ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~   作:カゲショウ

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どうも、カゲショウです。
更新すると言ってかなり時間がたってしまいまことに申し訳ありませんでした……。
ですがまず言わせてもらいます。評価、誤字報告ありがとうございます!!

今回は更新するまでに色々ありました。
まず、熊本大震災に関してですね。自分は被災した側ですが、今でも揺れたりして不安になってる人がいるはずですし、家が壊れて困ってる人もいます。ですので、私はできる限りボランティアに参加していこうと思います。震災に関する自分の意見などは活動報告をご覧ください。

今度は明るい話をしましょう。
私、カゲショウは鍵のすけ様主催の企画、”ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』”に参加しております!! 本当にこのような企画に参加する事が出来て感謝感激です(笑)
私の作品は19日の更新となっておりますので、よければ見ていってください。そして他の参加者の作品もぜひ見ていってください!!

長くなりましたが、本編の方をどうぞ!


15話 突撃!! 音ノ木部活動!-文化部編-

 近寄りたくない場所というのは誰にだってあると思う。

 心霊スポットがその代表例ではないだろうか。総じて薄気味悪い雰囲気を放っている場所に近づこうと思うのはよほどの物好きだけだろう。そういえば豊丘高にもその物好きな新聞部員がいた気がするが……まぁどうでもいいか。

 もっと身近な場所を挙げるとしたら、学生ならば職員室や生徒指導室なんかそうではないだろうか。

 職員室など係りや提出物でもない限り行くことは無いし、生徒指導室ほど職員室以上に足繁く通う理由もない場所だ。俺の通っていた学校では説教室という別称が付けられるような場所だった。

 では、何故このような場所が生まれるのか。

だいたい、会いたくない人がいるから、という答えが九十パーセントを占めるだろう。

職員室にはあまり仲良くない先生がいるし、生徒指導室には怖い先生がいる。心霊スポットにはもはや人外が存在している。この何処に近づく理由があるというのだろうか。

このように、人には会いたくない人がいるという理由やその他の理由で近づきたくない場所はあるものだ。もし無いという人がいるのならば、恐らく余程能天気な奴か聖人君子ぐらいだろう。

勿論俺はその二つのどちらにも当てはまらない。だから俺にだって近寄りたくない場所はある。

豊丘高校にいた頃は運動部の集まってる場所には近寄りたくなかった。だって暑苦しいし騒がしいし……。後は田嶋先生の半径一メートル以内には近寄りたくなかったな、うん。

そしてそんな俺が今、この音ノ木坂で近づきたくない場所……それは――――

 

「本当は生徒会室なんて来たくないんだけどなぁ……」

 

 まぁ生徒会室の事だよな。だって生徒会長いるし。

 そんな俺は、現在生徒会室の扉の前に立っている。生徒会室に近づきたくないと言った奴が何故そんな場所にいるかというと、部活動への探りを入れるには生徒会の協力が必要だと思ったからだ。

 別に個人でもできるのだが、いきなり見知らぬ人がいきなり訪ねて実状を聞いても「何で?」と問い返されて調査が難航しそうだからである。

 なので今回は調査をスムーズに進める為にも、調査していても違和感の生まれない生徒会に協力を依頼しようと考えてここに来たわけだが……正直扉を開くのが躊躇われる。

 シュレーディンガーの猫じゃないが、中に会長がいる状態といない状態が今現在想定され、それは扉を開けるまで分からないというのが俺の手が扉を開くのを躊躇わせる。くそっ、現象はどちらか片方だと決まっているというのに、もしかしたらが頭から離れない……!!

 扉をノックするために上げた拳が動かない。だが、いつまでもこうしてはいられない。今は一分一秒も無駄にはできないんだ、躊躇いや恐怖は捨てるんだ……。

 数回深呼吸をして決意を固め、三回扉を叩く。中からはどうぞと柔らかな音が返ってきた。

 ドアノブを回転させて押すと、想像が形を成して目の前に現れた。

 

「あれ? 西原君やん」

 

 生徒会室の中では昨日ぶりの再会となる副会長が、『コ』の字型に合わせられた長机のうち、廊下側の席の一つに座って何かの資料を眺めていた。

 取り敢えず周辺を警戒して見回す。マグネットが数個とインクの後が微かに残っているホワイトボードに、アルミ製の棚。窓から差し込む光は綺麗に掃除された床を照らしており、部屋の隅に飾られた観葉植物もその光を受けながら光合成をしている事だろう。

 

「…………副会長だけ、ですか?」

 

「そうや。エリチは今日は日直やから朝は来ないんよ」

 

「そうですか。なら一安心です」

 

 今この空間に会長が来ないという事に関してひとまず安堵する。

 だが真面目な会長の事だ、副会長に仕事を押し付けてそのまま教室にいるという事は考え難い。仕事を手早く終わらせてここに来る事も考えられるだろう。

 ならばここに長居するべきではないな。手早く用事を済ませるとしよう。

 俺は生徒会室のドアを閉めて副会長の下へ歩み寄る。その間も副会長は、何考えているのか分からない柔和な笑みを浮かべている。

 まぁ今副会長が何を考えているかなど気にする事ではない。協力してくれるのであればそんな事などどうでもいいのだから。

 

「副会長、お願いがあるのですがよろしいでしょうか?」

 

「お願い?」

 

「そうです。今後の為に必要なお願いです」

 

「…………へぇ」

 

 目を細めて俺を見る副会長。その視線の意味は分からないが、主婦がよくスーパー等で品定めするそれにそっくりだった。

 

「ウチの予想より随分と早く動き始めるんやね」

 

「悠長に考えてる時間はないと言ったのは副会長ですよ?」

 

「そうやったね」

 

 一本取られたというようにからからと笑う。

 そしてふと笑うのやめ、入室した時の柔和な笑みをその顔に再び浮かべた。

 

「でもそのお願い、ウチが叶えてあげるとは限らんけど?」

 

「いいえ、副会長はまだ俺の味方なんですから聞いてくれるはずでしょうね。もっとも、今聞き入れられなくても無理矢理聞いてもらいますから」

 

「怖いなぁ……。意外と押しが強いんやね、君は」

 

「後ろに一歩引くわけにはいきませんので」

 

「……せやな」

 

 それだけ呟いて机の上に広げていた書類をひっくり返し、椅子を回転させて俺の方に向き直る。

 その顔には俺を値踏みするような視線は無かったが、やはり奇妙なまでの柔らかい笑みを浮かべていて、俺は弱く握り拳を握った。……少し苦手だな、この人。どことなく掴み所のなさが田嶋先生に似てるし。

 

「では、してほしい事の説明をさせていただきますね」

 

 俺は少しだけ口角を上げ、パーカーから一枚の紙を取り出して副会長に差し出した。

 副会長はさっとその紙に目を通し、ピタリと視線を止めるとふっと薄く笑う。

 

「わかった。協力するよ、君のしようとしてる事」

 

「ありがとうございます」

 

 これで少なくとも半歩前進……か。後は今日の結果次第で決まる。此方にとっていい結果が出る事を切に祈るとしようか。

 副会長に紙に書いている事の詳細を説明しながらそう思った。

 

 

 

 本日の授業全てを終わらせる鐘が鳴り、皆一様にその口から疲れを吐き出した。

 俺も張りつめていた集中の糸を緩めて方の力を抜いた。このやりきった感じの脱力感は心地いい。

 座っていて強張った身体を少しほぐしていると、ちょんちょんと二の腕を突かれ、その方向に顔を向ける。其処にはにへっと笑う田城野がいた。

 

「なんだ? 田城野」

 

「いやー、西原君に少しお願いがあるんだけど……」

 

「ノートは見せんぞ」

 

「何でわかったの!?」

 

 何でも何も、さっきの時間隣でぐーすかされてたら大体の予想はつくから。その真っ白な頬についてるブレザーの布地が全てを物語っていると言っても過言ではないな。

 しかし諦めていない田城野は俺の右肩を掴んで思い切り揺さぶってきた。

 

「お願いだよ西原くーん! 私を見捨てないでぇ!!」

 

「人聞きの悪い言い方をするな」

 

「あぅ!?」

 

 揺する田城野を脳天チョップで止めさせる。

 額を押さえて抗議の視線を向けてくるが、知った事ではないな。寧ろ鞭打ち首になりそうな勢いで揺さぶられた俺の方が抗議したいくらいなんだが?

 

「というか友達に見せてもらえよ。いないわけじゃないだろ?」

 

「そうだけど、西原君ってノートを綺麗にまとめてる気がするし……」

 

「他にもいるだろそんな奴」

 

「そうなんだけど……」

 

 少し頬を膨らませて幼い子供のように不満を更に主張してくる田城野。むー、とか唸ってるけどお前自分がお願いしてる立場なんだから? 見せないけど。

 そんなやり取りをしていると、ふいに教室の前方の扉がガラッと開けられ、ざわついていた教室が一気に静まり返る。

 何があったのかと俺も教室の前方の扉を見て、口角が引きつったのが分かった。

 二つに結んで垂らした艶やかな髪。おっとり柔和な仮面。メリハリのある肢体。左手に持っているクリップボード。副会長である。

 えぇ……、何しに来たんですか副会長。俺を呼びに来たとかじゃないですよね? そうじゃないと言ってください。俺には家に帰るっていう大事な用があるんですけど。

 取り敢えず目的が不明なままだが、身体ごと窓の方へ反転させ目が合わないようにする。

 

「西原くーん、迎えにきたよー」

 

 しかし俺は関係ないという幻想を軽々と打ち砕いて副会長が呼ぶ。でも西原は反応しません。帰りたいからです。

 副会長がおーいおーいと呼びかけ、田城野が俺の肩を叩いて呼んでるよ? と言ってきますが、それでも西原は反応しません。帰りたいからです。

 暫く無視を決め込んでいたが、ぽんと肩に手を置かれる。

 振り向きはしないが、窓にはニコニコ笑顔が寧ろ不気味な副会長が立っていたので、この方に置かれた手が誰のものなのかすぐに理解できた。

 …………もう無視するのは無理、か。

 大きくため息を吐いて副会長を見る。

 

「無視するなんて酷いやん。ウチ泣きそうや」

 

「ニコニコ笑いながら何言ってるんですか」

 

「ウチ、悲しいなぁ……ちらっ」

 

 演技がかった口調で何を言うか……。というかちらっ、とか言ってる時点で悲しんでない事は丸わかりだっての……。

 暫く無言で視線を交錯させる。その傍らで田城野はおろおろしている。

 

「……はぁ。何か御用ですか? 副会長殿」

 

「ちょーっとウチに付き合ってもらえるかなって思ってな?」

 

「朝の件ならちゃんと説明したでしょう?」

 

「鋭いなぁ、西原君。でも世の中はそんなに甘くないんよ?」

 

「ぐっ……」

 

 正論過ぎて二の次が出ない。確かに頼むだけ頼んどいて自分は放置っていうのは流石にな……。しかも相手は年上だし失礼ではあるな。

 大きく深くため息を吐いて俺は肩を落としつつ席を立った。

 

「分かりましたよ。手伝えばいいんですよね、手伝えば」

 

「ふふっ。そんな不貞腐れんでもええやん。損はしないと思うよ?」

 

「損って……何させるつもりですか」

 

 絶対面倒くさい事だろう、それだけは何となくだが分かった。

 机の上にある教科書等をまとめて小脇に抱え、副会長と田城野の脇を抜けて教室を出る。後ろから副会長のクスッという笑い声が聞こえ、静かな足音が近づいてきた。

 

「それで、俺は何を手伝えばいいんですか?」

 

 教科書類をロッカーにしまいながら副会長に問う。するとブレザーに手を突っ込んで、その中から何かを取り出して俺に差し出してきた。

 差し出されたものを見ると、真っ白い布地に安全ピンのついた物体だった。

 

「……なんです、これ」

 

「お手伝いに必要なワッペンや。ちゃんと腕に付けてな?」

 

「いや、本当に何やらせるつもりなんですか……」

 

 渋々ワッペンを受け取って広げてみる。其処には黒いマジックで書かれたであろう『雑用係』の文字が書かれていた。なんと手作り感あふれる雑なワッペンだろうか、腕に付けたくないんだが?

 

「西原君はこれ付けてウチと部活動の調査に協力してもらうから、これ付けてないといちいち説明するの面倒やん?」

 

「いや、まぁそうでしょうけど……。というか俺もそれ同行するんですか」

 

「実際自分の眼で確かめたほうが確実やろ?」

 

「…………はぁ」

 

 まぁ副会長が言っている事は確かではある。どんな形で調査するのかは分からないが、部室などに直接言って現状を見るというだけでもかなり得られる情報量は変わってくる。

 しかも他人の視点だけでは分からない事もあるかもしれない。そういう意味では副会長について行くのは今後の為と言えなくもない。

 渡されたワッペンと副会長の顔の間を視線で何度も往復しながら考え、暫くうんうん唸った後にため息を吐いて、手作りワッペンを左腕にはめた。

 

「今回“は”お手伝いさせてもらいます」

 

「ふふっ、よろしくお願いな~」

 

 柔和な笑みを浮かべて俺の向いている方向に歩き出す。

 今なら普通に荷物持って帰る事も出来るのだろうが、今回は副会長について行くことが正解なのだろう。俺は頭をがしがしと掻き毟って副会長の二歩後ろを歩く。

 

「それで副会長、今から何処へ行くおつもりで?」

 

「んー、そうやね……。お昼にも活動してる部は回ったから、放課後に活動してる部活の所やね」

 

「残りいくつなんですか?」

 

「部活が全部で十五あって、お昼に二つ回ったから……文化部が五つで運動部八つやね」

 

「結構残ってるんですね」

 

 今日中に終わるのか? 完全下校時刻は結構遅いようだけど、それまで活動してる所って殆どないよな、普通は。

 うーんと効率のいい回り方を考え込んでいると、すっと視界にクリップボードが差し出された。

 

「なんですか、これ」

 

「各部活動の活動内容と昨年度の部費、その明細や。ひとまずこれだけは調べといたほうがええんやろ?」

 

「……そうですね。取り敢えず今はこれだけ調べれば十分ですかね」

 

 ペラペラとクリップボードに挟まってる紙を捲って確認しながら呟く。確かにそれなら短時間で部活動の弱みを見つけ出せるかもしれない。意外とやり手なのか、この人……。

 ちらりと二歩前を歩く副会長を盗み見る。素性が中々見抜けない飄々とした雰囲気だが、どことなく理事長に通ずるものを感じるのはきっと気のせいだろう。

 

「それじゃあまず吹奏楽部から回ろっか」

 

 後ろ手に軽やかな足取りで歩く副会長。何がそんなに楽しいのか分からないが、ニコニコしている。あ、そういえばこの顔は元からか。

 少しの不安と多大な面倒くささを感じながら、前で揺れる大きな二つの尻尾を追いかける事にした。

 

 

 

「どう? 西原君から見たさっきの部活は」

 

「どうと言われても……」

 

 正直部費に文句が出てない気がするんだよなぁ……。

 あれから俺達は手始めに吹奏楽部、美術部、演劇部を見て回った。対応は殆ど副会長がしてくれたが、やはり男子が、それも副会長と一緒にいるのは奇怪に見えるのだろう。すっごい不審な目で見られた。

 ワッペンが目に入らぬかと思いつつ部室内を観察したりしたが、やっぱり部費が足りない的なものはあったな。特に美術部なんて用具が見るからに少なかったし。

 

「今更ですが、あんまり調査する必要なかったんじゃないですかね」

 

「まぁ部活動での不満なんてそんなもんやし……」

 

 流石の副会長もこの結果には眉尻を下げて笑うしかなかったようだ。

 部活動を釣る餌が明確に分かっているというのは此方としては動きやすくて助かるのだが、お金が絡むとどうしても慎重にならざるを得ないので他の餌を準備したいところなんだが……。

 ふーむとクリップボードの資料とさきの三つの部活の現状を照らし合わせて考える。

 吹奏楽部は人員、部費が目立つな。あと部長の意識高い系コメントがうざい。

美術部は部員がたくさんいるが、そのせいで設備が不十分な点が見受けられるな。あと部長のほわほわした性格で話をするのも難しかった。部内でも部費を徴収しているようだけど、そもそも画材が高いからポンポン買えてないようだ。

 演劇部に関しては部費、人員共に不満は無さそうだったが、部室が無く、体育館のステージ横を部室として使っているのが不満らしい。あとやたら情熱的な部長のノリが面倒くさかった。

 

「部活の闇を甘く見てた自分が恥ずかしいです……」

 

「まぁ、そこらへんはウチも同感や。もっとちゃんと部活の現状を調べとくべきやったなぁ……」

 

 申し訳なさそうに薄く笑う副会長。その顔の裏にはもっと部活動の不満を解消できていれば、このような事態に陥らなかったのかもしれないという後悔が含まれているのかもしれない。

 だが、それでも変化は微々たるものであったと思うのは俺が薄情だからだろうか。副会長にかけるべき言葉を俺は知らなかった。

 

「……ま、悔やんでる暇があるなら次行きましょう。次はどこです?」

 

 体育館と校舎への渡り廊下を歩きながら副会長に問う。

 隣を歩く副会長は「そうやね……」とペラペラ資料を眺め、その中の一つの資料のページで手を止めた。

 

「次は放送部行こっか。活動時間は長いけど、部長さんが取材に出かけてたら話聞けへんし」

 

「放送部って言うと田城野の部活か。そこの部長……」

 

――部長がね、『男子入ってくるなら集会の時とか力仕事任せられるじゃん! 絶対一人でも勧誘して来いよ!』って……

 

 思い出す田城野との会話。正直これだけで大分苦手意識が生まれてくるのだが、放送部も必死なのかと思うと少しだけ苦手意識が薄れる気がした。気がしただけ。

 まぁどうせ回らなければならない所だ、臆する必要もないだろう。そう思い放送部へ向かう。

 資料を見る限りだとそれなりの成績を修める事が出来ているらしいが、大会自体が少ないせいで影は薄めのようだ。

 部費も潤沢で人員も不足している様子は無い。資料だけ見ると特に問題は無さそうだが、まだ何かあるかもしれないから注意深く見とかないとな。

 

「西原君、放送室に着いたよ」

 

 副会長に言われていつの間にか放送室に着いていたことに気が付く。少し資料に集中しすぎたか? あと少しで通り過ぎる所だった……。

 どうも、と短くお礼を言って資料から目を話す。当然と言えば当然なのだが、やはり放送室が部室と兼用になっているのか……。それなら設備面では問題ないのか?

 コンコンと副会長が二回扉をノックすると「はーい」とつい一時間ほど前ぶりに聞く鈴の音の様な声が返ってきた。

 

「どちらさまですか――って副会長さん? それに西原君も?」

 

「一時間ぶりだな、田城野」

 

 扉を開けてくれた田城野に片手を上げて応える。

 困惑した表情なのは現状把握に手間取っているからか、俺、副会長、そして俺の腕についてる手作りワッペンを順番に見て小首を傾げていた。

 

「こんにちは、田城野さん。今生徒会の方で部活動をちょっと調査しとるんやけど……部長さんはいる?」

 

「うた部長ですか? うた部長は今三年四組の男子の先輩に取材に言ってる所ですが……」

 

「そうなん? ならタイミングが悪かったなぁ……」

 

「あ、でも多分そろそろ来ると思うので中で待ちますか?」

 

「そうなん? だったら中で待たせてもらおうかな」

 

 にっこりと笑い合って田城野がどうぞと中へ案内する。その後を俺と副会長はついて行く。

 

「……へぇ」

 

 案内された放送室は思った以上に立派なもので、思わず感嘆の声が漏れてしまった。

 まず目に飛び込んできたのは夥しい数のスイッチと調節のつまみの付いたミキシング・コンソールだった。

 本格的なラジオ収録現場を一度見たことがあるが、そこにあった機材とほぼ同じようなものがある事に驚きを隠せない。

 そしてその後ろにある天井まであるアルミの棚と、そこに並んでいる少し時代を感じるビデオテープ。全体的に圧迫感があるが、設備は充実しているように見えた。

 

「座る場所も満足になくてすみません。いまちょっと向かいのブースで収録中なもので……」

 

「収録中って、何かやってるのか?」

 

 田城野さす方向には壁にはめ込まれた大きなガラス窓。その先で二人の生徒がヘッドホンを耳につけて何かを喋っている。

 そんな俺の疑問に田城野は笑顔で答えてくれた。

「うん。今は六月の放送コンテストの製作部門に出すラジオドキュメントの収録中なんだー」

 

「ラジオドキュメントか……。なんについてのドキュメントなんだ?」

 

「廃校についてだよ!!」

 

「縁起でもない事ドキュメントにしてんだなおい」

 

 元気よくいう事じゃないよな、それ。というかこういうのってある程度結末が見えてるものが好ましいんじゃないのか?

 田城野が何で? みたいな純粋な瞳で此方を見てくる。なんでお前はそこでそんな瞳が出来るんだよ、色んな意味で怖いよ。

 助けを求めるように副会長に視線を向けるが、薄い笑みを浮かべたまま首を横に振られた。止めなさいよ、生徒会だろ? こんな学校の汚点みたいなのが作品として発表されるんだぞ?

 しまいにはガラス窓の方を見て「皆がんばっとるなぁ」等という副会長に呆れ、クリップボードで田城野の頭を軽く叩いてアルミ棚の中身の確認作業に移る。後ろで「なんで叩いたの!?」と言っている田城野を見向きもしないで……。

 

「おーっす、ただいまー」

 

 ざっと棚を眺めていると凛とした砕けたセリフが俺の耳を刺激した。

 誰かと思い後ろを振り向くと、さっきまでいなかった家庭用ビデオカメラと三脚を持った女子生徒が放送室にいた。

 ダークブラウンのショートカットの髪の上を黒光りするヘッドホンがまず目についた。

 制服はだらしなく着崩されており、あのお堅そうな生徒会長のいる学校にもこんな風に着崩す人がいるのかと謎の感動を覚えてしまった。

 まったく凹凸の無い胸の上にある緩められたリボンの色を見る限り三年生なんだろうが……もしかして、この人が田城野の言う“うた部長”なのだろうか?

 そう思って見ていると、副会長の姿を見つけたその女子生徒が気さくに話しかけた。

 

「誰かと思えば希じゃん。何しにきたん?」

 

「別に詠葉ちゃんの服装について注意しに来たわけやないから大丈夫やで」

 

「あ、そう? なら歓迎するよ。何もないけどね」

 

 からからと笑いながら三脚とビデオカメラを置く女子生徒。どうでもいい事なんだろうけど、見た目ちゃらんぽらんに見えるけど、声が凛としてるっていうギャップに困惑する。

 そこからは軽い冗談を交えつつ女子生徒は副会長の質問などに答えていた。

 俺はその風景を遠目に眺めつつ、ちょいちょいと田城野を手招きする。

 

「なぁ、もしかしてあの人がこの部の部長なのか?」

 

「うん、そうだよ。三年生の渡辺詠葉(わたなべうたは)先輩!」

 

 にっこりと答える田城野。やっぱりあの人が部長だったのか……確かにどことなく貫禄があるな。喋りも滑らかで流暢だし、聞いてて嫌にならない声だ。

 隣で渡辺先輩はああ見え優しいだの、大会で成績を残すほど優秀だのと語っているのを聞きながら彼女を見る。

 すると流石に見られている事に気づいたのか、切れ長の細い目で軽く威嚇するように俺の方を向いた。

 

「所で希、あそこに見知らぬ雑用さんがいるようだけど……誰? 希の知り合い?」

 

「うん。今はウチのお手伝いしてくれてる、二年生の西原雅也君や。よろしくしたってな?」

 

「西原です。よろしくお願いします」

 

 軽く頭を下げて自己紹介をする。

 渡辺先輩はじっとりとした眼で俺を見てくる。その眼は副会長が見せたあの品定めの様なものの比ではなかった。見ただけでその人の全てを見透かすような、取り繕ってもすぐにばれてしまうようなそんな眼だった。

 

「へぇ、アンタが心実の言ってた西原雅也クンねぇ……」

 

 さっきまでの凛とした声と違って、ぞくっとするような艶やかな声。

 危険を感じた身体が手汗をジワリと滲ませ、いつでも逃げ出せるように踵を少し浮かせた。

 そして俺を隅々まで観察した後、ふっと短く息を吐いてからっとした笑みと凛とした声が戻ってきた。

 

「まぁ、よろしくな後輩。よかったら入部届でも書いて行きなよ」

 

「……いえ、今は仕事中なのでその話はまた後日に」

 

 軽く頭を下げて部室を出る。後ろでまたねー、と呑気な田城野の声だけが俺の警戒心を和らげてくれた。

 放送室から半ば逃げるように出てきた俺だったが、放送室を出てからは歩いて中庭を目指していたので副会長に捕まったのは意外でも何でもなかった。

 何があったのかと最初は心配されたが、俺があの人と関わると時間のロスですからというと一応は納得した素振りをしてくれた。

 多分副会長は別の理由がある事を見抜いている。だが、あえて聞いてこないのは彼女の優しさなのか、それともただ単純に興味がなかったからか……個人的には後者の方が嬉しいが。

 きっとあのまま放送室にとどまって渡辺先輩と会話していれば、俺の企み全てを副会長の前で白日の下に晒されていただろう。俺はそれを恐れてあの場から逃げたのだ。

 別に知られて困る事しかないわけではないが、“武器”は直前まで隠しておくことでその効力を発揮する事が多い。だから生徒会の人間に知られるわけにはいかない。

 

「……ま、個人的には興味があるし今度“お話”でもしに行くか」

 

 リノリウムの上を歩く足音よりも小さい声で呟いた。

 

 

 

「……副会長様がなにかようかしら?」

 

 あれから色んな部活を周り、文化部最後の部室のアイドル研究部なる所を訪ねると、ドアの向こうに背の低い壁が立っていた。

 というのは半分冗談で、背の低い……リボンが緑だから先輩なのか? が副会長をジト目で睨むように立ちはだかっていた。

 黒髪ツインテールで淡い赤色をしたリボンが二つ揺れている。子供と大人の中間のようなあやふやさがある顔の眉間には少ししわが寄っていて、本来あるべき魅力が損なわれているようにも思える。

 明らかに非歓迎ムードの中、副会長はまあまあとまったく意にも介していないようだった。

 

「そんな邪険に扱わんでもええやん。ウチとにこっちの仲やろ?」

 

「一年二年とクラスが一緒だっただけでしょ? 三年じゃ別のクラスになったじゃない」

 

「その割にはたまに教科書借りにきとるのは誰やったかな~?」

 

「うっ……」

 

 何か理由をつけて追い払おうとしたが思わぬ反撃をくらい、渋い緑茶でも飲んだような表情になる先輩。それでも何か言い返そうと唸りつつ視線を宙に彷徨わせてる辺り、結構ガッツのある先輩なのか?

 しかしこれ以上時間を食ってたら運動部を回れなくなると判断し、副会長の左腕を肘でつつく。

 副会長はちらりと此方に目配せをした後、軽く頷いてにっこりと笑う。

 

「今日はちょっと部活動全体の調査の為に来たんよ。せやから協力してな?」

 

「…………そ」

 

 流石にそれを言われたら追い返す理由もなくなったらしく、視線を副会長から外して部屋の奥へ入っていく。副会長と俺はもはや慣れたようにその後に続いて部室に入る。

 はっきり言って一瞬目を疑った。俺はいつの間にスクールアイドル専門ショップに入ったのだろうと、目をこするほどそこは既視感を覚える場所だった。

 部室の壁に貼られた全国各地のスクールアイドルのポスター。中には765や346等といったプロのアイドルのポスターも見受けられる。

 右側にある棚にはもはや空いたスペースに何か恨みがあるのかという程のCDやDVDが並べられており、自己主張の激しいパッケージのせいで放送室より圧迫感を感じる。

 窓際に置かれているパソコン前の椅子に座った先輩は、ようやく俺の存在に気付いたのか大きな瞳をぱちぱちと瞬かせる。

 

「希、隣の人は誰なの?」

 

「二年生の西原雅也君。生徒会じゃないんやけど、今は訳あって手伝ってもらってるんや」

 

「雑用の西原です」

 

 ぺこりと頭を軽く下げる。よろしくお願いしますと言わなかったのは何となく。

 先輩はもう二、三回瞬きをするとはっと我に返り――。

 

「にっこにっこにー! 貴方のハートににこにこにー♡ 笑顔届ける矢澤にこにこ♡ にこにーって覚えてラブにこ♡」

 

 全球凍結を人力で成し遂げた。

 …………え、何この先輩。寒い。というか痛い。見てるこっちがいたたまれなくなる中二病を見てる時と同じ気持ちなんだけど。

 

「……うわぁ」

 

 思わず口から出てしまった本当の気持ち。多分俺がこの時、この三文字を口から出すことが無ければ、きっと彼女とは波風立たない名前だけは知っているという仲になれたのだろう。

 だが時はすでに遅し。彼女は独特なポーズと愛嬌したたる笑顔のまま固まり、口角がひくっと少しだけつり上がったのを確認した。

 

「も、もぉ~そんな事言われるとにこ悲しいなぁ~」

 

 両の手で軽く握った拳を口元に当ててくねくねと体をくねらせる矢澤先輩。キャラ作ってるのか? もしそうなら恐らく本性である性格を見られた相手には通用しないと思うんだが……。

 

「矢澤先輩。取り敢えずその薄ら寒いキャラやめてもらっていいですか? あんまり調査に時間かけたくないんで」

 

「あ、そうだったね! にこ、うっかりっ☆」

 

「いい加減そのキャラやめてくださいよ。正直見てるこっちが恥ずかしくなります」

 

 流石に堪忍袋の緒が切れたようで、さっきまでの愛嬌のある笑顔が引っ込み最初副会長を威嚇していた時の……いや、それ以上の敵意を向けてきた。

 

「あんた、ちょっとは先輩に遠慮とかしないわけ?」

 

「遠慮して俺の代わりに矢澤先輩が部活を回るっていうのなら遠慮してあげますが?」

 

「いい度胸してるじゃないあんた……っ」

 

 半笑いで口角がひくひくと痙攣しているので、割と面白い事になっている。ただそれを指摘したら敵意が殺意に代わって調査どころではなくなるだろうから言わないでおこう。

 ばちばちと俺と矢澤先輩の間で無言の睨み合いが行われる。しかしそれは長くは続かず、パンッという乾いた音で終わりを迎えた。

 

「二人ともそこまでや。西原君、君はもうちょっと言葉を選ばないとダメやろ?」

 

「すいません。まぁ、これでも言葉を選んだつもりだったんですけどね」

 

「あんた、さっきので言葉を選んだつもりだったの……」

 

 呆れたようにため息を吐き、敵意が少しなりを潜める。

 冷静になれたのか、それとも相手するのが馬鹿らしく思えたのかは分からないが矢澤先輩が俺に向ける小ばかにした視線がムカつくな。頭の痛そうなやつにされると思うとなおの事ムカつく。

 だがここは落ち着こう。此方が感情に任せて何か言ったらまた作業が進まなくなる。

 聞き込み調査とかは副会長に任せて、俺は部室の調査をしていよう。うん、それが良い。

 副会長に目配せして、俺は矢澤先輩から視線を外し部室を見て回る。後ろから微かにため息が聞こえてきたが、気にする必要もないか。

 

「希、ちゃんと後輩躾けなさいよ。今こんなんじゃこれから先の生徒会が心配ね」

 

「正確には生徒会の人やないんやけど……。まぁそれとなく注意はしておくね」

 

 寧ろ今目の前の人の奇行を咎めるべきなのでは? 棚に並べられたCDたちを見ながらそう思った。

 さっとCD、DVDのラインナップを確認していると、下段のCDとCDの間に一枚の紙の端がはみ出している事に気づいた。

 特別この紙に特異性を見出したわけでもなかったが、それでもある程度の興味は惹かれたのは事実で、何なのだろうかと軽い気持ちでその紙を引き抜いて見る。

 一枚の写真だった。特に古びているわけでも、心霊的な何かが写っているわけでもない普通の写真。

 その写真にはアイドルの様な華やかな衣装を着た三人の女子生徒が二本の指を立てた状態で笑顔を此方に向けている。

 左右にいる生徒は分からないが、真ん中に映っているこの黒髪ツインテールで小柄な少女は矢澤先輩だろう。さっきの俺にして見せた作ったキャラの笑顔ではなく、にっこり笑顔とでも言うべき笑みで映っている。

 裏側を見ると、二年前の日付で『ライブ成功!』と書いてあった。

 ライブ? それにこの衣装……仮に左右の二人がアイドル研究部という事ならばもしや――。

 

「スクールアイドル……?」

 

 瞬間、空気が変わった気がした。

凍りついたわけでも、気まずい雰囲気になったわけでもない。ただ確かに何かが変わったような気がしたのだ。

 そう、例えるのならば黄色いテープの向こう側に足を踏み込んだような、そんな感じ。

 

「懐かしいなぁ、その写真」

 

 いつの間にか俺の背後に立っていた副会長が、俺の手にある写真を覗き込みながらそう言う。

 懐かしいという事は何か知っているのだろう。俺は疑問解消の為に切られたテープに気づかず、進むことにした。

 

「これって矢澤先輩ですよね? この格好ってまるでアイドルみたいですが……」

 

「そうやで。にこっちは一年生の時にスクールアイドルやっとったんよ。その両脇の子たちも一時期は一緒に」

 

「一時期って……今はやってないんですか?」

 

「え、うん。まぁ……」

 

 急に歯切れが悪い感じで頷く副会長。事情を知ってる身としては言いにくいって事か?

 ふーんと写真を見る。そう聞くと両脇の生徒は嬉しそうな微笑みではなく、何処かぎこちない取り繕った笑みに見えなくもない。

演劇部の知り合いが言っていたが、本当に笑っているときは握り拳が作れないらしい。だが、右側の生徒は自分のスカートを強く握りしめていた。

 

「成功、ねぇ……」

 

 立ち上がって矢澤先輩の方を見る。先輩は怒るのでも悲しむのでも懐かしむのなく、ただ無関心な顔で窓の外を見ていた。

 私にその話題を振るな。あっちに行け。そんな言葉が彼女の顔に書いてあるようだ。

 それでも俺は調査の為、自分の好奇心を満たす為にその最後のテープを土足で飛び越えた。

 

「矢澤先輩は今もスクールアイドルやってるんですか?」

 

 それに対する返答は無かった。

 まぁそれは何となく分かっていた事だ。昨年度のアイドル研究部の活動内容に関する資料にアイドル活動など一言も書かれていないからな。

 

「なんでやめたんですか? お友達がやめたからですか?」

 

「……そんなんじゃないわよ」

 

 相変わらず窓の外を眺めながらだが、こちらの質問に答えてくれた。

 

「私はそんな事でやめないくらい本気でやってた。少なくともその写真の二人のやめる理由になるくらいには本気だったわ」

 

 本気? おいおい、面白い事言ってるじゃないかこの先輩は。

 笑わせるんじゃねーよ。

 

「貴女の本気はその程度のお遊びレベルだったんですね」

 

「っ!!」

 

 がたっと椅子を倒して矢澤先輩が立ち上がった。

 小さな手で強く拳を握り白い肌が若干青白くなっている。

 肩を震わせ、ありったけの敵意を俺にぶつける。

 

 

「遊びだったわけないでしょっ!!」

 

 

 部屋に響き渡る怒号。

 今にも掴みかかって殴りかからんとする剣幕に、はっと冷静になる。

 駄目だな、こんなんじゃ。人の考え方は違う、その事を失念するわけにはいかないのに……。

 

「に、にこっち……」

 

 副会長が恐る恐る矢澤先輩に声を掛けるが、俺を睨みつけるだけで応じはしなかった。

 

「……出ていってくれる? これ以上あんたの顔見てるとひっぱたきそうになる」

 

「……失礼します」

 

 軽く頭を下げて部室を出る。

 今回悪いのは完全に俺だ。それは分かっているし、反省だってしている。

 だけど、そんなのは本気じゃない。そう叫び続ける俺が心の中にはまだ存在していた。

 

 

 




次回予告
「君は本当に言葉を考えて言わんと駄目やん」

アイドル研究部の部室を後にした雅也

後悔を感じないわけではないが、彼は歩むのを止めるわけにはいかなかった

「凛には似合ってないから……」

その途中に出会った、あの日の活発そうな少女

どうやら部活について悩んでるらしく、その少女に対して出した雅也の答えは……

「あ、あんな短いスカートなんて恥ずかしすぎますっ!!」

そして雅也は始まりの三人の一人と出会う事になる

次回「突撃!! 音ノ木部活動!-運動部編-」

「へぇ、今の音ノ木坂のスクールアイドル、ね……」
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