に間抜けなお兄さんに意識して欲しいわけじゃないですが!!」

 

「あぁ、そういう事……」

 

 女の沽券に関わるって奴か? 女子は大変だなぁ。

 だがまぁ、俺にとっては凄くどうでもいい事だが、高坂にとっては結構大事な事なのだろう。じゃないと緑顔星人やバスタオル一枚で豊胸マッサージなんてしないはずだ。効果があったのかは別の話で。

 

「そいつはすまなかった。別に魅力がないわけじゃないから安心しろ」

 

「いえ、私もなんかすみませんでした……」

 

 うっすらと口元が綻んでるのは魅力がないわけじゃないと言われたからだろうか。もしそれで高坂の機嫌が少しでも良くなったのならもはや何も言うまい。ぼそりと呟かれた「もしかしてホモのお兄さんなのかな」という言葉にも何も言うまい……。

 何も言わないが、取り敢えず投げられたクッションを投げ返しておく。その事で高坂が抗議の視線を送ってくるが全力で無視する。

 

「それでホ……間抜けなお兄さんは今日は何しに来たんですか? もう結構遅い時間ですけど」

 

「こんな時間になったのは七割方お前のせいだと思うが……まぁいい。今日はお前、というか絢瀬とお前の二人に話があって来たんだ」

 

「亜里沙に? ……という事は音ノ木坂関連の話ですか」

 

「そうだ。というかそれ関連以外ここに来る用事は無い」

 

 お饅頭があるじゃないですかと言うが、そんなしょっちゅう買ってられるかってんだ。

 まぁそんな下らない事を議論するつもりもないので、咳払いを一つして話を進める。

 

「それで、だ。今からする話を絢瀬にもできるだけ早く伝えて欲しいんだが……」

 

「それってかなり急いだ方がいい感じですか?」

 

「ん? ああ、まぁ。できるのなら明日には伝えて欲しいな」

 

「ならちょっと待っててください。この時間なら亜里沙は大丈夫だと思うし……」

 

 そう言って机の上に置いていたスマホを手に取り、何やら指でスイスイと上下左右に操作し始める。俺自身スマホについては詳しく知らないので何をしているのか分からないが、話の流れからして、大方絢瀬に電話かメールでもしているのだろう。文明の利器だなぁ……。

 暫く黙って高坂の行動を眺めていたが、高坂がよしとにわかに小さく呟くとスマホを再び机の上に置いた。その平たい利器の液晶が真っ暗になっているので通話状態にしていないのは理解できたが、その後部屋を出て行った高坂の行動は理解できなかった。

 そして待つ事二分。高坂は赤色のノートパソコンを片手に戻ってきた。

 

「パソコンなんて持ってきて何するつもりだ?」

 

「別に通報に使う訳ではないので安心してください……っと」

 

 慣れた手つきでパソコンを起動させてカタカタとキーボードを指で打つ。そしてひとしきりカタカタカチカチやった後に此方を向く。

 

「準備完了ですよ、間抜けなお兄さん」

 

「何の準備だ」

 

「勿論通話ですよ。伝言なんて面倒くさいですし、今から家まで呼ぶわけにもいかないですからね」

 

「通話か……。お前意外と頭回るのな」

 

「ふふん。もっと褒めてもいいんですよ?」

 

「通話開始っと」

 

「ちょ、無視は酷くないですか!?」

 

 何かほざいている高坂を無視してマウスカーソルを通話の文字に合わせてクリックする。

 ポポポポ、ポポポポという音の後に「もしも~し」という朗らかで明るい声がパソコンから流れてきた。

 

「やっほー亜里沙。声はちゃんと聞こえる?」

 

『うん、よく聞こえるよ。今日は急にどうしたの?』

 

「ああ、うん。なんか間抜けなお兄さんが私達二人に話があるんだってさ」

 

『間抜けなお兄さん?』

 

「ほら、この前音ノ木坂を何とかできるかもって言ってた高校生の人」

 

『西原さんの事?』

 

「そうそう。そんなニックネームの間抜けなお兄さん」

 

「本名がそんな奴がいてたまるか」

 

「痛っ!」

 

 取り敢えず変な事言って話を遅延させそうな高坂の脳天をチョップする。当然のように抗議の視線を高坂から浴びせられるが無視。

 俺は顔とパソコンの距離を少し詰め、絢瀬に話しかける。

 

「聞こえるか絢瀬。西原だ」

 

『西原さんですか? こんばんは』

 

 画面越しでお互いの顔も見えないというのに絢瀬は律儀にお辞儀でもしたのだろう。こんばんはという挨拶が徐々に大きく鮮明に聞こえてくる。

 俺はその言葉にこんな時間に悪いなと一言謝って返す。

 

「高坂、絢瀬、早速だが話の本題に入ってもいいか?」

 

『はい。なんでしょうか?』

 

「手短にお願いしますね」

 

 二者二様の返しをうけ、俺は人差し指を天に向けて立てながら話し始める。

 

「まず最初に確認しておきたい。お前たちは本当に俺に協力してくれるのか?」

 

『もちろんです! 音ノ木坂を助ける為ならなんだってします!』

 

「まぁ私も手伝いはしますよ。亜里沙の泣き顔見るのも嫌だし……」

 

 本当に高坂は絢瀬思いだな……。絢瀬も此処まで自分の事を思ってくれる友達を持てて幸せな事だろう。だからその優しさを少しでも俺に向けろよ。

 取り敢えずその文句を飲み込んで、さっきより低いトーンで言葉を続ける。

 

「お前らがそういうのは大体予想はできていたが……本当にいいのか? お前らは受験生だから勉強が優先だろう?」

 

「それは……そうですけど」

 

 こいつ等二人の成績がどれ程のものか分からないが、生徒数が少ないと言っても音ノ木坂は国立高校だ。決して優しいわけではない。

 高坂は志望校は違うと言っていたが、もし音ノ木坂より偏差値が上の所を目指すのならこんな事に時間を浪費している場合ではないだろう。

 S特だなんだと周りから囃し立てられてはいるが、俺は結局のところ一学生に過ぎない。こっちの手伝いをさせていたので中学生二人の将来を潰しましたーとなっても責任はとれやしない。

 結局の所、今回俺は二人から免罪符を貰いに来たのだ。コイツ等はちゃんと説明したうえで自分の意志で手伝った、だから自分に非は無いのだと。そういう免罪符を……汚い言い方をすれば言い訳を貰いに来たわけだ。

 さっきまで意気揚々と協力を申し出ていた高坂と絢瀬の言葉が失われる。当然と言えば当然だろう、彼女たちはまだ中学生だ。そう簡単に決められる事ではないだろう。

 

「勿論協力してくれるならば此方もできるだけの配慮はする。それでもお前たちの勉強に支障が出ないとは言い切れないが……どうする?」

 

 狡い人間だな、俺は。まだ中学生の女子に責任を丸投げするような形で事を進めようとするなんて……。

 でも俺にはこうする事しかできない。こんな形でしか進める事が出来ないから、責任を彼女たちに丸投げするしかないんだ。

 沈黙する彼女たちの回答を待つ。だが、思ったよりも早くこの沈黙は優しく破られた。

 

『私は……協力します』

 

「亜里沙……」

 

 強い意志の篭った声。優しい声音だが否定意見など受け付けないぞと俺に言っているようだった。

 

「…………どうなるか、分からないんだぞ?」

 

『勿論分かってます。だけど、ただこれからを見て過ごすだけができるほど大人じゃないですから』

 

 きっと彼女は画面の向こうで以前見たような笑みを浮かべているのだろう。

彼女だって恐れを知らぬわけではない。ただ、勉強の妨げになるかもしれないという事が何もしない理由にはなりえなかった、そういう事なのだ。

 

「なら絢瀬はいいとして……高坂、お前はどうする?」

 

「私、は……」

 

 何かを言おうとしているが中々口からそれが出ない、そんな雰囲気を彼女から感じた。

 それでも彼女は答えを口にしなければならない。たとえそれが拒否だったとしても言葉にしなければならないのだ。

 暫く押し黙っていた高坂だが、ふっと吹っ切れたような自棄になったような表情で薄く笑った。

 

「私もお手伝いさせてもらいますよ、間抜けなおにぃさん♪」

 

「我が身大事な判断してもいいんだぞ?」

 

「友達が頑張るってのに私が頑張らないわけにはいかないでしょう?」

 

『雪穂……』

 

「それに……っと、安い家庭教師もできましたしね」

 

 手を伸ばして筆箱の中から以前俺が渡したシャーペンを見せつけてくる。

 コイツ……と少し思い口角がひくっとつり上がったが、まぁいいかと首を振って口角を引き戻す。

 あの店でも思ったが、高坂は本当に人が良いな……。いつかその人当たりの良さに付け込まれて身を滅ぼすのではないかと想像したが、俺への対応を見る限りどんな対応をしていいのかを見抜けているようなので上手く想像できなかった。

 

「それじゃ、決まりだな……。二人とも、前途多難な一年になるだろうがよろしく頼む」

 

『はい! 此方こそよろしくお願いします!』

 

「受験生が協力するんですから、ハイ無理でしたじゃ許しませんからね?」

 

「分かっている。もとより失敗を前提に行動する奴なんていないだろ」

 

 これで俺の望んだ形で協力者が出来た。それも飛び切り心強く、必要不可欠な協力者だ。

 校外の……それも中学生で三年生の協力者と言うのは出来過ぎなくらい心強い。何故なら現在の受験生の声をダイレクトで聞く事ができるのだから。

 最初の人員は確保できた。ならばさっそく行動開始と行こうじゃないか!!

 

「高坂、絢瀬、早速で悪いが至急やって欲しい事がある。頼めるか?」

 

『やって欲しい事ですか? 何でしょう』

 

「まず二人は学校で更なる協力者を見つけてきてほしい」

 

「協力者って私達だけでは不十分なんですか?」

 

「数は多い方がいい。それとできれば男子の協力者が好ましいな」

 

『男の子の協力者ですか……』

 

「うーん、ぱっと思いつく人は居ないかなぁ……。あ、須賀君とか協力してくれそう」

 

「ならそのスガとやらに話を聞いてみてくれ」

 

「あまりいい返事は期待しないでくださいね」

 

 やはり相手が受験生なだけあって協力は期待できそうにない、か……。ならばこの二人を主軸として外部へのアプローチは考えていくとするか。

 頭の中にその事をメモしつつ、じゃあと言葉を続ける。

 

「次なんだが……。具体的な方法について聞きたい」

 

『方法……ですか?』

 

絢瀬が聞き返してきたのでそうだと頷き説明を続ける。

 

「勿論今すぐ全部を決めようって訳じゃない。どんな事をした方がいいのか、それについてお前たちの考えを聞きたいんだ」

 

「……間抜けなお兄さん、私たちは音ノ木坂生じゃないんですけど?」

 

「そんな事は知っている。だから聞いてるんだ」

 

 高坂が頭に疑問符を浮かべている。通話状態にあるはずなのに絢瀬の声が聞こえてきてこないあたり、恐らく絢瀬も画面の向こうで小首を傾げているのだろう。

 取り敢えずこのまま疑問符を浮かべられたままでも話は進まないだろうから説明しておくか。

 

「俺が聞きたいのは外部から見て音ノ木坂をどう変えたほうがいいのか、という事だ。これは音ノ木坂の生徒ではないお前たちにしか聞けない事だからな」

 

「あぁ、そういう事ですか……。もっと懇切丁寧に説明してくれてもいいんじゃないですか?」

 

「時間の無駄だ。各人の理解能力に期待しているぞ」

 

「協力する話なかったことにしますよ?」

 

『あはは……』

 

 絢瀬の苦笑が聞こえる。何故だ、俺にどこか落ち度でも?

 大きく咳払いをして一度流れを切って、空気を元に戻した後に再び彼女たちに問い直す。

 

「それで、お前たちはどこをどう変えたほうがいいと思う?」

 

『そう、ですねぇ…………』

 

 うーんという絢瀬の唸り声がスピーカーから流れてくる。そう唸らずとも考えられるのではと思ったが、結構自分も何か呟きながら考えているのを思い出して反省する。

 そして暫く唸った後に、やや遠慮がちに言葉を紡いだ。

 

『やっぱり音ノ木坂のアピール方法を考え直した方がいいんじゃないかと思うんですが……』

 

「やはりそこが一番か……」

 

「やはりって事は間抜けなお兄さんも思ってたんですか?」

 

「まあな……」

 

 となるとやはりパンフレットは早急に改訂するべきだな。後はホームページとかか?

 

「絢瀬、具体的にはどう直した方がいいんだ?」

 

『えっと、私はよく音ノ木坂のホームページを見てるんですけど、何と言うか、その……』

 

「普通なんですよね。はっきり言えばつまらないです」

 

「となると、他の人がよく見たくなるような何かを組み入れる必要があるな……」

 

 本来ならホームページは保護者も見るので厳格であるべきなんだろうが……今はそうは言ってられないな。ホームページも生徒を集める武器にしなければ頓挫してしまうだろう。

 じゃあそこが一点だなと言う俺に、高坂が手を挙げて尋ねた。

 

「あの、そもそも間抜けなお兄さんは個人でこの問題を解決するつもりだったんですか?」

 

「いや、個人でできる事は限られている。だからこうして仲間を集めているんだよ」

 

「生徒会の人たちに協力とかしないんですか?」

 

「生徒会……ねぇ……」

 

 確かに副会長が今の生徒会は結構人手不足だと言っていたな。だから生徒会内に廃校阻止委員会なる組織を急設し、一般生徒の参加を促すのもありなのだろうが……。

 

「……生徒会の一部とは既に対立済みだから協力は難しいな」

 

「まだ音ノ木坂に通うようになってそんなに経ってないですよね? なんで既に敵を作ってるんですか? 間抜けじゃなくてアホなんですか?」

 

「いや、俺は悪くない。互いの心労を考慮した結果を行動に移したらなんか対立したんだ」

 

「世間一般ではそれはアホって言いません?」

 

「言いません」

 

 頭の中であの会長の冷たい視線バージョンの顔が思い出される。おー怖い怖い。なのでもう記憶の奥に眠っててくださいねー。

 脳内から会長を追い出していると「あ、あの!」と絢瀬が食い気味に声を上げる

 

「どうした、絢瀬」

 

『あの、生徒会には私のお姉ちゃんがいるから大丈夫です! お姉ちゃんは優しいからきっと協力してくれると思います!!』

 

「そうか。ならその時はお前のお姉さんに頼るとするよ」

 

 と言っても生徒会の人の名前なんて覚えてないんだけどな。会長と副会長はなんか自己紹介してた気がするけど忘れたなぁ……。

 何だったかなと頑張って思い出そうとしていると、高坂が呆れた目で此方を見ていた。

 

「話し戻しますけど、生徒会と協力しないならどうするんですか?」

 

「それなんだよなぁ……。結局一人の行動じゃ限界があるしな」

 

 うーんと三人で考え込む。三人寄れば文殊の知恵と言うがあれ嘘だろ。全然いい考えが出てこないんだが? あ、自宅に一人いて物理的に寄ってなかったな。

 などと考えていると、絢瀬がぽつりと呟いた。

 

『…………部活動の方にお願いするというのはどうでしょう?』

 

「部活動の奴等を?」

 

『はい!』

 

 部活動生か……。確かに戦力にもなるし、何か対策を講じるべきだと考えていたから手元に置けるのは魅力的だな。だが……。

 

「だけどそれじゃあ大切な部活の時間を割いてまで手伝うメリットが小さいんじゃないかな?」

 

 高坂が俺の思考を代弁する。

 高坂の言うとおりただ協力するだけじゃ部活動生にメリットなんてありはしない。何故なら仮に音ノ木坂が存続したとしても即戦力となりうる、又は有望な一年生が入部するという保証はないからだ。

 ならば最後の瞬間まで部活に没頭して、少しでもいい結果が残せるように努力した方が部活動側としてはメリットがあるだろう。

 

「生徒全員が廃校を何とかしようって考えてるわけじゃないからな。部活動生にとっては最後まで部活をやる事、それが一番大切なんだろうし」

 

『うぅ、いい案だと思ったのに……』

 

落ち込んだような声を出す絢瀬。そこまで落ち込むことか? と思ったが、頑張って考えた意見を二人から否定されたらこうもなるか。

高坂も少し罪悪感を覚えたのか、少し居心地の悪そうな顔になっている。

 

「……何もその意見を却下とは言っていないだろ?」

 

『…………え?』

 

 俺の言葉に少しだけ声が明るくなる絢瀬。

 

「このままだと部活動生が手伝う見込みがないってだけだ。だから今度はどうやったら部活動生が手伝ってくれるかってのを考えればいい。違うか?」

 

『……そう、ですね。はい! 今度はそれについて考えましょう!』

 

 声のトーンが完全に通常に戻ったのを聞いて取り敢えず一安心。

 すると高坂がすすすと膝を吸って俺の横まで来て、パソコンの内蔵マイクに入らない音量で耳打ちをする。

 

「間抜けなお兄さんってやっぱり亜里沙に甘くないですか? もしかして狙ってます?」

 

「とことん失礼な奴だなお前は……」

 

 何を言い出すかと思えば……。俺の善意をなんだと思ってるんだコイツは。

 癪なので脳天にチョップを下して制裁する。

 

「じゃ、どうすれば部活動生を引き込めるかについて煮詰めていくか」

 

『はい! 頑張って決めましょう!!』

 

「ったー……。もう、馬鹿になったらどうするんですか!」

 

「手遅れだ」

 

「それどういう意味ですか!?」

 

「いいからさっさと話し合うぞ」

 

「むぅ……。後で説明してもらいますからね?」

 

 覚えていたらな。覚えておく気はさらさらないが。

 こうして俺達は高坂家の夕食の時間ぎりぎりまで話し合った。結局は探りを入れるという結論に落ち着いたのだが、まぁまずはそこからだよなと納得する。

じゃ、明日位に副会長に頼んで協力を仰ぐとするか。本人曰く今は俺の『味方』らしいからな。

 生徒会は未だ俺の敵対対象には入っている。だが、自分で仲間だと言っているのなら今はその括りから出すこともやぶさかではない。

 俺はここに来て間もないのに、可能性だとか期待だとか色々言われてきた。正直迷惑だ、ほっといてくれ。

 だがもう引くことはできない状況にある。なら期待に応えるわけではないが、動き出すしかないだろう。

 高坂家から出た時には既に夕日は完全に沈みきっており、頭上には怖くなる程黒い夜空が広がっている。

 天使と悪魔。自分の全てと引き換えに力を借りるというならば、人はどちらに自分を売り渡すだろうか?

 支払う代償は少ないが制限がある天使と、代償が大きい代わりに制限を設けない悪魔……。廃校から救うという局面に対してどちらの力を借りる事が賢明な判断と言えるだろうか?

その答えは神だけが知っているというのなら、俺は両方と手を結ぼうじゃないか。だから手始めに随分と人間らしい天使〈あやせ〉と小悪魔〈こうさか〉の手を握った。

 この握った手がいつ振りほどかれるかは分からない。だから、握られている間だけでも有効活用しない手はない。

 

「使える者は使わないとな……」

 

 俺の小さな呟きは誰にも届くことは無く、夜の闇に吸い込まれていった。

 

 

 




次回予告
「ウチの予想より随分と早く動き始めるんやね」

遂に始動する雅也

手始めに彼は部活動の実態を調査することにしたのだが……

「へぇ、アンタが心実の言ってた西原雅也クンねぇ……」

立ちはだかるのは各部の部長たち

しかも一筋縄ではいかないような人ばかりで、雅也の心労はマッハで溜まっていく

「……副会長様が何かようかしら?」

そして遂に彼女が雅也の前に姿を現す!!

次回「突撃!! 音ノ木部活動!-文化部編-」

「遊びだったわけないでしょっ!!」
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